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一章『遺愛の指輪』
十一話
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「うーん、手に入れてすぐに不幸になるわけじゃないってことかな。身に着けることで何かが起きる、とか? ……まぁ解析かけてみればわかるか」
「ではソレは葵に預けるとしよう。経費はいつものように処理しておくからの。……恐らくそいつは当たりじゃろうて。儂の目から見ても、ソレは異物以外の何物でもないわ」
「そうですね。……せっかくですし、今からでも調べてみましょうか」
「ふむ、屋敷に帰らずここで調べるとな?」
「えぇ、ここに丁度よくリオンが居ますからね」
葵はニコリと人好きのする笑みを浮かべてリオンの肩をポンと叩く。叩かれた本人は急に振られた話にどう対応していいのかわからず、オロオロしながら困ったように眉を下げる。
「リオン自身がまったくわかっとらんようじゃが」
「あ、そういえばまだ説明してなかった気が……」
「相変わらず適当じゃのう」
「だってその、内容が内容だけになかなか……あはは」
「笑って誤魔化すでないわ」
葵は珍しくお小言を口にするロウに言い訳にもならない言葉を返しながら、その場に流れる微妙な空気を誤魔化すように空咳をすると、リオンに向けて説明を始めた。
数日前、病み上がりの彼を心配した葵がこっそりとリオンに《解析》をかけた結果、リオンの肉体は次元の歪みである【理の隙間】に落ちた時に、目に見えるほどの魔力を全身に浴びてしまったせいで変質しまっていたことがわかった。
ただでさえ大きかった魔力の器が更に肥大して、肉体すべてが魔力の器であると言えるほど無尽蔵に魔力を蓄えることができるようになってしまっているらしい。その魔力保有量ははさながら鑑継の屋敷に存在する【龍脈の源泉】を見ているようで、葵は思わずブルリと身震いしてしまったほどだ。
蓄えられる魔力が多ければ多いほど長命であるとされているのは、地球以外の世界ではごくごく一般的なのだが、彼の場合はその器の大きさから人族では考えられないほど寿命が延び、もはや不老長寿と呼べるものになってしまっていた。
「つまりね、今の君は人であって人じゃない。私と似たような存在になっちゃったみたいなんだよね」
葵から突きつけられた言葉は、まるで絵空事のように現実味のないものであったが、彼女の言いにくそうな表情を見ればけっして嘘などではないとわかる。
「葵さんと、同じ?」
「そう。私も少し前から成長が止まってるんだ。まぁ、君とはちょっと事情が違うけどね。でも不老長寿であるのは本当。不死ではないけど、傷の回復も早いから死ににくくもなってるはずだよ」
「不老長寿……ですか」
何の準備もなく手榴弾の如く投下されたそれに、リオンの脳内は混乱を通り越してまっさらになってしまっていた。いきなり身体が変質しただの、寿命が延びて不老長寿になっただのと言われても理解しようもないし、何よりリオン自身がまったく変化に気づかず過ごしていたのだ。本当にそうなっているのかもわからない状態で、信じろという方が酷というものだろう。
あまりにも突拍子もない話に心ここにあらずといったような顔をしていたリオンは、どうしたものかと心配そうにこちらを窺う葵に気づいてすぐに取り繕うように端整な顔をキリリと引き締めると、今にもパンクしそうなことを億尾にも出さずに疑問を口にした。
「……今の話が本当だとして」
「うん」
「俺自身が急激な変化に何一つ気が付いていないのはなぜでしょう? 身体が軽いなとは思ってましたけど、普通ならそれだけで済むはずないですよね?」
「あぁ……確かにそうだよね」
「先ほどロウ様から伺った話を考えれば、その、俺も……」
リオンが濁した言葉の続きに思い当たったのか、葵は納得したように軽く頷くと、チラリとロウを見る。
