魔力無しグルコ25歳の備忘録

イイズナそまり

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第十七話

魔力無しグルコ26歳の備忘録

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 《おめでとぉ~カ~ンパ~イ》

俺は今日 26歳の誕生日を迎えた。
魔塔を退職してからあっという間の一年だった。
洞窟風古民家BARナナフシ薬局は元旦も営業中。
常連さんは転移魔法で勝手に入店。
勝手に酒とツマミを持ち込んで騒ぐ。
はっきり言えば呑んだくれの溜まり場。
薬局のアイドル子供馬のボリルへのお触りは厳禁。

テコテコ「グルコ。何書いてるの?」
「今の事を書いてるの」
ケッ「アンタら悪口書かれてるよ」
溜まり場の親分は店長ですからね
「えっ何?備忘録に人の悪口とか書いてもいいの?」
「無責任なのさ」
「むせきにんなのさ」テコテコ
「うっ」
ボリルに言われると胸に刺さるわ

〈アーブクタッターニエタッターアーブクタッターニエタッター〉

カウンター端の壁 転送ポストからボリルの着メロが鳴り響く
《初萌え~~~~~》
テコテコ「お手紙たくさんだね」
「年賀状だよ。ボリルにも届いてるよ」
差出人ここで飲んでるけど 馬大好き変人ばかりだけど
「ふーん」テコテコ
興味ないんだ
「ボリルさまの誕生日の歌が聞きたいわぁ~」
今日は頭にお面が2個 右に狐 左にひょっとこ
「ユガさん、神主なのに神社はいいんですか? 書き入れ時でしょ?」
「だいじょ~ぶよぉ。お社もなんもかんも雪に埋まってて~ 誰も来ないからぁ~」
北の森の標高が高い地域は一年中雪が溶けない
「豪雪地域にあるんですね」
キャハハッ「冬はユガんち埋まるよね~ 積もり過ぎてて引くよね~ ここの庭くらいが丁度いいよね~」
「だよね~」
《だよね~》
この二人は薬局の庭でカウントダウンするよって 除雪バズーカ砲ドッカンドッカン放ってデコボコに荒らしまくった ボリルも交えて大暴れ
「ユガ。オリザ。また遊ぼうね」パチ☆
《初萌え死に~~~~~》
馬なのにウィンクって 教えたの誰だ? お礼しなくちゃ
「オリザ。丁寧にとかしてね」
カウンターに顎を乗せて気持ちよさそうだ
「はいはい」
「たんじょうびってなぁに?」
「単なる飲み会の口実かしら?」
今まさにそれだよね
「ボリルた~ん、それはねぇ、愛の生まれた日を祝う飲み会だよ~ん」
領主さんベロンベロン その話題は避けてるのに余計な事を
「愛の生まれた日?」
「お母さんのお腹からね~こんにちは~って赤ちゃんが出てきた日だよ~ん」
「赤ちゃんはどこから入ったの?」
「ボリルた~ん、それはねぇ、男の◯◯◯を女の」
〈ペンッペンッ〉
〈ゴツンッゴツンッ〉
〈ドカッドカッ〉
シモネタ領主フルボッコ
「顔はやめときな」グビグビ
「店長、子供姿で飲酒はやめてください」 
コンプライアンス的な何かに触れるでしょ
「元旦だ。無礼講だよ」
無礼が服着て歩いてるのに何を今さら
キャハッ「にったん、これでシワシワ書いてあげるぅ」
油性マジック
「おう」
いいのか
「ボリルさま。赤ちゃんはね、神さまが授けてくださるの。詳しい事はわからないのよ」
「山神さまのみぞ知る事なのです。」
キャハッ「にったんオデコにお肉って書いていい~?」
「ああ」グビグビ
キャハハハッ「に~あ~う~」
「オリザ、あたしもシワシワ書いて~」
キャハッ「まかせてぇ~」
確かに 生命の誕生は神のみぞ知るか
ボリルは山神さまから預かってる まあ授かりものと言えなくもない
だったら
「ボリルの誕生日はね、俺達が出会った日だよ」
ちょっと良いこと言ってみた
「ふーん」
興味ないんだ そっかそっか
「ボリルさん!あの日ですか!?」
こっちが食いついた 片膝乗せて乗り出してもぉ
「知らない」プイ
《プイ萌え~~~~》

