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試合本番
しおりを挟む今日は団長とヒル兄様の試合本番の日。
昨日『勝手に死ぬなら死んでください。』なんて酷いことを言ってしまって酷く後悔した。しかも団長にじゃあ、勝手に死ぬなんて言われたらあんな言葉言った意味が無い。
これで本当に団長が死んだりしたら僕…もう……。
しかしながら朝来た時、団長の姿は見かけなかった。今日は来てないみたいだった。
昨日言ってよかった……って思いとやっぱりそうだよね……っていう勝手な失望の気持ちが浮き上がる。
昨日は少し熱くなっちゃっただけで僕の為に無茶なことなんてしたくないよね。
多分無意識に期待していたんだろう。団長が自分の為に戦ってくれることを。
あれだけ団長の身体を心配してたくせに本心はこれだなんて浅ましいにも程がある。
僕の恋なんて……叶わない方がいいんだろうな。
ふと、この恋自体を否定する気持ちが湧いてくる。勝手に好きになっておいて団長に何かを求めるとか僕はなんて愚かなんだろう。
こんな自分勝手な僕の恋が叶ってしまえば団長が可哀想だ。今日部屋に帰ったら恋が叶いますようにと買った恋愛運が上がるグッズとかは全て捨てようと決めた。
団長のセフレになれたんだ、もう十分だろう。この思い出だけでいきていけるだろう。でも、第一師団に行ってもたまに誘って貰えたら嬉しいかな。
そう思ってたのに、お昼頃に団長は来てしまった。
今日は早起きしてメルツェスに教えて貰った料理をした。団長が本当に試合をするならせめてお弁当でもあげて体力を増やして欲しかった。
来ないならこのお弁当の処理をどうしようと思っていたところ来てしまった為アルムに渡してもらった。
流石に昨日あんな態度を取っておいて自分で渡す勇気はない。
自分の試合が終わるとそこには団長がいた。
そっか、ここでするのか。
団長の顔色は来た時よりも良さそうだった。お弁当を作ったかいがあったものだ。
ただ気まずくてすぐに目線を逸らした。
僕は出口に向かったが団長のいる所から死角になる場所に来ると底に留まった。床に足が引っ付いてしまったかのように足が動かなくなった。
見ない……僕は見ない………。
そう心の中で唱えるが心配で心配でその場を離れることなど出来そうになかった。
その内に試合が始まる声が聞こえた。
第一師団と第二師団の団長同士が闘うからか歓声が大きくそれぞれの団員はそれぞれの団長を応援しているようだ。
僕は見ない……僕は見ない……僕は見たい……。
違う違う。
僕は見ない!
段々と歓声が強くなる。と同時に団長を心配する声が聞こえ始める。皆、昨日のことは聞いていても今日試合に参加しようとするくらいだから大したことはないのだろうと思っていたのだろう。
団長が勝つんだろうなと思っていた奴は多かったはずだ。それが蓋を開けてみれば五分五分どころかヒル兄様が優勢なんだから驚いたはずだ。
歓声が更に大きくなる。それに比例して団長を心配する声も大きくなる。
中にはただの練習になんでこんなにも真剣なんだとぼやく奴もいるが賭けのことを知らないなら仕方がないし賭けを知っている僕もなんで団長がこんなにも本気なのかよく分からない。
僕は団長にとっての何なんだろう。
団長は僕に何を求めているのだろうか?
その時、一際大きい歓声が鳴った。
僕は衝動を押えきれずに見てしまった。
団長がフラフラになりながらも諦めない姿を。
団長とヒル兄様は互いに木剣を振りかざし重なり合い、鍔迫り合いが始まった。団長は踏ん張りがきかずにすぐに弾き返されてしまいそのまま後ろへ体勢を崩した。すぐ様そこにヒル兄様が切り込み団長に木剣が迫る。
僕はハラハラして思わず隠れることも忘れ、叫び出してしまった。
「団長ーーーーー!!!」
その時の立ち位置が丁度団長、ヒル兄様、僕の一直線になっていた為団長は僕をチラ見してニヤリと笑った。
目が…あってしまった……、どうしよ………。
団長は迫り来る木剣をふらりと避けた。
ヒル兄様は容赦なく木剣を振り下ろしており頭に当たってもおかしくないような攻撃の仕方だ。
ヒル兄様は自分で思ったよりも木剣を振り下ろしたスピードが早く遠心力で少しだけ体がふらついた。
それでも団長じゃなかったらつけないだろうと思うほど短い隙だった。その隙に団長は躊躇いなく切り込む。もしいつもの調子だったら、ヒル兄様の体力を削ってから隙を大きくしてそこを狙うという手順を踏んで試合展開をメイキングするだろう。でも今日はそんな余裕もなくむしろ時間が経過すればするほど自分の首を絞めることになる。
早く決着をつけなければならないというプレッシャーからもプレイの不調は出ており、フラフラな重心と焦りから木剣を突いた場所は狙った所とは程遠い場所になってしまい、簡単に避けられる。団長そのまま前のめりに倒れそうになりくるっとターンしたが勢い収まらず尻もちを着いた。
「団長。」
僕は両の手を絡ませ祈るように声に出した。
ヒル兄様は尻もちを着いた団長に容赦なく木剣を突きつけるが華麗な身のこなしで団長は横にくるっと避け手から離れた木剣を回収しヒル兄様から距離を取った。
団長とヒル兄様は互いに睨み合い木剣を構える。
きっと次の一手が勝敗を分ける。
団長がこれでヒル兄様を仕留め切れなかったら負けだ。
そう思うほどに今の団長はボロボロだ。
2人は同時に走り出し接敵する。
団長は木剣を突き出し攻めの構え、一方ヒル兄様はこの攻撃さえ凌ぎきってしまえば勝ちがほぼ確定すると踏んだのか木剣を横に構え守りの構えだ。
団長の突き出した木剣の下にヒル兄様は木剣を滑り込ませ上に弾いた。
団長の気力を振り絞った正真正銘最後の一撃はヒル兄様に綺麗に防がれてしまったのだった。怪我をしていなければ力で推し勝てたのであろう。怪我をしていなければもっと早く決着はつき、団長が勝てたのだろう。
でもそんなのは試合が始まる前から分かっていたことだった。
今更そんなことで負け惜しみしたって仕方がない。
木剣を弾かれた団長はそのまま地面に倒れ込んだ。
僕はなりふり構わずそばに駆け寄った。
その時にはまだ意識はあったが朦朧としており最後にポツリと「ごめん…。」と零し団長は意識を手放した。
何がごめんなんだろう。
団長は最後まで僕の為に闘ってくれた。
それだけでこんなに嬉しいのに、何がごめんなんだろう?
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