クリノクロアの箱庭

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第百六十二話 箱庭

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「女神様、おはようございます」
「おはようございます。今日もいい天気ですね」
「そんな事より、今朝ね、この村に不審者がでたのよ」
「ええ?!ふ、不審者ですか?」

ま、まずい。今朝のリンの事だ。

「朝鶏の卵を取りに出たら、ウチの前に見たことが無い男が居てね。声をかけようと思ったら女神様の家の方に逃げてったのよ。背は小さかったけど、あれは変質者よ。ウチに可愛い娘がいるからって、洗濯物を盗もうとしたんじゃないかしら」

お宅の娘さんはまだ5歳くらいですよね。
いやいや、年齢関係なく僕はそんな事しませんよ。

「見間違いじゃないでしょうかね。この村にはそんな変質者なんて人はいませんから」
「でも、あの後ろ姿は変態っぽかったわよ。外からしのびこんだのかもしれないわよ?」

「この村は、外部から忍び込んだら、防衛システムが働いて捕まえてくれますから、そんな人は入り込んで居ないですよ?」
「あら、そう?女神様が言うんなら、そうなのかしらねぇ」
「あら奥さんどうなさったの?」
「それがね!今朝変質者が出たのよ!」
「まあ、大変!」

さっき、違うって納得してくれたんじゃないの?!
また、話しがもどっちゃってるよ?

これは早めになんとかしないと、リンの立場が悪くなる。

「あの、皆さん、実は……」
「あら?この管はなにかしらね」
「あらほんと、これは女神様が何かしてくださったの?」
「あ、はい。そうなんです。これをしてくれたのが、その……」
「これもしかして、昨日話していた水道?こっちはマナ線かしら?まあ、さすが女神様は仕事が早いわ~」
「さすがよね。働き者の女神様!もう、ほんとに自慢の女神様よ~」

くっ。打ち明けづらい。
後で、村人全員にリンを紹介して、変質者でも何でもないと言うのをしっかりと分かってもらわないとだ。

「そう言えば、この村には、夜中に妖精が現れるって噂があるのよ」
「そうそう、昨日も出たみたいよ?夜の村を徘徊して、一人でブツブツ独り言を言ってるんですって」

ひどい噂だな。
それは妖精じゃなくて、ただの怪しい人だよ。
変質者といい、独り言妖精といい、どちらも僕がこっそり行動していたせいだな。
早く何とか手を打たないと、どんどんひどい噂が広まりそうだ。

ひとまず、噂を広めそうなこのお二人の女性には、見間違いだと強引に説得して、これ以上噂を広めないようにお願いした。



「女神様!女神様!あの南門から変な音が聞こえてくるんですよ!あれなんでしょうかね?」
「変な音?ですか」

南にある門、というか、ただの木で出来た扉なんだけど、その近くまで来ると確かに、がこんがこん、と音がしている。
外に何か居るのかな?
それか、外の木が倒れて門に寄りかかっているとか。

がこんがこん、と言う音が、がりがりがり~と引っ掻いた音に変わる。
門というよりはその横の壁から音がする。
しかも何箇所からも、がりがりがり~、がりがりがり~と続けてするようになってきた。

何これ、怖いな。

そして、遂には、がりがりがりがっ、と上まで音が届き、外壁の上から獣の顔がこちらを覗いていた。

「なっ!?よじ登っていたのか!」

その獣の顔はジタバタともがいて、外壁を登りきってしまった。
そして、壁のこちら側に降り立ってしまう。
誰か一匹でも成功すると、あれならできると分かるのか、一気に何匹も壁を超えて、村の敷地内に入り込んできた。

「きゃあああ!魔物!」
「うわああ!入ってきた~」

村の中に入ってきたのは蒼鉛ミノタウルスだった。
全身銀色の二足歩行の牛の魔物だ。
両手は手の部分が斧の形になっている。
これで、どうやって食事とかしてるんだろうか。

この村を防衛しているシルフが全機集まってくる。
それだけの脅威だと判定されたらしい。
シルフが一斉に魔法攻撃をする。
熱によって体表が溶け始めるけど、流れ落ちる金属製の毛の内側からもう新しい銀色の毛が生えてきている。

どんなに深い傷を負わせたとしても、すぐにその下から新しい毛や皮膚が再生するので、さっきからダメージを与えられているように見えない。

その内にミノタウルスの腕についている斧を一振りするだけで、シルフが一度に何機も壊されてしまう。
半端ない力持ちのようだ。

瞬く間に半数のシルフが壊されてしまった。

ボクもリボン剣を出して応戦する。
でも、剣が毛に阻まれて通らない。



「緊急事態だから、僕が出るよ」

リンの方では、家の中にいる家族に声をかけて外に出る。
いくら村人に会うのは禁止とは言っても、命の危険とは比べられない。

家を出て、南門まで一気に距離を縮める。
ギベオンソードを抜いて、ミノタウルスに対峙する。
全部で5匹のミノタウルス。
正面の奴が斧を振り下ろしてくるのを剣で止める。
斧もこのミノタウルスの毛か皮膚の一部だろうけど、硬くて斬れない。
刃に当たる部分だけ、硬くしまっていて、本物の斧のように研がれている。