昨年末 バイト代がかなり貯まったが 寝室の暖炉設置は煙突の工事費が高くて断念
結局 魔塔時代の伝手で中古の大型オイルヒーター魔道具を3台購入
予算が余ったので店長の昔馴染みに薬局のカウンター内を広くする工事をして貰った
ボリルが歩き回れるようにしたいのと 酔っぱらいのお触り攻撃をかわすスペースが欲しかったのだ
しかし
手が届かないならカウンターに乗れば良い 
馬大好き変人達は本能のままに生きている
「グルコさん、あの日なんですか?」
「あの日でいーですから、降りてください」
ほわぁ~「何がいいかしら?」
誕生日プレゼントを考えてるな ついに正座しちゃったよ
「ボリル、こっちおいで」
「うん」テコテコ
《おちり萌え~~~~~》
お触りは回避できたものの 尻尾をゆらゆら振って歩くおちり姿に萌えるサービスが追加されてしまった

〈ペンッ〉
「グルコ!あの日っていつよ?」
「教えなさい!踏むわよ!」〈ダンッ〉
「こ」
「こらっ!オリザさんダメ!」
そうそう
「カウンターは土禁ですよ!」
「めんごめんご~」
「商業さんも乗ってるじゃん」
「正座をする時はこのように足をヘリから出してます。」
《さっすがぁ~》
むふん「大人ですから」
ツッコミ不在
〈ペンッ〉
いたよ そしてなんで俺叩く? つか太いほうれい線が顎まで延びて腹話術の人形みたいだ
「あの日の事は秘匿だ。干渉するな」グビグビ
ぷぷ 人形が酒呑んでる
「という事です。残念でした」
うふふ「残念でした~」
《うふふ残念でした萌え~~~~~》
酔っぱらっててもう何でもいいんだな

「ねえちょっと!にったんは知ってるのね!?」
「おそらくな」グビグビ
「にったんヒントちょーだいヒント!」
「ヒント!ヒント!」
「いくら出せる?」
「神社の賽銭箱!空っぽだけどね!」
「南の森のリゾート地!デカイ虫がいっぱいだけどね!」
「保留だね」グビグビ
《ああぁーーーもぉーーケチーーー!》
「だったら商業さん!ヒント!」
「なんか秘匿に障らないヒント!」
「えぇぇぇーー」
「ユガ一生のお願い!」
「頭いいじゃん頑張ってヒント考えてよ!」
この人達はもぉー

「店長、初日の出8時頃ですよね。領主さん起こしますか?」
「ん」グビグビ
「領主さん、そろそろ時間ですよ」
こんな床に転がる姿 家族が見たら泣くよ
「ゔーー」
たんこぶデカ 商業さんチカラ加減狂ってるな
「大丈夫ですか?」
「おい領主。お前、荷物当番な」グビグビ
ガラ悪 どこのチンピラだよ
「シモネタ禁止!次はないわよ!三途の川を見せてやる!」ブンブン
便所スリッパで光速素振り 濃い緑の残像しか見えない
「ババアが二人見える」
「ハイハイそうですね。ポーションで痛みを取りましょうね」
「ゔん」
ほらほら ソレソレ イッキ イッキ
〈ゴキュッゴキュッ〉
飲みましたね 飲んじゃいましたね
「こちら請求書です」
フゥー「中級か?」
「初級です」
「高いな」
俺は季節限定ボッタクリ魔法を詠唱する
「正月料金です」
「そーか」
おやアッサリ納得 上級くらいまで高くすれば良かった
「ハイこれ、持ってくださいね。割れ物注意ですよ」
パンパンに膨らんだ配達用リュック
「重いな」
俺は軽い方 腰が痛くなるからね
「稼ぎ時ですから」
フンッ「せいぜい税金稼いでくれ」
「ハイハイ」
魔力癖が強く酒癖の悪い4人とボリルと俺 
今年の元旦送迎当番は店長 転移魔法を使う本人も酔っぱらい
なので 薬局の商品は背中に担げるリュックに詰め替えた 荒っぽくドスンと石畳に転移されてはたまらない
「商業さんのケチンボー」
まだ言ってる
「ケーチケーチ」
〈ゴツンッ〉
キャハハハッ「お年玉もらっちったぁ~」
うわぁ たんこぶデカ 笑ってるし

