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第5章

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「紹介しよう、俺の友人のセルゲイだ」

「ようこそ、我がラボへ。まぁ、適当にその辺に座ってくれ」

 あの後、俺とリンはケイの友人のラボに招待された。
 何でも、このセルゲイという男は能力チート能力者チーターに関する研究の第一人者らしい。

「来るなら先に連絡ぐらいしておくれよ。客人がいるなら尚更じゃ」

「悪かったよ。でも、お前が会いたがってた奴を連れてきたぜ? そこの、白髪の姉ちゃん。彼女はリン・カゲトリだ」

「ほうほう・・・・・・。君があのJ-26地区を壊滅させた怪物か・・・・・・。あれは恐らく、能力チートを2つ持ったことによる暴走によるものだと思っていたが、そこから人間の姿に戻っているとはのぉ・・・・・・。これは、かなり貴重なサンプルになる」

 セルゲイは独り言の様にそう言いながら、リンの全身を舐め回す様に見た。見られている本人は何処となく、不愉快そうな顔をしている。

「会えて光栄じゃよ、リン・カゲトリ」

「アタシはアンタの研究に協力するつもりはないけど? 」

「リコ・マンジュの遺体を保管していると言ってもか? 」

「え・・・・・・? 」

 リコは彼女の死んだ相方だ。どうやら、俺らとの戦闘で死んだ後、この施設に身柄を回収されたらしい。

「魔臓による身体の変化を調べる為のサンプルとして一応回収しておいたのじゃよ。まぁ、大したことは分からなかったがのぉ」

「リコが・・・・・・、リコが此処にいるの!? 」

「ラボのサンプル保管用の冷凍室で大切に保管しとるよ。仏様だし、丁重に扱わんとな」

「良かった・・・・・・」

 リンは胸を撫で下ろすように言った。既に亡くなっているとは言え、彼女にとっては大事な相方だ。出来れば自分の手で供養したいところだろう。

「ワシの研究に協力してくれるのなら、彼女の遺体は君に託そう。もしかしたら、君の身体を研究することで、能力チートの謎がまた1つ解明できるかも知れぬ」

「あと、国防軍に入ることも条件に加えてもらう。彼女はかなりの戦力になる筈だ」

 横から図々しくケイが条件を付け足してきた。

 コイツら2人に言えることだが、人の死体で取引するとか、倫理観というものが無いのか?

「国防軍・・・・・・」

「交戦的なお前にとってはおあつらえ向きの仕事だろう。まぁ、良く考えるんだな」

 ケイがそう言ったところで、ヴェラが携帯電話を片手にラボに入ってきた。

「ケイ。司令官から連絡があった。例のガスマスクの男が生きていたって! 」

「何だと・・・・・・? それで、どうなった? 」

「逃走した。今、捜索中だってさ」

 例の偽破壊者ドデカフォニーの男のことだろう。やはり、奴は不死身なのかも知れない。

 回復系と再生系の能力チートは似ているが別物である。
 回復系は使用者の力量によって効果が左右される上に、あまりにも酷いダメージは基本的に回復しきることが出来ない。
 しかし、再生系はどんなダメージを受けても身体を再生出来る。許容できるダメージにも制限が無く、まさにこの世のバグの様な力である。

 とすると、トラックで潰されても生きていた奴は回復系ではなく、再生系なのかもしれない。

「こりゃ厄介なことになったな。また、お前を狙ってくるかも知れんぞ? 」

「マジかぁ・・・・・・」

 また、襲ってきたとして、あんな、バケモンどうやって対処すれば良いんだよ。電気は効かないし、不死身だし・・・・・・。やっぱり無敵じゃないか。

「それともう1つ。アメリカで厄介な能力者チーターが暴れ回っているってさ。そっちもどうにかしろって・・・・・・」

「まったく・・・・・・。本当に人使いの荒い奴だな、リュドミラめ・・・・・・。お前は先に1人でアメリカに渡れ。俺は後から合流する」

「1人で行けって・・・・・・。何するつもり? 」

「俺はコイツを一旦、アバシリまで送る。もしかしたら、道中例の男も出てくるかも知れない」

「分かったわ。それじゃあ、後でね」

 ヴェラはそう言って、ラボを出て行った。リンはそんな彼女をうっとりと眺めている。

「あの子・・・・・・、結構タイプかも・・・・・・」

「何言ってんだお前は・・・・・・。それにしても、随分と明るくなったな・・・・・・。彼女・・・・・・」

「ああ・・・・・・。というか、本来はああいう性格だったんだろうよ。教団にいた時はアントンの言いつけで、破壊者ドデカフォニーを演じていただけだ。彼女も今は国防軍に入り、俺の下で仕事をしている。なんでも、父を死に追いやった俺と、教団を陰から操っていた神を名乗る奴をぶっ殺してやりたいらしい」

