クリノクロアの箱庭

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第百六十一話 村改造

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イトカはリンの袖をぎゅっと握って離さない。
無理に引き離すのもかわいそうだ。
そのままリビングに連れて行く。

読書中のフィアにじろっと見られるけど、何を言わずまた本に目線を落とす。
何か言ってくれないと逆に怖いよ。

「えっと、この本棚の本なら好きなのを読んでいいよ?どれがいい?」
「………これ。読んで」
「ぼ、僕が読むの?」

こくりと頷くと、イトカが僕の袖を引っ張りソファに座れと催促してくる。
その間、フィアは特にこっちを見ることもなく読書中だ。
イトカと僕がソファに座ると僕を挟んでマルモも座る。
マルモも読んで欲しいの?
もう自分で本は読めてたよね。

どうにも無言の圧力を感じながら、本を読み始める。
この本、恋愛小説かよ………。
それを音読って………。
イトカも分かってて選んだのか謎だな。
声に出して読んであげる。
どうやら女の子が主人公のようだ。

「………すると、彼が振り返った。『ばーか、お前しかいないんだよ』そう言うとユリウスは私の頭をポンポンと叩く。『とくん!え?……も、もしかして、この気持ちは……恋?』」

なんだよこの小説。
さっき会ったばかりのユリウスにもう恋をしてるし。
しかも、主人公の女の子は13歳でユリウスは10歳って設定みたいだけど、どこかでこの年齢の組み合わせあったぞ。
この小説、絶対ラナの物だよ………。

「イトカ?この本、面白いの?」
「……面白い。続き」
「ああ、はい。マルモもこんなの聴いてておもしろ……顔赤いね。風邪?」
「え?そ、そんな事ありません!は、早く続きを読んでください」

マルモも面白いと思っているのか?
女の子の好みは分からないものだな。
僕とブロンなら冒険物語一択なんだけど。

その後も、何冊も恋愛小説ばかり、立て続けに朗読させられてしまった。
よく見ると、途中からフィアも自分の読んでいた本は全く読み進んでおらず、多分僕の読む本を聴いていたんだと思う。
ああ、恥ずかしかった~。全く、何の罰ゲームだよ。




翌日も家造りが続く。
何にしてもまずは住むところが無ければ始まらない。
それでも、だいぶ造り方にも慣れてきたので、午前中には5軒の家を全て建て終えることができた。
これで、ようやく、この村で生活らしい生活が出来そうだ。

子供達の遊び場はそのまま残しておいて、いつでもここで遊んでいいようにと、公園として柵で囲っておいた。
朝から家の裏は子供のはしゃぐ声が響いて、まだ眠いのに無理やり起こされたくらいだ。
いずれ、5軒の家の方に移設しておこう。

そして、今朝もイトカは何故か裏の勝手口をノックしてやってきた。
起き掛けにいきなり朗読をしてくれと言ってきたので、まずは朝食から食べさせて欲しいとお願いした。
まだ何も食べていないと言うので、イトカも一緒に朝食を摂る事にする。
僕の横にイトカの席が設けられて、ススっとイトカもすでに座っている。

あれ?誰も何も言わないな。
今日の朝ごはん係のリーカとレティもイトカに当たり前のように朝食を出している。
昨日の事をマルモ辺りから聞いているのかな?

「ああ、えっと、リーカ?僕のパンとか目玉焼きが無いんだけど………」
「ちゃんと人数分だしましたよ?」
「あ、そ、そう……」

イトカの前にあるのが僕のって事か……。
くっ。やっぱり皆んな怒ってらっしゃるようだ。
仕方ないじゃん。
うっかり顔を見られたら、何もしなくても懐かれちゃったんだから。

「あ、あのさ、この子は、ちょっと大変だったみたいなんだ。それで、他の子供達にもまだ馴染めなくて」
「マルモから全部聞いたわよ。ご主人が見つめるだけで落としたって」
「ちょいちょいちょい!マルモさん?!違うよね?僕、何もしてないよね?」
「私、びっくりしたんです。もうあれは魔法のようでした。勝手口を開けてにいさんに会った瞬間にもうにいさんの虜になっているなんて………」