「よし!アンタ達!山神さまに新年のご挨拶しに行くよ!」グビグビ
《は~い》グビグビグビグビグビグビグビグビ





 シンケー領中枢施設 街灯に煌々と照らされた円舞台広場と 周辺の商店街はキレイに除雪され石畳は乾燥している
「チマリを迎えに行って来る。アンタ達はここから出るんじゃないよ」
「うん」
「わかりました」
足元に魔法陣が発現した 大地へ施す固定結界は強い 用心しろという事か

町民達がゾロゾロ集まりだした
静かだ
俺の脇腹をボリルが鼻でつついた 人語念話の合図
(皆んなおしゃべりしないね)
(そうだね)
(皆んな念話してるの?)
口元が動いていないけど
(そうかもね)
(山神さま来るかなぁ?)
(どうかなぁ。でもね、ご挨拶は届くからね)
(あけましておめでとうございます)
(そうそう。難しい挨拶は皆んながやってくれるから。俺達はそれでいいんだよ)
(わかった)
ボリルの波長
ちょっと緊張してる? 違うなワクワクしてるんだな

〈ドドンッ〉
中央の円舞台を取り囲む 厳かな雰囲気

〈ドンッ〉
一の太鼓

一の輪を作る
領主 町長 ギルドマスター 東西南北の森の代表

〈ドンッ ドンッ〉
二の太鼓

二の輪を作る
副町長 サブマスター 各組合の組合長 副長 地区長 副長

〈ドンッ ドンッ ドンッ〉
三の太鼓

三の輪を作る
高齢者と子供と親が手を繋いで輪を作る

〈ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ〉
四の太鼓

四の輪を作る
上級魔法使い達が手を繋いで輪を作る


〈ドドンッ〉
街灯が消された 東の空が明るい
いよいよ始まる

山神の峰 東の尾根が次第に白く輝きだした

初日の出

〈ドドンッ〉
《かしこみー かしこみー もうすー》

〈ドンッ〉
《山神さまの教えを守り 誠実な心で日々を過ごすことを誓います》


〈ドンッ〉
二拝
《パァーン パァーン》二拍手
一拝


円舞台から蛇のような無数の白い魔力が発現する
一の輪二の輪から黄金色の酒気が発現した
強い魔力を帯びた酒気は俺にも見える
白い魔力と絡み合い円舞台に吸い込まれていく
山神さまへの新年の奉納は酒気
直会なおらい返しと呼ばれている
山神さまと同じ酒を呑み交わす儀式だ
大晦日から飲み続け真っ赤に染まった顔が
次第に素面に戻っていった
黄金色の酒気と白い魔力が消えた時
直会返しが終わる


〈ドンッ〉
《かしこみー かしこみー もうすー》
〈ドドンッ〉

儀式が終わった

(山神さま、あけましておめでとうございます)
(山神さま、あけましておめでとうございます)

