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第29話 適度な距離感が大事
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一件落着となって夕方無事に薬局に戻ると、なぜか書類に埋もれた円の姿があった。こういう人がいない日に限って問い合わせが多かったらしく、あちこちに漢方薬の参考書も広げてあった。
「任せきりにしてすみませんでした。大変だったようですね」
「いえ、大丈夫です。想定外の問い合わせがあっただけですから」
円は変な問い合わせは慎んでもらいたいものですとぼやく。一体どんな問い合わせがあればこんな惨状になるのだろうか。今度、ゆっくり時間のある時に聞こう。桂花は今は止めておこうと、疲れている円に遠慮した。
「そ、そうですか。解決できましたか」
一方、法明は責任者として申し訳なく思っているようだ。今度からスマホに連絡してくれていいからねと労っている。
「それより、今回は大きなトラブルもなく終わったんですね」
「ええ。篠原さんも緒方さんのことを気に入ってくれたようですし、万々歳です」
「いや、そこは違うような気がします」
法明の少しずれた感想に、ごめんねと円が手を合わせる。そんないつもの薬局の光景に、桂花はほっとして笑っていた。先ほどまで非現実的なことが連続していたせいだろう。ようやくいつもの生活に戻ってきた実感が得られていた。
「篠原さんって笑顔がどこか胡散臭くて、初めは陰陽師って何だろうって思ってましたけど、まあまあいい人でしたね」
そして、彩雲を見て眩しそうに笑っていた陽明を思い出す。しかし、その意見にはあまり賛同が得られなかった。それどころか全員の目が心配するものに変わっていた。
「一体何があればそんなに印象が変わるんだよ。まあ、遠藤よりは百倍マシだけどな。でも、あいつも全面的にいい人じゃねえから」
「あんまり気を許さない方がいいわよ。本性は鬼畜なんだから」
弓弦と円はびっくりするぐらいきつく隙を作るなと注意してくるし
「警戒心を解いていただいたのは嬉しいですが、適度な距離感が大事です」
と法明まで大真面目に言ってくるのだった。やっぱり疫病神なのか。それに思わず吹き出してしまった桂花だったが
「注意します」
と元気よく返事をしていた。
だって、この蓮華薬師堂が大好きだから。ここを守るためだったら、陽明を追っ払うのにだって協力しちゃう。そんな桂花の心の声が透けていたのか、他の三人もくすくすと笑い出すのだった。
「雨が多いと憂鬱ですねえ。じめじめしているのも鬱陶しいですし、薬局への行き来が面倒になるのか、患者さんも減りますし」
「そうだな。でもまあ、こういう暇な時間もないとこっちも疲れるし、こういう空き時間がないと薬品棚の整理をする時間も取れないだろ。調剤ミスはしていないが、意外とごちゃごちゃになるんだよな」
「そうですね」
そんな会話を弓弦としつつ、蓮華薬師堂ではただ今棚卸の真っ最中だった。とはいえ、営業時間中にやっているので、円が受付に待機しながら、チェックされた個数をパソコンに打ち込んでいた。
そして弓弦が指摘したように、毎回のようにちゃんと数の確認をしているとはいえ、薬の端数が隣の棚に紛れ込んでいることもしばしば。中には名称が似ていたせいか、違う薬品に混ざってしまっていることがある。これは調剤をする時に危険だ。
「名前が似ているから違う場所にあるなんてのは、今までになかったミスだぞ。犯人の九十九パーはお前だろ」
「うっ」
普段ならば咄嗟に反論できるが、こればかりは反論できないところだ。まだまだ薬剤師として新米の桂花は、よく置き間違いをしているのだ。忙しい状況で焦ってしまっているのが理由だろう。患者に渡す時は二重チェックを経ているので、違う薬が渡ることはない。しかし、薬を棚に戻すところにはチェックがないものだから、桂花のうっかりミスが発生しやすかった。