マルモも怒ってるのかな?
でも、昨日はイトカの反対側に座って僕にべったりじゃなかった?
でも、そう言ったらもっと怒りそうだしなあ。

「この子の境遇は聞いたわよ。まあ、あの小さい子達に混じるのも難しい年頃よね。他の獣人族も親戚って訳でもないんなら、ウチで暮らすのもいいんじゃない?」
「ラ、ラナ………いいの?」
「いい訳ないでしょ。ミーシャは何故がフィアちゃん命みたいだから無害だし、居てもいいけど、イトカちゃんだっけ?この子はどう見ても、ねぇ」
「そうですね、リーンハルトくんしか見えてないって感じですもんね。一体何をしたんですか?」
「何もしてないって。一言二言話しかけただけだよ」
「もう、呪いの領域に達してますよね」
「やめてよ。僕もそんな気がしてきているんだから」

でも、なんでこのイトカって子は、僕にこんなに懐いているんだ?
呪いの訳はないんだから、何か理由があるはずだ。

「イトカちゃん。あ、食べながらでいいですからね。なんでこんなリーンハルトくんの事、気に入ったのですかね?一時の気の迷いなら、早く考え直した方がいいと思うんです」

リーカが聞いてくれるのはありがたいけど、聞き方ってものがあるでしょうに。

「………恩人」
「え?恩人?リーンハルトくんがですか?そうなんですか?」

最後のは僕に聞いているけど、僕も知らないよ。
なので、首を横に振る。

「えっと。それは、いつのことですか?」
「昨日」
「ああ、ご本を読んでくれたから、とか?」
「違う。薬を消してくれた」
「薬?」
「それは僕じゃなくて、昨日のこげ茶の髪の毛にスカイブルーの目の女の子だよ?」
「同じ人」
「え?」
「中の人が同じ」

ありゃりゃ、アリアの中身が僕って事がバレてるんだ。
この子の何かの能力なのか、それとも獣人族ならそう言うのが分かるのかな?

結果はともかく、僕はちゃんと言い付けを守っていたという事で、お咎めなしという事になった。

イトカはその境遇や本人の希望もあって、この家に住む事が決まった。

「代わりにこの子はあっちの家に住んでいいと思うのだけど」
「フィアお姉様ひどい!追い出さなくてもいいでしょう?どうせなら、ボクはフィアお姉様のお部屋がいいな!」
「何がどうせ、なのかしら。こっちは人が増えて、部屋も足りなくなって来ているのだから、広いあちらに行った方が良いと思うわ」

フィアは必死だな。
こういう新鮮な感じが見れるならミーシャが居るのも悪くないかなあ。

他の皆んなも同じ意見らしく、ミーシャもレティの部屋に居続ける事が出来たようだ。
イトカはアニカと同じ部屋になった。
やはり僕は二階奥の通路は立入禁止のままだし、ミーシャとイトカへの接触は極力控えるようにとの通達が出てしまった。

ミーシャはあっちが勝手に僕の事を避けてくれるから良いけど、イトカはむしろ積極的に僕に近づいて来ると思うよ?



この村の生活も皆んな安定して来た。
畑を耕し種を蒔き、鶏をノルドの町から買ってきて、飼いたいという家に分け与えた。
生活用品とかはやはりノルドで買って来ないと揃えられないから、僕が定期的にシルヴル便で仕入れに行くしかない。
お金も皆んな持っていないから、全部僕の持ち出しだ。

当面の問題は、ノルドで買い物をするという事はお金が必要になる訳だから、どうやって外貨を稼ぐか、という事と、肉や魚もずっと買ってくるのもなんとかしたいところだ。

何か工芸品とかを作れれば、それを売ってお金に出来るんだけどな。

「こんにちは~。何か困った事はありませんか?」
「女神様。こんにちは。そうですねえ。この村って敷地の中に川がないでしょう?ちょっと離れたところにはあるけど、外は魔物がいるから気軽には出れないからねえ。洗濯とかしたいんだけど、どうにかならないですかね」
「川ですね。分かりました、なんとかします。あと、女神様はやめて欲しいかな~なんて」
「すみません、つい。でも女神様は女神様だしね~」
「そうそう。女神様がお2人も住まわれている村なんて、なかなか無いもんね~」

シリカはいいけど、アリアは中身が一般人のボクだからなあ。
ズルして外見を無理やり女神っぽくしてるだけだから、出来れば普通に名前で呼んで欲しいんだけど、住人の方達は誰も女神様呼びをやめてくれない。

リンは村の中を歩くの禁止令が出ているから、アリアで出てくるしか無い。
ボク自身の当面の目標は、村の人に名前で呼んでもらう事だ。

「あ!女神様だ!」
「あらほんと、女神様ったら今日もお美しいわね!あたしにも少し分けてもらいたいわよ~」
「あんただと、いくら分けてもらっても足りないわよ!」
「それもそうねっ!あははは!」

