異世界の落としもの、返却いたします

文字の大きさ
19 / 31
一章『遺愛の指輪』

六話

しおりを挟む
「葵さん」

 「ん?」

 「さっきはその、すみません」

 「えっ、なにが?」

 「止めに入れなくて……俺、男なのに……情けないです」

  どうやら彼は、葵と岡崎のやりとりを仲裁できなかったことを悔やんでいるらしい。
  けれどもそれを横で聞いていたノヴォは、いやいやと大げさなくらい首を振りながらそれを否定する。

 「ダメダメ、女同士のいざこざに男が首を突っ込むと余計に話がこじれるんだから」

 「そう、なんですか?」

 「特にあの女みたいなタイプはヤバいね。下手すれば俺たちまで変な執着されかねない」

 「執着……? 確かに執念というか、葵さんに関しては邪気に近いものを感じましたけど」

 「ははは、邪気ね。言い得て妙だわ、それ。ああいうタイプはな、気に入ったもんはなんでも手元に置いておきたがるんだよ。目の届く範囲に上物と自分にとって安物だと思うもの、両方置いて自分自身の価値を知らしめたいのさ。だからこそお嬢はあいつにとって上物である俺たちを下がらせた。見つかれば絶対面倒なことになるからってね」

  ノヴォはそう鼻で笑いながら、赤信号を見て緩やかに車の速度を落とす。

  今日がクリスマスということもあるのか、道がいつも以上に混み合っていてなかなか先に進まない。ノヴォは余裕の無い表情を浮かべると、時計を見ながらチッと舌打ちをした。

 「あー、約束の時間まであとちょっとか……ロウ爺を待たせるとかヤバい。ったくあの女がごちゃごちゃ絡んでくるから……」

 「ロウ爺……?」

 「大事な取引先の重役。大丈夫だと思うよ。ロウ様、私に甘いもん」

 「そりゃそうだけどさぁ……部下には厳しいんだって、マジで」

  彼はハァと深く息を吐きながら苛立たしげにハンドルを指でトントンと叩くと、すぐさまカーナビの電源を入れる。軽く操作すると、今まで沈黙していたカーナビが渋滞の少ない横道を検索して音声で案内し始めた。その無機質な声が流れる度に、リオンが怯えるようにビクリと肩を震わせオロオロとノヴォと葵に視線を向ける。

 「くくっ、リオン、大丈夫だよ。害はないから」

 「あー、俺もここに来たばっかの頃はそんな感じだったなぁ……なんか懐かしいわ」

  感慨深く呟かれたノヴォの言葉に、リオンはすんなり流せない違和感を感じて首を捻る。今の言葉を聞くに、彼はまるで……そう思い葵の方を見ると、彼女は言いたいことを理解しているように笑顔でコクリと頷いた。

 「ノヴォはね、リオンと同じ異世界人なんだよ」

 「ノヴォが……異世界人?」

 「うん。彼は父さんが連れてきた異世界人。詳しいことはロウ様を交えて話そう」

 「は、はぁ……」

 【落としもの】としてこの世界にやってきたリオン。葵の話を聞く限り自分以外に異世界人はいないものだと思いこんでいたのだが、リオンの横に居る男はこの世界の人間ではなく、リオンと同じ異世界人だという。
  その割にはこんな得体の知れない鉄の箱をいとも簡単に動かし、この世界にも非常によく馴染んでいることが窺える。いったいどういうことなのかと葵を見やるも、彼女は流れゆく景色を眺めたままそれ以上口を開こうとはしない。

  仕方なくリオンも外の景色に目を向ける。元居た世界とはまったく違った文明、見たこともないようなものばかりが並び、道行く人々は戦など遠い過去なのだと疑いもせず、ただ今を思い生きている。

  宝石のようなイルミネーションが輝くビル街を美しいと思いつつも、息をする度に流れ込む淀んだ空気が息苦しく感じる不思議な世界。天を突くような街並みを眺めながら、本当に異世界に居るのだという実感がヒシヒシと湧いてくるのを感じて、リオンはキュッと唇をきつく結ぶと、目的地までひたすら窓の外を眺め続けた。


  辿り着いたのは閑静な高級住宅街の中にひっそりと佇む料亭だった。

 「クリスマスらしさの欠片もない所で悪いな。ここ、ロウ爺の好きな店なもんでよ」

 「個室があって料理が美味しければどこでもいいよ。ね、リオン?」

 「えっ? えぇ、まぁ……」

  拙い返事をしながらも、クリスマスとは何ぞやと首を捻るリオンを見て軽く笑う。彼にとっては馴染みのないイベントだ。祭りのようなものだと説明すると、興味があるのかないのかわからない顔をしながら、へぇと小さく呟いた。
  仲居の後に続き案内されるがまま建物の中へと入ると、すぐにお座敷へと通される。そこには葵にとって馴染み深い人物が穏やかな笑みを浮かべていた。

 「葵や、久方ぶりじゃのう」

 「はい、ロウ様。お待たせして申し訳ございません」

 「そんなに堅苦しくせんでいい。昔のようにロウ爺ちゃんと呼んでおくれ」

 「駄目です。連れに示しがつかないじゃないですか」

 「そうかのぅ」

 「そうですよ、もう」

  座敷に腰を下ろしていた小柄な老人は、深く刻まれた笑い皺を更に深くしながら葵を微笑ましそうに見つめる。まるで溺愛する孫に向けるようなそれに照れくさくなりつつも、後ろで居心地悪そうにしていたリオンを紹介してからロウの向かいに腰を下ろした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...