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第48話 馬頭観音乱入!?
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「悩み、苦しめ。その分、お前の力は弱まっていく。悟りを開いたものが惑うなど、笑止千万だからな」
目の前には禍事に使用する祭壇がある。本来あるべき清らかなものは一切なく、総てが朽ち果て、腐臭を発している。そしてその真ん中にあるのは、こっそりと抜き取った桂花の髪の毛数本が置かれていた。
「とはいえ、遊びもこれまで。そろそろ始めようか。人間に入れ込む如来と菩薩が去った気配はないからな。しかも、あの憎き陽明が何かをする様子もない。さて、どうするつもりなのか。気にはなるが好機でもある」
結界を破ろうとすることは見えている。しかし、それだけでは解決しないことは、千年以上の因縁がある陽明ならば解っている。だから何らかの呪法を放ってくるだろうと待っているのだが、一向にその気配がないことに驚かされる。
「まあいい」
術の発動を感じ取ればすぐにあの女を呪うてやろうと思っていたが、少々計画を変更するまでだ。紫門は整えた祭壇を前に腕を組んで座ったままだが、もう待つ必要もないだろうと印を組む。
そもそも、あの紛れ込んで来た十二神将は遠くへと弾き飛ばしたから、結界があったことはすでに知っているはずだ。いずれ何らかの対策を打ってくるに違いない。正面からぶつかるのも一興だが、今回は薬師如来を追い出すことが目的。あまり陽明とは遊んでいられない。
「っつ」
そんなことを考え、祭文の冒頭を口にしようとしたまさにその時、空間がずううんっと音を立てて揺れた。陽明の呪法が始まったようだ。
「相変わらず勘がいい。場所を特定したのか。だが」
普段と何かが違う。奴の呪法はこの千年で嫌というほど知っている。時代に合わせてどれほど進化しようと、その中心にある呪術が変わることはない。だがしかし、今起ころうとしていることは、何かが違うように思う。
「まさか」
「ふっ。小癪な法師陰陽師とは主か」
驚く紫門の前に、あの禍事の祭壇からかっと金色の光が放たれた。それと同時に祭壇が音を立てて割れ、中心には大柄な男が現れる。筋骨隆々、纏うのは薄布。右手には剣を携えている。そんな男が、割れた祭壇を踏み台にして立っている。呪いの準備はたったそれだけで無に帰した。
「なっ」
「我が同僚を惑わすとは笑止千万の所業。きっちり、吾輩が六道とは何かを教えて進ぜよう」
大柄な男、憤怒の表情をするその男の正体を紫門は知っている。しかし、まさかこの場にやって来るとは思いもしなかった。いや、あの薬師如来が他の仏を現世に召喚できるとは、これっぽっちも考えていなかった。
「馬頭観音。なぜここに」
「いかにも。我が名は馬頭観音。その役目は衆生の無智を正し、煩悩を消し去ることにある。だが、薬師のあんな顔を見ては一喝するのは酷であろう。それに一途な気持ちが生んだこと。一肌脱がぬわけにはいかんのでな。この世に未練を残す主に、我が求道を説いて進ぜよう」
憤怒のままに、口の端をにやりと上げて器用に笑ってみせる馬頭観音だ。その姿を前に、紫門はマジかよと苦笑いを浮かべるしかない。だが、次の瞬間にはぎりっと歯を噛んだ。
「まさか、この展開に持ち込むとはな」
他の仏の力を借りるなんてあり得ないはずだった。そんな大胆な方法を、あの気弱な薬師如来が取るはずがない。ただでさえ彼は、現世に薬局を開くというだけで大日如来に睨まれている。無謀な作戦は立てられないはずだ。
「そうか」
それなのにこの方法が可能だったということは、あの陽明が仲介したからに違いなかった。今や神の位を持つあの男ならば、大日如来への直訴は可能だっただろう。
「忌々しき宮廷陰陽師は、神になった今もなお宮仕えをしているというわけか」
「そう表現することもできるな。だが、何事も正しく生きるというのは強いというだけだ」
馬頭観音はずうんっと足を一歩踏み出すと
「さて、説法の時間だ」
そう言いつつ、持っていた宝剣をきりっと構えたのだった。
「なっ、何なの。一体何の音」
必死に飴の成分を考えることで現実逃避していた桂花の耳に、ずうんという地鳴りやどおおんという轟音が飛び込んで来た。僅かだが部屋が振動するのも感じる。この部屋の外で何かが起こっているのは確かだ。
「と、ともかく壁際にいるのは危なそう。ああでも、屋根が落ちてきたら一緒か。ううん、でも、何が起こっているか解らないし」
