縁は奇なもの素敵なもの~願孝寺茶話室~

渋川宙

文字の大きさ
34 / 53

第34話 失恋の真相

しおりを挟む
 千鶴はソファに寝ころびながら行きたくないと、テーブルに置かれたお供え物を睨む。しかも用意したのが祖父の雅彦ならば、どうしてそのまま願孝寺に届けなかったのか。そこも不満だ。
「何よ。一緒に温泉まで行ったんだから、舌打ち事件の真相は解ったんじゃないの」
「解らないわよ。まあ、私が元カノにそっくりで、未練たらたらが原因みたいだけど」
「ふうん。やっぱり女性関係で揉めてお坊さんになったのか。イケメンは大変ねえ」
 千秋は早く持ってってよと言いつつ亮翔に興味津々だ。しかし、その言葉に千鶴は引っ掛かりを覚える。女性関係が原因で坊主になったのは解る。でも、亮翔が未練を持っているのは住職である恭敬の娘の美希だ。もし美希と何かあってお坊さんになったのならば、どうして願孝寺にいるのか。
「ねえ。その願孝寺は元カノの実家なのに、そこのお坊さんになるって、失恋した割には矛盾した行動じゃない?」
 疑問をそのまま口にすると、千秋は目をぱちくりさせた。それは知らなかったらしい。
「あらやだ。そのお坊さんの恋のお相手はあそこのお嬢さんだったの。本当ねえ。不思議な話よね。でも、ほら、あそこのお嬢さんと奥さんはあれだから」
「あれって」
 そういえば、初めて願孝寺に相談に行く時も、千秋は何か言いかけていなかったか。そうだ、恭敬が大変だという話をしていた。いったい何があったのかと千鶴は首を傾げると、覚えてないのかと千秋に驚かれた。
「覚えてないって」
「ああ、でもあれって六年前のことだものね。千鶴は小学生だったわね。じゃあ、覚えてなくて当然よね」
「えっ」
 全く話の展開が見えないと千鶴は首を傾げる。たまに千秋の話は要領を得ないが、今日は一段と意味不明だ。千鶴が説明してよと身体を起こすと、千秋もソファに座った。
「六年前、あそこのお嬢さんと住職の奥さんが乗った飛行機が、太平洋上で行方不明になったの。海外旅行に出かけて、その飛行機に乗ったらしいんだけどね。レーダーから突如消えてしまったのよ。それ以来、あそこは住職の恭敬さんただ一人になってしまってね。そりゃあ事務を手伝ってくれる人や修行に来るお坊様はいらっしゃったけど、寂しい思いをされていたはずよ。だから今回、新しく住み込みでお坊さんがいらっしゃって、その方がイケメンだからって話題になったっていうわけ」
「へえ」
 それで千鶴の耳にもイケメンのお坊さんが来たという話が入ったというわけか。六年間、一人だったところに亮翔を迎え入れた。でも、その人は行方不明の美希と付き合っていた彼氏でって、話がますますややこしくなったぞ。千鶴は頭を抱えてしまう。
「私は美希さんと直接会ったことはないけど、美人だったって話よ。まさかあなたとそっくりに見えるだなんて」
 信じられないわと、母親としてひどい感想を述べてくれる千秋だ。しかし、そうなると恭敬のように驚くのは解るとしてどうして舌打ち。ますます謎だ。千鶴はもやもやしてしまう。
「ほら。行きたくなったでしょ。行ってらっしゃい」
 そんな首を傾げる千鶴に、話しかけるチャンスよと千秋はお供え物を押し付けてくる。まあ、そんな話を聞いてしまっては気になるので行くしかないか。
「解ったわよ、まったく」
 しかし、どうやって話題を切り出せばいいのか。千鶴はお供え物を持って玄関を出たまではいいが、美希のことを亮翔に問い質せるわけないじゃないかと、また頭を抱えてしまうのだった。



 千鶴がお供え物を持たされて家を出た頃、願孝寺では怒鳴り声が響いていた。
「この馬鹿弟子が」
「煩いですね。いきなり来て馬鹿弟子ってなんですか?」
「まあまあ。落ち着いて」
 睨み合うのは細い身体ながらも重々しい空気を纏う僧侶と亮翔だ。それを苦笑しつつ止めるのが恭敬である。場所は本堂。そこで三人は向かい合っていたのだが、話が美希のことに及んで亮翔と睨み合う僧侶が怒鳴るという結果になった。
 この僧侶、亮翔を馬鹿弟子と呼んでいるように師匠である。高野山にある寺院の一つに属する僧で、名を高倉春成たかくらしゅんせいという。年齢は恭敬より僅かに上の六十だ。
「寺に修行に来た頃もうじうじうじうじ考え込んでおったが、まだ囚われたままだったとは。情けない。今すぐ八十八か所巡礼して来い」
「嫌ですよ。その修行で何とかなるような悩みではないです」
「少なくとも美希さんの菩提を弔うことにはなるぞ」
「――」
 黙り込んで明らかにむっとした顔をする亮翔に、春成はああ情けないと、わざとらしく額を叩く。それに亮翔はますますむすっとする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...