23 / 31
一章『遺愛の指輪』
十話
しおりを挟む
「不幸……ねぇ」
掌の上に乗せたままの指輪は、見る限りでは不幸を呼ぶ指輪などと呼ばれるような不気味な印象は感じない。むしろ蔦とルビー、この二つが揃った指輪は幸せへの第一歩とも言える、まさに不幸とは真逆の意味を持つ指輪だ。そんな物がなぜ不幸を呼ぶなどと言われているのか。葵はマジマジと指輪を見つめながら首を傾げる。
「この指輪がオークションに出された経緯は所有者の死亡じゃ。これまで指輪の持ち主は七人、すべて男。全員死んでおる」
「……死因は?」
驚きに目を見開いた葵は、その言葉を聞いた途端に先ほどまでの柔らかな空気を一変させ、真剣な面持ちでロウを見つめる。
「死因は見事にバラバラじゃなぁ。一人目は焼死、二人目は病死、三人目は水死、四人目は事故死、五人目は刺殺、六人目は自殺、七人目は……そうそう、轢死じゃったかの。オークションでの説明と、こちらの調べ、共に一致しておるから確かじゃわい」
ロウは葵に分厚い書類を渡すと、唇を湿らせるように酒を飲む。
手渡された書類に書かれていたのは、指輪の所有者の詳細と指輪が『不幸を呼ぶ指輪』と呼ばれるようになった経緯だった。
どうやらすべての所有者は死んだその日、指輪を身に着けていたのだという。結婚指輪らしいモチーフだが、デザイン自体は華美ではなく普段使いできるものだ。気に入って身に着けていてもなんら不思議ではないのだが、それにしては指輪に傷がなさすぎる。普段使いしていれば大切に扱っていても大なり小なり傷がつく。しかし葵の掌にある指輪は傷一つ無く完成時の美しさを保ったままだ。一人目の所有者が焼死した時も朽ちることなく存在し、水に沈んでも腐食することはなく、大きな車輪に弾かれても歪み一つ無いなど異常以外の何物でもない。
この指輪の経緯を聞いた上で鑑定した人は、さぞや不気味に思っただろう。葵自身もこの世界の価値観しか知らない状況だったなら気味悪がっていたはずだ。
「なるほど、不幸を呼ぶと言われても仕方がない、か……」
幸せを運ぶはずの結婚指輪。その美しさに惹かれ、気まぐれで手に入れた者たちが、残らず冥府へと旅立っている。死者が一人や二人だったら偶然のひと言で片付けられたかもしれない。しかし所有者が移る度に死んでいるのだ。さすがに神の悪戯にしては度が過ぎている。
「ちなみにロウ様がこれを手にしてから、日数はどれくらいですか?」
「まだひと月経ってねぇよ」
難しい顔を葉ながら質問した葵に答えを聞かせてくれたのは、ロウではなく先ほどまで肉を貪っていたノヴォだった。
彼は満足げに腹を摩りながらだらしなく胡坐をかくと、机の上に放られていたスマートフォンを弄って指輪の入手日の確認をする。
「あぁ、正確には十二月二日だな。……手に入れてから今日まで、何かよくないことがあったかどうかを聞きたいんだろ?」
「そう。どうかな、心当たりない?」
「いいや、特にないのぅ」
「えぇ……ロウ爺、何もないってことは無かっただろうよ!」
「ふむ? なんかあったかのぅ?」
ロウはこれっぽっちも思い当たる節が無いようで、いやいやといいながら顔を覆うノヴォの態度を不思議そうに眺めながら首を傾げる。
「あったよっ! 暗殺者様御一行様がロウ爺暗殺ツアーに来たじゃん! それもいつもの倍でさぁぁぁ……」
「あー、そういえばそんなことあったわねぇ」
「まぁ命を狙われるのは日常茶飯事じゃからの。あまり気にしとらんかったわい」
とてつもなくきな臭い話にもかかわらず、ロウとメルヴィエの様子は慣れているといわんばかりにのほほんとしていて、ノヴォはげんなりしたように髪を掻き乱しながら肩を落とす。
