縁は奇なもの素敵なもの~願孝寺茶話室~

渋川宙

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第30話 何か大きな音が

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 お風呂から上がり、千鶴と琴実は脱衣所を出たところにあった自販機でフルーツ牛乳を買って堪能していた。
「ああ、おいしい。風呂上がりにフルーツ牛乳を考えた人、最強よね」
「解る。でも、コーヒー牛乳も外しがたいわ」
「確かに」
 そう言って一通り盛り上がり、時計を見てびっくりしてしまった。すでに十一時を過ぎている。すっかり長湯してしまったことに、今になって気づいた。
「しまった。がっくん放置しちゃってる」
「本当だ。まあ、あの子はあの子で好き勝手にやってるでしょうけど」
「まあ、そうだけどさ。旅館に一人って切なくない?」
「それもそうね」
 二人は瓶を返却ボックスに入れると立ち上がった。いくら遠慮せずと言われていたとはいえ、これはゆっくりしすぎた。がっくんは望月の間の露天風呂に入っただろうか。いや、朝風呂にすると言っていたっけ。そんなことを思いつつ、そそくさと大浴場を後にする。
「やっぱり静かだねえ」
「そうね。ここに泊まるくらいだから、お客さんもお上品な人ばかりなのよ。百萌だっておしとやかなお嬢様って感じだし」
 千鶴は百萌の姿を思い浮かべ、この旅館にぴったりの雰囲気の人だなと改めて思った。初めて喫茶店で喋った時もお嬢様と感じたが、この雰囲気に包まれて育ったのならば、さもありなんと思える。
「確かにね。というか、願孝寺に行かなければ出会わなかった人よね。三年で同じクラスになったとしても、喋らなさそう」
「ああ、確かに。こういうのを縁っていうんだっけ。あの亮翔さんが取り持ったと思うと、腹が立つんだけど」
「もう、まだ言ってる。それってもう恋してるレベルよ」
「な、何を言い出すのよ。相手はくそ坊主で腹黒坊主よ」
 千鶴はあり得ないからと断言。イケメンかもしれないけど、顔はいいかもしれないけど最悪だからとぶつぶつ呟く。
「千鶴。悪口のバリエーションが増えてるわよ」
 ちょっと突いてみただけなのに、まさか悪口が増えていたとはと琴実は目を丸くする。それにしても、未だ第一印象を拭えないとは、亮翔も悪い気がしてくる。なんだか砕けた言葉遣いになって、年相応のお兄さんという感じになっているのに、大人げない話だ。
「いや、でもこの場合、どっちが悪いのかしら」
「舌打ちした奴が悪いに決まってるでしょ」
「はいはい」
 だからそれをどれだけ根に持つのよと琴実は笑ってしまう。結局それって気になる相手だからずっと引きずっているわけでしょと思うのだが、千鶴は断固として認めたくないらしい。
「それに亮翔さんって、住職のお嬢さんの美希さんに未練たらたらだし。人の顔を見て何度驚くわけ。最悪でしょ」
「ああ、なるほど。本命がすでにいるのか。ううん、でも大丈夫よ。その人は遠くにいて、千鶴は近くにいる。勝算あるわ」
「いや、だからね。好きじゃないから」
 そんな会話を、ヒソヒソ声で続けながら廊下を進む。しんと静まり返っていることと、夜も遅いことから遠慮しているのだ。とはいえ、そこは女子高生。遠慮しているようでまあまあ大きな声が出ているのを、本人たちだけが気づいていない。
「ん?」
 そんな声のせいか、がたんと大きな音がどこからか聞こえた。ついでにバタバタという音もする。いったい何だろう。
「今、明らかに慌てているような音がしなかった?」
「したね」
 いったいどこからと思っていると、音は廊下の奥から聞こえてくる。ということは――あの泥棒かと、すっかり安心しきっていただけに気づくのがしばらく遅れた。楽しくて最初に感じた恐怖も忘れていて、さらに亮翔が荷物には興味がないと言っていたのですっかり安心してしまっていた。
「がっくん!」
「大丈夫かしら」
 二人は大慌てで望月の間に戻ろうとした。しかし、その前にひょっこり望月の間からがっくんが顔を出す。
「ねえ、今」
「がっくん、無事」
「うん。って、音は?」
「あれ、じゃあ、望月の間じゃないの」
 がっくんも物音を聞きつけ、そして望月の間ではないとすれば。三人の視線は自然と横の十六夜の間に集まる。考えてみれば、あの怪しい男を見たのもこの十六夜の間だ。
「先生!」
「亮翔さん!」
 三人は慌てて十六夜の間のドアを開けようとしたが、鍵が閉まっていてがたんと音がしただけだった。すると、部屋の中からドタバタと走る足音が響く。どうやら泥棒が入り込んでいるらしい。
「なんでどっちも反応しないの?」
「まさか縛り上げられているとか」
「ちょっと大変じゃない」
 ぎゃあぎゃあドアの前で騒いでいたら
「お前ら、何をしてるんだ?」
 なんと、中にいると思い込んでいた亮翔がやってきた。あれっと思うと同時に、緊急事態であることは確実になる。
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