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第5話 篠原陽明
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「そう警戒するほどのものでもないよ。ただ、用心するに越したことはないね。困ったことに、奴の目撃情報がちらちらとだが入っている。何か仕掛けてくるつもりかもしれないから、警戒を怠らないようにしてくれ」
「なるほど、別に悪いモノが流行っているというわけではないんですね。しかし、そうですか。目撃情報があるんですか。あの方は、本当に困った方ですからねえ」
だが、二人の間で交わされる会話が謎だ。どうやらこの篠原という人をを上回る厄介な人がいるというのは解るが、一体何の話をしているのだろう。というか、この篠原という人は何者なんだ。
「ええっと、あの人は結局どういう人なんですか」
会話は二人で展開しているようなのでと、桂花は横にいる円に訊ねた。しかし、何かあったら手に持つバインダーで殴る気満々の状態だったので驚かされる。弓弦の態度が悪いのはいつものことだからいいとして、いつも穏やかな円がこんな反応を見せるとはびっくりだ。
「ああ、そうね。出会っちゃったからには説明しておかないとね。あいつは篠原陽明といって、表向きは神社の神主、裏では陰陽師をやっているという変人よ」
「ええっと、はい?」
神主で陰陽師って、それってつまりスーツを着ている意味はないということか。しかも神主は解るけれども陰陽師って何だっけと桂花は首を捻ってしまう。どこかで聞いたことはあるものの、すぐにその意味が出て来ない。思い出せそうなんだけどと桂花は思わずこめかみを押さえる。
「ともかく特殊な奴だと理解しておいて。普通の人だと思わないのが一番よ」
「は、はい。えっとそれで、あの篠原さんは皆さんと仲が悪いんですか」
「ううん、そうねえ。別に仲が悪いってわけじゃないの。でも、利害関係は一致しているけど、普段は一緒にいたくない間柄ってところかしら。あの人は特殊な人だから、どうしても一緒にいるのは難しいの。馬が合わないとでも思っておいてくれたらいいわ。それと薬師寺さんに無理難題を押し付けるから困るのよね。だから、もし変な依頼を持ち掛けようとしているのならば、容赦なくこれで叩いて追い出してやるわ」
「はあ」
何だかもう全然理解できない。一体あの神主兼陰陽師なる人物は、一介の薬剤師である法明に何を頼むつもりだというのか。しかも法明と陽明はこそこそと会話を始めてしまって、どんな内容を言い合っているのか聞き取れない。だが、円にしても弓弦にしても陽明を警戒しているのは解った。二人とも何かあったら戦う。そんな雰囲気がバンバン出ている。
「ううむ」
薬局には相応しくない空気に、桂花は問題の陽明が出て行くまで首を捻ることしか出来ないのだった。
そしてその後、結局は陽明が何なのか解らないまま午後の仕事がスタートし、さらには終業後、法明がそそくさと帰ってしまったために有耶無耶になってしまった。弓弦も法明を放っておけないとくっついて行ってしまったし、円は勝手に教えたら怒られるからごめんね、と教えてくれなかった。
一体、篠原陽明って何者なんだ。
だが、そこで引き下がる桂花ではない。こうなったら昔から京都に住む祖父を頼ろう。なんせ、春陽は神主で陰陽師だという情報は得ている。住職をしているのだから業種的には近いはずだ。何か情報を持っているかもしれない。
「こんばんは」
「おおっ、よく来たなあ」
光琳寺に行くと、前もって知らせていたこともあってか、笑顔で祖父の龍玄が迎えてくれた。すでにお勤めが終わっているから、作務衣姿に褞袍という格好になっている。つるっとした頭と柔和な笑顔が相俟って、まるでお地蔵様のような感じだ。ほっそりした身体もまた、どこか仏様を思わせる。
「突然ごめんね。何か色々と解らないことがあって、お祖父ちゃんなら知っているかなって思って」
広々とした居間には四月になってもまだコタツが出たままだった。京都の冷え込みは長引くから、これは仕方ない。そのコタツの上には龍玄が用意してくれたのだろう、野菜中心の晩御飯が並んでいた。まるで旅館に来たかのような品数に、疲れていた桂花は思わず頬を緩めてしてしまう。
メインは鰆の西京焼き。それに里芋の煮っ転がしに湯気が立ち上る湯豆腐、漬物が数種類にさらには野菜たっぷりのお味噌汁まであった。ご飯も炊きたてのようで、白くてつやつやとしている。どれも一人暮らしではまず作らない料理の数々だ。
「美味しそう」
「路代さんが手伝ってくれたからな」
「あっ、そうなんだ」
