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辞めて

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「この感じだと明日の賭けは俺の不戦勝だな。」

「そうだね……。仕方ないけど第一師団に入るよ、僕が第二師団から抜ければ噂も無くなるだろうしこれ以上団長に迷惑かけられない。」

第二師団にいたいっていうのは僕のワガママだしね……。それに団長を巻き込んじゃった。

「なんでですか?俺、明日闘いますけど。」

「団長っ、なんで………。」

「なんでってお前は第二師団の仲間だし欠けられたら困る。それにこの賭けだって俺のせいで始まったようなものだしそれに………俺がお前と一緒にいたいんだよ………。」

一緒にいたいんだよ……一緒にいたいんだよ………一緒にいたいんだよ………。

頭の中でエコーがかかる。

「団長、僕と居たいって思ってくれてるんだ………えへへへ。」

ヤバい、顔がにやけちゃう。
さっきの発言で顔を反対側に背けていた団長は僕が笑うと顔をじっと見つめてきた。

「僕の顔……何かついてますか?」

「いや…なんでもない。」

僕が問いかけるとすぐに顔を背けてしまった。言わなきゃ良かった……団長の顔もっと見ていたかったから。

「それよりもそろそろその体勢で喋るの辞めてくれないか?」

その体勢………はっ!ヒル兄様に抱っこされたままだ。

「ヒル兄様はーなーしーてー!」

僕はヒル兄様の胸を手で押して離れようとするが、抱っこする腕に力が入り抜け出せない。

「このままでいいじゃないか。それとも何か不都合なことでもあるのかい?」

ヒル兄様は何故か僕の方を向いて言うのではなく団長の方を向いていた。

「それは!…いえ、別に、ないですけど………。」

団長は何か言いたそうにしていたが結局何も言わなかった。

「僕が恥ずかしいからやーめーてー!」

「これくらいいつもやってることじゃないか、今更恥ずかしがらなくても。」

「人の目があるでしょー!っていつもはやってない!た!ま!に!たまにしかやってない!ってそうじゃない!そんなことはどうでもいい!」

「どうでもは良くないだろ。いつもやってるし恥ずかしがることは何もない。寧ろいつでもどこでもなーちゃんには触っていた───」

「ヒル兄様はうるさい、黙ってて!」

「分かったよ。」

ヒル兄様はシュンとして黙ってくれた。

「さっきの言葉が嬉しくてスルーしちゃいそうになりましたけど。」

「嬉しいって思ってくれたのか。」

団長が少しにっこりする。
はー、かっこいいー!ってそうじゃない!
頭を振って邪念を払う。

「嬉しいって思いますけど!そうじゃなくて明日の試合は中止です中止。」

「嫌だ。」

「嫌だって、頭打って血がドバドバ出たんですよ!無理して何かあったらどうするんですか!」

「ドバドバ出てたのか……いや、それでも俺は何がなんでも出る。」

団長は断固拒否の姿勢を崩さない。

「なんで…そんなに……。」

僕のこと好きな訳じゃないくせに。
メルツェスが好きなくせに。
なんでそんなに……優しいんですか………。

「僕だって第二師団にいたいですよ!」

団長といたいのもそうだけどやっと最近ユングっていう友達が出来てこれから楽しくなるかもなって思って、頑張ろうって……そう思って…………。

「ひっぐ……ゔうっ…あれ僕また………今日どんだけ泣いてるんだろ………。」

「グナーデ…だったら尚更俺が闘うしかないだろ?」

僕を宥めようと団長は頭を撫でてくるが僕はその手を払う。
ああ、団長を拒否したいわけじゃないのに……。
団長はショックを受けた顔をしている。

「だったらじゃないんです!第二師団にいたいけどそれでも団長に何かあったら意味が無い!もし明日試合をして…そのせいで団長が死んじゃったら……僕…自分のことが許せない……。素直にヒル兄様の言うこと聞いてれば良かったって、きっと後悔する。だから、やめて………。」

口から悲痛な声が零れた。ポタポタと涙が止まらない。

「死ぬってそれほど俺の怪我は酷いのか?」

「酷いですよ。」

バタンと扉を閉めて入ってきた人は先程の治癒術師の人だった。

「見つかった時はもうそれは血の海が広がっていて明日は血が足り足りなくて立ってるのもやっとっていう状態でしょうね。というかなんでこんなに早い目覚めなんですか?あの量結構やばかったですよ。今も普通に起き上がってますけど回復力どんだけですか。」

「君は?」

そう言えば団長は意識がなかったからこの人が誰だか分かってないんだ。

「ドラッヘン様の治癒を担当したしがない治癒術師でございます。どうぞお見知り置きを。」

「そうか……有難う。その驚きの俺の回復力を持ってしても明日は立ってるのがやっとなのか?」

「それはそうですよ。常人なら座るのも辛いかも知れませんね。栄養あるものを沢山食べて身体が血を作るのを待つしかないですから。それにしても頭以外でどこが痛いだとか違和感があったりだとかそんなことは無いですか?」

「少しクラクラしてる。」

「そりゃあ、血が少ないですからね。その様子なら大丈夫そうですね。まあ、異常があったとしても頭の中なんて見れないんで俺のせいにするのは勘弁してくださいね。頭打った人自身の責任なんで。」

この人フランクというかなんというか貴族に対してこんな言葉遣い出来るって度胸ありすぎるでしょ。面白い人だな。

「ああ、そんなことはしない。ただ明日の試合には出るからもし何かあったら頼む。」

「はいはい、分かりました。僕なんかにどうにか出来るとは思いませんがその時は一応診察しますよ、仕事ですからね。」

「ちょっと待ってー!なんで試合に出ることになってるんですか!もう…いいですからぁ。やめましょう、団長……。」

「いや、出る。」

団長は硬い表情で確固とした意志を伝えてくる。
あーあ、ダメなんだろうなぁ。
僕が何を言っても聞かないんだろうなぁ。
なんで僕なんかの為にこんなことを……。

「分かりました…。でももう、僕は知りません。勝手に死ぬなら死んでください。目の前で死なれると気分が悪いので試合も見に行きません。じゃあ、さようなら。」

こんなこと言う奴の為に無理をするなんて馬鹿らしいでしょ?だから、辞めてよ──────。

「うん、勝手に死ぬわ。」

自分勝手に部屋から去る僕の背中にはそんな言葉が投げかけられたのだった。



お願いだから、無理しないでよ。








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