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第8話 受験生らしい悩み
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「それで、悠人ももちろん俺のいる大学を目指すんだろ」
「無茶もいいところだよ。なに言ってるんですか。俺は和臣さんみたいに天才でも秀才でもないんだよ」
しかし、さらっと不可能なことを言うのは相変わらずで、悠人は笑ってしまう。だが、そんなことはないだろうと和臣は真剣だ。
「今からしっかり勉強すれば間に合う」
「いやいや。天下のT大でしょ。無理だから。そんな頭よくないんだよ。和臣さんは俺の成績を知らないからそんなことが言えるんだよ。俺、O大の理学部目指してるけど厳しそうなんだよね。関西に拘るつもりはないから、他も考えなきゃ駄目かもって思ってるのに」
そもそも、このまま理系に進学していいのかも悩んでいるのにと、悠人は一転して溜め息だ。そう、偏差値という受験生特有の悩みに悠人は苛まれている。理系の大学に進学するのが無理なわけではないが、志望校には若干届いていない。あと一年あるから大丈夫だと思うものの、このままでいいのかと悩んでしまった。
しかも、何をしていいのか解らないのだ。今になってそれが大問題になっていた。何となく、この和臣への憧れから理系に進み、何となく理学部を受験しようとしているものの、どうすればいいのか解らない。具体的なビジョンが何一つなかった。
「ふむ。非常に真面目な受験生だな」
「いや、そこは褒めてもらっても嬉しくないんだけど。でも、何がしたいのか解らないまま大学に進むのはよくないなあって思ってる」
ビール片手に天ぷらを摘まむ和臣は、まるで信明のようだ。似てない信明は言うが、食べる仕草やビールを飲む仕草はそっくりだと思う。しかも、話の論点が微妙にずれている気がするのだが。そういうところも似ている気がする。
「和臣さんっていつ、人工知能を研究しようって決めたの。それって俺ぐらいの時には決めてたんでしょ」
「いや、まったく。悠人くらいの時は物理学にしようかなとか、だったら宇宙かなとか、そのくらいのイメージだったな。T大にしたのも、ノーベル賞受賞者がいるからだし。ぶっちゃけ悠人みたいにちゃんと考えていなかった」
「マジで」
「うん。まあ、俺の行っている大学は一二年の間は共通で、その後で学部が詳しく分かれるからさ。取り敢えず理系に絞り込んでいればよかったし」
「ああ、そう言えばそうだ。あの大学だけルールが違うんだよね。教養学部ってところで最初の二年を過ごすんだよね」
「まあね。そうか、他の大学だと詳しく決めて受けなきゃ駄目だったな」
「そうだよ。多くの大学はそうなの」
悠人はだからこそ悩んでいるのにと、相談相手を間違えた気分だ。しかし、身近に大学に進学済みの年齢の近い人は和臣しかいない。先生に相談するのとは違うアドバイスを貰いたいのだ。
「本当にやりたいことがないってヤツか」
「うん。そういうところかな。大学で専門的に学びたいのは何かって考えた時に、これだって閃くものがないんだよね。さっき和臣さんは考えていなかったって言ってたけど、それでも天文を勉強したいって考えてたじゃん。俺にはそれすらないんだよね。文系の法律とか経済とか興味ないし、せっかく数学出来るから理系って感じで選んでるからさ。具体的にって言われると困るんだよね。しかも物理は苦手だし」
物理学に行きたかったという和臣に言っても解らないかもしれないけどと、悠人はさらに溜め息を吐く。こういうのを才能の差というのか。何もかもが遠いように感じてしまう。その姿を気の毒に思ったのか、和臣はビールを置くと真剣に考え始める。
「そうだな。でも、理学部ってなると、物理か化学か生物、後は数学ってところだよな。化学はどうなんだ。実験中心で大変らしいが、その分、やりがいはあるって聞いたぞ。数学は、あれは特殊だからな。よほどの覚悟がないと勧められない。一生抜け出せない泥沼にはまる可能性もあるしな」
そして的確なアドバイスをくれた。それに悠人はうんうんと頷く。化学は選択肢の一つにあるから、やはりこれをメインにすべきか。得意だからいいかもと思っていた数学は、迂闊に選んではいけないものらしい。
「なるほど。和臣さんがやっている人工知能の研究って、あれは工学だっけ」
「メインはそうだけど、他からも共同研究としてやっているからな。意外にも数学なんかは、人工知能の研究に参入しているぞ」
「へえ」
さっき、迂闊に選べないものに入っていたのにと、悠人は複雑な世界を垣間見た気がした。やはり、和臣にあれこれ聞くのが一番らしい。大学のパンフレットだと今一つ解らないところがある。実際は人工知能に数学が関わっているというような、知らない情報がたくさんあるのだろう。
「パンフレットは簡単にしか書かれていないからな。しかもよく見せようとして作るものだし、面倒な部分は省略するだろう」
そして、それはそうだろうと、あっさりと同意が得られてしまうのも、大学受験を終えてしっかり勉強しているからこそだ。この安心感が、学校や予備校の先生とは違う。ついでに言えば、すでに社会で働く両親とも違うところだ。両親の場合は将来の不安が先立って、基準点が違うから、余計にもやもやする。