円舞台が白く閃光

懐かしい感覚に包まれた

《わあああああああああああああ》
《わあああああああああああああ》

(わっわっわっ)
(山神さまがお返事したから皆んな喜んでるんだよ)
(ビックリしたぁー)
波長が伝わって俺までドキドキしてる
(深呼吸してごらん)
(うん)
〈スーーーーーーーーハーーーーーーーー〉
〈スーーーーーーーーハーーーーーーーー〉
波長が落ち着いた
(ボリル、山神さまとお話しできた?)
(うん。遠くにいる。忙しいって)
(そっか。元旦だもんね)
(元旦だもんね)

(山神さま、ボリルに会わせてくださって、本当にありがとうございます)
服の上から胸に下げた名札を柔らかく握り感謝の言葉を述べる
(可愛く育ってるでしょ?これからもボリルを守ってくださいね)
俺は名札をギュッと握りしめた

円舞台が白く閃光した

《わあああああああああああああ》
《わあああああああああああああ》
《わあああああああああああああ》

(わかったよだって)
(そっか。良かった)
〈ペンッ〉
「ボリルが疲れるからそのぐらいにおし」
なるほど 山神さまとの念話は魔力を消耗するんだね
「ボリル、ありがとうね」
「うん」
「店長、商業ギルドに行きましょうか」
「ああ」
領主さんが運んだ重いリュックを背負ってる
「あの、店長、俺のと交換します」
「年寄り扱いするんじゃないよ」
いや 子供扱いしてるんです
「割れ物が入ってますからね」
ケッ「へいへい」
酷い
「ボリル、悪いお返事だから真似しないでね」
「へいへい」ピョンピョン
あちゃー 気に入っちゃったよ




 商業ギルドは3日から始まるイベント初売り大感謝祭の準備で賑わっていた
町から離れた商店 店舗を構えない職人 趣味で作った縫いぐるみ 子供の手作り工作 色んな商品が集まる
これらの商品は商業ギルドのイベント会場で販売部の精鋭達が責任を持って売り捌いてくれる 売れ残りはギルドが買い取る
「あけましておめでとうございます」
「グルコさんっ!お待ちしておりましたっ!」
あ やな予感
「どうぞご案内します!ボリルさんもご一緒に!」
「ハイハイ」
「ドークツさん、ここ代わって!」
アスリートさんが慌てる程の何かがあるんだな
「商品お預かりしますね!納品書は後ほどお渡しします!」
「店長」
窓口に背中向けてるとリュックしか見えない
「店長!」
「えっ!西さんもお見えですか!?」
「ええ、まあ」
「でしたら是非っ!お願いしますっ!」
〈チッ〉
リュックが舌打ちしたよ


 俺達は5階のサブマス執務室に案内された
商業さんはいつも商談室を使う 執務室は初めてだ
「申し訳ありませんでした!」
え なに
「うちのギルマスがすっかりお世話になったそうで、ご迷惑をおかけ致しました!」
この人は営業部長からの叩き上げ そのまま受け止めてはダメ
「いえいえ。むしろ悪い虫を退治してくださって助かりました」
「なんて慈悲深い!」
あー 何か頼み事する気だね 珍しくあからさまなゴマすり 隠す余裕もない程切羽詰まってるんだ
「あの、本題をどうぞ。俺、忙しいんです」
店長とボリルは出されたお高そうなチョコレートケーキを食べ始めた
「おおっ!さすが名探偵グルコさん。お見通しですね!」
いやもう そーいうのいーから
「ご用件は何ですかね?」
「はい。じつはですね。そちらのボリルさんの事なんですけど」チラッ
「仕事ならお断りです。まだ子供ですから」
「そこをなんとか。お散歩して添い寝してお金が貰える簡単なお仕事なんです」チラッ
さっきから店長を気にしてる 冒険者ギルドと同じならこの部屋は鉄壁の結界魔法が張ってある 転移魔法は使えない 逃さないためにこの部屋を選んだ 魔女にも通用するのか気になるんだ
「どなたからの依頼ですか?」
「受けていただけるんですか!?」
「受けません。ただ誰がそんな依頼をしたのか気になります」
そもそも商業ギルドの管轄外だ
「そうですか。申し訳ございませんが、お教えできかねます」
ほらね 出たよ 交渉するつもりだ
「店長、ボリル、帰りますよ」
「あああーっとそうですよね!気になりますよね!」
ドアを塞いで立っている  ん 時間稼ぎか
「依頼主がここに来るんですね」
ヒイイイイィィィーーーーー

