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赤羽葉月-Hazuki Akaba-
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赤羽葉月は、今日も一人自室に篭っていた。
部屋から出ることも、自分の殻から出ることもなく、ただ膝を抱えて座っていた。
赤羽は何不自由ない生活を送ることができるはずだった。
赤羽には優しい両親も、それなりに話せる友人もいる。しかし赤羽は、それらのどれを信じることもできなかった。
赤羽の両親は、本当の両親ではない。
赤羽は生後まもなく実の両親に捨てられ、児童保護施設で育てられた。
それから三年が経ち、不妊に悩んでいた現在の両親が赤羽を引き取ることになったのである。
両親は、赤羽にとても親切であった。当時四歳になろうとしていた赤羽は、愛に飢えていたが、里親である両親に悪意がないことはわかっていた。
その後、赤羽は無事成長し、小学校に通うようになった。するとどこから知られたのか、「捨てられた子だ」と言われ赤羽は虐められた。
この頃の子供の善悪というのは実に単純なもので、自分と異なる者はおかしい、といった偏見をもつ者が多いのだろう。虐めていた子にとって、両親と血縁関係がないという現実は考え難いものだった。だから赤羽は虐められた。たったそれだけの理由にすぎない。
赤羽の担任は、赤羽を助けてくれた。
しかし赤羽には、その善意さえ偽善のように感じられてならなかった。
中学に上がると、赤羽は虐められることがなくなった。両親が虐めの件を知り、引っ越しを決めたからである。
そのため赤羽は、違う街の学校へと通うことになった。
そこでは話せる友人もでき、ごく普通でありきたりな、それでいて安定した生活を送ることができた。
だが、赤羽はその生活に不満を抱いていた。全くと言っていい程人間に興味がない赤羽にとっては、その安定した生活でさえつまらないものだった。
不満を抱きつつも中学を卒業した赤羽は、偏差値が平均よりも少し高い程度の高校に進学した。赤羽は頭が悪い訳ではなかったが、何せ何にも惹かれることがない。興味のないことはすぐに忘れたため、公式も教師の顔も、教室でよく話した友人の名前でさえも、二日もすれば忘れていた。
そして高校に入学して一年、何事もなく過ぎたはずだったのだが、赤羽は突然学校に行かなくなった。
原因は誰にもわからない。いや、原因などなかったのかもしれない。
とにかく、部屋に閉じ篭り誰とも顔を合わせようとしなかった。
赤羽の担任である女教師は言う。
「赤羽さん、なぜ来なくなってしまったのでしょう?ご両親は良さそうな人でしたし、学校でも仲の良いお友達が何人もいて、何か原因があるとは思えないのですが…。どうして心を閉ざしてしまったのでしょうか」と。
しかし、女教師は間違っている。赤羽は心を閉ざした訳ではない。もともと、誰にも心を開いてなどいなかったのである。
赤羽が学校に行かなくなり三ヶ月が過ぎようとしている。
赤羽は遂に、自ら命を絶つことを決めた。
「よく、この歳まで生きてたな。私は産まれたときから要らない存在だったのに。でも、それも今日で終わりか。次に産まれるときは、もっとマシな人間に生まれたいな」
それは、赤羽が三ヶ月ぶりに発した、心にもない言葉だった。
結局赤羽は命を絶ったのだが、赤羽はそのとき最初で最後の大きな過ちを犯してしまったのである。赤羽は、自分の物語を放棄してしまったのだ。
これは余談だが、赤羽は生まれ変わりをずっと信じていた。しかし赤羽の信じた生まれ変わりは、間違っていた。生まれ変われば、今とは全く違う、別の人間になれると思っていた。
実際はそうではない。生まれ変わってもまた、自分の人生を創り続けるしかないのである。
つまり、物語が終わることは永遠にないのである。
部屋から出ることも、自分の殻から出ることもなく、ただ膝を抱えて座っていた。
赤羽は何不自由ない生活を送ることができるはずだった。
赤羽には優しい両親も、それなりに話せる友人もいる。しかし赤羽は、それらのどれを信じることもできなかった。
赤羽の両親は、本当の両親ではない。
赤羽は生後まもなく実の両親に捨てられ、児童保護施設で育てられた。
それから三年が経ち、不妊に悩んでいた現在の両親が赤羽を引き取ることになったのである。
両親は、赤羽にとても親切であった。当時四歳になろうとしていた赤羽は、愛に飢えていたが、里親である両親に悪意がないことはわかっていた。
その後、赤羽は無事成長し、小学校に通うようになった。するとどこから知られたのか、「捨てられた子だ」と言われ赤羽は虐められた。
この頃の子供の善悪というのは実に単純なもので、自分と異なる者はおかしい、といった偏見をもつ者が多いのだろう。虐めていた子にとって、両親と血縁関係がないという現実は考え難いものだった。だから赤羽は虐められた。たったそれだけの理由にすぎない。
赤羽の担任は、赤羽を助けてくれた。
しかし赤羽には、その善意さえ偽善のように感じられてならなかった。
中学に上がると、赤羽は虐められることがなくなった。両親が虐めの件を知り、引っ越しを決めたからである。
そのため赤羽は、違う街の学校へと通うことになった。
そこでは話せる友人もでき、ごく普通でありきたりな、それでいて安定した生活を送ることができた。
だが、赤羽はその生活に不満を抱いていた。全くと言っていい程人間に興味がない赤羽にとっては、その安定した生活でさえつまらないものだった。
不満を抱きつつも中学を卒業した赤羽は、偏差値が平均よりも少し高い程度の高校に進学した。赤羽は頭が悪い訳ではなかったが、何せ何にも惹かれることがない。興味のないことはすぐに忘れたため、公式も教師の顔も、教室でよく話した友人の名前でさえも、二日もすれば忘れていた。
そして高校に入学して一年、何事もなく過ぎたはずだったのだが、赤羽は突然学校に行かなくなった。
原因は誰にもわからない。いや、原因などなかったのかもしれない。
とにかく、部屋に閉じ篭り誰とも顔を合わせようとしなかった。
赤羽の担任である女教師は言う。
「赤羽さん、なぜ来なくなってしまったのでしょう?ご両親は良さそうな人でしたし、学校でも仲の良いお友達が何人もいて、何か原因があるとは思えないのですが…。どうして心を閉ざしてしまったのでしょうか」と。
しかし、女教師は間違っている。赤羽は心を閉ざした訳ではない。もともと、誰にも心を開いてなどいなかったのである。
赤羽が学校に行かなくなり三ヶ月が過ぎようとしている。
赤羽は遂に、自ら命を絶つことを決めた。
「よく、この歳まで生きてたな。私は産まれたときから要らない存在だったのに。でも、それも今日で終わりか。次に産まれるときは、もっとマシな人間に生まれたいな」
それは、赤羽が三ヶ月ぶりに発した、心にもない言葉だった。
結局赤羽は命を絶ったのだが、赤羽はそのとき最初で最後の大きな過ちを犯してしまったのである。赤羽は、自分の物語を放棄してしまったのだ。
これは余談だが、赤羽は生まれ変わりをずっと信じていた。しかし赤羽の信じた生まれ変わりは、間違っていた。生まれ変われば、今とは全く違う、別の人間になれると思っていた。
実際はそうではない。生まれ変わってもまた、自分の人生を創り続けるしかないのである。
つまり、物語が終わることは永遠にないのである。
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