「そうだよなぁ、日常だよなぁ、ロウ爺の物理無双もメルの首狩りもさぁ……」
「ほっほっほ、まだまだ若いもんには負けんよ」
「首飛ばすのが一番手っ取り早いしねぇ」
「あぁぁ皮肉が通じない……辛い」
「ノヴォ……相変わらず苦労してるね」
いつも護衛を忘れて突っ走るロウと、後処理を考えずに血を盛大に撒き散らすメルヴィエに、何度ノヴォの胃が危険に晒されたことか。ノヴォは葵から憐みの眼差しを受けながら涙を堪えるように目頭を押さえる。
ロウが統括している『アヴァターラ』は、世界各国で取引を行っている大手の貿易商だ。長い年月をかけてじっくりと世界に浸透していった『アヴァターラ』の顧客はそれこそ多岐に渡る。国の重役から表立って活動できない者たちまで様々で、扱う品も白から黒まで何でもござれだ。
世界握っているとさえ言われている貿易の要、それが枯れ枝のような老人であることはほとんどの者が知らない。長い寿命を持つ彼が表立って活動することはアーティファクト関連のみであり、会社自体はノヴォのような事情を知る忠実な部下に任せている状態だ。
表舞台に姿を現すことのないロウではあるが、やはり職業柄恨まれることが多い。同業者、マフィア、裏取引によって犠牲となった者の遺族、国のエージェントなど、命を狙ってくる輩は数知れず。そのため暗殺や襲撃などはもう随分と前から日常と化し、ロウもメルヴィエも毛の程も気にしていなかった。
そもそも見た目は木枯らしで飛んでいってしまいそうなほど小柄なロウだが、その実態は人間など一飲みで来てしまうほど大きな身体を持つ龍だ。いくらこの地球に来て弱体化したとはいっても、そこいらの人間、しかもこの世界の暗殺者どもは羽虫も同然なのだろう。まったくもって護衛のし甲斐のない老人である。
掌の上に乗せたままの指輪は、見る限りでは不幸を呼ぶ指輪などと呼ばれるような不気味な印象は感じない。むしろ蔦とルビー、この二つが揃った指輪は幸せへの第一歩とも言える、まさに不幸とは真逆の意味を持つ指輪だ。そんな物がなぜ不幸を呼ぶなどと言われているのか。葵はマジマジと指輪を見つめながら首を傾げる。
「この指輪がオークションに出された経緯は所有者の死亡じゃ。これまで指輪の持ち主は七人、すべて男。全員死んでおる」
「……死因は?」
驚きに目を見開いた葵は、その言葉を聞いた途端に先ほどまでの柔らかな空気を一変させ、真剣な面持ちでロウを見つめる。
「死因は見事にバラバラじゃなぁ。一人目は焼死、二人目は病死、三人目は水死、四人目は事故死、五人目は刺殺、六人目は自殺、七人目は……そうそう、轢死じゃったかの。オークションでの説明と、こちらの調べ、共に一致しておるから確かじゃわい」
ロウは葵に分厚い書類を渡すと、唇を湿らせるように酒を飲む。
手渡された書類に書かれていたのは、指輪の所有者の詳細と指輪が『不幸を呼ぶ指輪』と呼ばれるようになった経緯だった。
どうやらすべての所有者は死んだその日、指輪を身に着けていたのだという。結婚指輪らしいモチーフだが、デザイン自体は華美ではなく普段使いできるものだ。気に入って身に着けていてもなんら不思議ではないのだが、それにしては指輪に傷がなさすぎる。普段使いしていれば大切に扱っていても大なり小なり傷がつく。しかし葵の掌にある指輪は傷一つ無く完成時の美しさを保ったままだ。一人目の所有者が焼死した時も朽ちることなく存在し、水に沈んでも腐食することはなく、大きな車輪に弾かれても歪み一つ無いなど異常以外の何物でもない。
この指輪の経緯を聞いた上で鑑定した人は、さぞや不気味に思っただろう。葵自身もこの世界の価値観しか知らない状況だったなら気味悪がっていたはずだ。
