娘の代用品にすぎない偽令嬢(男)は、聖女毒殺の罪で兄に焼き殺されて回帰する

人生2929回血迷った人

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第1話

「はぁぁあ、行きたくない」

俺こと、リリアンヌ・ウィンスレットは大きなため息をついた。

今日は俺とその婚約者である皇太子ルシアン、そして聖女セレネの間で定期的に開かれるお茶会の日だった。皇太子と聖女は仲がとても良い。婚約者である俺を差し置いて、恋仲だと周囲に思われているくらいには、距離が近いし、仲が良い。本気なのか、愛人にするつもりなのか……俺としても思うところがないわけではないが、これは考えても仕方がない。俺としても、愛人がいてくれたほうが助かるし。

そして、その割にはルシアンは俺のことをぞんざいに扱うことはなかった。

パーティのパートナーから俺が外されることはなかったし、冷たく当たられることもなかった。

ただ「セレネと定期的にお茶会を開くから、君もそこに参加してほしい」という要求があるだけだった。皇太子なりの気遣いなのか、それとも見せつけたいだけなのか。

俺は頭を横にぶんぶんと振った。

うがった見方をするのはやめよう。自分がそうだから相手もと考えるのはよくない。自分の性格の悪さがにじみ出ている考え方だ。

ルシアンは良い人だ。俺とは比べものにならないほどに……。



「ごきげんよう、リリアンヌ様」
「久しぶりだね、リリアンヌ」

皇太子の私室に入ると、既に2人はいた。

男であっても、幼少期から女として育てられれば、それなりに貴族女性として振る舞えるようになるものだ。

「ごきげんよう、殿下、聖女様」

ドレスをつまみ、片足を後ろに下げる。ひざは折って、視線は床に。カーテシーという目上の人にするお辞儀をするときに女性が行う挨拶の方法だ。

「身体が冷えていないか? 廊下は寒かっただろう」

ルシアンが心配そうな声音で告げる。

「大丈夫ですわ。お気遣い恐れ入ります」

特段優しすぎるわけでもなく、形式的すぎるわけでもない。
そういう態度を自然に取れるのが、この人の良さなのだろう。

「本日もお忙しい中、足を運んでくださってありがとうございます。本日のお茶の当番は、あなたでしたわよね?」

セレネは柔らかく笑いながらも、目だけは値踏みするように細める。

「ええ。持ち回りですから」

そう答えると、ルシアンが茶器のほうへ視線を向ける。

「道具は揃えておいた。温めたカップもあるはずだ」
「ありがとうございます、殿下」

ルシアンはそれ以上何も言わず、ただ視線を元に戻す。
セレネが扇で唇を隠しながら、小さく笑う。

「殿下は本当に心配りがお上手ですわね」
「そう見えるなら何よりだ」

曖昧に返したルシアンは、特に誰のことも見ずに視線をさまよわせた。

ルシアンは、こうして婚約者としての気遣いをよくみせる。
俺以外が婚約者だったとしても、彼はきっと同じような気遣いをする。
特別扱いではないと分かっているのに、胸の奥がかすかに温かくなる自分が面倒だ。

(……こういうところ、好きなんだよな)

そう認めた瞬間、同じ場所が少し痛む。
それ以上考えないように、俺は視線を落とした。

「では、準備をいたしますわね」

テーブル脇に置かれた茶器に歩み寄る。準備されたポットとカップを確認し、俺は持参してきた茶葉を従者からもらう。
このお茶会では、当番の者が自分の好みの茶葉を持ってくる決まりになっている。

それを見ていたセレネが、ちらりと視線を寄越し、微笑んだ。

「まあ、今日はそちらのお茶ですのね? 前のお茶は少し味が強くて、わたくしには合いませんでしたもの。覚えていらして?」
「もちろんですわ。今回は軽めのものをご用意しましたので、ご安心を」
「殿下も穏やかな香りのものの方が、お好きでしたわよね?」

ルシアンはわずかに視線をこちらに向けたが、特に言葉を挟まず、椅子に腰かけたままだ。否定も肯定もしない。
セレネの言葉は、嫌味とも牽制とも取れる言葉だったが、俺も気にせずに茶葉をポットに入れ、お湯を注ぐ準備を進める。

湯気を立てる湯をポットに注ぎ、茶葉を沈める。
香りはすぐに立ちのぼり、湯気とともに空気中へ溶け込んだ。

俺はタイミングを見計らい、ポットを傾ける。
まず皇太子のカップへ。次に聖女。最後に自分。

「いつもながら手際が良いですわね。メイドより淹れ慣れているのではなくて?」

セレネが扇を軽く打ちながら微笑む。
声色は柔らかいが、舌先には明らかな棘が潜んでいる。

「お褒めにあずかり光栄ですわ」

必要最低限の笑みを返し、2人と自分の前にそっとカップを配膳する。
俺が座るのを見たルシアンが、小さく言う。

「いただこうか」

ルシアンは、ひと呼吸だけ間をおいてからカップを取る。
セレネはわずかに顎を引き、俺を一瞥してから紅茶に手を伸ばした。

俺はカップに視線を落とす。紅茶の表面には、部屋の灯りが揺れて映っていた。
いつもどおり──少なくともその瞬間まではそうだった。
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