しかもだ。何と言っても漢方薬も豊富なこの薬局はそれはもう種類が多く、漢方用の百味箪笥に西洋薬品の棚と、薬品棚も所狭しと置かれている。それが言い訳にしかならないのは解っているが、よくミスをしている。自覚している。そして、それをこそっと法明や円が元に戻してくれているのも、実は知っている。
「任せきりにしてすみませんでした。大変だったようですね」
「いえ、大丈夫です。想定外の問い合わせがあっただけですから」
円は変な問い合わせは慎んでもらいたいものですとぼやく。一体どんな問い合わせがあればこんな惨状になるのだろうか。今度、ゆっくり時間のある時に聞こう。桂花は今は止めておこうと、疲れている円に遠慮した。
「そ、そうですか。解決できましたか」
一方、法明は責任者として申し訳なく思っているようだ。今度からスマホに連絡してくれていいからねと労っている。
「それより、今回は大きなトラブルもなく終わったんですね」
「ええ。篠原さんも緒方さんのことを気に入ってくれたようですし、万々歳です」
「いや、そこは違うような気がします」
法明の少しずれた感想に、ごめんねと円が手を合わせる。そんないつもの薬局の光景に、桂花はほっとして笑っていた。先ほどまで非現実的なことが連続していたせいだろう。ようやくいつもの生活に戻ってきた実感が得られていた。
「篠原さんって笑顔がどこか胡散臭くて、初めは陰陽師って何だろうって思ってましたけど、まあまあいい人でしたね」
そして、彩雲を見て眩しそうに笑っていた陽明を思い出す。しかし、その意見にはあまり賛同が得られなかった。それどころか全員の目が心配するものに変わっていた。
「一体何があればそんなに印象が変わるんだよ。まあ、遠藤よりは百倍マシだけどな。でも、あいつも全面的にいい人じゃねえから」
「あんまり気を許さない方がいいわよ。本性は鬼畜なんだから」
弓弦と円はびっくりするぐらいきつく隙を作るなと注意してくるし
「警戒心を解いていただいたのは嬉しいですが、適度な距離感が大事です」
と法明まで大真面目に言ってくるのだった。やっぱり疫病神なのか。それに思わず吹き出してしまった桂花だったが
「注意します」
と元気よく返事をしていた。
だって、この蓮華薬師堂が大好きだから。ここを守るためだったら、陽明を追っ払うのにだって協力しちゃう。そんな桂花の心の声が透けていたのか、他の三人もくすくすと笑い出すのだった。
「雨が多いと憂鬱ですねえ。じめじめしているのも鬱陶しいですし、薬局への行き来が面倒になるのか、患者さんも減りますし」
「そうだな。でもまあ、こういう暇な時間もないとこっちも疲れるし、こういう空き時間がないと薬品棚の整理をする時間も取れないだろ。調剤ミスはしていないが、意外とごちゃごちゃになるんだよな」
「そうですね」
そんな会話を弓弦としつつ、蓮華薬師堂ではただ今棚卸の真っ最中だった。とはいえ、営業時間中にやっているので、円が受付に待機しながら、チェックされた個数をパソコンに打ち込んでいた。
そして弓弦が指摘したように、毎回のようにちゃんと数の確認をしているとはいえ、薬の端数が隣の棚に紛れ込んでいることもしばしば。中には名称が似ていたせいか、違う薬品に混ざってしまっていることがある。これは調剤をする時に危険だ。
「名前が似ているから違う場所にあるなんてのは、今までになかったミスだぞ。犯人の九十九パーはお前だろ」
「うっ」
普段ならば咄嗟に反論できるが、こればかりは反論できないところだ。まだまだ薬剤師として新米の桂花は、よく置き間違いをしているのだ。忙しい状況で焦ってしまっているのが理由だろう。患者に渡す時は二重チェックを経ているので、違う薬が渡ることはない。しかし、薬を棚に戻すところにはチェックがないものだから、桂花のうっかりミスが発生しやすかった。
しかもだ。何と言っても漢方薬も豊富なこの薬局はそれはもう種類が多く、漢方用の百味箪笥に西洋薬品の棚と、薬品棚も所狭しと置かれている。それが言い訳にしかならないのは解っているが、よくミスをしている。自覚している。そして、それをこそっと法明や円が元に戻してくれているのも、実は知っている。
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