「復讐する為にアンタの下に着いたのか・・・・・・。誰かさんと似た様なもんだな」

「うっせ」

 リンは顔を顰め、拗ねた様に言った。

「それより、アバシリに送るって・・・・・・」

「アバシリにお前の彼女・・・・・・、いや元カノがいるんだろ? 」

「言い直さなくて良いよ・・・・・・」

「折角だし、送ってやるよ。アメリカへは近くの基地から飛行機をかっぱらって行くさ」

「ありがとう・・・・・・! 恩にきるよ! 」

「しかし・・・・・・、あの街に本当に彼女が居るのか? あそこには人が住める環境じゃないぜ? 」

「まぁ、でも行ってみないと・・・・・・」

「そうか・・・・・・。まぁ良い。出発は明日の朝だ。ホテル予約してあるから、今夜はそこでゆっくり休んどけ」

 ケイはそう言うと、ラボのキッチンの換気扇をつけて煙草を吸おうとした。

「おいおい。禁煙じゃって」

「良いだろ、一本ぐらい」

「ったく・・・・・・。ところで、君は如何して魔臓を取り込む様な真似をしたんじゃ? 魔臓を新たに取り込もうとすると、発狂して死ぬってのは周知の事実だった筈じゃが? 」

 セルゲイはリンに問いかけた。研究者としては特異な存在である彼女に興味が尽きないのだろう。

「それが・・・・・・。良く覚えてないんだけど、何となく、魔臓に取り込めって言われてる気がして無意識に・・・・・・」

「成る程・・・・・・、魔臓の生存本能かの・・・・・・。宿主が死ねば、魔臓も死ぬ・・・・・・。生き残る為に、新たな宿主を求めていたのかも知れんのぉ」

 セルゲイはブツブツと1人で考察を始める。

 宿主とはどう言うことだ? その言い方だと・・・・・・。

「まるで、魔臓が1つの生命体みたいな言い方じゃんか」

「そう、まさに魔臓は独立した1つの生命体なんじゃよ」

「え・・・・・・? 」

「最近判明したことなんじゃが、魔臓の正体は人間に取り憑く寄生生物。第4次大戦以降に生まれた新生児の大半には既に魔臓が寄生しており、それが何かの拍子に肥大化すると宿主は能力者チーターとして覚醒するのじゃ」

「第4次大戦以降って・・・・・・。それ以前には確認できなかったのか? 」

「そうじゃ。魔臓は突如として人類の歴史に姿を現した特異な存在なのじゃ。まるで、異世界から飛んできたみたいに・・・・・・」

「異世界って・・・・・・」

「異世界の産物と言われた方がまだ納得できる。何せ、魔臓の身体はこの世界には無い物質で構成されている。そして、能力者チーターとなった人間が引き起こす摩訶不思議な現象の原理も、現代の科学力では解明できない・・・・・・」

「気にするな。異世界がどうのこうのは、コイツの何時もの妄言だ。この地球上に突然なんの脈絡も無く現れたものなんてのは幾らでもある」

 ケイはセルゲイの説明を横から割って入って止めた。自分も彼が何を言っているのか良くわからなくなって来てたので丁度よかった。

「・・・・・・まぁ、兎に角! 君の能力チートは多くの人々を救う可能性がある。どうか、ワシらに力を貸して欲しい」

 セルゲイはリンに頭を下げて頼み込んだ。
 彼が下手に出ているのが余程珍しいのか、ケイは驚いた様子でその光景を見ている。

「まぁ・・・・・・、考えとくわ・・・・・・」

「本当か!? ありがいのぉ・・・・・・! 」

「・・・・・・よし、それじゃあ国防軍への入隊祝いも兼ねて、俺の奢りでジンギスカンでも食いに行くか」

「ちょっと! まだ、やるって決まってわけじゃ・・・・・・」

 ケイは意地でも彼女を国防軍に入れたいらしい。しかし、当の本人は満更でもなさそうであった。
 













 

 

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