はははは………。
こういう時どういうリアクション取っていいか分からないんですけど!
適当に笑っておくしか無いか。

「あそうそう。女神様。ここ水道ってできないかしらね。女神様のところに毎朝貰いに行くの不便で仕方ないのよ~。あと、マナ線もあるといいわね。ほら、灯とかあると夜も明るいし、火を起こさなくても料理が出来るのは大きいわよね!」

つまりは、ライフラインの整備か。
マナ線って言うのは多分マナを各家庭に供給する線の事だろう。
ノルドでは水道やマナ供給はどこでも普及していたんだろうか。
フォルクヴァルツだと、貴族層や王族くらいしかマナ供給とか無かったよな。
水道は上水だけはあったけど、下水は下町だとほとんどドブに垂れ流しだったような気がする。
さっきの人が言っていた洗濯も下水が通らないと臭くてしょうがないだろう。

しばらくはこの村で3つの事業を進めることにした。
上下水とマナの通る道の整備。
肉魚類の安定的な自給体制の確立。
外貨獲得の為の工芸品等の製作。
これらを村人皆んなにも手伝ってもらって解決していく。

よし、これらが上手く行くように準備をしないと。
……あれ?どうしよう。
どれも、上手くいく感じがしない。
全部やり方が分からないや。


水は魔法で出せるからいいけど、マナはずっと出し続けるのも大変だよな。
リンのマナ量なら丸一日供給し続けても平気だけど、それだと僕はこの村の発マナ所としてずっと暮らしていく事になるよ。

まずは、水の通り道からだな。
以前作った軽銀で管を作ってみよう。
軽銀は加工が簡単だったから軽銀剣とか軽銀盾とか色々作ってみたけど、柔らかすぎてあまり役に立たない物ばかり出来上がっていたな。
もう使わないだろうから、全部鋳つぶして地金に戻そう。
建築資材が少なくなって、空きスペースが出来た元実験場で再び加工をする。

軽銀剣やら軽銀カブトやら無駄に加工した物を取り出し、高温の魔法で溶かしていく。
そのままズワールテクラハトゥの枷の見えない手で圧縮して薄い板状に加工する。
触れるほどに冷めてから、ねじって管状に加工していく。
それを再び熱して隙間なくくっつける。
これをひたすら量産していく。

加工はいくつかの魔法を使うのでリンでやるしかない。
なので、村人が外に出ていない真夜中に作業をしている。

真っ暗な星空の下、熱した軽銀が赤い光りを浴びながら一人で加工を続ける。
高温で作業しているから体は寒くはないけど、心は寒いなあ。

軽銀管を大量に作ったら、今度はマナ線だな。
マナの伝導率が高いのは銀だ。
スタシルオオトカゲの毛はもう無いから、銀貨を溶かしてしまおう。
どうせもう、フォルク銀貨は使い道ないし、今あるものは全て使い切ってもいいだろう。

フォルク銀貨を溶かして、そのまま細い銀線に加工していく。
とは言っても、細い線にするのは難しいから太めの棒状になってしまった。

材料ができたら、次は僕の家から他の村人の家がある所まで地面に穴を掘って繋がるようにする。
そこに上水用と下水用の軽銀の管、そして、銀線の3本を埋めていく。
管や線は溶かして繋いでいき、各家庭に分岐させて、家のすぐ側まで配管しておく。

上水は上に立ち上げて、後で蛇口を買ってきて付けよう。
下水は蛇口の下にお盆の様に加工した軽銀の受け皿で流せる様にすれば良い。マナ線も後で各家庭の中に引き込もう。
これくらいの加工なら、シリカやアズライトにも任せられるだろう。
昼間に家の中まで引き込んで使えるようにしてもらおう。

僕の家の方は、上水用と下水用に木で出来たタンクを2つ用意する。
タンクの内側は薄く伸ばした軽銀を貼り付けて、水漏れしないようにしてある。
上水用タンクには魔法で水をいつも満たしておけばいい。
下水用は浄化の魔法できれいな水にしてから、村の外に捨てる。
魔法できれいな水になるなら、そのまま上水に戻せばいいとも思ったけど、気分的にやめておいた。
魔法もどこまで万能か分からないからね。

あ、日が開けてきちゃった。
まずいぞ、村人達が外に出てくる。
早く家に帰らないと。
何だよ。ここ僕が作った村なのに、なんでこんなコソコソしないといけないんだか。

うわっ、誰か出てきた。見られたか?!
顔は見られていないと思うけど、家の側で何かしていて、見られたら逃げていくなんて、怪しい奴にしか見えないよな。
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