8 / 12
冬
冬(3)
しおりを挟む
夕飯の支度を並んでしているのが不思議だった。
どうにもならない気持ちを告げて、最悪になると思った関係が修復されていた。
「離れろ」
孝知が味噌汁の味見をすると、汁椀を手にした一香が鍋を覗きに来た。洗いたての髪からほんのりシャンプーの香りがする。
「何で?」
キョトンと見上げる姿に腹が立つ。
「動きにくいだろっ」
――人の気持ち知って、その態度か?
「ごめん」
屈託なく笑う一香。
テーブルに着いて食事を始めると、ふいに一香が口を開く。
「孝……さっきの」
「あ?」
「僕も……恋愛対象ってこと?」
孝知は耳まで赤くなり、むせこんだ。一香は慌てて水を注いできた。
「何だよ、急に!」
「だってあの言い方……」
ははっと照れて笑う一香に孝知はため息をつく。
「どうでもいい」
「え? 何で?」
「もういい、気にすんな」
一香は席に戻り、箸を取る。
「ごめん、どう考えても、そういう意味にしか捉えられなくて……」
「なら改めて聞くな、バカ」
赤い顔のまま、孝知はおかずへと箸を伸ばす。
「……えっ!」
一瞬、目をぱっと開き孝知を見て、赤くなる。
食べる速度の落ちた一香とは逆に、孝知は勢いよくご飯をかき込む。無言で食事を終え部屋へと上がった。
後ろ手で戸を閉めると、頭を掻きむしり、ベッドへ倒れこんだ。
――あいつの天然は、何とかならないのか! ……無理、だろうな……
ため息が出た。
「あのさ……」
翌日、朝からつかず離れずの一香に対し、流石に勘弁してほしいと思った。
昼食の準備をしている時だった。野菜を切り終えた孝知が庖丁を置き、ため息をついて口を開いた。
びくっと肩が反応し、動きを止める一香。
「朝から見張られてるのか、俺は……」
ギクシャクする前は確かに、二人でご飯の準備もしていたが、様子が違う。
朝からちらちらと孝知を見るのに、これといって何も言って来ない。
本を読んでいても、紅茶の準備をしていても、洗濯をしていてもそっと覗き見ている。何か用かと聞くと、家事の手伝いを始める。
そのうち言いたいことを言うだろうと思ったが、もう限界だった。
「えぇっと……」
椅子に座ったかと思うと立ち上がり、一香の視線は上を見たり下を見たり。
「落ち着けよ、ちゃんと聞くから」
言いにくいことがあると、挙動不審になるのは昔からだ。孝知は優しく笑い、手を拭くと、一香の向かいに腰かけた。
孝知が座るのを見て、一香も座る。
緩く組んだ手をテーブルに置くと、両手の人差し指をくるくる回している。
「あの……僕、孝のことすごく大切だし……人として尊敬してる」
一言づつ考えて、ゆっくりと言葉を発する。
「だけど……だけどこれって……恋じゃない、と、思う」
真剣な表情、しかし申し訳なく思うのか瞳はテーブルに向けられたままだった。
「わかってるよ。つか、強要しねぇよ。イチと仲直りしたら、それでいい。……お前がキモいとか俺を避けてもフツーだと思うし」
「気持ち悪くないよ、ぜんっぜん!」
孝知の言葉尻と一香の言葉が重なる。孝知は驚いた。一香にまっすぐ見つめられ、ゆっくりと視線を外す。
「……わ、わかった、うん。それで、いいんじゃね」
自分が何に対してそう言っているのか、よくわからなくなっていた。だが、力を抜いて一香が「うん」と答えて笑うので、それでいいんだろうと孝知も思った。
どうにもならない気持ちを告げて、最悪になると思った関係が修復されていた。
「離れろ」
孝知が味噌汁の味見をすると、汁椀を手にした一香が鍋を覗きに来た。洗いたての髪からほんのりシャンプーの香りがする。
「何で?」
キョトンと見上げる姿に腹が立つ。
「動きにくいだろっ」
――人の気持ち知って、その態度か?
「ごめん」
屈託なく笑う一香。
テーブルに着いて食事を始めると、ふいに一香が口を開く。
「孝……さっきの」
「あ?」
「僕も……恋愛対象ってこと?」
孝知は耳まで赤くなり、むせこんだ。一香は慌てて水を注いできた。
「何だよ、急に!」
「だってあの言い方……」
ははっと照れて笑う一香に孝知はため息をつく。
「どうでもいい」
「え? 何で?」
「もういい、気にすんな」
一香は席に戻り、箸を取る。
「ごめん、どう考えても、そういう意味にしか捉えられなくて……」
「なら改めて聞くな、バカ」
赤い顔のまま、孝知はおかずへと箸を伸ばす。
「……えっ!」
一瞬、目をぱっと開き孝知を見て、赤くなる。
食べる速度の落ちた一香とは逆に、孝知は勢いよくご飯をかき込む。無言で食事を終え部屋へと上がった。
後ろ手で戸を閉めると、頭を掻きむしり、ベッドへ倒れこんだ。
――あいつの天然は、何とかならないのか! ……無理、だろうな……
ため息が出た。
「あのさ……」
翌日、朝からつかず離れずの一香に対し、流石に勘弁してほしいと思った。
昼食の準備をしている時だった。野菜を切り終えた孝知が庖丁を置き、ため息をついて口を開いた。
びくっと肩が反応し、動きを止める一香。
「朝から見張られてるのか、俺は……」
ギクシャクする前は確かに、二人でご飯の準備もしていたが、様子が違う。
朝からちらちらと孝知を見るのに、これといって何も言って来ない。
本を読んでいても、紅茶の準備をしていても、洗濯をしていてもそっと覗き見ている。何か用かと聞くと、家事の手伝いを始める。
そのうち言いたいことを言うだろうと思ったが、もう限界だった。
「えぇっと……」
椅子に座ったかと思うと立ち上がり、一香の視線は上を見たり下を見たり。
「落ち着けよ、ちゃんと聞くから」
言いにくいことがあると、挙動不審になるのは昔からだ。孝知は優しく笑い、手を拭くと、一香の向かいに腰かけた。
孝知が座るのを見て、一香も座る。
緩く組んだ手をテーブルに置くと、両手の人差し指をくるくる回している。
「あの……僕、孝のことすごく大切だし……人として尊敬してる」
一言づつ考えて、ゆっくりと言葉を発する。
「だけど……だけどこれって……恋じゃない、と、思う」
真剣な表情、しかし申し訳なく思うのか瞳はテーブルに向けられたままだった。
「わかってるよ。つか、強要しねぇよ。イチと仲直りしたら、それでいい。……お前がキモいとか俺を避けてもフツーだと思うし」
「気持ち悪くないよ、ぜんっぜん!」
孝知の言葉尻と一香の言葉が重なる。孝知は驚いた。一香にまっすぐ見つめられ、ゆっくりと視線を外す。
「……わ、わかった、うん。それで、いいんじゃね」
自分が何に対してそう言っているのか、よくわからなくなっていた。だが、力を抜いて一香が「うん」と答えて笑うので、それでいいんだろうと孝知も思った。
0
あなたにおすすめの小説
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ラピスラズリの福音
東雲
BL
*異世界ファンタジーBL*
特別な世界観も特殊な設定もありません。壮大な何かもありません。
幼馴染みの二人が遠回りをしながら、相思相愛の果てに結ばれるお話です。
金髪碧眼美形攻め×純朴一途筋肉受け
息をするように体の大きい子受けです。
珍しく年齢制限のないお話ですが、いつもの如く己の『好き』と性癖をたんと詰め込みました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる