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POCHI 2わん
しおりを挟むポチ「…んー…」
昨夜の雨は降り止み、眩しい太陽の光でポチは目を覚ます。
ポチは公園の遊具の中で雨を凌ぎ、夜を乗り越えたのだった。
「…もう朝か。どういう形であれ、俺は今日から自由の身…。今日から最高のドッグライフを送ってやるぜ…!まずは手始めにドッグフードの調達でも…」
少し冷えた身体を起こし、遊具から出てきたポチ。
公園にはたくさんの子供達が遊んでいる。
子供達がポチに気づくまで、そう遅くはなかった。
「わー!犬だー!」
「ほんとだ!かわいいー!」
子供達の興味が一気にポチに向けられる。
「お、おい!なんだお前ら!」
「わあすごい!この犬喋れるの!?」
「僕の家おいでよ!母さん犬欲しがってたんだ!」
ポチの周りに子供達は群がり、ポチを撫でたり、足を掴んだり、ポチは身動きができないほど子供の人気の的になってしまっていた。
「じょ、冗談じゃねえ!俺はもう飼い犬じゃねえんだ!離れろ!今日から俺は自由な日々を送るんだ!」
ポチが焦り顔で子供達と格闘していると
ポチと子供の傍へ、何者かが近づいてきた。
「こら、君達、ワンちゃんが困ってるだろう?離れてあげな。」
「えー、やだー」
「きっとその子は迷子になったんだ。俺が保護するから、そこのワンちゃん、付いてきなさい」
「おじさんずるーい」
「悪いな、チビ達」
ポチは急に現れた男に少し戸惑う。
しかし子供から解放され、少しホッとしていた。
「こっちだ」
男はポチを呼んだ。
ついて行くか少し悩んだがポチはとりあえず、男の後をついて行く事にした。
(あの男…俺を保護するって言ってたな…。不味いぜ、このままじゃ俺はまたあの生活に逆戻りになっちまう…隙を見て逃げるしか…)
ポチが男から離れる瞬間を伺っていると、男は急に立ち止まりポチに小さな袋を見せてきた。
「やるよ」
「え…?」
男はポチに向かって袋を投げ、ポチは思わず受け取ってしまった。
受け取ってから数秒間、ポチはどうすれば良いか分からなかったが、男から感じる「ほらほら早く開けなよ」という地味なプレッシャーを感じてしまい、少し警戒しながらもポチはそっと袋を開け、中身を覗いてみた。
袋の中身は、ドッグフードだった。
「これは…ドッグフード…?」
「食いな。腹空かしてんだろ。全く、人間の格好もしないでフラつくなんて、とんだマヌケだな」
「ど、どういうことだ…?」
「俺もお前と一緒…犬さ」
「…ふっ、嘘つくんじゃねえ、どっからどう見ても人間じゃねえか」
「ところがどっこい…」
「なっ…!?」
「これで信じてくれたかな?」
ポチは驚愕した。
犬が人間に変装している。
あまりの衝撃に、ポチの脳はフリーズしてしまう。
そんなポチなどお構いなしに男は会話を続けた。
「俺はチコ。自由を求めて昔とある家から脱走した。お前もそうなんだろ?」
「な、なんでその事を!?」
「お前さっき子供達に向かってそう叫んでたぞ」
「……お、俺はポチだ。」
「…そうか。名前があって安心したぜ。とりあえず俺に付いて来てくれ。会わせたい奴らがいるんだ」
チコに連れられ、ポチはある建物に連れて来られた。
「なんだここは…?」
「動物保護施設センターひまわり。俺達の家さ。さぁ、中に入ってくれ。」
「あ、ああ」
ポチは言われるがまま、チコと一緒に施設に入る
「俺達は捨て犬や捨て猫を保護して、里親を探す仕事をしているんだ」
「え!!?て、てめぇまさか!」
「ハハハ、お前を保護する為に連れてきたんじゃねえよ、オレ達に協力して欲しいんだ」
「協力?」
「ああ、捨てられた動物達の保護をしてほしいんだ。お前には理解できないかもしれないが、動物は自由を求めて脱走するようなやつばかりじゃない。家族が必要な動物もいるんだ。逆に、動物を必要する人間もいる」
「お前は元々は飼い犬だったんだよな?どうして脱走したんだ?」
「俺の家族はちょっと自分勝手でな。散歩なんて行かせてもらえず、ずっと紐に繋がれて暇な毎日を過ごしてた。このままじゃつまらねえ人生になる。そんなのは絶対嫌だ。その一心で鍛えて首輪を引きちぎって逃げた。そういえば、お前は逃げたのか?それとも、捨てられたのか?」
「ま、まあ、そんなところだな」
