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第23話 上司は大日さん?
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「さすがは薬師寺。いつ飲んでもお茶のセンスは一級品だねえ」
「褒めてもらっても何も出ませんよ。そもそも、今回のことはそちらでどうにか出来る案件でしょう。わざわざ僕が出張る必要はないと思うんですよね。どうして巻き込もうとするんですか」
普段は誰に対して穏和な法明も、ついつい愚痴を零してしまうのだから陽明の破壊力は凄いと、桂花は素直に感心してしまう。一体どんな依頼をし続ければこれだけ塩対応になるのか。
「まあ、そういうなよ。確かに普段の依頼は現世利益を追求する薬師寺には合わないかもしれないけどなあ。それでも、現代に生きる人々が困っているんだから手を差し伸べてくれてもいいだろ。それに、そうほいほい君みたいな人がいるわけじゃないし」
「当たり前ですよ。僕だって――ちょっと上から睨まれてるんです。あんまり余計なことはしたくないんですよ」
「んんっ」
しかし、続く会話はこの間と同じく意味不明だった。現世利益って、確か仏教の言葉じゃなかったっけ。どうして神主で陰陽師のこの人からそんな単語が出てくるんだろう。しかも法明がそれを追求しているってどういうことだ。
「ははん。君の上となると大日か。それは大変だ。あの方を怒らせたら、それこそ薬局なんてお取り潰しだろうね」
「そのとおりです。笑い事じゃないんですよ」
さらに、法明はここを個人で経営しているはずなのに、上司がいるらしい。それは薬剤師として先輩ということだろうか。確かにいきなり個人経営するのは難しいから、誰かの薬局に手伝いに入ってノウハウを学ぶというのも一つの手だ。
桂花がどうなっているんだろうとあれこれ想像を巡らしていると、陽明とばっちり目が合ってしまった。そしてにこりと微笑まれる。しかし、目が笑っていない。
「何も事情を知らされていないようだけど、あの子に話して大丈夫なのかい?」
そしてすっと目を細めて何かを見定めるように見つめてくる。非常に居心地の悪くなるその視線に、桂花は思わず立ち上がりそうになった。場違いだというならば聞くつもりはない。そう思わせられるくらいの冷たさだった。
「駄目です」
しかし、それを法明が手を握って止めてくれた。そのさらっとした動きで手をぎゅっと握られたことに、桂花は思わず顔を真っ赤にしてしまう。
「や、薬師寺さん」
「大丈夫ですよ。緒方さんはうちの従業員なんです。雇うと決めた時点でいずれはお話しすると決めていました。何も不都合はありません」
法明が真っ直ぐに陽明を見て告げる。それに、陽明は面白くなさそうな顔をしたが、先ほどのような居心地の悪くなる目は止めてくれた。しかし、桂花の心臓はまだどきどきとしている。それは当然、法明がまだ手を握っているせいだ。
「薬師寺がそこまで見込んでいるのならば仕方がないね。それに自分から言いたいようだから、俺も直接的な表現は避けることにしよう。依頼を受けてくれるんだったら、そのくらいの妥協はするさ」
「協力して頂けると助かります」
しかし、二人の会話によって法明が何らかの秘密を抱えていることが確定してしまった。ただでさえ、ただでさえあの青年に似ていることが気になるというのに、一体どんな秘密があるというのか。
握ってくれている手はとても温かく、怪しい秘密なんてなさそうだというのに、とてつもなく不安になった。
「では、緒方さんでしたね。よろしくお願いします。まあ、今回は薬師寺の漢方薬の知識を借りたい案件だから、そう危険なことはないよ」
にこっと笑っているのにどこか怪しく感じるのは先ほどの目があるからだろうか。桂花は頷きつつも、この人は要警戒だなと思った。なるほど、あの円でさえ対応が冷たくなるのも解る。そして、危ないことがあったら法明を助けなきゃという気分にもなる。その円を見ると、気を付けるのよと頷き返された。これぞ以心伝心。
「それで、僕の漢方薬の知識を借りたいというのは、どういうことですか。この間は、遠藤さんが絡む案件だとしか聞いていませんが」
「遠藤さん」
