18 / 25
独白
しおりを挟む
俺は自分で思っていたよりも非力な人間だった。
公爵家という恵まれた環境で産まれ、きっと同年代の奴らよりも出世してる方だろう。だからその地位を前に俺の目は曇っていた。
地位が高かろうとそれは俺の力ではないし、必要な時に必要な力が無ければそれは無力と同義である。
グナーデが刺されているのを見た時確かに愕然とした。そしてあの微笑みを見て昔を追想させられた。
でも、一番俺の心を動揺させたのはメルツェス殿下がグナーデの傷を治した時だった。
俺は人を傷つけることは出来るがその傷を治すことは出来ない。殿下が傷を治すのをただじっと見ていることしか出来なかった。
その後の処理も殿下に任せる他なかった。
自分が不甲斐ない。自分の好いている人が目の前で重症なのに俺は何も出来ずに突っ立ってるだけ。苦虫を噛み潰したような顔になるのも仕方がないだろう。
だからその不甲斐なさを誤魔化すように次の日からグナーデを気にかけた。噂のことが気になったし、ただ単に話しかけたかったと言うのもあるけど。それに元々俺がせフレになろうだなんて言わなければ噂も流れずグナーデが襲われる可能性もこんなに高くなることもなかったのだ。
あと1つ気になるのが噂の流れる速さが速すぎやしないかということ。グナーデの話だから皆が皆気になったっていう理由だけかもしれないが一日で第二師団全体に知れ渡るだろうか?俺とグナーデがヒルデ様に呼び出されるのもすぐだったから第一師団にも知れ渡ってしまっているのだろう。
ヒルデ様の耳にその噂が入る度に機嫌が急降下されるらしいから沈静化はされているらしいが…。
俺のせいで噂が広まったも同じであるし、そのせいでグナーデが第一師団にいかなければならないなんてそんなことさせるわけにいかない。
自分の尻拭いは自分でしなければ。
それにここで勝てれば少しはあの時感じた不甲斐なさを払拭出来るだろう。
明日はヒルデ様とグナーデを賭けた試合だ、俺は気合いを入れた。
グナーデが男と仲良くしている。
今日は合同練習中日。
あいつはグナーデの部屋に行った時にいたから、グナーデの近衛騎士か。たしか……シュティレと言っていたか。グナーデはいつも距離を置いて、というか置かれて生活している為あんなにボディタッチが激しいのは初めて見た。アルムでもあんなに近くない……というかアルムと家名が一緒か……なるほど。
あー、俺のグナーデに触るな!
俺のじゃないけど。
グナーデは俺の前ではあんな風に笑わないし拗ねた顔なんてしない!これが過ごした年数の違いというやつか。グナーデが第二師団に入った直後から構っていたらもう少し色んな表情を見せてくれていたのだろうか?
でも、あんなに気を許した顔をして……もしかしてグナーデはあいつが好きなのか……。いやでもそしたら俺とせフレなんてしないよな。
俺は二人がどんなに会話をしているのか気になって気付かれないようにそっと近づいた。
「…………俺を変態みたいに言わないでくださいよ!」
「でも、シュティレは好き勝手に僕にあんなことやこんなことしたことがあるじゃないっ。」
「いっ、いや、あれは────────」
………………。
俺はショックを受けすぎてそれ以上の会話は頭の中に入ってこなかった。
好き勝手に………あんなことやこんなこと……。
いや知っていた、どう考えても処女じゃなかったということを、俺は知っていた。
あんなにも簡単に俺のものを飲み込むし、あんなにも可愛く乱れられるなんて経験してないと無理だ。
だが!こう目の前に突きつけられると………精神が病みそうだ。
こうモヤモヤというかムカムカというか、この激情をどこに向ければいいのか分からない。
グナーデにはせフレを俺一人に絞って欲しい。いや、俺はグナーデの恋人になりたい。
俺のものにならないのなら、またこんなに会話を聞くことになるのなら監禁して誰にも会わせず大切にしまっておきたい。
自分の中にこんな危うい感情があるとは初めて知った。メルツェス殿下を好きだと思っていた時にはなかった感情だった。
俺は嫉妬心から生まれたこの激情をどうすることも出来ないまま一旦落ち着こうと執務室に向かった。俺の試合は今日は午後に1度あったはずだ。それまでに気持ちを落ち着かせなければならない。
俺は執務室に向かうために階段を上るが、先程のことに気を取られ注意散漫になっていたのだろう。
階段から足を踏み外した。
身体がひっくり返り、真っ白な天井を真正面に捉える。身体の浮遊感を感じた時にはもう足よりも頭が地面に近く、思いっきり頭を打ち付けたのだった。
ゴンッ
そんな音を聞いたのを最後に、俺の意識はブラックアウトしたのだった。