それなら、マナをギベオンソードへと流し込み、そのまま振り抜く。
スパッと斧の形の部分が切断され刃が遠くへと飛んでいく。
もう片方も斬り落とそうとしたけど、ミノタウルスもマナを手に貯め始めたせいで、斬れなくなってしまった。

どうするか。
少し距離を開けて、アリアの方でセラフの翼を出す。
ステータスをいじってやる。
あまりやり過ぎるとこっちのマナが無くなってしまうから、省マナで効果が高そうな方法を探さないといけない。

状態 正常/興奮

この正常という部分を変えられれば良いんだけど、多分それだと、一匹でもうマナ不足になりそうだ。
変えるんじゃなくて何か追加できて、弱体化出来るものがいい。

状態 正常/興奮/脱毛

これでどうだ?
保存してもマナは問題ない。
ターゲットになったミノタウルスの全身の毛がバラバラと落ちていく。顔から腕に胴体や足も全ての銀色の毛が抜けて落ちる。
手の先の斧も毛だったらしく崩れて落ちてしまいその中から普通の手のひらが現れる。

なるほど、手を閉じた状態にすると、手の甲に斧の形が出来るわけか。
全身の毛が落ちてただの牛のようになったミノタウルスは狼狽えてオロオロしている。
そりゃ急に毛が抜け始めたらショックだろう。
周りのミノタウルスもビックリして固まっている。

その隙にマナを込めたギベオンソードで丸裸ミノタウルスを両断する。
毛が無ければただの牛だ。
その後も他の牛、じゃなくてミノタウルスを脱毛処理してから倒した。

この倒し方、他の硬い魔物全てに効くんじゃないのかな。

魔物が全て倒され動かなくなるのが分かると、村人達が集まってくる。

「ボウズ、お前強えな。何かしたんだろう?急にコイツらの毛が落ちるとか、恐い技使うな」
「ほんとだよ。俺にはその技、使うなよ」
「あ、いや、その。どうも」

話しちゃって良いのかな?
男性だから関係ないか。

「あら、この子、今朝の変質者じゃないのさ」
「ちょっと、やっぱり居たのね?」
「いえ、その、変質者じゃなくてですね」
「お前ら何言ってんだよ、さっきの見ただろう?こんな怖え技を使うボウズに変な事言うんじゃないぞ?」
「そうだ、やめてくれ。嫌がらせで今の技を俺らに掛けてきたらどうするんだよ」

男性陣は庇ってくれてるのかと思ったら、とばっちりを受けて標的になりたくなかっただけだった。

「あんたらはもう手遅れじゃないの?」
「そうそう。いっそ全部無くなった方がすっきりするんじゃないの?」
「まあ、こんな小さな子が変質者って事はないかね。ごめんね、ボウヤ。変に疑っちゃってさ」

変態扱いは回避できたか?

倒したミノタウルスは村人の男性向けが解体して、牛肉と牛革にした。
魔物といっても肉や皮はほぼ牛と同じだった。
そして、体毛も大量に手に入った。
この蒼鉛という金属はあまり高くない温度で溶け始めて、再度固まる時に結晶化しやすいという特徴がある。

試しに少しだけ溶かしてみると、冷え固まる時に虹色のような不思議な色に変わり、形も四角い結晶の形になる為とても美しい宝石のような物に変化した。

この蒼鉛ミノタウルスがまだ村の外にたくさんいるなら、安全を確保する意味でも討伐をして、肉と革と売れそうな美しい結晶を手に入れることができそうだ。


ミノタウルスはセラフの翼で脱毛しないと倒せないので、リンかアリアのどちらかが付いて行き、定期的に討伐しては取れた結晶と革を加工して、工芸品としてノルドに売りにいった。

特に結晶で出来た工芸品はその美しさから、かなり高く売れた。





この場所に家を建て始め、村人が増えたりしてから、数か月が経過した。
ノルドで聞いた噂話によるとフォルクヴァルツでは、新しい国王が誕生したようだ。
新国王誕生の話はおそらく本当なのだろうけど、その国王が実は大魔王だという話は本当か怪しい。
あのクリスが国王とは信じ難い。
前のクリスならまだしも、大魔王なのに国王とか良いのだろうか。