「なるほど、不幸を呼ぶと言われても仕方がない、か……」
幸せを運ぶはずの結婚指輪。その美しさに惹かれ、気まぐれで手に入れた者たちが、残らず冥府へと旅立っている。死者が一人や二人だったら偶然のひと言で片付けられたかもしれない。しかし所有者が移る度に死んでいるのだ。さすがに神の悪戯にしては度が過ぎている。
「ちなみにロウ様がこれを手にしてから、日数はどれくらいですか?」
「まだひと月経ってねぇよ」
難しい顔を葉ながら質問した葵に答えを聞かせてくれたのは、ロウではなく先ほどまで肉を貪っていたノヴォだった。
彼は満足げに腹を摩りながらだらしなく胡坐をかくと、机の上に放られていたスマートフォンを弄って指輪の入手日の確認をする。
「あぁ、正確には十二月二日だな。……手に入れてから今日まで、何かよくないことがあったかどうかを聞きたいんだろ?」
「そう。どうかな、心当たりない?」
「いいや、特にないのぅ」
「えぇ……ロウ爺、何もないってことは無かっただろうよ!」
「ふむ? なんかあったかのぅ?」
ロウはこれっぽっちも思い当たる節が無いようで、いやいやといいながら顔を覆うノヴォの態度を不思議そうに眺めながら首を傾げる。
「あったよっ! 暗殺者様御一行様がロウ爺暗殺ツアーに来たじゃん! それもいつもの倍でさぁぁぁ……」
「あー、そういえばそんなことあったわねぇ」
「まぁ命を狙われるのは日常茶飯事じゃからの。あまり気にしとらんかったわい」
とてつもなくきな臭い話にもかかわらず、ロウとメルヴィエの様子は慣れているといわんばかりにのほほんとしていて、ノヴォはげんなりしたように髪を掻き乱しながら肩を落とす。
「そうだよなぁ、日常だよなぁ、ロウ爺の物理無双もメルの首狩りもさぁ……」
「ほっほっほ、まだまだ若いもんには負けんよ」
「首飛ばすのが一番手っ取り早いしねぇ」
「あぁぁ皮肉が通じない……辛い」
「ノヴォ……相変わらず苦労してるね」
いつも護衛を忘れて突っ走るロウと、後処理を考えずに血を盛大に撒き散らすメルヴィエに、何度ノヴォの胃が危険に晒されたことか。ノヴォは葵から憐みの眼差しを受けながら涙を堪えるように目頭を押さえる。
ロウが統括している『アヴァターラ』は、世界各国で取引を行っている大手の貿易商だ。長い年月をかけてじっくりと世界に浸透していった『アヴァターラ』の顧客はそれこそ多岐に渡る。国の重役から表立って活動できない者たちまで様々で、扱う品も白から黒まで何でもござれだ。
世界握っているとさえ言われている貿易の要、それが枯れ枝のような老人であることはほとんどの者が知らない。長い寿命を持つ彼が表立って活動することはアーティファクト関連のみであり、会社自体はノヴォのような事情を知る忠実な部下に任せている状態だ。
表舞台に姿を現すことのないロウではあるが、やはり職業柄恨まれることが多い。同業者、マフィア、裏取引によって犠牲となった者の遺族、国のエージェントなど、命を狙ってくる輩は数知れず。そのため暗殺や襲撃などはもう随分と前から日常と化し、ロウもメルヴィエも毛の程も気にしていなかった。
そもそも見た目は木枯らしで飛んでいってしまいそうなほど小柄なロウだが、その実態は人間など一飲みで来てしまうほど大きな身体を持つ龍だ。いくらこの地球に来て弱体化したとはいっても、そこいらの人間、しかもこの世界の暗殺者どもは羽虫も同然なのだろう。まったくもって護衛のし甲斐のない老人である。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる