僕と変人の交遊録―赤松礼詞は超偏屈科学者―

渋川宙

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第18話 うちの家庭は自由主義なだけ

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「何でこういう展開になるかな」
 路人たちが出かけて行った後、穂波は他のメンツを会議室に集めるとぼやく。
「いや、一番解決に近い状態になったと思うんですが」
 この中でまだ穂波に意見できる紀章が、よかったのではと宥めた。しかし大きな溜め息に阻まれる。
「解らないか。このまま路人に任せておけば、縁談はぶち壊しになるぞ。あいつがお嬢様に言葉のストレートパンチを食らわせるのは目に見えているからな。盗難事件は解決するだろうが、最大の問題は大きくゆがんだぞ」
 お前がどうにか穏便に進めたかったのではないのかと、穂波は紀章を睨む。
 たしかに、縁談話が舞い込んで、奇妙な行動を取り始めたのは紀章だ。彼が素直に路人を説得するか、穂乃花を説得していれば、問題はよじれなかった。
「やはり、俺では何かと役不足なんですね」
 そこに、この会議室で一番沈んでいる人、礼詞の呟きが漏れる。これに翔摩は初めて同情の目を向けていた。
 そう、思い込んだら一直線の人物を相手にしていると、こういう苦労が絶えないのだ。それも尊敬する相手となると面倒になる。
「役不足ねえ。どうだろう。赤松、お前はあのお嬢様と結婚してもいいと考えているのか?」
  穂波の問いに、
「結婚はしたくないです」
 と、きっぱり礼詞は言い切った。珍しい。礼詞がこれほど紀章の考えに反対するなんてと、翔摩も瑛真も驚いた。
「ほうほう。そうだろうな。うちの愚息もそうだが、お前も結婚に向いているとは思えん。私もまあまあ失敗したしな」
 穂波はそれに大笑いだ。いや、あなたの場合は洒落になってないですと、会議室にいた誰もが思う。佑弥だって思った。
 路人、お前のマザコンがちゃんとしたマザコンになる日はないぞと、暁良がこの場にいたらツッコんでいる。
「そういうことだ。そもそも科学政策に知識が必要だから手っ取り早く旦那を得ようという発想が間違っている。これは――灸を据えるのがいいか」
「ダメですよ!」
 楽しそうにヤバそうなことを考える穂波に、紀章は止めてくれと叫びそうな勢いだ。しかし叫ぶより前に胃が痛んだようで、胃の辺りを押さえている。
「まあ、そうですけどね。それに、あの方がそれほど科学知識がないとは思えないのですが」
 そんな混沌としてくる中、会議室で何度か穂乃花を見たことがある瑛真は、何だか奇妙だと指摘した。彼女がいくら政治家の卵とはいえ、科学に疎いとは思えない。
「ほう。つまり口実か。さすがは政治家だな」
 真意はそう簡単に見せてくれないわけかと、穂波は挑戦的に笑う。
「俺もそれは不思議でした。積極的に会議に参加されているのも、ちゃんと理解した上でです。父親の後継者が自分だと、無意味にアピールしているわけではなく、ちゃんと政策秘書として仕事されてますよ」
 翔摩もあれから色々と調べたところ、穂波はすでに優秀で頭角を現していると、政治家の間でも噂になっている。だから旦那に頼るという発想が、そもそも親和性のない話なのだ。
「なるほど。ますます面白い。つまり、路人くらいの脳みそがないと釣り合わないと考えているってことかな。そこらのぼんくらを旦那にするくらいなら、多少奇人変人であろうと天才と言われる科学者がいい。それが本音かもな」
 なんか、穂波の要約が果てしなく酷い気がすると、男性陣は下を向く。甲斐性なしと言われているようなものだ。しかもそれが頭脳レベルってと、色々と悩んでしまう。
「なら、家庭が崩壊しても文句は言わないと考えてもいいと」
 この場のもう一人の女性、瑛真がそんなことを言い出す。おい、女子が家庭をどうでもいいと言い出すと、誰が収拾するんだと佑弥はこっそり睨んでしまった。
 男女差別ではなく、この場を収めるには女性の意見が絶大なのだ。
「ん? そうかもな。私の旦那はそういう奴だよ」
 そして穂波が更なる破壊力を発揮。しかし全員が思考停止に陥った。
「えっ?」
「それって、つまり」
「離婚してないぞ。何だ? すでに家庭が破綻しているという理由で離婚していると思ったのか。残念ながらうちは自由主義なだけだ」
「――」
 おい、ますます収拾がつかねえよと、その場にいた全員が思った。
 路人の反応からてっきり離婚していると思っていたが、そうか、父親は存在すら忘れられているだけなのか。家庭ってやっぱり何だろうと、男たちは今度は天井を見上げて悩む。
「難しいですね。穂乃花さんがどう考えているか。それ次第ってことになります。これはもう、一色博士と話をさせた方が早いのでは」
 瑛真が諦めモードになったところで、話はうやむやになるのだった。
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