「なるほどな。それにしても良い体だな。鍛えて何年くらいだ?」
「たぶん、1ヶ月くらいだな…」
「1ヶ月!?」
チコは思わず驚いてしまい、叫んでしまった。
(1ヶ月?1ヶ月でここまでの体を…?なんてポテンシャルなんだ…)
「お前、外に出たのはいつだ?」
「昨日出てきた」
「お前の元ご主人、100キロのダンベルとか持ってたのか?」
「んなわけないだろ、普通の女の子だぞ」
「そ、そうか…」
ポチとチコが話していると
2階から誰か降りてきた。
降りてきたのは、白衣を着たシーズ犬だった。
シーズ犬はチコ達に話しかける。
「お、帰ってきてたのか。そこにいるのは…お友達、なわけないか」
「あぁ、俺と同じ脱走犬だ。昨日出てきたらしい」
「あぁ~!なんだ、そういうことか!会えて嬉しいよ。僕はマロ。君は?」
「ポチだ。よろしく頼む。」
「よろしくねポチ君。もう1人メンバーがいるんだけど、あいにく外出中でね。今日中には帰ってくると思うんだけど…あ、これ食べるかい?」
マロはポケットからビーフジャーキーを出し、ポチに渡した。
「ビーフジャーキー!ありがとう!」
「…君は、人間をどう思う?」
「え?」
「人間がいなくちゃ僕らは生きていけない。この施設にいる子達だって、人間がいなきゃ生きてはいけないんだ。勿論、ビーフジャーキーも人間がいなきゃ存在しない」
「…人間か。俺にはよく分からないな……。俺は昔から自由に憧れていた。前の飼い主に買われた瞬間から自由になる事を考えてた。だから逃げる為に鍛えて散歩の時間で逃げてやろうとしたんだ。そして待ちに待った散歩の時間。なぜか飼い主は急に顔色を変えて、近くの電柱に俺を捨てたんだ。俺として好都合だったが、なぜか少し胸が痛かったぜ…」
「そうか…それは辛かったね」
「俺がいたペットショップにいた奴等の中にも、捨てられた犬や猫がいるのかな…」
ポチが寂しく呟いた言葉に、マロは少し表情を曇らせる。
そんな中、チコが口を開けた。
「…ま、人間みんなそういう奴ばかりじゃねえさ。悪い奴もいれば、良い奴もいる。犬も人間も一緒さ」
三人で話しているうちに、もう1人の犬が帰ってきた。
「すまない、遅くなった」
「お、戻ってきた。紹介するよ…」
「ポチだ。チコにこの場所を案内してもらった。よろしく頼む」
「ああ、そうなのか。俺はココア。よろしく」
「ココア、調査の方は順調か?」
チコはココアに問い掛ける。
先程の空気とは少し変わり、ほんの少しの緊張感がチコから漂っている。
「いや、良いとは言えないな。いつもの河川敷にまた警察が集まっていた。近くまで行ったが、どうやらまた人が襲われたらしい。そして、空の段ボールもそこにあった」
「なるほどね…」
マロも何か理解したような面持ちで相槌をする。
「また先を越されたか…アイツらの仕業だろうな」
会話を理解できないポチは、思わず彼らに質問した。
「あいつら?あいつらってなんの事だ?」
ポチの疑問に対し、三人は少し反応に困っていた。
しかし、その時間もすぐに終わり、ココアが説明を始めた。
「ここ一年くらい、人が襲われる事件が度々起こっている。」
「人が襲われる…?」
戸惑うポチに、ココアはまた説明を続けた。
「ああ。そして現場にはいつも空の段ボールが残されているんだ。現場の場所は毎回バラバラだが、ひとつだけ共通点がある」
「共通点…?」
ポチの疑問に、チコが咄嗟に答える
「襲われてる人間は皆、猫や犬を捨てに来ているんだ」
「捨てる?」
少しずつ混乱するポチに対し、マロは優しく説明し始めた。
「チコは一度、現場で犯人と遭遇した事があるんだ。その現場には、犬を捨てる人間がいた…。」
「そうなのか…。物騒な話だな。捨てた人間をボコボコにして、その捨てられた動物を拾って帰ってるってわけか。良い人間なのか悪い人間なのか…」
「人間じゃねえ…」
チコの呟いた一言に、ポチは驚いた。
「人間じゃない?じゃあ誰が…」
「犬だ…!」
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「よしよし、怖かったね。でも、もう大丈夫。
今日から君は…
人間に復讐する側になるんだ」
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