桂花はそそくさと部屋の中心に移動すると、地震の時のように身を屈めて頭を守るべくカバンを引き寄せていた。しかし、僅かな揺れや大きな音は続いているものの、この部屋に何かが飛び込んでくるようなことはなかった。
目の前には禍事に使用する祭壇がある。本来あるべき清らかなものは一切なく、総てが朽ち果て、腐臭を発している。そしてその真ん中にあるのは、こっそりと抜き取った桂花の髪の毛数本が置かれていた。
「とはいえ、遊びもこれまで。そろそろ始めようか。人間に入れ込む如来と菩薩が去った気配はないからな。しかも、あの憎き陽明が何かをする様子もない。さて、どうするつもりなのか。気にはなるが好機でもある」
結界を破ろうとすることは見えている。しかし、それだけでは解決しないことは、千年以上の因縁がある陽明ならば解っている。だから何らかの呪法を放ってくるだろうと待っているのだが、一向にその気配がないことに驚かされる。
「まあいい」
術の発動を感じ取ればすぐにあの女を呪うてやろうと思っていたが、少々計画を変更するまでだ。紫門は整えた祭壇を前に腕を組んで座ったままだが、もう待つ必要もないだろうと印を組む。
そもそも、あの紛れ込んで来た十二神将は遠くへと弾き飛ばしたから、結界があったことはすでに知っているはずだ。いずれ何らかの対策を打ってくるに違いない。正面からぶつかるのも一興だが、今回は薬師如来を追い出すことが目的。あまり陽明とは遊んでいられない。
「っつ」
そんなことを考え、祭文の冒頭を口にしようとしたまさにその時、空間がずううんっと音を立てて揺れた。陽明の呪法が始まったようだ。
「相変わらず勘がいい。場所を特定したのか。だが」
普段と何かが違う。奴の呪法はこの千年で嫌というほど知っている。時代に合わせてどれほど進化しようと、その中心にある呪術が変わることはない。だがしかし、今起ころうとしていることは、何かが違うように思う。
「まさか」
「ふっ。小癪な法師陰陽師とは主か」
驚く紫門の前に、あの禍事の祭壇からかっと金色の光が放たれた。それと同時に祭壇が音を立てて割れ、中心には大柄な男が現れる。筋骨隆々、纏うのは薄布。右手には剣を携えている。そんな男が、割れた祭壇を踏み台にして立っている。呪いの準備はたったそれだけで無に帰した。
「なっ」
「我が同僚を惑わすとは笑止千万の所業。きっちり、吾輩が六道とは何かを教えて進ぜよう」
大柄な男、憤怒の表情をするその男の正体を紫門は知っている。しかし、まさかこの場にやって来るとは思いもしなかった。いや、あの薬師如来が他の仏を現世に召喚できるとは、これっぽっちも考えていなかった。
「馬頭観音。なぜここに」
「いかにも。我が名は馬頭観音。その役目は衆生の無智を正し、煩悩を消し去ることにある。だが、薬師のあんな顔を見ては一喝するのは酷であろう。それに一途な気持ちが生んだこと。一肌脱がぬわけにはいかんのでな。この世に未練を残す主に、我が求道を説いて進ぜよう」
憤怒のままに、口の端をにやりと上げて器用に笑ってみせる馬頭観音だ。その姿を前に、紫門はマジかよと苦笑いを浮かべるしかない。だが、次の瞬間にはぎりっと歯を噛んだ。
「まさか、この展開に持ち込むとはな」
他の仏の力を借りるなんてあり得ないはずだった。そんな大胆な方法を、あの気弱な薬師如来が取るはずがない。ただでさえ彼は、現世に薬局を開くというだけで大日如来に睨まれている。無謀な作戦は立てられないはずだ。
「そうか」
それなのにこの方法が可能だったということは、あの陽明が仲介したからに違いなかった。今や神の位を持つあの男ならば、大日如来への直訴は可能だっただろう。
「忌々しき宮廷陰陽師は、神になった今もなお宮仕えをしているというわけか」
「そう表現することもできるな。だが、何事も正しく生きるというのは強いというだけだ」
馬頭観音はずうんっと足を一歩踏み出すと
「さて、説法の時間だ」
そう言いつつ、持っていた宝剣をきりっと構えたのだった。
「なっ、何なの。一体何の音」
必死に飴の成分を考えることで現実逃避していた桂花の耳に、ずうんという地鳴りやどおおんという轟音が飛び込んで来た。僅かだが部屋が振動するのも感じる。この部屋の外で何かが起こっているのは確かだ。
「と、ともかく壁際にいるのは危なそう。ああでも、屋根が落ちてきたら一緒か。ううん、でも、何が起こっているか解らないし」
桂花はそそくさと部屋の中心に移動すると、地震の時のように身を屈めて頭を守るべくカバンを引き寄せていた。しかし、僅かな揺れや大きな音は続いているものの、この部屋に何かが飛び込んでくるようなことはなかった。
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