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そして春
そして春(1)
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一香が、孝知の家に来て一年が過ぎた。
二年に進級した二人はクラスが一緒だった。そろって新しい教室に入ると、戸の側で談笑していた原と目が合った。
「今年も一緒か? よろしくな」
言って、孝知の首を掴まえ奥へとひっぱる。
「相棒も一緒なのか?」
たぶん一香の事だろうと頷くと、「よかったな」と笑った。
時々、原の発言に焦る。一香に対する自分の気持ちを、見抜かれているんじゃないかと。
家に帰ると、見慣れない車が止まっていた。
「客?」
孝知の言葉に車を確認した一香が目を輝かせた。
「母さんの車だ!」
家に入ると笑い合う声が聞こえてきた。
「ただいまっ!」
一香は嬉しそうに言うと靴を脱いで入っていく。孝知はいつもと代わらぬペースで入った。
「一香ーっ、元気してた?」
ソファーから立ち上がり、利香子は一香の両腕をさする。そして、後ろから入ってきた孝知を見て目を丸くした。
「孝知くん? 大きくなったわねぇ、そして美男子っ!」
そう言って、利香子は孝知の腕を軽く叩いて笑う。
「お久しぶりです」
淡々と返す孝知。
「あら? ウチの息子君カッコいい? そうかしら?」
知恵はまるで自分が褒められたような顔をしている。
「モテるでしょ?」
ふんわりとカールした茶色の髪を揺らして利香子が笑う。
「いや、そうでもないです」
「そういう謙遜するとこもモテ要素かもね」
ふふっと利香子は笑う。
「利香子がロールケーキ持ってきてるわよ、二人とも手を洗って来て」
知恵は言って、台所で皿を準備し始めた。
孝知と一香が手洗いうがいを済ませて、戻ると紅茶とロールケーキが二人分用意されていた。
「これ、最近話題のケーキ屋さんのものよ。がっつかないでよく味わって食べるのよ」
買ってきたのは利香子のはずだが、知恵が言う。そして、また楽しそうに利香子と話を始めたので、二人は座ってケーキを食べ始めた。
「あ、美味しい」
一香の言葉に孝知は頷く。
利香子が思い出したように一香を見て口を開いた。
「そうそう、一香。五月には新しい家だから、今から少しずつ荷物まとめといてよ」
利香子以外の三人は、「あ……」と顔を見合わせた。
「もう一年経つのね……寂しくなるわ」
知恵がしみじみと言う。
「何言ってるの、ご近所になるんじゃない。また仲良くしてよね」
利香子は笑う。
利香子が帰った後、孝知が部屋で着替えていると、一香が戸をノックした。
袖を通しながら戸を開ける。
「今日の夕飯、知恵さんが作るって」
「え……マジ? ということは、洗濯してていいんだな」
食事当番を逃れられると少し嬉しい孝知。今脱いだ制服を掴み部屋を出ようとした。
「制服出しとけ。一緒に洗……」
すぐ側に一香が立っていて驚いた。言いかけた言葉を飲み込んで、問いかける。
「……な、何?」
「……来月には、ここから出るんだ、僕」
静かにつぶやく一香。
「出てくっても、学校も一緒だし、前みたいに遠くはないんだし……」
言いながら、寂しくなってきた孝知は、後半声が小さくなっていく。
思えば時間を無駄にしてしまった。せっかく一香と二人で過ごせた日々を、無視して避けて遠ざけていた。
「寂しいよ」
一香の言葉に、思わずその体を抱き寄せてしまいそうになる。
だが、階段のほうから知恵の声が響いてきた。
「孝知ーっ、洗濯機空いてるわよぉーっ」
「わかってるよっ! 今使う!」
焦って真っ赤になり、大声で返す。
――マジで危ねぇ……
「ほ、ほら、制服下に持って来いよ」
