きみがすき

秋月みゅんと

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冬(3)

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 夕飯の支度を並んでしているのが不思議だった。
 どうにもならない気持ちを告げて、最悪になると思った関係が修復されていた。
「離れろ」
 孝知が味噌汁の味見をすると、汁椀を手にした一香が鍋を覗きに来た。洗いたての髪からほんのりシャンプーの香りがする。
「何で?」
 キョトンと見上げる姿に腹が立つ。
「動きにくいだろっ」
――人の気持ち知って、その態度か?
「ごめん」
 屈託なく笑う一香。

 テーブルに着いて食事を始めると、ふいに一香が口を開く。
「孝……さっきの」
「あ?」
「僕も……恋愛対象ってこと?」
 孝知は耳まで赤くなり、むせこんだ。一香は慌てて水を注いできた。
「何だよ、急に!」
「だってあの言い方……」
 ははっと照れて笑う一香に孝知はため息をつく。
「どうでもいい」
「え? 何で?」
「もういい、気にすんな」
 一香は席に戻り、箸を取る。
「ごめん、どう考えても、そういう意味にしか捉えられなくて……」
「なら改めて聞くな、バカ」
 赤い顔のまま、孝知はおかずへと箸を伸ばす。
「……えっ!」
 一瞬、目をぱっと開き孝知を見て、赤くなる。
 食べる速度の落ちた一香とは逆に、孝知は勢いよくご飯をかき込む。無言で食事を終え部屋へと上がった。

 後ろ手で戸を閉めると、頭を掻きむしり、ベッドへ倒れこんだ。
――あいつの天然は、何とかならないのか! ……無理、だろうな……
 ため息が出た。


「あのさ……」
 翌日、朝からつかず離れずの一香に対し、流石に勘弁してほしいと思った。
 昼食の準備をしている時だった。野菜を切り終えた孝知が庖丁を置き、ため息をついて口を開いた。
 びくっと肩が反応し、動きを止める一香。
「朝から見張られてるのか、俺は……」
 ギクシャクする前は確かに、二人でご飯の準備もしていたが、様子が違う。
 朝からちらちらと孝知を見るのに、これといって何も言って来ない。
 本を読んでいても、紅茶の準備をしていても、洗濯をしていてもそっと覗き見ている。何か用かと聞くと、家事の手伝いを始める。
 そのうち言いたいことを言うだろうと思ったが、もう限界だった。

「えぇっと……」
 椅子に座ったかと思うと立ち上がり、一香の視線は上を見たり下を見たり。
「落ち着けよ、ちゃんと聞くから」
 言いにくいことがあると、挙動不審になるのは昔からだ。孝知は優しく笑い、手を拭くと、一香の向かいに腰かけた。
 孝知が座るのを見て、一香も座る。
 緩く組んだ手をテーブルに置くと、両手の人差し指をくるくる回している。
「あの……僕、孝のことすごく大切だし……人として尊敬してる」
 一言づつ考えて、ゆっくりと言葉を発する。
「だけど……だけどこれって……恋じゃない、と、思う」
 真剣な表情、しかし申し訳なく思うのか瞳はテーブルに向けられたままだった。
「わかってるよ。つか、強要しねぇよ。イチと仲直りしたら、それでいい。……お前がキモいとか俺を避けてもフツーだと思うし」
「気持ち悪くないよ、ぜんっぜん!」
 孝知の言葉尻と一香の言葉が重なる。孝知は驚いた。一香にまっすぐ見つめられ、ゆっくりと視線を外す。
「……わ、わかった、うん。それで、いいんじゃね」
 自分が何に対してそう言っているのか、よくわからなくなっていた。だが、力を抜いて一香が「うん」と答えて笑うので、それでいいんだろうと孝知も思った。
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