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弐
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「僕と結婚してくれ。」
10年前、一輪の花を持って何度も僕の家に訪れて、告白をしてきたのはクリス王子だった。
「一目惚れなんだ!一生大事にするから!」
告白され続け、段々と王子の気持ちに応えたいと思うようになり気づけば幼いながらも好きという気持ちが心に芽生えていた。
まず僕が最初にクリス王子と結婚したいと相談したのは母だった。しかし現実は世知辛く、αである僕では無理だと諭された。
次にやってきたクリス王子に僕はαだから結婚できないらしいと告げるとこんなに可愛いアルトがΩじゃないわけない、嘘を言うなと怒った。
僕だって出来ることなら結婚したいと言いたい。何も考えず自分がΩだと言い張って王子の告白に応えたい。そんなことを悶々と考えていたある日、僕の元に王妃様が訪れた。
「貴方はクリスのことが好きなのかしら?」
僕はその頃には彼のことが大好きになっていて、どうやったら告白を断れるかではなく、どうやったら彼の隣に居られるかを考えていた。
「はい、僕がαだから無理だというのは分かっています。でも、諦めきれません。」
「そう、ならこちらの条件を呑んでくれればそれを叶えてあげるって言ったら?」
今思えば、王妃様は僕に対する情けとか息子の想いを叶えてあげようだとかそんな甘いことを考えてこの提案をしていたのではなく、政治的な交渉によるものだった。
だから彼女はなるべく僕からいい条件を引き出そうと真剣な目をしていたのだった。当時子供だった僕にはそんなこと微塵も分からなかったず、ただ純粋に結婚を許して貰えたことが嬉しくて喜んでいた。
ここから地獄の始まりだなんてことは知らずに……。
条件というのは聖女になること。聖女であることを口外しないこと。Ωとして振る舞うこと。この三つだった。
聖女になるのは簡単だった。王姉殿下から聖女の役目を引き継ぐだけだったから。継承の呪文を唱えれば完了だった。
まだ30代で辛そうに寝たきりだった王姉殿下は引き継ぎを終えるとたちまち回復したが、反対に僕はその場で倒れてしまった。
次に目覚めた時、王妃様と王姉殿下に聖女について色々と話された。
聖女の存在意義は大きく2つある。
一つ目は大陸全土に存在する脅威、魔物の数を減少させること。二つ目はこの痩せた土地を肥沃な土地に変換すること。
魔物の発生数はその土地の邪気を体内に取り込み浄化させると減少させることが出来、土地は一日一回祈りを膨大な魔力と共に捧げることで豊かにできる。
だから聖女には高い聖女適性と膨大な魔力保持量、そして健康な身体と大人の精神が必要だった。王姉殿下は20代前半から十数年間聖女をこなし、女性のβであまり魔力保持量があまり多くなかった彼女の身体は限界を迎えていた。
そこで代わりを探していたところ僕が見つかったらしい。子供だが適性は高く、魔力保持量もとてつもなく多い。そして男のαで身体が頑丈。
僕はそんな事情があって7歳にして聖女になった。そして王子との婚約も無事執り行われた。
身体も未発達で魔力保持量もまだそんなに多くなかった7歳から10歳は身体的に辛かった。家に寝たきりでご飯が喉を通らないことも吐き気を催すことも多々あった。クリス王子や王姉殿下が見舞いによくやって来てくれた。自分の重荷をこんな幼い子供に背負わせてしまったことを後悔した王姉殿下は「ごめん!ごめんね!」とほぼ毎日僕に謝ってくれていた。
身体はあまり成長せず、Ωだと周りを騙すのに無理のない身体付きになった僕は10歳頃から身体的な苦痛は余り感じなくなってきた。しかし、頭痛や吐き気は収まらず、精神的に不安定になってくる思春期を目前に僕の性格はガラッと変わってしまった。
毎日イライラか止まらず僕は荒れた。最初は少し言葉がキツくなることがあったり、楽しいと思っても上手く感情が表に出ないことが増えたりするだけだった。しかし王子がそんな僕に段々と愛想を尽かしていることに気づいた時から不安定な感情が爆発してしまった。
部屋にある物を意図的に壊したり、使用人を罵ったり。13歳から入学する貴族の学園では周りに嫌味を言ったりで孤立していった。それでも手だけは出さないように頑張って自制をしていた。
しかし、戦争により増える自国の土地。それらによって僕の負担はさらに増えていった。聖女は現聖女が死ぬか、10年以上働いて継承の呪文を覚えることによって他の人に引き継ぎが出来るが、もう既に王姉殿下に聖女の役目を戻しても務まらないであろう程に。
本来の感覚なら入学時の13歳で精神が安定しそうだったはずなのに普通に生活出来るようになるまで15歳までかかってしまった。
しかし、15歳で元の良好な精神状態に戻ったのは不幸なのかもしれなかった。
ある日、朝起きてイライラが無くなり今までのように切羽詰まった精神状態じゃ無くなったからこそ周りが見えてしまう……自分を嫌いだという目が。