慌てて言うと、前に伸ばしかけていたその手で一香の頭をぐしゃぐしゃと撫でて部屋を出る。
二年に進級した二人はクラスが一緒だった。そろって新しい教室に入ると、戸の側で談笑していた原と目が合った。
「今年も一緒か? よろしくな」
言って、孝知の首を掴まえ奥へとひっぱる。
「相棒も一緒なのか?」
たぶん一香の事だろうと頷くと、「よかったな」と笑った。
時々、原の発言に焦る。一香に対する自分の気持ちを、見抜かれているんじゃないかと。
家に帰ると、見慣れない車が止まっていた。
「客?」
孝知の言葉に車を確認した一香が目を輝かせた。
「母さんの車だ!」
家に入ると笑い合う声が聞こえてきた。
「ただいまっ!」
一香は嬉しそうに言うと靴を脱いで入っていく。孝知はいつもと代わらぬペースで入った。
「一香ーっ、元気してた?」
ソファーから立ち上がり、利香子は一香の両腕をさする。そして、後ろから入ってきた孝知を見て目を丸くした。
「孝知くん? 大きくなったわねぇ、そして美男子っ!」
そう言って、利香子は孝知の腕を軽く叩いて笑う。
「お久しぶりです」
淡々と返す孝知。
「あら? ウチの息子君カッコいい? そうかしら?」
知恵はまるで自分が褒められたような顔をしている。
「モテるでしょ?」
ふんわりとカールした茶色の髪を揺らして利香子が笑う。
「いや、そうでもないです」
「そういう謙遜するとこもモテ要素かもね」
ふふっと利香子は笑う。
「利香子がロールケーキ持ってきてるわよ、二人とも手を洗って来て」
知恵は言って、台所で皿を準備し始めた。
孝知と一香が手洗いうがいを済ませて、戻ると紅茶とロールケーキが二人分用意されていた。
「これ、最近話題のケーキ屋さんのものよ。がっつかないでよく味わって食べるのよ」
買ってきたのは利香子のはずだが、知恵が言う。そして、また楽しそうに利香子と話を始めたので、二人は座ってケーキを食べ始めた。
「あ、美味しい」
一香の言葉に孝知は頷く。
利香子が思い出したように一香を見て口を開いた。
「そうそう、一香。五月には新しい家だから、今から少しずつ荷物まとめといてよ」
利香子以外の三人は、「あ……」と顔を見合わせた。
「もう一年経つのね……寂しくなるわ」
知恵がしみじみと言う。
「何言ってるの、ご近所になるんじゃない。また仲良くしてよね」
利香子は笑う。
利香子が帰った後、孝知が部屋で着替えていると、一香が戸をノックした。
袖を通しながら戸を開ける。
「今日の夕飯、知恵さんが作るって」
「え……マジ? ということは、洗濯してていいんだな」
食事当番を逃れられると少し嬉しい孝知。今脱いだ制服を掴み部屋を出ようとした。
「制服出しとけ。一緒に洗……」
すぐ側に一香が立っていて驚いた。言いかけた言葉を飲み込んで、問いかける。
「……な、何?」
「……来月には、ここから出るんだ、僕」
静かにつぶやく一香。
「出てくっても、学校も一緒だし、前みたいに遠くはないんだし……」
言いながら、寂しくなってきた孝知は、後半声が小さくなっていく。
思えば時間を無駄にしてしまった。せっかく一香と二人で過ごせた日々を、無視して避けて遠ざけていた。
「寂しいよ」
一香の言葉に、思わずその体を抱き寄せてしまいそうになる。
だが、階段のほうから知恵の声が響いてきた。
「孝知ーっ、洗濯機空いてるわよぉーっ」
「わかってるよっ! 今使う!」
焦って真っ赤になり、大声で返す。
――マジで危ねぇ……
「ほ、ほら、制服下に持って来いよ」
慌てて言うと、前に伸ばしかけていたその手で一香の頭をぐしゃぐしゃと撫でて部屋を出る。
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