ノルドとはその間、何度か小さな戦いをしているらしく、フォルクヴァルツがすべて勝ちを収めているようだ。



この村は、人口が一気に増えていた。
ノルドからの難民は大半を受け入れたし、ヴォルガから流れてきた人達、フォルクヴァルツの知人も受け入れた。

アーデやミスティのような、あまりフォルクヴァルツに固執していない人達はこちらから誘ってみたら、二つ返事で来てくれた。

クマのリュリュさん家族も誘ってみたら、是非という事で転居してきた。
ギベオンベアーが一家で村に来た時は大騒ぎになるかと思ったけど、事前に何度も説明をしたし、何よりも会話が出来るという事が安心するようで、何事もなく引っ越してきた。

村の周りを囲っていた外壁もその範囲を大きく広げて、今までの何倍もの範囲を更地にして、外壁で囲った。

家は簡単に作れる事もあって、日に日に数を増やしていった。

「もう、村じゃなくて、これは町ですね」
「人数は増えたけど、別に村や町の機能は何もないけどね。誰がどこに住んでいるかも、記憶に頼っているだけだし、税金や公共事業も何もしてないから、大きさに関係なくここはただの集落でしかないよ」
「そういうものなのですかね?」
「そういうものだね」

村人は多分2000人超くらいだと思う。
ノルドの難民をいくらでも受け入れてきたから、比率的にはほとんどが元ノルド人だ。

問題が起きないわけではないけど、皆んな自発的に解決しているみたいだ。
自警団のようなものも、作っているようだし、何か悪さをしたら、女神様の天罰が直接下るという噂が立ってからはあまり深刻な問題はおきていないようだ。


クロ『おっはよう!リンはもう起きてる?』
リン『おはよう。起きてるよ。朝から元気だね』

クロは未だにカルの家に居候をしている。
お金はないままだけど、最近信者が増えた事で少しずつ収入は増えてきたらしい。

その信者は、この村の人達だ。
村の中心にある僕の家の横に教会を建てて、セラフィナイト教とかを名乗って信者を地道に増やしていったのだ。
村人は4つに分かれていて、僕が少しずつ増やしていったセラフィナイト教、すぐ会える女神としてアリア教とシリカ教、あとは今までの出身国で入っていた宗教の人達だ。

一番多いのはシリカ教徒だった。
村内でちょくちょく見る事が出来る割にあまり話す事は出来ず、その神秘さから人気が出たらしい。
アリアは普通の村民とあまり変わらない雰囲気だとかで、庶民派に好まれてるけど、最近あまりにも女神っぽくないという理由から、人気は伸び悩んでいる。
別に人気は出なくて良いし、アリアはもう停止しておきたいくらいだ。
でも、毎朝、訪問してくる人達もたくさんいるし、丸一日寝かしておいたら、病気なんじゃないかと心配になった村民が家の周りを囲ってしまったので、騒ぎにならない程度には外に出ないといけなくなっている。

リン『一番少ないクロ教徒を増やして、お金がそっちに入るようにしてあげたいけど、目の前に本物がいるからねぇ。なかなか増えないよ』
クロ『くすん。いいもん、少ない信者を大切にするんだい』
リン『ところで、フォルクヴァルツの担当から外されたって本当?』
クロ『ホント、ホント。いやあ、急だったからびっくりしちゃったよ~。でも、こっちから辞めたいって言うところだったから、丁度良かったよ』
リン『負け惜しみ、じゃなくて?』
クロ『ホントだって!その代わりにね、なんと!起業したんだ、わたし!』

起業?なんだそれ?

クロ『クロの何でも実験場って会社。神や女神達がそっちの世界で色んなことをやって、わたし達の世界で上手くいくか試しているでしょう?それを、わたしとカルが代わりにやってあげるのよ』
リン『嫌な予感しかしないんだけど』
クロ『察しがいいねえ。リン!お願いがあるの!』
リン『ヤダ』
クロ『そんなあ!ちょっとだけ!ちょっとだけでいいから、そこの村民を貸してくれない?怪我させないし、お給料もはずむからさ~』

やっぱり。
ここにいる村人を使って、実験する気だよ。

クロ『有志を募って、やりたいって人だけでいいからさ!それならいいでしょ?』
リン『ベニトアイトみたいなことをするんじゃないよね』
クロ『しないしない!ちょっと、効果が不明な魔法とかを試してみたりするだけだから』
リン『やっぱりダメ!失敗した未来しか見えて来ないし!』
クロ『ええー!いいじゃーん。ケチ~』

せっかく安心して暮らせる村になってきたのに、クロの実験場になんかさせられないよ。

それに、実験なら僕がした方が面白いしね。
新しい事をするなら、まず僕がこの箱庭で試さないと。

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