〈バーーーーン〉
「ボリルちゃんおまたっ!」

え 誰? 子供?
「あ。グルコだね。黒いナナフ」
〈ふんがっふんがっ〉

うわぁー 見ざる言わざる聞かざる魔法だ
「店長、お知り合いですか?」
俺の分のチョコレートケーキ喰ってるよ
「南の森代表だ」
〈ふんがっふんがっ〉
「あっ!あっ!あとは若い人同士でお話しどうぞ!お邪魔虫は失礼しますね!バッハハーイ!」
バッハハーイって何
「阿呆なんだよ」
は?
「チマリさんですよね?」
「だから、代表のチマリは阿呆なんだよ」
「あほなんだよ」
ボリル またそんな言葉真似して チョコレートの香りプンプンさせて
「ケーキ美味しかった?」
「うん。バカウマ!」
〈ふんがっふんがっ〉
「帰るよ」
「このまま放置ですか?」
瞼 口 耳 ピッタリ閉じたまま 鼻がつまっても息できるのかな
「阿保だけどそのうち解ける」
何回も言うあたり かなり阿呆なんだな
「納品書は転送して貰う」
逃げるが勝ちか
「わかりました。帰りましょう」
言い終わらないうちに転移した
ギルドの鉄壁は魔女には通用しなかった
〈ふんがっふんがっ〉




 ナナフシ薬局/我が家の裏の崖に作られた製薬棟
初めて中に案内された時 目を疑うほど整理整頓されていて驚いた 
以前は製薬棟で内服薬 薬局の台所で医薬部外品 完璧に分離して一人で全て製造していたそうだ