路代さんというのは、桂花が勤める蓮華薬師堂薬局の常連さんでもある、光琳寺のすぐ傍に住む池内路代のことだ。年齢は龍玄と同じく七十七歳。膝が悪いと通ってくる以外は至って元気なおばあちゃんだ。その路代は龍玄と小学生の頃から知っている仲という、まさに幼馴染みだった。
「なるほど、別に悪いモノが流行っているというわけではないんですね。しかし、そうですか。目撃情報があるんですか。あの方は、本当に困った方ですからねえ」
だが、二人の間で交わされる会話が謎だ。どうやらこの篠原という人をを上回る厄介な人がいるというのは解るが、一体何の話をしているのだろう。というか、この篠原という人は何者なんだ。
「ええっと、あの人は結局どういう人なんですか」
会話は二人で展開しているようなのでと、桂花は横にいる円に訊ねた。しかし、何かあったら手に持つバインダーで殴る気満々の状態だったので驚かされる。弓弦の態度が悪いのはいつものことだからいいとして、いつも穏やかな円がこんな反応を見せるとはびっくりだ。
「ああ、そうね。出会っちゃったからには説明しておかないとね。あいつは篠原陽明といって、表向きは神社の神主、裏では陰陽師をやっているという変人よ」
「ええっと、はい?」
神主で陰陽師って、それってつまりスーツを着ている意味はないということか。しかも神主は解るけれども陰陽師って何だっけと桂花は首を捻ってしまう。どこかで聞いたことはあるものの、すぐにその意味が出て来ない。思い出せそうなんだけどと桂花は思わずこめかみを押さえる。
「ともかく特殊な奴だと理解しておいて。普通の人だと思わないのが一番よ」
「は、はい。えっとそれで、あの篠原さんは皆さんと仲が悪いんですか」
「ううん、そうねえ。別に仲が悪いってわけじゃないの。でも、利害関係は一致しているけど、普段は一緒にいたくない間柄ってところかしら。あの人は特殊な人だから、どうしても一緒にいるのは難しいの。馬が合わないとでも思っておいてくれたらいいわ。それと薬師寺さんに無理難題を押し付けるから困るのよね。だから、もし変な依頼を持ち掛けようとしているのならば、容赦なくこれで叩いて追い出してやるわ」
「はあ」
何だかもう全然理解できない。一体あの神主兼陰陽師なる人物は、一介の薬剤師である法明に何を頼むつもりだというのか。しかも法明と陽明はこそこそと会話を始めてしまって、どんな内容を言い合っているのか聞き取れない。だが、円にしても弓弦にしても陽明を警戒しているのは解った。二人とも何かあったら戦う。そんな雰囲気がバンバン出ている。
「ううむ」
薬局には相応しくない空気に、桂花は問題の陽明が出て行くまで首を捻ることしか出来ないのだった。
そしてその後、結局は陽明が何なのか解らないまま午後の仕事がスタートし、さらには終業後、法明がそそくさと帰ってしまったために有耶無耶になってしまった。弓弦も法明を放っておけないとくっついて行ってしまったし、円は勝手に教えたら怒られるからごめんね、と教えてくれなかった。
一体、篠原陽明って何者なんだ。
だが、そこで引き下がる桂花ではない。こうなったら昔から京都に住む祖父を頼ろう。なんせ、春陽は神主で陰陽師だという情報は得ている。住職をしているのだから業種的には近いはずだ。何か情報を持っているかもしれない。
「こんばんは」
「おおっ、よく来たなあ」
光琳寺に行くと、前もって知らせていたこともあってか、笑顔で祖父の龍玄が迎えてくれた。すでにお勤めが終わっているから、作務衣姿に褞袍という格好になっている。つるっとした頭と柔和な笑顔が相俟って、まるでお地蔵様のような感じだ。ほっそりした身体もまた、どこか仏様を思わせる。
「突然ごめんね。何か色々と解らないことがあって、お祖父ちゃんなら知っているかなって思って」
広々とした居間には四月になってもまだコタツが出たままだった。京都の冷え込みは長引くから、これは仕方ない。そのコタツの上には龍玄が用意してくれたのだろう、野菜中心の晩御飯が並んでいた。まるで旅館に来たかのような品数に、疲れていた桂花は思わず頬を緩めてしてしまう。
メインは鰆の西京焼き。それに里芋の煮っ転がしに湯気が立ち上る湯豆腐、漬物が数種類にさらには野菜たっぷりのお味噌汁まであった。ご飯も炊きたてのようで、白くてつやつやとしている。どれも一人暮らしではまず作らない料理の数々だ。
「美味しそう」
「路代さんが手伝ってくれたからな」
「あっ、そうなんだ」
路代さんというのは、桂花が勤める蓮華薬師堂薬局の常連さんでもある、光琳寺のすぐ傍に住む池内路代のことだ。年齢は龍玄と同じく七十七歳。膝が悪いと通ってくる以外は至って元気なおばあちゃんだ。その路代は龍玄と小学生の頃から知っている仲という、まさに幼馴染みだった。
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