僕と変人の交遊録―赤松礼詞は超偏屈科学者―

渋川宙

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第16話 交換条件でタッグ成立

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 盗難事件の解決といっても、ほぼ何も解っていないようなものだ。事件は日用品の盗難。そして礼詞の研究室でのみ発生している。他に何も解っていない。
「だからさ、かくれんぼだって言っているだろ」
 暁良の指摘に、違うってと路人の訂正が入る。
 だから何が違うのさと、話が奇妙な方向になってきたなと思う。
「かくれんぼって」
「おそらく、赤松に相手にされていない誰か。そいつが犯人だよ」
「へっ?」
 意外な答えに、暁良は目を丸くしてしまった。礼詞に相手されない誰か。そんな解答があったのかという気分だ。
「盗まれたものが高額でないのだ、あまり迷惑を掛けたくないからだ。しかし気づいてほしいから、盗むことは止められない。この大学、俺や赤松が小さい頃からいるように、様々な年齢の人が出入りしている。きっと、気づかれないという点からしても、まだ幼い年齢の誰かじゃないかな」
「――」
 それは盲点というか、何というか。
 盗難事件だというから、てっきり大人だと思い込んでいただけに、意外すぎる指摘だった。
「つまり」
「赤松研究室に飛び級で入った奴。これが正解。ただし、どうして盗みを繰り返して気づいてもらいたいのかは不明だけど」
 そんな路人の指摘に、どうなんだと盗み聞きしていたメンバーの視線が礼詞に集まる。
「二人ほど、十代前半の子がいるな」
「――なるほど」
 どちらか解らないほど、礼詞はそんなことに目を向けたことはないようだ。自分と同じように、子供であろうと研究に専念して当たり前。そう考えていたようだ。
 しかし、路人はその環境に不満があった。だからあっさりと犯人に見当がついてしまったのだ。
 それに初期の飛び級生でである路人たちは、本人に不満があることには気づかなかったものの、手厚いサポートはしていたはずだ。しかし今は違うと知っている。
 翔摩の声が出なくなるほどのストレスがある環境なのだ。子供がどうにか不満を表明したいと考えても無理はない。
「はあ。天才って言っても子供ってことか。まあそうだよな」
 路人の話を聞く限り、遊びたいという感情は持っている。研究が出来ることと楽しいと感じることが同義とは限らない。そういうことなのだ。暁良は複雑だよなと、また遠い目をしてしまう。
 それにしても、礼詞の研究室に子供が所属しているとは不思議な感じだ。路人の場合、研究室は基本的に路人と二人の助手しかいない。大学生の講義を受け持っているものの、研究指導はしていないのだ。
「まあ、それは俺が教えられないからだね。さっきも言ったけど、俺が出来るのはイメージと基本部分だけ。それをどう形作ればいいかは解っていない。自分のやり方が他の人には合わないってことは、理解しているよ。それは山名先生も同じ」
 暁良の疑問に、路人はそう答えた。なるほど、やり方が特殊である自覚は十分に持っているのだ。そしてそれが、礼詞が優秀という認識に繋がっている。
「まあ、そうだよな。それにこの状況だし」
 暁良は、クマさん型ロボットを中心に散らかる部屋を見て思った。こんな状況、他の人が対応できるとは思えない。それに大学側としても、もう二度とへそを曲げられたくないはずだ。無理なことは押しつけないだろう。さらに言えば、もっと他にやってほしいことが山ほどあるわけだ。
「ううん。そこにも評価の差が出ている気がするんだけどな」
 どう考えても、世間も大学も、そして礼詞も路人の方が優秀だと思っていることだろう。この認識のずれは、どうしようもないらしい。
「まあ、ともかく。盗難事件を解決する方法は、その子と向き合うことだね。悪戯をしている子は赤松に向き合ってもらいたいだけなんだし」
 路人はこともなげに言ってくれるが、あの偏屈な礼詞にそれが出来るのかが問題だ。新たな課題である。
「そこまで言うならば、どうすればいいか教えろ」
「うげっ」
 自分の話題が続くことでイライラしたのだろう。礼詞が研究室の中に乗り込んで来た。それに対し、路人の反応はひどい。
「うげっとはどういうことだ?そこまで解っているならば、子供の扱い方も知っているんだろ?対処法を教えろ」
 礼詞はソファに座る路人を睨んだ。そして路人は、クマさんぬいぐるみを抱きしめてぶすっとする。
「嫌だよ。お前がどうにかしなきゃならない問題だ」
「――そうか。では、あの見合い話は自分でなんとかするんだな」
「ぐっ」
 ああ、言っちゃったよ。
 暁良はどうするんだと、まだドアのところに隠れている紀章を見た。その紀章は、すでに頭を抱えていた。横にいる穂波が爆笑しそうになっているのを堪えているのも見える。
「見合いはしないよ。だって、向こうが勝手に言っていることだもん。でもお前の方は解決しなきゃいけない。だって、自分の研究室で起こっていることだもん」
 子供かよと、横で聞く暁良も頭を抱えたい気分だ。
 礼詞を見ると、こめかみがピクピクと動いている。ぶち切れる寸前だ。
「見合いというのは、双方の合意が必要だ。お前が嫌というだけではどうにもならん」
が、礼詞はこの二年で我慢というものを学んでいた。諭すように言う。
「じゃあ、諦めるのを待つだけだね。将来設計として科学者の旦那がほしいというのならば、そのうち諦める」
 それに対し、路人はより頭を使った解答をする。
 まあ、そうですねと暁良は思った。よく話を聞いていることだ。そんな補足説明までちゃんとインプットされている。
「ともかく、知恵を貸してくれ」
 結果、礼詞が頭を下げるというより大人の対応に出た。これに驚いた顔をする路人だ。
「なんで? なんでそこまでするの?」
「解らないからに決まっているだろ? 正直、困っているんだよ! ただでさえ、大学生すら手を焼くというのに」
 そんな路人に、礼詞の不満が爆発した。
 これ、相当色々たまっているぞと、暁良は紀章を睨んでしまった。
「それなのに、お前まで我が儘放題。さらに山名先生も無理難題を吹っかけてくるし」
 礼詞は無理なんだよと、身をよじって訴えてきた。
 あっ、今、さらっと紀章もディスったよと、暁良は紀章をもう一度睨んだ。
「解った。協力しよう。その代わり」
「解っている。見合いの件だな」
 困り切った礼詞に、路人は仕方ないと手を差し伸べる。そして礼詞は逃がすまいと、妥協する点を提示した。
 こうして強力タッグが生まれたのだった。
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