店長が製薬したポーションの瓶詰めと内服薬の袋詰め 医薬部外品の製造がここでの俺の仕事だ

年末はギルドに納品する薬品作りでバタバタして散らかしたままだった


薬局に戻るとカウンターにちょこんと子供店長
「また飲んでるんですか?」
「酒気奉納したから飲み直しだよ。製薬棟の片付けは終わったのかい?」
「終わりました。これから内服薬の袋詰めをするので衛生白衣魔法をお願いします」
「ダメだ」
「え」
「元旦は測り事をするな。縁起が悪い」
測り事と謀り事か
「わかりました」
在庫を補充したかったけどね
「暇なら庭の雪かきでもしときな」
「腰が痛くなるのでやりません」
「若いのに」
年齢は関係ないです
「そういえば、オリザさんはどこに居るんですか?」
「冒険者ギルドの5階だよ。新年会にチマリが参加してる。お目付け役だ」
「お目付け役?」
「隠蔽魔法を使わせないためさ」
「酔っ払って無茶苦茶しないようにですか?」
「逆だ。チマリは酔っちまえば隠蔽魔法が使えない。今頃は甘くて強い酒を飲まされてるよ」
悪い集団のやる事だな
「何かやらかした事でもあるんですか?」
「王宮の宝物庫に忍び込んで備忘録を盗んだ。クソガキと二人でな」
「クソガキって、元魔塔主?」
「ああ」
「俺の備忘録?」
「ああ」
「王宮にバレたら俺ヤバいですよね?」
「アタシと持ち主以外には見えない隠蔽魔法が掛かっていた」
王宮での持ち主は前国王だな
「その持ち主にバレたらどうなりますか?」
「それも心配ない。持ち主が手放すと忘却魔法が発動する特別仕様だ」
「そうなんですね」
「それには休眠25年の相続魔法を掛けていた」
「相続魔法?」
「そのままさ。時限式隠蔽魔法だ」
「25年経ったら次の持ち主が相続するんですか?」
「あと15年で新しい持ち主の手元に届くはずだった」
「25年ってかなり強い隠蔽魔法ですよね?」
「ああ。隠蔽の二重掛けで相乗効果も加わっていた」
「それをあの二人が」
「アタシの負けさ」
他者に強制解除された反動は底知れないという 強い魔法はより強く
「後遺症とか大丈夫なんですか?」
「なんともない」
「安心しました」
「今回チマリはボリルを狙ってる」
「不安になりました」
「秘匿魔法を交わしていない者達も、ボリルが山神さまと縁の深い存在だと気付いてる。
山神さまはアンタへ預けたんだ。南の森に奪われれば町の責任は大きい。
だからチマリを酔わせようと皆んな必死なのさ」
「横取りとか、やる事が子供ですね」
「阿呆な子供さ」
「早く大人になって欲しいです」
「阿呆な大人になるだけさ」
「あー。それはまた困りますね」
「だろ」
「でも、北の森代表とパワーバランスがとれて、南の帝国から国境を守るチカラを持っている?」
「だな」ふぁぁ~
ん 眠そうだ
「店長、客間で少し休んでください。何かあったら起きますよね」
「ん」
あらら 突っ伏しちゃった
「ボリルー」
「はーい」
「店長を運んで欲しいんだ」
「はーい」
「客間に」

通り口から来たボリルはボリルじゃない

「店長を客間に運ぶの?」

テコテコ歩く音がしない
ボリルは店長と言わない
待て待て 落ち着け

「いや、やっぱり、まだいいや」

ボリルの波長
どこだ
店長の隠蔽魔法か
どこにいる

「寝てるの?」

これはチマリさんか?
ボリルが居なくてボリルに化けたのか?
何だそりゃ わけわからん

「うん。疲れてるみたい」

どうする 考えろ 俺はやれば出来る
あ そーだ
「そーだ、いつもの甘酒を飲もうか。ここに座って」
「うん!甘酒飲む!」
〈ガタガタ〉

「どっこいしょ」
チマリさんだ

馬なのにカウンターの椅子に座った
棚の奥 甘くて強い酒 俺用のあった
お高い陶器に入れ替えたから
飲みやすくなってるはずだ
「はい。どうぞ」
《カンパイ》
風魔法を使ってる でもコップに蹄を添えている
ボリルは飲み物をシャボン玉みたいに丸くふわふわ浮かせてパクッと口に入れる
ボリルそっくりだけどボリルじゃない
なんか変な感じ
「甘酒おいし~」グビグビ
ドブロクだけどね
お?
匂いがキツくない 口当たりがまろやかだ
美味いな けど甘過ぎる
「あのさ、玉子焼きとか食べる?」
「いらない」
「お腹空いてないの?」
「ううん」
好き嫌いが多いのかな
「今君が食べたいもの教えて?」
「今?」
「うん。言ってみて」
「そしたらね、ワタシ甘い玉子焼きが食べたいの」
ワタシって言っちゃったよ
甘い物しか受けつけないのかな
「そっか。わかった。今作ったら食べる?」
「グルコお料理するの?」
「勿論」
「美味しいなら食べる」
食べなきゃわからんでしょ
「よし。じゃあ台所に移動しようか。俺、魔力無しだからさ、魔道具で作るんだよ」
「そーなの!?見たい見たい!」
何というか
「甘酒~ほら~グルコ~風魔法だよ~」
ドブロクをくるくる回す魔法自慢
二本足で立っちゃってるよ
ほんと何というか
「上手だね。頑張って練習したんだね」
「うん!」
騙される振りもなかなかキツイなぁ
店長 肩がモゾモゾしてる さてはたぬき寝入りだな