「親が言うこととは全く違うね」
「それはそうさ。大人になると視点が変わるのは仕方ないだろうな。ついでに自分のような失敗をしてほしくないというのも出るだろうし」
「無茶もいいところだよ。なに言ってるんですか。俺は和臣さんみたいに天才でも秀才でもないんだよ」
しかし、さらっと不可能なことを言うのは相変わらずで、悠人は笑ってしまう。だが、そんなことはないだろうと和臣は真剣だ。
「今からしっかり勉強すれば間に合う」
「いやいや。天下のT大でしょ。無理だから。そんな頭よくないんだよ。和臣さんは俺の成績を知らないからそんなことが言えるんだよ。俺、O大の理学部目指してるけど厳しそうなんだよね。関西に拘るつもりはないから、他も考えなきゃ駄目かもって思ってるのに」
そもそも、このまま理系に進学していいのかも悩んでいるのにと、悠人は一転して溜め息だ。そう、偏差値という受験生特有の悩みに悠人は苛まれている。理系の大学に進学するのが無理なわけではないが、志望校には若干届いていない。あと一年あるから大丈夫だと思うものの、このままでいいのかと悩んでしまった。
しかも、何をしていいのか解らないのだ。今になってそれが大問題になっていた。何となく、この和臣への憧れから理系に進み、何となく理学部を受験しようとしているものの、どうすればいいのか解らない。具体的なビジョンが何一つなかった。
「ふむ。非常に真面目な受験生だな」
「いや、そこは褒めてもらっても嬉しくないんだけど。でも、何がしたいのか解らないまま大学に進むのはよくないなあって思ってる」
ビール片手に天ぷらを摘まむ和臣は、まるで信明のようだ。似てない信明は言うが、食べる仕草やビールを飲む仕草はそっくりだと思う。しかも、話の論点が微妙にずれている気がするのだが。そういうところも似ている気がする。
「和臣さんっていつ、人工知能を研究しようって決めたの。それって俺ぐらいの時には決めてたんでしょ」
「いや、まったく。悠人くらいの時は物理学にしようかなとか、だったら宇宙かなとか、そのくらいのイメージだったな。T大にしたのも、ノーベル賞受賞者がいるからだし。ぶっちゃけ悠人みたいにちゃんと考えていなかった」
「マジで」
「うん。まあ、俺の行っている大学は一二年の間は共通で、その後で学部が詳しく分かれるからさ。取り敢えず理系に絞り込んでいればよかったし」
「ああ、そう言えばそうだ。あの大学だけルールが違うんだよね。教養学部ってところで最初の二年を過ごすんだよね」
「まあね。そうか、他の大学だと詳しく決めて受けなきゃ駄目だったな」
「そうだよ。多くの大学はそうなの」
悠人はだからこそ悩んでいるのにと、相談相手を間違えた気分だ。しかし、身近に大学に進学済みの年齢の近い人は和臣しかいない。先生に相談するのとは違うアドバイスを貰いたいのだ。
「本当にやりたいことがないってヤツか」
「うん。そういうところかな。大学で専門的に学びたいのは何かって考えた時に、これだって閃くものがないんだよね。さっき和臣さんは考えていなかったって言ってたけど、それでも天文を勉強したいって考えてたじゃん。俺にはそれすらないんだよね。文系の法律とか経済とか興味ないし、せっかく数学出来るから理系って感じで選んでるからさ。具体的にって言われると困るんだよね。しかも物理は苦手だし」
物理学に行きたかったという和臣に言っても解らないかもしれないけどと、悠人はさらに溜め息を吐く。こういうのを才能の差というのか。何もかもが遠いように感じてしまう。その姿を気の毒に思ったのか、和臣はビールを置くと真剣に考え始める。
「そうだな。でも、理学部ってなると、物理か化学か生物、後は数学ってところだよな。化学はどうなんだ。実験中心で大変らしいが、その分、やりがいはあるって聞いたぞ。数学は、あれは特殊だからな。よほどの覚悟がないと勧められない。一生抜け出せない泥沼にはまる可能性もあるしな」
そして的確なアドバイスをくれた。それに悠人はうんうんと頷く。化学は選択肢の一つにあるから、やはりこれをメインにすべきか。得意だからいいかもと思っていた数学は、迂闊に選んではいけないものらしい。
「なるほど。和臣さんがやっている人工知能の研究って、あれは工学だっけ」
「メインはそうだけど、他からも共同研究としてやっているからな。意外にも数学なんかは、人工知能の研究に参入しているぞ」
「へえ」
さっき、迂闊に選べないものに入っていたのにと、悠人は複雑な世界を垣間見た気がした。やはり、和臣にあれこれ聞くのが一番らしい。大学のパンフレットだと今一つ解らないところがある。実際は人工知能に数学が関わっているというような、知らない情報がたくさんあるのだろう。
「パンフレットは簡単にしか書かれていないからな。しかもよく見せようとして作るものだし、面倒な部分は省略するだろう」
そして、それはそうだろうと、あっさりと同意が得られてしまうのも、大学受験を終えてしっかり勉強しているからこそだ。この安心感が、学校や予備校の先生とは違う。ついでに言えば、すでに社会で働く両親とも違うところだ。両親の場合は将来の不安が先立って、基準点が違うから、余計にもやもやする。
「親が言うこととは全く違うね」
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