先ほどの上司らしい大日さんも解らないのに次は遠藤さん。知らない人の名前が次々に出てくる。法明が抱える秘密とはそれほど大きなものだということか。
「褒めてもらっても何も出ませんよ。そもそも、今回のことはそちらでどうにか出来る案件でしょう。わざわざ僕が出張る必要はないと思うんですよね。どうして巻き込もうとするんですか」
普段は誰に対して穏和な法明も、ついつい愚痴を零してしまうのだから陽明の破壊力は凄いと、桂花は素直に感心してしまう。一体どんな依頼をし続ければこれだけ塩対応になるのか。
「まあ、そういうなよ。確かに普段の依頼は現世利益を追求する薬師寺には合わないかもしれないけどなあ。それでも、現代に生きる人々が困っているんだから手を差し伸べてくれてもいいだろ。それに、そうほいほい君みたいな人がいるわけじゃないし」
「当たり前ですよ。僕だって――ちょっと上から睨まれてるんです。あんまり余計なことはしたくないんですよ」
「んんっ」
しかし、続く会話はこの間と同じく意味不明だった。現世利益って、確か仏教の言葉じゃなかったっけ。どうして神主で陰陽師のこの人からそんな単語が出てくるんだろう。しかも法明がそれを追求しているってどういうことだ。
「ははん。君の上となると大日か。それは大変だ。あの方を怒らせたら、それこそ薬局なんてお取り潰しだろうね」
「そのとおりです。笑い事じゃないんですよ」
さらに、法明はここを個人で経営しているはずなのに、上司がいるらしい。それは薬剤師として先輩ということだろうか。確かにいきなり個人経営するのは難しいから、誰かの薬局に手伝いに入ってノウハウを学ぶというのも一つの手だ。
桂花がどうなっているんだろうとあれこれ想像を巡らしていると、陽明とばっちり目が合ってしまった。そしてにこりと微笑まれる。しかし、目が笑っていない。
「何も事情を知らされていないようだけど、あの子に話して大丈夫なのかい?」
そしてすっと目を細めて何かを見定めるように見つめてくる。非常に居心地の悪くなるその視線に、桂花は思わず立ち上がりそうになった。場違いだというならば聞くつもりはない。そう思わせられるくらいの冷たさだった。
「駄目です」
しかし、それを法明が手を握って止めてくれた。そのさらっとした動きで手をぎゅっと握られたことに、桂花は思わず顔を真っ赤にしてしまう。
「や、薬師寺さん」
「大丈夫ですよ。緒方さんはうちの従業員なんです。雇うと決めた時点でいずれはお話しすると決めていました。何も不都合はありません」
法明が真っ直ぐに陽明を見て告げる。それに、陽明は面白くなさそうな顔をしたが、先ほどのような居心地の悪くなる目は止めてくれた。しかし、桂花の心臓はまだどきどきとしている。それは当然、法明がまだ手を握っているせいだ。
「薬師寺がそこまで見込んでいるのならば仕方がないね。それに自分から言いたいようだから、俺も直接的な表現は避けることにしよう。依頼を受けてくれるんだったら、そのくらいの妥協はするさ」
「協力して頂けると助かります」
しかし、二人の会話によって法明が何らかの秘密を抱えていることが確定してしまった。ただでさえ、ただでさえあの青年に似ていることが気になるというのに、一体どんな秘密があるというのか。
握ってくれている手はとても温かく、怪しい秘密なんてなさそうだというのに、とてつもなく不安になった。
「では、緒方さんでしたね。よろしくお願いします。まあ、今回は薬師寺の漢方薬の知識を借りたい案件だから、そう危険なことはないよ」
にこっと笑っているのにどこか怪しく感じるのは先ほどの目があるからだろうか。桂花は頷きつつも、この人は要警戒だなと思った。なるほど、あの円でさえ対応が冷たくなるのも解る。そして、危ないことがあったら法明を助けなきゃという気分にもなる。その円を見ると、気を付けるのよと頷き返された。これぞ以心伝心。
「それで、僕の漢方薬の知識を借りたいというのは、どういうことですか。この間は、遠藤さんが絡む案件だとしか聞いていませんが」
「遠藤さん」
先ほどの上司らしい大日さんも解らないのに次は遠藤さん。知らない人の名前が次々に出てくる。法明が抱える秘密とはそれほど大きなものだということか。
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