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冬
冬(4)
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「頼みが、ある」
左手で赤くなった頬を覆い、孝知は口を開いた。
「何?」
無邪気に聞きかえす一香。
二人してテレビの前に居た。
ゆったりとした大きなソファーでありながら、ぴったりと寄り添って座っている。
後から来た一香が、すぐ側に腰を降ろし、もたれかかってきたのだ。
「離れろ」
冷静な孝知の言葉に口を尖らせ、講義する一香。
「えぇー、寒いのに?」
――ほんっと、コイツの神経は……
ここ数日で"離れろ"と何回言っただろう。
少し眉を寄せながらも、孝知はつとめて落ち着いた声を出す。
「寒いならもっと羽織って来い」
「別に。こうしてたら温かいし」
はぁと大きくため息を吐き、孝知は上半身をよじって一香にかぶさる様にした。
「俺に、何かされたい?」
「……え?」
本当に理解していない表情の一香。この至近距離でも表情を変えないので、頬に触れ、耳元に顔を近づける。
「た、孝……」
耳まで赤くなり顔を背けた一香を見て、ほっとした孝知は体勢を戻した。
「ほら、体冷やす前にもっと……」
「な……何かって、キス?」
眉を寄せ返事をしない孝知に、一香はもう一度くり返した。
「キス、したいの?」
孝知は自分の着ていたジャージの上着を一香の膝に乗せると立ち上がった。
「孝が……したいなら、していいよ」
「二度とそんな事言うな」
孝知は湧き上がる感情を堪え、やっと口にした。それさえも知ってか知らずか、一香は孝知の前に立つ。
「だって今、孝が……」
「頼むから、少し離れろ」
ふつふつと湧く感情に、奥歯を噛みしめていたので、低くうなるように声が出た。
驚いた顔の一香を避けて、部屋へと向かう。
――くそっ
孝知は部屋に入ると、クッションに八つ当たりして、拳を叩き込んだ。
――俺のが、苦しいじゃんかよ。何でわかんねぇんだ、アイツ
そのまま倒れこみ、床で丸まった。
ひんやりとした空気が怒りを削いでゆく。そのまま目を閉じて呼吸を整える。
すると、悲しげだった数日前までの一香の顔を思い出した。
――嫌われていると、思っていたんだ。今までアイツを苦しめていたのは俺だ。きっと今、嬉しくて仕方ないんだろうな……
一香の事を思う。だが、この状況はあまりにも過酷だと思うとため息が出た。
床に寝ていたせいか、階段を上がる足音が聞こえた。足音は廊下の奥にある孝知の部屋の前で止まる。
そっと、上体を起こし、耳を澄ます。
だが、戸をノックするでもなく、そこに佇んでいた。
静かにノブを回すと、困り果てた顔の一香が立っていた。
「ごめん、僕、どうして孝が怒っているのか、やっぱりわかんなくて……」
「本気で言ってるのか?」
頷く一香に、また溜息が出た。
「お前さ、俺のこと何とも思ってないんだろ? なら、あんなこと平気な顔して言うなよ。俺は……好きだから傷つく」
「孝なら、いいと思ったんだ。それっていけないの?」
――どこまで天然なんだ、コイツ。それとも無神経なのか……?
