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第52話 これで解決!?
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「ふむ。それに現世を知るという主の願いとしても、現世で嫁を娶って生涯を添い遂げてみるというのも一つの手かもしれぬぞ。いいなあ。今から祝言だが楽しみだ」
しかも、馬頭観音は紫門のことなんて忘れてしまったかのように、朗らかにそんなことを付け足す。まさに火に油を注ぐ行為だ。
「っつ」
現世から追い出したい紫門を前に何を言ってるんだ。ああっ、キレたな。弓弦は気づいてぐぐっと刀を持つ手に力を入れた。しかし、それをも弾き飛ばすだけの力を紫門は持っていた。
「どいつもこいつも、俺の邪魔をするなあ」
「ぐっ」
キンという鋭い音を立てて弓弦の刀が弾き飛ばされる。と同時に空気を切り裂くように何かが一閃する。弓弦はそれにぎりぎり反応し、危ないと距離を取るのがやっとだった。しかし、胸元をざっくりと切られて着物が駄目になる。
「ああっ、くそっ。これはあの篠原から借りたやつなのに」
邪魔になった上を脱ぎ捨て上半身裸になりつつ、弓弦は思わず悪態を吐いた。あの男のことだ。後で絶対に弁償しろと迫られる。それが嫌だ。
「弓弦。大丈夫です。お金は僕が出しますから」
「いいや。ここはあいつに屈服してなるか。びた一文たりとも払いたくない。というよりだな。くそ陰陽師。いい加減に高みの見物を止めて出て来い。こいつはお前の対だろ。薬師に任せっきりにするんじゃない。しかもお前が召喚した馬頭観音のせいで話がややこしくなってんだぞ。何とかしろ」
「くそとは心外ですね」
仏と人の戦いという面白い展開が続くと思ったのに。陽明は面白がっていたことを隠しもせずににやにや笑いつつ部屋に現れた。そして仕方がないですねと法明を背に庇うように立つ。
「安倍晴明」
「今は篠原陽明ですけどね。道満」
「だったらこちらとて遠藤紫門だ」
互いに無意味な意地の張り合い。これもまた平安から続くどうしようもないライバル関係がなせること。しかし、互いの口元にあるのは笑みだ。
「まあ、生来の姿になっている以上は晴明でいいですけどね。道満、その名前を否定したいあなたにとっては不都合でしょ」
「くっ」
その名前で呼んでいいのかなと、陽明はにやにやと笑っている。
ここで戦って、万が一にでも安倍晴明が消える結果になれば、同時に道満だって消えることになるのだ。それを知っているからこそ、晴明は余裕綽々の態度でいられる。こんな関係になってしまうのも、結局のところ、素直な神仏よりもこの陰陽師の方が数段性質が悪いせいだというのは認めなければならないところだ。
そう、二人は対であり陰陽の関係にある。それは平安の頃からずっと続く関係であり、それがあるからこそ、二人は今もなお対立し続ける。この京を守る立場であり陽の力を持つ安倍晴明と、この京を破壊しようとする立場であり陰の力を持つ道満。どちらが欠けても、この場所の均衡を崩してしまう。この町を、この国を破壊するだけの力になってしまう。
しかし、だからこそ永遠と戦いは続き、神となっても晴明が道満を消せない理由にもなっていた。片方が欠けては駄目だということは、道満は自らの半身のようなもの。彼もまた安倍晴明という神を構成する要素の一つなのだ。
さらに何度も対立関係が物語として描かれ、それが強固になっているからこそ、ますますどちらも消えられない。消えることがない。だからずっと、二人は現世に仮の姿を得て戦い続ける。
「皮肉なものだよね。君が俺に掛けた呪いが、ずっと現世にまで残っている。君を抹殺することが出来ない。互いが結び続ける運命にある。でも、もう二度と互いに殺せない」
そこでにやりと晴明は笑った。かつて一度だけ後れを取って死にかけたことがある。それが今もなお、この身に残っていることを声明は知っているのだ。
「ふん。確かにな。今の状態では昔のようにお前を殺すことが出来ない。泰山府君に許しを請うまでもなく、お前だけが存在し続けることになる。憎々しい。お前が安倍晴明として立ち塞がっている時、今の俺は無力だ。それを知っていてその姿で出てくるとは、腹の立つ奴だ。俺に咄嗟に名前を呼ばせるためだったんだろ」
晴明の言わんとすることが解る道満は負けを認めると、忌々しそうに鼻を鳴らして身を翻した。それだけで、道満の姿がその場から消える。と同時に、いた空間までもが消えた。そして切り替わった風景は
「おや」
「ええっ」
なんと、光琳寺の本堂の中だった。桂花も含めて全員が、薬師如来像の前にぽんっと放り出されていた。おかげで投げ出された勢いそのまま、どたっと全員がその場で転んでしまう。
「いたっ」
「篠原、退けよ。重い」
弓弦の上に見事に落ちた陽明は、すぐに立ち上がることなくにやにやと笑っている。
「いいじゃないですか。おかげで怪我をせずに済みました」
「てめえ」
「これで着物代はチャラですよ」
「ふざけんな」
すぐに言い合いを始める弓弦と陽明の言葉で、ようやく無事に現実に戻ったんだと桂花は気づいてほっとしてしまう。その横には、同じくほっとする法明の姿があって、お互いに微笑み合ってしまった。
「終わったんですね」
「ええ」
「いやはや、皆さんお揃いですか」
しかし、呑気に和んでいる場合ではなかった。この場には一人、別の人物がいたのだ。
「お、お祖父ちゃん」
「おかえり」
「た、ただいま」