ロウが遥か昔に起こしたと言われる厄災は、その身に溜まった膨大な魔力を制御できずに呑みこまれてしまったが故のもの。人の身に余るほど魔力を蓄えることができるようになってしまったのであれば、いつか自分もそうなるのではないのか、リオンが漠然と不安にかられてしまうのも当然だろう。
「たぶん君の場合、身体がきちんとできあがってる大人だから、よっぽどのことがない限りは暴走しないんじゃないかな」
「……ふむ、そうじゃな。リオン、お主は魔力の魔の字も知らんような幼子ではない。現に今も無意識のうちに魔力の流れを調整しておる。変質してなお、呼吸するように魔力を扱えるお主であれば、早々昔の儂のようにはならんじゃろうて」
リオンは元々膨大な魔力を保有できる魔力の器を持ち、それ故に魔力暴走を恐れた王により物心着く頃には隷属の首輪を嵌められ、長い月日を縛られ続けていた。
一方厄災の龍と言われたロウもまた、リオンと同く身体に合わない魔力の器を持つ【世界の異物】であった。鑑継初代当主に連れられ魔力がほとんどない地球という世界に移住し、ようやく狂気から解放されたわけだが、厄災と化していた当時のロウは心身ともに幼子であり、初代当主に出逢いたおされるまで、零れ出るほどの魔力を制御する術をまったく持ち得なかった。
同じような体質を持ちながらも、ロウとリオンはまったくと言っていいほど違うのはそういう訳だ。
魔力暴走が起こりがちな幼少の頃、王の命によりリオンの首に嵌められた隷属の首輪。それが肉体の主導権を奪っていたことが良い方向へと働き、ロウのような悲劇が起きなかっただけであったが、彼にとっては唯一不運が幸運に変わった瞬間であっただろう。
肉体がきちんと大人として作られた頃には、既に数多の戦場での実践により緻密な魔力制御ができていた為、こうして首輪が壊れた今も暴走することなくケロリとしている。ロウでさえ自我を奪われるほどの暴走がリオンに起きなかったのは首輪のおかげなのだ。
さすがにその事実を聞いたリオンは、葵から譲り受けていた元の世界の鍵を握り締め、なんとも複雑そうな顔をしたが、結果として無傷でここに居るのだからと最後はグッと堪えるようにして息を吐いた。
「ではソレは葵に預けるとしよう。経費はいつものように処理しておくからの。……恐らくそいつは当たりじゃろうて。儂の目から見ても、ソレは異物以外の何物でもないわ」
「そうですね。……せっかくですし、今からでも調べてみましょうか」
「ふむ、屋敷に帰らずここで調べるとな?」
「えぇ、ここに丁度よくリオンが居ますからね」
葵はニコリと人好きのする笑みを浮かべてリオンの肩をポンと叩く。叩かれた本人は急に振られた話にどう対応していいのかわからず、オロオロしながら困ったように眉を下げる。
「リオン自身がまったくわかっとらんようじゃが」
「あ、そういえばまだ説明してなかった気が……」
「相変わらず適当じゃのう」
「だってその、内容が内容だけになかなか……あはは」
「笑って誤魔化すでないわ」
葵は珍しくお小言を口にするロウに言い訳にもならない言葉を返しながら、その場に流れる微妙な空気を誤魔化すように空咳をすると、リオンに向けて説明を始めた。
数日前、病み上がりの彼を心配した葵がこっそりとリオンに《解析》をかけた結果、リオンの肉体は次元の歪みである【理の隙間】に落ちた時に、目に見えるほどの魔力を全身に浴びてしまったせいで変質しまっていたことがわかった。
ただでさえ大きかった魔力の器が更に肥大して、肉体すべてが魔力の器であると言えるほど無尽蔵に魔力を蓄えることができるようになってしまっているらしい。その魔力保有量ははさながら鑑継の屋敷に存在する【龍脈の源泉】を見ているようで、葵は思わずブルリと身震いしてしまったほどだ。
蓄えられる魔力が多ければ多いほど長命であるとされているのは、地球以外の世界ではごくごく一般的なのだが、彼の場合はその器の大きさから人族では考えられないほど寿命が延び、もはや不老長寿と呼べるものになってしまっていた。
