僕と変人の交遊録―赤松礼詞は超偏屈科学者―

渋川宙

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第33話 問題点はどこにある?

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「問題を簡潔にするために、今までのことを振り返ろう。俺と出会う前、何があったのか。詳しく教えてくれ」
 仕切り直すしかないなと、暁良は研究室にいる三人を見た。
 路人が翔摩を助けたくてここを飛び出したことは知っている。そして瑛真は、紀章に頼まれて路人の監視をしていた。つまり、大学と通じていた。ここまでは、自分が巻き込まれた時に聴いたから知っている。が、その前だ。
「ううん。つまり、技術省が出来るという話題が盛り上がって、より路人が閉塞感を覚えていた時ってことね」
 瑛真が上手く要約してくれる。まさにそのとおり。
「そもそもねえ。今更文科省を分けるってところに、誰も疑問を持たないところが怖いよね。まあ、歴史を振り返ると、科学技術関連は庁だったわけで、そこから格上げされたようなものだけど」
「いや。今は歴史的考察は要らない」
 路人がずれたことを言い出すので、それは要らんと暁良は否定。
「ともかく、科学技術に依存するようになったから、教育関連と分ける必要が出てきたってことだよ。で、目を付けられるのが、政府の出先機関みたいなこの大学だった。その中にいる科学者たちにやらせようっていう話だったわけ」
 仕方ないなという素振りで路人は話を戻した。どうもこの辺りの話を、路人は逃げようとする。なぜだろう。
「まあ、この大学が布石だったのかもしれないですよね。飛び級制度と同時に設置されたわけですし」
「まあね」
 翔摩の一言に、路人は渋々という感じで頷いた。つまりスタートから、責任者は路人か礼詞、どちらかになる予定だったのではということになる。
「そりゃあ、山名も必死に教育するよな。あれこれ手を考えて」
「まあね。俺の場合、母親があの一色穂波だ。世界に名を轟かす大物理学者様。そりゃあ、期待値もうなぎ登り。見事に嵌められた気がする」
 路人は嫌だねえと、マジに顔をしかめる。
「つまり、路人には当初から相当な期待があったわけだな。で、一方の赤松は?」
「赤松の場合は、まさに天才児って感じだったと思うよ。俺は出来て当然で、向こうは出来ると驚かれるってことね」
「ほう」
 なるほど、そういう差もあるわけかと、暁良は腕を組む。その場合、すでに礼詞にはプレッシャーが掛かっていることにならないか。路人は出来て当然だとされることを、自分は賞賛されている。子どもながらに、馬鹿にされている気分になるだろう。
「そうかな。褒められるのに?」
「お前がいなければ素直に喜べただろうよ。まあ、あの性格からして素直に喜ぶかは別としてさ。ライバルが常に先を行っていると意識している状況だってことだ」
「ふうん」
 路人は、どうも礼詞のことになると、そういう当然の判断が働かないらしい。やれやれ。問題の根は深い。
「つまりだ。赤松にすれば、お前という存在は昔からどでかいものだったってことだよ。それなのに、逃げられたらショックだよな。しかも重要なタイミングで。お前のために政府すら動くという状況なのにってことだ」
「勝手な連中だ」
 路人は暁良の言葉に顔をしかめる。こちらもまだ、逃げたい気持ちが残っているらしい。ううむ、困ったものだ。一年半ほど、好き勝手に暮らしていたはずなのだが。しかし、気づくこともある。
「路人ってさ、敷かれたレールを歩いて来ただけって思ってるんだろ?」
「ああ」
 短い同意に、様々な気持ちが含まれていることを、暁良はちゃんと読み取っていた。だからこそ、この問題が大きくなっていくのだ。逃げたところで解決せず、再び問題を孕むことになっていく。
「確かに、路人は言われたとおりにやっただけだもんな。それが出来る能力があったわけで、選び取ったわけじゃない」
「うん」
「でも、赤松は?」
「ああ。自分の意志で歩いて来たってこと?」
「そう。いつもいつも、お前という本物の天才の背中を追うって、そういう覚悟でいたんじゃないか? それが目の前で消えて途方に暮れているところに、追い打ちを掛けるように、路人の業務が流れ込んでくる。そして傍で見ていたはずなのに、同じことが出来ない。そりゃあ、必死にお前を取り戻そうってなるよな」
「ぐっ」
 最終的に礼詞の肩を持つのかと、路人は睨んでくる。
「事実を述べただけだよ。まあ、赤松はそろそろ気づかないと駄目ってことだよな」
「何に?」
「お前を追っているだけじゃ駄目だってこと」
「同感」
 二人はそこで笑い合う。それに、横で聞いていた瑛真と翔摩も思わずほっと溜め息を吐く。
「問題点は明確になったな。つまり、同じことをしていては駄目だと気づけるか」
「ううん。しかし研究分野が同じだからな」
「でも、やっていることはバラバラなんだろ?」
「そう。俺も、あいつに依存している状態から抜け出さなきゃいけないって結論だな」
「そうだな」
 さて、どうしようかと、路人の目が真剣になった。それに暁良は、やっとかと、ほっとしていた。
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