昼のお勤めに励んでいた龍玄は、急に現れた桂花たちに驚いたものの、よかったですねと笑っている。それに対し、桂花は挨拶を返すことしか出来ず、他の面々は気まずそうにあらぬ方向を向くことしか出来なかった。
しかも、馬頭観音は紫門のことなんて忘れてしまったかのように、朗らかにそんなことを付け足す。まさに火に油を注ぐ行為だ。
「っつ」
現世から追い出したい紫門を前に何を言ってるんだ。ああっ、キレたな。弓弦は気づいてぐぐっと刀を持つ手に力を入れた。しかし、それをも弾き飛ばすだけの力を紫門は持っていた。
「どいつもこいつも、俺の邪魔をするなあ」
「ぐっ」
キンという鋭い音を立てて弓弦の刀が弾き飛ばされる。と同時に空気を切り裂くように何かが一閃する。弓弦はそれにぎりぎり反応し、危ないと距離を取るのがやっとだった。しかし、胸元をざっくりと切られて着物が駄目になる。
「ああっ、くそっ。これはあの篠原から借りたやつなのに」
邪魔になった上を脱ぎ捨て上半身裸になりつつ、弓弦は思わず悪態を吐いた。あの男のことだ。後で絶対に弁償しろと迫られる。それが嫌だ。
「弓弦。大丈夫です。お金は僕が出しますから」
「いいや。ここはあいつに屈服してなるか。びた一文たりとも払いたくない。というよりだな。くそ陰陽師。いい加減に高みの見物を止めて出て来い。こいつはお前の対だろ。薬師に任せっきりにするんじゃない。しかもお前が召喚した馬頭観音のせいで話がややこしくなってんだぞ。何とかしろ」
「くそとは心外ですね」
仏と人の戦いという面白い展開が続くと思ったのに。陽明は面白がっていたことを隠しもせずににやにや笑いつつ部屋に現れた。そして仕方がないですねと法明を背に庇うように立つ。
「安倍晴明」
「今は篠原陽明ですけどね。道満」
「だったらこちらとて遠藤紫門だ」
互いに無意味な意地の張り合い。これもまた平安から続くどうしようもないライバル関係がなせること。しかし、互いの口元にあるのは笑みだ。
「まあ、生来の姿になっている以上は晴明でいいですけどね。道満、その名前を否定したいあなたにとっては不都合でしょ」
「くっ」
その名前で呼んでいいのかなと、陽明はにやにやと笑っている。
ここで戦って、万が一にでも安倍晴明が消える結果になれば、同時に道満だって消えることになるのだ。それを知っているからこそ、晴明は余裕綽々の態度でいられる。こんな関係になってしまうのも、結局のところ、素直な神仏よりもこの陰陽師の方が数段性質が悪いせいだというのは認めなければならないところだ。
そう、二人は対であり陰陽の関係にある。それは平安の頃からずっと続く関係であり、それがあるからこそ、二人は今もなお対立し続ける。この京を守る立場であり陽の力を持つ安倍晴明と、この京を破壊しようとする立場であり陰の力を持つ道満。どちらが欠けても、この場所の均衡を崩してしまう。この町を、この国を破壊するだけの力になってしまう。
しかし、だからこそ永遠と戦いは続き、神となっても晴明が道満を消せない理由にもなっていた。片方が欠けては駄目だということは、道満は自らの半身のようなもの。彼もまた安倍晴明という神を構成する要素の一つなのだ。
さらに何度も対立関係が物語として描かれ、それが強固になっているからこそ、ますますどちらも消えられない。消えることがない。だからずっと、二人は現世に仮の姿を得て戦い続ける。
「皮肉なものだよね。君が俺に掛けた呪いが、ずっと現世にまで残っている。君を抹殺することが出来ない。互いが結び続ける運命にある。でも、もう二度と互いに殺せない」
そこでにやりと晴明は笑った。かつて一度だけ後れを取って死にかけたことがある。それが今もなお、この身に残っていることを声明は知っているのだ。
「ふん。確かにな。今の状態では昔のようにお前を殺すことが出来ない。泰山府君に許しを請うまでもなく、お前だけが存在し続けることになる。憎々しい。お前が安倍晴明として立ち塞がっている時、今の俺は無力だ。それを知っていてその姿で出てくるとは、腹の立つ奴だ。俺に咄嗟に名前を呼ばせるためだったんだろ」
晴明の言わんとすることが解る道満は負けを認めると、忌々しそうに鼻を鳴らして身を翻した。それだけで、道満の姿がその場から消える。と同時に、いた空間までもが消えた。そして切り替わった風景は
「おや」
「ええっ」
なんと、光琳寺の本堂の中だった。桂花も含めて全員が、薬師如来像の前にぽんっと放り出されていた。おかげで投げ出された勢いそのまま、どたっと全員がその場で転んでしまう。
「いたっ」
「篠原、退けよ。重い」
弓弦の上に見事に落ちた陽明は、すぐに立ち上がることなくにやにやと笑っている。
「いいじゃないですか。おかげで怪我をせずに済みました」
「てめえ」
「これで着物代はチャラですよ」
「ふざけんな」
すぐに言い合いを始める弓弦と陽明の言葉で、ようやく無事に現実に戻ったんだと桂花は気づいてほっとしてしまう。その横には、同じくほっとする法明の姿があって、お互いに微笑み合ってしまった。
「終わったんですね」
「ええ」
「いやはや、皆さんお揃いですか」
しかし、呑気に和んでいる場合ではなかった。この場には一人、別の人物がいたのだ。
「お、お祖父ちゃん」
「おかえり」
「た、ただいま」
昼のお勤めに励んでいた龍玄は、急に現れた桂花たちに驚いたものの、よかったですねと笑っている。それに対し、桂花は挨拶を返すことしか出来ず、他の面々は気まずそうにあらぬ方向を向くことしか出来なかった。
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