「つまりね、今の君は人であって人じゃない。私と似たような存在になっちゃったみたいなんだよね」
葵から突きつけられた言葉は、まるで絵空事のように現実味のないものであったが、彼女の言いにくそうな表情を見ればけっして嘘などではないとわかる。
「葵さんと、同じ?」
「そう。私も少し前から成長が止まってるんだ。まぁ、君とはちょっと事情が違うけどね。でも不老長寿であるのは本当。不死ではないけど、傷の回復も早いから死ににくくもなってるはずだよ」
「不老長寿……ですか」
何の準備もなく手榴弾の如く投下されたそれに、リオンの脳内は混乱を通り越してまっさらになってしまっていた。いきなり身体が変質しただの、寿命が延びて不老長寿になっただのと言われても理解しようもないし、何よりリオン自身がまったく変化に気づかず過ごしていたのだ。本当にそうなっているのかもわからない状態で、信じろという方が酷というものだろう。
あまりにも突拍子もない話に心ここにあらずといったような顔をしていたリオンは、どうしたものかと心配そうにこちらを窺う葵に気づいてすぐに取り繕うように端整な顔をキリリと引き締めると、今にもパンクしそうなことを億尾にも出さずに疑問を口にした。
「……今の話が本当だとして」
「うん」
「俺自身が急激な変化に何一つ気が付いていないのはなぜでしょう? 身体が軽いなとは思ってましたけど、普通ならそれだけで済むはずないですよね?」
「あぁ……確かにそうだよね」
「先ほどロウ様から伺った話を考えれば、その、俺も……」
リオンが濁した言葉の続きに思い当たったのか、葵は納得したように軽く頷くと、チラリとロウを見る。
ロウが遥か昔に起こしたと言われる厄災は、その身に溜まった膨大な魔力を制御できずに呑みこまれてしまったが故のもの。人の身に余るほど魔力を蓄えることができるようになってしまったのであれば、いつか自分もそうなるのではないのか、リオンが漠然と不安にかられてしまうのも当然だろう。
「たぶん君の場合、身体がきちんとできあがってる大人だから、よっぽどのことがない限りは暴走しないんじゃないかな」
「……ふむ、そうじゃな。リオン、お主は魔力の魔の字も知らんような幼子ではない。現に今も無意識のうちに魔力の流れを調整しておる。変質してなお、呼吸するように魔力を扱えるお主であれば、早々昔の儂のようにはならんじゃろうて」
リオンは元々膨大な魔力を保有できる魔力の器を持ち、それ故に魔力暴走を恐れた王により物心着く頃には隷属の首輪を嵌められ、長い月日を縛られ続けていた。
一方厄災の龍と言われたロウもまた、リオンと同く身体に合わない魔力の器を持つ【世界の異物】であった。鑑継初代当主に連れられ魔力がほとんどない地球という世界に移住し、ようやく狂気から解放されたわけだが、厄災と化していた当時のロウは心身ともに幼子であり、初代当主に出逢いたおされるまで、零れ出るほどの魔力を制御する術をまったく持ち得なかった。
同じような体質を持ちながらも、ロウとリオンはまったくと言っていいほど違うのはそういう訳だ。
魔力暴走が起こりがちな幼少の頃、王の命によりリオンの首に嵌められた隷属の首輪。それが肉体の主導権を奪っていたことが良い方向へと働き、ロウのような悲劇が起きなかっただけであったが、彼にとっては唯一不運が幸運に変わった瞬間であっただろう。
肉体がきちんと大人として作られた頃には、既に数多の戦場での実践により緻密な魔力制御ができていた為、こうして首輪が壊れた今も暴走することなくケロリとしている。ロウでさえ自我を奪われるほどの暴走がリオンに起きなかったのは首輪のおかげなのだ。
さすがにその事実を聞いたリオンは、葵から譲り受けていた元の世界の鍵を握り締め、なんとも複雑そうな顔をしたが、結果として無傷でここに居るのだからと最後はグッと堪えるようにして息を吐いた。
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