公爵家という恵まれた環境で産まれ、きっと同年代の奴らよりも出世してる方だろう。だからその地位を前に俺の目は曇っていた。
地位が高かろうとそれは俺の力ではないし、必要な時に必要な力が無ければそれは無力と同義である。
グナーデが刺されているのを見た時確かに愕然とした。そしてあの微笑みを見て昔を追想させられた。
でも、一番俺の心を動揺させたのはメルツェス殿下がグナーデの傷を治した時だった。
俺は人を傷つけることは出来るがその傷を治すことは出来ない。殿下が傷を治すのをただじっと見ていることしか出来なかった。
その後の処理も殿下に任せる他なかった。
自分が不甲斐ない。自分の好いている人が目の前で重症なのに俺は何も出来ずに突っ立ってるだけ。苦虫を噛み潰したような顔になるのも仕方がないだろう。
だからその不甲斐なさを誤魔化すように次の日からグナーデを気にかけた。噂のことが気になったし、ただ単に話しかけたかったと言うのもあるけど。それに元々俺がせフレになろうだなんて言わなければ噂も流れずグナーデが襲われる可能性もこんなに高くなることもなかったのだ。
あと1つ気になるのが噂の流れる速さが速すぎやしないかということ。グナーデの話だから皆が皆気になったっていう理由だけかもしれないが一日で第二師団全体に知れ渡るだろうか?俺とグナーデがヒルデ様に呼び出されるのもすぐだったから第一師団にも知れ渡ってしまっているのだろう。
ヒルデ様の耳にその噂が入る度に機嫌が急降下されるらしいから沈静化はされているらしいが…。
俺のせいで噂が広まったも同じであるし、そのせいでグナーデが第一師団にいかなければならないなんてそんなことさせるわけにいかない。
自分の尻拭いは自分でしなければ。
それにここで勝てれば少しはあの時感じた不甲斐なさを払拭出来るだろう。
明日はヒルデ様とグナーデを賭けた試合だ、俺は気合いを入れた。
グナーデが男と仲良くしている。
今日は合同練習中日。
あいつはグナーデの部屋に行った時にいたから、グナーデの近衛騎士か。たしか……シュティレと言っていたか。グナーデはいつも距離を置いて、というか置かれて生活している為あんなにボディタッチが激しいのは初めて見た。アルムでもあんなに近くない……というかアルムと家名が一緒か……なるほど。
あー、俺のグナーデに触るな!
俺のじゃないけど。
グナーデは俺の前ではあんな風に笑わないし拗ねた顔なんてしない!これが過ごした年数の違いというやつか。グナーデが第二師団に入った直後から構っていたらもう少し色んな表情を見せてくれていたのだろうか?
でも、あんなに気を許した顔をして……もしかしてグナーデはあいつが好きなのか……。いやでもそしたら俺とせフレなんてしないよな。
俺は二人がどんなに会話をしているのか気になって気付かれないようにそっと近づいた。
「…………俺を変態みたいに言わないでくださいよ!」
「でも、シュティレは好き勝手に僕にあんなことやこんなことしたことがあるじゃないっ。」
「いっ、いや、あれは────────」
………………。
俺はショックを受けすぎてそれ以上の会話は頭の中に入ってこなかった。
好き勝手に………あんなことやこんなこと……。
いや知っていた、どう考えても処女じゃなかったということを、俺は知っていた。
あんなにも簡単に俺のものを飲み込むし、あんなにも可愛く乱れられるなんて経験してないと無理だ。
だが!こう目の前に突きつけられると………精神が病みそうだ。
こうモヤモヤというかムカムカというか、この激情をどこに向ければいいのか分からない。
グナーデにはせフレを俺一人に絞って欲しい。いや、俺はグナーデの恋人になりたい。
俺のものにならないのなら、またこんなに会話を聞くことになるのなら監禁して誰にも会わせず大切にしまっておきたい。
自分の中にこんな危うい感情があるとは初めて知った。メルツェス殿下を好きだと思っていた時にはなかった感情だった。
俺は嫉妬心から生まれたこの激情をどうすることも出来ないまま一旦落ち着こうと執務室に向かった。俺の試合は今日は午後に1度あったはずだ。それまでに気持ちを落ち着かせなければならない。
俺は執務室に向かうために階段を上るが、先程のことに気を取られ注意散漫になっていたのだろう。
階段から足を踏み外した。
身体がひっくり返り、真っ白な天井を真正面に捉える。身体の浮遊感を感じた時にはもう足よりも頭が地面に近く、思いっきり頭を打ち付けたのだった。
ゴンッ
そんな音を聞いたのを最後に、俺の意識はブラックアウトしたのだった。
21
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる