僕と変人の交遊録―赤松礼詞は超偏屈科学者―

渋川宙

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第15話 礼詞は偏屈だよ

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 大学を抜け出すというのは、そう簡単ではなかった。なにより路人は教授だ。しかも様々なプロジェクトを抱えている。
「あんまり迷惑を掛けたくない、ってのは無理だよな」
 脱走計画を着々と練りつつも、思うのはそれだった。しかし、礼詞がいるから何とかなるかとの思いもある。
「本当にやるんですか?」
 そう問う翔摩はまだ声が出ないので、スマホに喋らせている。
「当たり前だよ。だって、俺の人生ここで全部なんだよ。面白くなかったんだ!絶対にやる」
 いつしか翔摩のためだった逃走計画が自分の逃走計画にもなっている。これに翔摩は
「色々溜まっているな」
 と嘆息するだけだ。
 たしかに五歳からずっと大学にいる。研究ばかりの日々だったことは否定できない。人並に遊びたいという気持ちも理解できた。
「その場合、収入源をどうするかですよ」
 そう言ったのは、お目付け役として逃走計画を手伝うことになった瑛真だ。
 この時点で計画はだだ漏れだったわけだが、路人は気にしない。
「そうだった。大学からの給料がなくなるんだ。貯金はあるけど、家を借りたりするのでお金を使うし」
 意外と具体的に想像している。瑛真はちょっと路人を見直していた。ただのワガママ野郎ではないのだ。
「その場合、自分の特技を生かしたお店をするしかないですね。ロボットの修理とか」
「うっ。ロボット……」
 それって大学と何が違うんだよと、路人はむっすりする。これがあの謎の何でも相談室の原型だったのだ。
 それからというもの、路人は何だか生き生きとしていた。やりたいことをやろう。翔摩も自由にやる。それが基本スタンスとなった。
「半年もすれば飽きるでしょう。城田の声も、その間に戻ると思います」
 瑛真はそう紀章に報告し、何とか半年の自由は認めてもらっていた。
 だが、これが間違いで、意外としぶとく残ることになり、あの事件へと発展するわけだ。




「ああ。そこで俺が捕まったところに繋がるのか」
 暁良は思わず遠い目をした。科学者狩り。今から考えると物凄く恥ずかしい所業だ。しかも自分が科学者の卵になったのだから、より恥ずかしい。
「そうそう。何度も大学の刺客みたいな奴が依頼に来てね。それはもう、連れ戻そうとしているんだなって、丸わかりだったんだよ。でも、こっちも楽しい生活を捨てて戻るのに、決め手がなくてね」
 家出したはいいが、戻れなくなった子供状態に陥っていたわけだ。暁良は駄目だなこいつと思う。
「まあいいじゃん。あの間に無駄な会議はほぼ終わり、俺はクマさんぬいぐるみコレクションやらブロックやら、楽しい思いをいっぱい出来た。翔摩の声も戻ったし」
 いいことづくめだよと、路人には全く反省の色がなかった。捻くれた性格はどう頑張っても戻らないものらしい。
「ん? 無駄な会議といえば、お前がいない間の会議に出席していたのは赤松じゃないのか?」
 そうそう、あの穂乃花お嬢様だと、問題を思い出した暁良は訊く。どこでどう路人がいいとなったのか。それを探らなければ意味がない。
「そうだと思うよ。まあ、全然上手く回っていなかったのは、大学に戻ってから知った。おかげで暁良が入学してくるまでの半年間。地獄のような忙しさだったよ。まったく、科学技術省を作る、それに関して色々決めるってのは出来ていたのに、肝心の中身がない状態だったんだ。よくよく話を聞いてみると、赤松が言っている内容が理解できなかったって。マジ、大丈夫かよって思ったね」
 路人に心配される政府関係者。その図を思い浮かべ、暁良はこの国は大丈夫だろうかと心配になる。何でもこの天才様に頼り過ぎなのだ。
「ううん。つまりその立て直し会議を見て、お嬢様はお前がいいってなったのか」
「へっ?」
 しまったと思った時には遅かった。路人の顔がぬっと近づいてくる。
「この間からさ、なんか変だよね。何を隠しているんだ?」
「えっ、ははっ」
 笑って誤魔化せるはずもなく、穂乃花との縁談が来ていること。それを紀章は阻止したいこと。そして出来れば代わりに礼詞と結婚してほしいことと、洗いざらい白状する羽目になった。というか、最初から本人に伝えていれば、問題は大きくならなかった話だ。
「ふうん。見合いねえ。ヤダ!」
「知ってるよ。だからこっちは奮闘していたんだよ。でもあのお嬢様、ほら、会議の時に挨拶に来ただろ。今後の人生プランを考えてお前との結婚が有利になると考えているらしいんだ。諦めそうにないぜ」
 暁良はもう話したからきっぱり言うぜと、そこも指摘しておいた。そして、ちゃっかり覗き見をしている連中に諦めろという視線を送っておく。
「なるほど。面倒なタイプだね。ますますヤダ。それこそ、赤松とお似合いだよ。偏屈なところが」
 しかし、路人は覗き見している奴らに気づかずに、そんなことを言って笑う。
 おい、その赤松も聞いているんだ。発言に気を付けろと、暁良は冷や冷やだ。
「偏屈、か」
 が、これほど似合う言葉があるか。さすがは、嫌でも幼馴染み。
「ううん。つまりあれだろ。山名先生的には事を荒げたくない。で、お見合い話を赤松にスライドさせたいと」
 さすが頭脳は一級品。路人はこのごたごたの本質を一発で見抜いた。
「そうだよ。どうする?お前に関わる問題でもあるんだ」
「ううん。それより盗難事件の方が面白そうだけどな」
 しかし乗り気にはなってくれない。盗難事件も覚えていたのかと、暁良は感心するやら呆れるやら。感情の処理に困る。
「面白そうって?」
「だって、そいつは絶対にかくれんぼ気分だ。捕まえてやらないとね」
 にこっと笑う路人の顔はどこか凶悪だった。ああ、また何かややこしい事態が始まるな。暁良はそう思い、窓の外で揺れる木々を見つめていた。
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