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第25話 水神の影響
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桂花の知る限り、路代は膝が悪い以外は元気な、しゃきしゃきとしたおばあちゃんだ。普段は笑顔が絶えず、冗談を言うのが大好きなおばあちゃん。たまに祖父と一緒に料理を作ってくれることもある。そんな人が、今はしんどそうに横になっている。
「ごめんなさいねえ。やっぱり、寄る年波には勝てなくて、風邪をこじらせちゃったみたいなのよ。もう駄目ねえ。いつお迎えが来てもおかしくないわ」
しかもそんなことまで言い出すのだから、いよいよ大変だと慌ててしまう。昨日の話を聞いた限りでは、桂花は単に傷んだ水を飲んでお腹を壊しただけだろうと考えていたから、弱り切った姿はショックだった。
翌日、陽明に連れられて路代の家に行ってみると、事態は想像以上に深刻なようだった。まず、家の中が妙に湿っていて、不快感を覚える湿度があった。これにも驚かされる。普段は掃除の行き届いた綺麗な家だというのに。
そして路代だ。畳の間に介護ベッドを置いて寝転がる路代は、普段の元気溌剌な様子が想像できないほどに窶れていた。つい二週間前、薬局に湿布をもらいに来た時は元気だったというのに。
「お前たちは路代さんの相手を頼む。俺はその間に原因となっている井戸を祓うから」
陽明はそう言って、路代に会うことはなく家の裏手にあるという井戸へと行ってしまった。だから、路代のいる部屋には桂花と法明、そして弓弦がいた。
さすがに全員が出払ってしまっては薬局の業務が滞るので、円は薬局に残っている。とはいえ、一人で調剤するのは責任問題になるため、薬局自体は休業状態だ。病院から漢方薬に関する問い合わせがあると困るから残っているというのが正しい。他にも溜まっている事務作業を片付けておいてくれるという。
「おばあちゃん、それは年のせいじゃないんですよ。原因は別にあるんです。だからすぐに良くなりますよ」
「まあまあ、先生。嘘はいいのよ。だってもう七十七のおばあちゃんですもの。お迎えが来てもおかしくない年齢なのよ。長生きした方だわ」
法明が元気を出そうと声を掛けても、諦めモードに入って路代はそう言うのだ。普段だったらそうかもねえと笑い飛ばしてくれるはずなのに、何だか鬱々としている。
「これも、その呪いのせいなのかしら。おばあちゃん、普段よりマイナス思考になってるわよ」
どうなの、と桂花は思わず弓弦に確認してしまった。すると、体調が悪いってのが主な原因だろうとすげない。
「まあ、そうなんだろうけど」
でも、絶対にお迎えが来るなんて言わない人だと思うけどなあ。桂花は釈然とせずに唇を尖らせていた。すると、弓弦がデコピンを食らわせてくる。
「いたっ」
「肯定しちゃ駄目なんだよ。ああいうものは、気の動きに影響されるんだ。俺たちが呪いがあると信じれば信じるほど、路代さんは衰弱するぞ。うっかり言葉にするんじゃねえ。言霊って言葉を知らないのか、お前は」
「うっ」
しかし、その後の注意に桂花は尖らせていた唇を両手で押さえていた。危ない。じゃあ、自分のうっかりした発言が路代の寿命を縮めかねないということか。
「そうそう。取り敢えず黙っていろ。俺たちは薬師寺をサポートするだけでいい」
「了解」
桂花は頷くと、望診を始めた法明の様子をじっと観察することにした。望診とは体型や姿勢、身体の動かし方や顔、舌などを観察して診察するやり方で、本来は漢方医のすべき仕事だ。
しかし、今回は呪いという超常現象が関わっているため、それに理解のある法明がピンチヒッターとして行っている形だ。だから、もしも診断書が必要となる場合は、事情を説明して医者に代筆してもらうことになっている。普段から頼りにされているだけあって、そういう特殊事情に対応してくれる医者も多いのだそうだ。それに、医者が正しく呪いに対する処方を決められるとも思えない。
とはいえ、それは法明も同じような気がする桂花だ。あの陽明が信頼するのだからそれなりの知識があるのだろうが、なんだか釈然としない。漢方薬を扱うからか、もともとそういうことに興味のある人だったのだろうか。真面目な法明が呪いをまともに取り扱っていることが不思議で、ますます謎が深まってしまう。
「やはり、身体の気が滞ってしまっていますね。それと、さすがは水神に関わるだけあって、体内の水も滞っています」