ちょっと考えて、孝知は口を開く。
「お前、好きな子とかいねぇの?」
「うん」
「即答かよ……」
別にいいけど、と孝知は少し笑う。
「いきなり、好きじゃないけど、キスしたいって言われたら、どう思う?」
すぐに一香の眉が寄る。
「えっヤダよ。だって、その人は誰でもいいんでしょ?」
「俺が言いたいのは、それ」
一瞬驚き、ふるふると首を横に振る一香。
「違うよ。僕は孝とならいいと思ったんだ。他の人とは、イヤだよ、絶対」
「は?」
すっとんきょうな声を出した孝知に、自分の考えをきちんと伝えようと宙を見て考える一香。
「だから、違うと思う。好きじゃないけど、キスしたいんじゃなくて……孝と、なら……」
孝知はわしゃわしゃと自分の頭を掻き、一香を手招く。素直に従ったその手を引き寄せ、戸を閉める。
ベッドに座らせると一香の髪を撫で、頬に触れる。額に、耳元にキスをした。
みるみる顔が赤くなるが、一香はされるがままだ。
「抵抗しろ、バカっ」
「孝……カッコいい」
孝知は顔を赤くした。
「頼むよ、イチ。俺の心が、もたない……」
左手で赤くなった頬を覆い、孝知は口を開いた。
「何?」
無邪気に聞きかえす一香。
二人してテレビの前に居た。
ゆったりとした大きなソファーでありながら、ぴったりと寄り添って座っている。
後から来た一香が、すぐ側に腰を降ろし、もたれかかってきたのだ。
「離れろ」
冷静な孝知の言葉に口を尖らせ、講義する一香。
「えぇー、寒いのに?」
――ほんっと、コイツの神経は……
ここ数日で"離れろ"と何回言っただろう。
少し眉を寄せながらも、孝知はつとめて落ち着いた声を出す。
「寒いならもっと羽織って来い」
「別に。こうしてたら温かいし」
はぁと大きくため息を吐き、孝知は上半身をよじって一香にかぶさる様にした。
「俺に、何かされたい?」
「……え?」
本当に理解していない表情の一香。この至近距離でも表情を変えないので、頬に触れ、耳元に顔を近づける。
「た、孝……」
耳まで赤くなり顔を背けた一香を見て、ほっとした孝知は体勢を戻した。
「ほら、体冷やす前にもっと……」
「な……何かって、キス?」
眉を寄せ返事をしない孝知に、一香はもう一度くり返した。
「キス、したいの?」
孝知は自分の着ていたジャージの上着を一香の膝に乗せると立ち上がった。
「孝が……したいなら、していいよ」
「二度とそんな事言うな」
孝知は湧き上がる感情を堪え、やっと口にした。それさえも知ってか知らずか、一香は孝知の前に立つ。
「だって今、孝が……」
「頼むから、少し離れろ」
ふつふつと湧く感情に、奥歯を噛みしめていたので、低くうなるように声が出た。
驚いた顔の一香を避けて、部屋へと向かう。
――くそっ
孝知は部屋に入ると、クッションに八つ当たりして、拳を叩き込んだ。
――俺のが、苦しいじゃんかよ。何でわかんねぇんだ、アイツ
そのまま倒れこみ、床で丸まった。
ひんやりとした空気が怒りを削いでゆく。そのまま目を閉じて呼吸を整える。
すると、悲しげだった数日前までの一香の顔を思い出した。
――嫌われていると、思っていたんだ。今までアイツを苦しめていたのは俺だ。きっと今、嬉しくて仕方ないんだろうな……
一香の事を思う。だが、この状況はあまりにも過酷だと思うとため息が出た。
床に寝ていたせいか、階段を上がる足音が聞こえた。足音は廊下の奥にある孝知の部屋の前で止まる。
そっと、上体を起こし、耳を澄ます。
だが、戸をノックするでもなく、そこに佇んでいた。
静かにノブを回すと、困り果てた顔の一香が立っていた。
「ごめん、僕、どうして孝が怒っているのか、やっぱりわかんなくて……」
「本気で言ってるのか?」
頷く一香に、また溜息が出た。
「お前さ、俺のこと何とも思ってないんだろ? なら、あんなこと平気な顔して言うなよ。俺は……好きだから傷つく」
「孝なら、いいと思ったんだ。それっていけないの?」
――どこまで天然なんだ、コイツ。それとも無神経なのか……?
ちょっと考えて、孝知は口を開く。
「お前、好きな子とかいねぇの?」
「うん」
「即答かよ……」
別にいいけど、と孝知は少し笑う。
「いきなり、好きじゃないけど、キスしたいって言われたら、どう思う?」
すぐに一香の眉が寄る。
「えっヤダよ。だって、その人は誰でもいいんでしょ?」
「俺が言いたいのは、それ」
一瞬驚き、ふるふると首を横に振る一香。
「違うよ。僕は孝とならいいと思ったんだ。他の人とは、イヤだよ、絶対」
「は?」
すっとんきょうな声を出した孝知に、自分の考えをきちんと伝えようと宙を見て考える一香。
「だから、違うと思う。好きじゃないけど、キスしたいんじゃなくて……孝と、なら……」
孝知はわしゃわしゃと自分の頭を掻き、一香を手招く。素直に従ったその手を引き寄せ、戸を閉める。
ベッドに座らせると一香の髪を撫で、頬に触れる。額に、耳元にキスをした。
みるみる顔が赤くなるが、一香はされるがままだ。
「抵抗しろ、バカっ」
「孝……カッコいい」
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「頼むよ、イチ。俺の心が、もたない……」
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