悩みの夏は小さな謎とともに

渋川宙

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第6話 廃校舎に怪しい奴!?

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「何って、特に決まったことをやってないわね。喋るのが一番だよ。ほら、若い子と違って、自分で歩いたり自転車やら自動車を運転するのは難儀だからね。自分から移動できないの。だから、老人ホームに行くのがいいんだよ。この辺じゃあ悠人ちゃんのところ違って、お隣って行っても遠いだろ。ちょっとお喋りと思っても、おばあちゃんにとっては大冒険になっちゃうんだから。その点、老人ホームならご近所さんだけでなく、違う地区の人も集まっているからね、楽しいんだよ。で、喋ったりお菓子食べたり、たまに運動したりクイズをしているね」
「へえ。なんだか休み時間みたいですね」
「そうそう。学校の休み時間をわざわざ集まってやってるようなもんだねえ」
 志津は悠人の例えに、にこにこと笑って答えてくれた。なるほど、だから元気でも行くのかと、悠人もあっさりと納得できる。
「そうそう。そう言えばね、その老人ホームで面白い話を聞いたんだよ。悠人ちゃんもほら、和臣みたいな勉強してるんだったよね。だったら興味ある話だよ」
「えっ、はい」
 面白い話と勉強がどう繋がるのか、悠人は首を傾げつつも理系という点では和臣と同じなので頷く。すると、志津が悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「なになに。それって俺も知らない話なのかい」
 その悪巧みを考えているような顔に、信明もどんな話だろうと、爪楊枝を銜えつつ身を乗り出す。
「実はね。あの旧駅の近く、あっち側で妙な人がいるって噂なのよ」
「まあ、不審者ですか」
 沙希は困ったわねというが、志津はまあ不審者になるのかねえと曖昧だ。因みに旧駅というのは、昼間降り立った駅とは別、すでに使われなくなった駅のことだ。昔は電車が通っている位置が違ったとかで、木造の駅舎と途中までの線路が今も残っている。
 その旧駅があるのは町の南側だ。悠人たちがいる場所は町の西側にあたるから、少し離れた場所になる。
「最近越してきた人なのかもしれないけどね。奇妙なんだよ。何でも、旧駅の向こう側にある廃校、あそこに住み始めたんだって」
「えっ、学校に」
 確かに妙な人だと、悠人は驚きの声を上げてしまう。小さい頃、探検だと称して行ったことがあるから、その廃校は知っている。木造の昔ながらの校舎があったはずだ。いかにも学校の怪談が息づいていそうな校舎で、悠人は昼間に訪れたというのにおっかなびっくりだったのを覚えている。ひっそりと佇む二宮金次郎像なんて、今にも動き出しそうだった。そんな場所に住むなんて、正気の沙汰だとは思えない。
「しかもね。昼間も人の姿がないのに何かがごそごそと動き、さらに夜な夜な奇妙な音がその校舎からするようになったんだって」
「えっ」
 志津がにやっと笑って付け足した情報は、ただの不審者情報ではなくなる、怪談じみたものだ。思わず背中がひやっとしてしまう。ひょっとしてその住み始めたという人は幽霊なのか。
「変な音って何だい」
 しかし信明は興味津々、今からでも見に行きそうな勢いで訊ねる。いや、しかしそれは悠人の勘違いだった。単にずっと飲んでいるビールのせいかで、いつも以上に気が大きくなっているのだ。信明の座っているところに目をやると、すでに空き瓶が三本も転がっている。いつの間にあんなに飲んだのだろうか。
「女の悲鳴だとか、ぎいぎいとなる音だとか。ぶううんと何かが飛ぶ音だとか。まあ、大体が危ない音だね」
「えっ、何それ」
「それって本当に不審者じゃないですか」
 驚く悠人と違い、沙希はすぐにでも警察に電話しそうな勢いだ。こちらは素面だから本当に電話をしかねないから大変だ。でも、確かにそんな人がいるのは危ないし、ひょっとすると被害者もいるかもしれない。すると志津は、単なる噂だよと朗らかに笑う。
「でも」
「わいわい話し合っているうちに話が大きくなってんのさ。誰かが住んでいるのは間違いないけど、妙なことは起こってないよ。現にあんたら、今まで知らなかっただろ。たぶん、変わった余所者が移り住んだだけだと思うよ。まあ、誰もそいつを見たことはないらしいし、挨拶されたわけでもないし、何だろうね。廃校に誰かが出入りしているのは確からしいけど。でもさ、こういう話、あんたたちは気になるタイプじゃないのかい」
 気になるタイプって、何か違う気がすると悠人は苦笑してしまう。それに、悠人も和臣も探偵の勉強をしているわけではないのですがと、訂正すべきだろうか。今の話、食いつくのは理系じゃなくて探偵や心霊現象を研究している人じゃないか。ああ、でも、和臣は推理小説を愛読しているようだったから、そういう謎に食いつくかもしれないけれども。でも何かが違うんだよな。
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