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第1話
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ーー都心のテレビ局。
広いガラス張りの打合せ室には、大手制作スタッフと事務所関係者がずらりと並んでいた。
Re:verbという弱小男性アイドルグループ所属である清水 澄音は、椅子の端にそっと腰を下ろし、膝の上で手を組んでいた。
(ここにいていいんだよね、俺……)
低予算ドラマにしか出演したことのない澄音は、錚々たるスタッフ陣を見て緊張していた。
「常盤怜夜さん入りまーす!」
ガチャリと扉が開き、黒のコートを羽織った長身の男が現れる。一瞥しただけで周りを黙らせる冷たい視線と威圧感。
ーー常盤怜夜。
若くして主演作を次々に成功へ導き、「日本で最もスクリーンに愛された男」と称される実力派俳優。国内俳優人気ランキングでは常に1位を維持し、出演が発表された瞬間に作品の期待値を押し上げる「数字を持っている」男。まさに業界の頂点に立つスターである。
澄音もテレビで何度も見かけたことがあり、役者の仕事も少しずつ依頼されるようになった最近では、憧れの存在でもある。そんな人と共演できるなんて嬉しい限りだ。しかも、今回は澄音と彼のW主演だ。
「お疲れ様です」
スタッフが次々に頭を下げるのを見て、澄音も頭を下げる。
そんな中、怜夜は軽く顎を引く程度で応じ、そのまま席へと歩み出す。椅子に腰を落とし、視線をゆっくりと巡らせた。
そこで、澄音と目が合う。怜夜の眉がぴくりと動き、その瞳から一瞬で温度が失われる。
「……は?」
その凍り付いた声に、隣のADが肩を跳ねさせた。澄音は反射的に背筋を伸ばす。プロデューサーが慌てて口を開く。
「怜夜さん!こちら、W主演の——」
「聞いてない」
食い気味に言い放ち、怜夜はテーブルに置かれた分厚い台本を指先で冷ややかに弾いた。
「アイドル? しかも俺とのW主演? 冗談だよな?」
プロデューサーは慌てて、口を開く。
「澄音くんは歌だけじゃなく、演技にも伸びしろがあると評価されてまして……」
「はあ? アイドルは歌って踊ってりゃいいんだよ。なんで芝居の世界まで踏み込んでくる? 暇なのか?」
あまりにも直接的な侮蔑に、澄音は息を飲む。怜夜の声は淡々としているのに、首を刎ねられるような鋭さだった。
「こっちは人生懸けてんだ。お遊戯の延長で来られて、迷惑してんだよ」
「ですが、今回は怜夜さんの演技と澄音くんの歌が物語の核に──」
「そんなの知るか。歌しか取り柄のない半端者と並べて、俺の格を落とすな」
澄音の指先が震える。スタッフたちの視線が刺さる。声を出せば泣きそうで、唇を噛んだ。
(初対面の人になぜここまで侮辱されくちゃいけないんだ……)
そう思っても到底口に出すことは出来なかった。
怜夜はため息すらもったいないというように視線を外し、台本を再び乱暴に指で弾く。
「中途半端な奴は要らねぇんだよ」
プロデューサーが「中途半端だなんて──」と声を上げかけた瞬間。
怜夜は、台本を放り投げた。
「白紙に戻せ」
一瞬で沈黙が落ちる。怜夜は言葉を続ける。
「俺はこのドラマ、降りる」
誰かの喉が鳴る音が聞こえた。澄音は反射的に立ち上がりかけて、椅子の脚がわずかに床を擦った。その音だけが、無様に室内に響く。怜夜は冷たい瞳で澄音を射抜く。
「芸能界なめんなよ、清水 澄音」
そして、澄音の名前を言い捨てて扉から出て行った。
広いガラス張りの打合せ室には、大手制作スタッフと事務所関係者がずらりと並んでいた。
Re:verbという弱小男性アイドルグループ所属である清水 澄音は、椅子の端にそっと腰を下ろし、膝の上で手を組んでいた。
(ここにいていいんだよね、俺……)
低予算ドラマにしか出演したことのない澄音は、錚々たるスタッフ陣を見て緊張していた。
「常盤怜夜さん入りまーす!」
ガチャリと扉が開き、黒のコートを羽織った長身の男が現れる。一瞥しただけで周りを黙らせる冷たい視線と威圧感。
ーー常盤怜夜。
若くして主演作を次々に成功へ導き、「日本で最もスクリーンに愛された男」と称される実力派俳優。国内俳優人気ランキングでは常に1位を維持し、出演が発表された瞬間に作品の期待値を押し上げる「数字を持っている」男。まさに業界の頂点に立つスターである。
澄音もテレビで何度も見かけたことがあり、役者の仕事も少しずつ依頼されるようになった最近では、憧れの存在でもある。そんな人と共演できるなんて嬉しい限りだ。しかも、今回は澄音と彼のW主演だ。
「お疲れ様です」
スタッフが次々に頭を下げるのを見て、澄音も頭を下げる。
そんな中、怜夜は軽く顎を引く程度で応じ、そのまま席へと歩み出す。椅子に腰を落とし、視線をゆっくりと巡らせた。
そこで、澄音と目が合う。怜夜の眉がぴくりと動き、その瞳から一瞬で温度が失われる。
「……は?」
その凍り付いた声に、隣のADが肩を跳ねさせた。澄音は反射的に背筋を伸ばす。プロデューサーが慌てて口を開く。
「怜夜さん!こちら、W主演の——」
「聞いてない」
食い気味に言い放ち、怜夜はテーブルに置かれた分厚い台本を指先で冷ややかに弾いた。
「アイドル? しかも俺とのW主演? 冗談だよな?」
プロデューサーは慌てて、口を開く。
「澄音くんは歌だけじゃなく、演技にも伸びしろがあると評価されてまして……」
「はあ? アイドルは歌って踊ってりゃいいんだよ。なんで芝居の世界まで踏み込んでくる? 暇なのか?」
あまりにも直接的な侮蔑に、澄音は息を飲む。怜夜の声は淡々としているのに、首を刎ねられるような鋭さだった。
「こっちは人生懸けてんだ。お遊戯の延長で来られて、迷惑してんだよ」
「ですが、今回は怜夜さんの演技と澄音くんの歌が物語の核に──」
「そんなの知るか。歌しか取り柄のない半端者と並べて、俺の格を落とすな」
澄音の指先が震える。スタッフたちの視線が刺さる。声を出せば泣きそうで、唇を噛んだ。
(初対面の人になぜここまで侮辱されくちゃいけないんだ……)
そう思っても到底口に出すことは出来なかった。
怜夜はため息すらもったいないというように視線を外し、台本を再び乱暴に指で弾く。
「中途半端な奴は要らねぇんだよ」
プロデューサーが「中途半端だなんて──」と声を上げかけた瞬間。
怜夜は、台本を放り投げた。
「白紙に戻せ」
一瞬で沈黙が落ちる。怜夜は言葉を続ける。
「俺はこのドラマ、降りる」
誰かの喉が鳴る音が聞こえた。澄音は反射的に立ち上がりかけて、椅子の脚がわずかに床を擦った。その音だけが、無様に室内に響く。怜夜は冷たい瞳で澄音を射抜く。
「芸能界なめんなよ、清水 澄音」
そして、澄音の名前を言い捨てて扉から出て行った。
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