 山神峡谷 峡谷の森には秘密基地がある
半球体の透明な防壁は魔法も物理的な衝撃も伝わらない古代魔法で出来ている

基地の住人は魔女と同じ古代種族ドワーフ達とお犬様


〈ワンッ ワンッ ワンッ〉
「まだおしゃべりしないね」
「まあな。普通のお犬様だからな」
「カラーはお前と似てるけどな」
「ふーん」
〈ワンッ ワンッ ワンッ〉
「よお。肉と魚どっちにする?」
「ボリルお魚食べたい」
「わかった」

コンロから上がる煙が天井に刻まれた魔法陣に吸われてゆく
「収納魔法に入れてるの?」
「んー?この魔法陣は煙の成分を分解しちまうのさ」
「わかんない」
「だろうな。ワシもわからん」

〈アーブクタッターニエタッターアーブクタッターニエタッター〉
「手紙きた。見てくる」テコテコテコテコ

(よお。やっぱありゃ天馬の亜種じゃねーのか?)
(違うね。翼が無い亜種を知ってるが違うね)
(魔法が使えて黒い体に黄色い目っつったら妖精だろ)
(あーなんかいたよな。黒い獣とかに化ける妖精)
(お犬様も妖精か?)
(しゃべらんから違うべ)
(でもよ山神さまから預かってるんだろ?)
(妖精は女神信仰だ)
(だよな)
(妖精じゃなければ何だろう)
(山神さまが女神から預かったとか)
(そりゃねーべ)
(んーわからんなぁ)
(全くもってわからん)
(わからんね)

テコテコ「念話してるの?」テコテコ

(うおぅバレバレかよ)
(すげぇなコイツ)
(念話終わり)

「俺たちゃ普段は念話なんだよ。おしゃべりは喉が乾いちまう」
「ふーん」
「手紙はどーした?」
「あるよ」
〈ポト〉
「収納魔法!」
「おいおいマジかよ」
「まだ子供だろ?小さい大人なのか?」
「お前何もんだ?」
「ボリルはボリルだよ」




 南の森のリゾート地にはお菓子の家がある
森の小道から庭先にはクイニーアマンが敷き詰めてあり
屋根は大きなフィナンシェ 壁はビスケット
玄関はチョコレート 窓は透明な飴菓子
柱は紅白ねじねじのキャンディ

「住んでるだけで糖尿病になりそうですね」
〈ゲシッ〉
「イテッ」
両手が塞がってても足は空いてる
「足癖悪いですね」
店長が転送ポストを持ち歩く珍百景
ゼェ「サッサと開けな」
自力で持ち歩くのが大変で機嫌が悪くなってる
「運動不足ですね。たまには魔力無し生活も必要ですよ」
ササッ
〈チッ〉
短い足からの攻撃を避けた

 チマリさんの強い結界の中で魔法は使えない
結界へ入る許可のある者もお菓子の家までは徒歩か馬かデカイ虫らしい
俺はチマリさんを抱っこして来たけど 風魔法を纏っているのでとにかく軽い りんご3個分くらいだ

〈ギギィー〉
「おっ。開きました」
ゼェ「サッサと入りな」
日頃いかに風魔法に頼りきってるのか
「ハイハイ」


「枕元はダメですよ。サイドテーブルに置いてください」
「へいへい」
薬局が管理する無料配布用の転送ポストには店長が魔塔主と開発した結界を相殺する魔法が付与されている
本来なら法律違反だが用途限定の特例を魔塔主が法律に捩じ込んだ
この結界の中でも使用可能だ
ナビゲーターと着メロはボリルの声に設定した

「使い方わかりますかね」
「オリザが教えるだろ」
チマリさんはポケットにいつもダンゴムシを忍ばせていて隠蔽魔法に使うそうだ 
新年会の会場ではチマリさん姿のダンゴムシを大人達が接待中