僕の元に戻ってきてくれたのは僕の辛さを理解してくれた王姉殿下だけだった。
僕の学園生活は孤独だった。
10年前、一輪の花を持って何度も僕の家に訪れて、告白をしてきたのはクリス王子だった。
「一目惚れなんだ!一生大事にするから!」
告白され続け、段々と王子の気持ちに応えたいと思うようになり気づけば幼いながらも好きという気持ちが心に芽生えていた。
まず僕が最初にクリス王子と結婚したいと相談したのは母だった。しかし現実は世知辛く、αである僕では無理だと諭された。
次にやってきたクリス王子に僕はαだから結婚できないらしいと告げるとこんなに可愛いアルトがΩじゃないわけない、嘘を言うなと怒った。
僕だって出来ることなら結婚したいと言いたい。何も考えず自分がΩだと言い張って王子の告白に応えたい。そんなことを悶々と考えていたある日、僕の元に王妃様が訪れた。
「貴方はクリスのことが好きなのかしら?」
僕はその頃には彼のことが大好きになっていて、どうやったら告白を断れるかではなく、どうやったら彼の隣に居られるかを考えていた。
「はい、僕がαだから無理だというのは分かっています。でも、諦めきれません。」
「そう、ならこちらの条件を呑んでくれればそれを叶えてあげるって言ったら?」
今思えば、王妃様は僕に対する情けとか息子の想いを叶えてあげようだとかそんな甘いことを考えてこの提案をしていたのではなく、政治的な交渉によるものだった。
だから彼女はなるべく僕からいい条件を引き出そうと真剣な目をしていたのだった。当時子供だった僕にはそんなこと微塵も分からなかったず、ただ純粋に結婚を許して貰えたことが嬉しくて喜んでいた。
ここから地獄の始まりだなんてことは知らずに……。
条件というのは聖女になること。聖女であることを口外しないこと。Ωとして振る舞うこと。この三つだった。
聖女になるのは簡単だった。王姉殿下から聖女の役目を引き継ぐだけだったから。継承の呪文を唱えれば完了だった。
まだ30代で辛そうに寝たきりだった王姉殿下は引き継ぎを終えるとたちまち回復したが、反対に僕はその場で倒れてしまった。
次に目覚めた時、王妃様と王姉殿下に聖女について色々と話された。
聖女の存在意義は大きく2つある。
一つ目は大陸全土に存在する脅威、魔物の数を減少させること。二つ目はこの痩せた土地を肥沃な土地に変換すること。
魔物の発生数はその土地の邪気を体内に取り込み浄化させると減少させることが出来、土地は一日一回祈りを膨大な魔力と共に捧げることで豊かにできる。
だから聖女には高い聖女適性と膨大な魔力保持量、そして健康な身体と大人の精神が必要だった。王姉殿下は20代前半から十数年間聖女をこなし、女性のβであまり魔力保持量があまり多くなかった彼女の身体は限界を迎えていた。
そこで代わりを探していたところ僕が見つかったらしい。子供だが適性は高く、魔力保持量もとてつもなく多い。そして男のαで身体が頑丈。
僕はそんな事情があって7歳にして聖女になった。そして王子との婚約も無事執り行われた。
身体も未発達で魔力保持量もまだそんなに多くなかった7歳から10歳は身体的に辛かった。家に寝たきりでご飯が喉を通らないことも吐き気を催すことも多々あった。クリス王子や王姉殿下が見舞いによくやって来てくれた。自分の重荷をこんな幼い子供に背負わせてしまったことを後悔した王姉殿下は「ごめん!ごめんね!」とほぼ毎日僕に謝ってくれていた。
身体はあまり成長せず、Ωだと周りを騙すのに無理のない身体付きになった僕は10歳頃から身体的な苦痛は余り感じなくなってきた。しかし、頭痛や吐き気は収まらず、精神的に不安定になってくる思春期を目前に僕の性格はガラッと変わってしまった。
毎日イライラか止まらず僕は荒れた。最初は少し言葉がキツくなることがあったり、楽しいと思っても上手く感情が表に出ないことが増えたりするだけだった。しかし王子がそんな僕に段々と愛想を尽かしていることに気づいた時から不安定な感情が爆発してしまった。
部屋にある物を意図的に壊したり、使用人を罵ったり。13歳から入学する貴族の学園では周りに嫌味を言ったりで孤立していった。それでも手だけは出さないように頑張って自制をしていた。
しかし、戦争により増える自国の土地。それらによって僕の負担はさらに増えていった。聖女は現聖女が死ぬか、10年以上働いて継承の呪文を覚えることによって他の人に引き継ぎが出来るが、もう既に王姉殿下に聖女の役目を戻しても務まらないであろう程に。
本来の感覚なら入学時の13歳で精神が安定しそうだったはずなのに普通に生活出来るようになるまで15歳までかかってしまった。
しかし、15歳で元の良好な精神状態に戻ったのは不幸なのかもしれなかった。
ある日、朝起きてイライラが無くなり今までのように切羽詰まった精神状態じゃ無くなったからこそ周りが見えてしまう……自分を嫌いだという目が。
僕の元に戻ってきてくれたのは僕の辛さを理解してくれた王姉殿下だけだった。
僕の学園生活は孤独だった。
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