それは路代にではなく弓弦に向けて発せられた言葉だ。弓弦は頷くと、すぐさま持って来ていた大きなカバンを開く。そこには様々な漢方薬が少量ずつ詰め込まれていた。カバンの中はさながら簡易の薬局のようだ。
「ごめんなさいねえ。やっぱり、寄る年波には勝てなくて、風邪をこじらせちゃったみたいなのよ。もう駄目ねえ。いつお迎えが来てもおかしくないわ」
しかもそんなことまで言い出すのだから、いよいよ大変だと慌ててしまう。昨日の話を聞いた限りでは、桂花は単に傷んだ水を飲んでお腹を壊しただけだろうと考えていたから、弱り切った姿はショックだった。
翌日、陽明に連れられて路代の家に行ってみると、事態は想像以上に深刻なようだった。まず、家の中が妙に湿っていて、不快感を覚える湿度があった。これにも驚かされる。普段は掃除の行き届いた綺麗な家だというのに。
そして路代だ。畳の間に介護ベッドを置いて寝転がる路代は、普段の元気溌剌な様子が想像できないほどに窶れていた。つい二週間前、薬局に湿布をもらいに来た時は元気だったというのに。
「お前たちは路代さんの相手を頼む。俺はその間に原因となっている井戸を祓うから」
陽明はそう言って、路代に会うことはなく家の裏手にあるという井戸へと行ってしまった。だから、路代のいる部屋には桂花と法明、そして弓弦がいた。
さすがに全員が出払ってしまっては薬局の業務が滞るので、円は薬局に残っている。とはいえ、一人で調剤するのは責任問題になるため、薬局自体は休業状態だ。病院から漢方薬に関する問い合わせがあると困るから残っているというのが正しい。他にも溜まっている事務作業を片付けておいてくれるという。
「おばあちゃん、それは年のせいじゃないんですよ。原因は別にあるんです。だからすぐに良くなりますよ」
「まあまあ、先生。嘘はいいのよ。だってもう七十七のおばあちゃんですもの。お迎えが来てもおかしくない年齢なのよ。長生きした方だわ」
法明が元気を出そうと声を掛けても、諦めモードに入って路代はそう言うのだ。普段だったらそうかもねえと笑い飛ばしてくれるはずなのに、何だか鬱々としている。
「これも、その呪いのせいなのかしら。おばあちゃん、普段よりマイナス思考になってるわよ」
どうなの、と桂花は思わず弓弦に確認してしまった。すると、体調が悪いってのが主な原因だろうとすげない。
「まあ、そうなんだろうけど」
でも、絶対にお迎えが来るなんて言わない人だと思うけどなあ。桂花は釈然とせずに唇を尖らせていた。すると、弓弦がデコピンを食らわせてくる。
「いたっ」
「肯定しちゃ駄目なんだよ。ああいうものは、気の動きに影響されるんだ。俺たちが呪いがあると信じれば信じるほど、路代さんは衰弱するぞ。うっかり言葉にするんじゃねえ。言霊って言葉を知らないのか、お前は」
「うっ」
しかし、その後の注意に桂花は尖らせていた唇を両手で押さえていた。危ない。じゃあ、自分のうっかりした発言が路代の寿命を縮めかねないということか。
「そうそう。取り敢えず黙っていろ。俺たちは薬師寺をサポートするだけでいい」
「了解」
桂花は頷くと、望診を始めた法明の様子をじっと観察することにした。望診とは体型や姿勢、身体の動かし方や顔、舌などを観察して診察するやり方で、本来は漢方医のすべき仕事だ。
しかし、今回は呪いという超常現象が関わっているため、それに理解のある法明がピンチヒッターとして行っている形だ。だから、もしも診断書が必要となる場合は、事情を説明して医者に代筆してもらうことになっている。普段から頼りにされているだけあって、そういう特殊事情に対応してくれる医者も多いのだそうだ。それに、医者が正しく呪いに対する処方を決められるとも思えない。
とはいえ、それは法明も同じような気がする桂花だ。あの陽明が信頼するのだからそれなりの知識があるのだろうが、なんだか釈然としない。漢方薬を扱うからか、もともとそういうことに興味のある人だったのだろうか。真面目な法明が呪いをまともに取り扱っていることが不思議で、ますます謎が深まってしまう。
「やはり、身体の気が滞ってしまっていますね。それと、さすがは水神に関わるだけあって、体内の水も滞っています」
それは路代にではなく弓弦に向けて発せられた言葉だ。弓弦は頷くと、すぐさま持って来ていた大きなカバンを開く。そこには様々な漢方薬が少量ずつ詰め込まれていた。カバンの中はさながら簡易の薬局のようだ。
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