「点けときますね」
〈カチッ〉
ベッドの横 スタンドライトは紐式 ランプシェードは桃色の薔薇模様の飴細工
あの後 チマリさんは甘い卵焼きを2本ペロリと平らげ ドブロクを1本飲み干した 満腹だ
「よく寝てます」
見た目年齢は奥地のちびっ子くらい

「お菓子の家を守る為に強い結界を張ってるんでしょうね」
「だろうな」

黒糖入りの茶色い玉子焼きとしょっぱい玉子焼き ドブロクを冷蔵庫へ入れお菓子の家を出た
カラフルなマカロンで飾られた冷蔵庫 
食べかけの誕生日ケーキが入っていた
なんか淋しくなった




〈アーブクタッターニエタッターアーブクタッターニエタッター〉
「きゃっ なになに えっ なになにっ」
クスクス「チマリ、起きたのね」
キョロキョロ
「あれれ」
「お菓子の家よ」
「オリザ。ワタシ?」
「覚えてないのね。にったんとグルコが送って来たのよ」
「むうぅー」
「ほら、ナナフシ薬局から封書が届いたわ」
「転送ポストが使えたの?」
「結界を相殺する魔法が掛かってるの。国から特別な許可を貰って、にったんと東が開発したのよ」
「しゅごい。法律を曲げたんだ。
あ。メモが貼ってある」

[チマリさんへ。ボリルは渡しません。会いたくなったら遊びに来てくださいね。グルコより]

「えぇーーなんでぇーー」
クスクス「備忘録をメモ用紙に使ったのね。契約魔法ペンで書かれてるわ。グルコさん、抜かり無いわね」
「そんなぁー ボリルちゃん欲しいー」
「諦めなさい。
山神さまがグルコに預けたの。
横取りはダメ」
「むうぅー」
「ほら、封書開けてみて」
「鼻紋模様のレターセットだ」
「お返事書いてごらん。転送しますってボリルの声がナビするわよ」

「ふーん。
オリザにあげる。
ワタシに毎日手紙書いていいよ」
「はいはい」




 町の外れのナナフシ薬局/我が家
〈ピンポーン〉
「グルコさんにお届け物でーす」
居留守
「置き配しまーす」
魚眼レンズで覗く 茶色 茶色しか見えない
黒い引き戸をゆっくり開けた
テコテコ「変な匂いする」
マジか 受け取り拒否すれば良かった
「お手紙付いてる」テコテコ

[ボリルちゃんにあげる。チマリ]

「これなあに?」
「デカイ蝉の抜け殻だよ」
「ふーん」テコテコテコテコ⋯





~魔力無しグルコ26歳の備忘録 完~
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ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
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 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

異世界カントリーライフ ~妖精たちと季節を楽しむ日々~

楠富 つかさ
ファンタジー
 都会で忙しさに追われる日々を送っていた主人公は、ふと目を覚ますと異世界の田舎にいた。小さな家と畑、そして妖精たちに囲まれ、四季折々の自然に癒されるスローライフが始まる。時間に縛られず、野菜を育てたり、見知らぬスパイスで料理に挑戦したりと、心温まる日々を満喫する主人公。現代では得られなかった安らぎを感じながら、妖精たちと共に暮らす異世界で、新しい自分を見つける物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
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ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
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 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

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 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
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異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

レクサス転生――ローン付きSUVで始める異世界物流革命

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「馬車では一日かかる。だが、この鉄の馬なら二時間だ」 ローン残高を抱えたまま異世界に転移した新卒社会人・タカセ。 唯一の武器は、レクサスSUVと物流設計の知識。 命を救い、 盗賊を退け、 馬車組合と交渉し、 サスペンションとコンテナ規格で街を変える。 レクサス一台から始まる、リアル成り上がり。 これはチート無双ではない。 仕組みで勝つ物語だ。

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