32 / 44
第32話 礼詞は路人に甘えている!?
しおりを挟む
「全く以て困ったもんだ」
「そうだな。予想外の展開ってやつか」
研究室に戻って来た路人と暁良は、ソファに座ると揃って溜め息を吐いた。
まったく、あれこれ問題が持ち込まれたと思っていたら、内容は一点に集約されてしまうとは。
「どうしたんですか?」
そんな二人に、翔摩と瑛真は何事かと首を傾げる。ということで、暁良が先ほど穂波から聞き出した内容を伝えることになった。
「へえ。なるほどねえ。あの時の赤松先生、おかしいとは思っていたけど」
屋上での対決を見ていた翔摩は、そういう裏があったのかと納得した。要するに、逃げられないのは礼詞であり、路人や翔摩ではなかったというわけだ。
「そういうこと。逆恨みだよね」
「まあな。でも翔摩、お前の場合、失語症を再発したってことは、心のどこかで赤松と似たようなことを考えたりするわけ?」
嫌だ嫌だという路人と違い、同情する余地はないのかと暁良は翔摩に訊く。すると、途端に不機嫌な顔になった。
「そうだな。たしかにここから逃げられないって思ったから、声が出なかったんだろうな。結局、赤松先生のあの状態もストレスのせいってことか」
「そう考えられないかなって」
「暁良、あいつを甘やかすことはない。それに翔摩とは違う」
路人がそこに、ずばっと関係ないと主張した。どうあっても、礼詞の肩を持つつもりはないらしい。
「どうしてだよ?」
「いいかい? 翔摩の場合は、周囲からのプレッシャーが大き過ぎたせいだ。山名先生が俺のサポート役として相応しいようにって、躍起になったせいなの。そんなもの、今のままで十分だというのに、そこを理解していない。そのせいだ。翔摩の能力は俺がよく知っている。別にそれ以上を求めるのは、ロボットを求めるようなものだと思うね。一方、赤松の場合、自分を変えるつもりがないから上手くいかないんだよ。どうして俺が対外的には上手く振舞えるかといえば、普段が嘘だからだ。そこに気づいていない。一面しか見ていないから、おかしいってなってるだけ。お解り?」
「は、はあ」
凄い勢いで捲くし立てられ、暁良はそうですかという言葉しか出て来なかった。
それにしても、礼詞に対して手厳しい。やはり同期だからということか。ライバルだから、手加減なしということだろうか。
「まあ、路人の主張の総てが間違っているわけではないと思うわ。翔摩の場合、横で見てても可哀想になるくらいだったもの。赤松先生の場合、自力で何とか出来ないから路人にっていうのは、甘えだと思う」
そこに瑛真からも手厳しい一言。引き合いに出されている翔摩は、真っ赤な顔をして小さくなっていた。
「この大学、大変過ぎないか?」
そこまで聞いて、自分はどうしてこの大学の学生になってしまったんだと、激しく後悔したくなる暁良だ。もちろん路人のために頑張ったわけだが、それにしたって何かと杜撰な気がする。
「大変に決まっているだろ? ここはまさしく、政府と直結している大学だと言ってもいいんだからな。一度は低下した科学技術力を復活させるために作られた大学であり、日本で真っ先に飛び級が導入された大学だ。俺や赤松が五歳で入学できたのは、そういう事情を含んでいるんだ。だからまあ、辞められたり逃げられたら困るというのは、事情としては解るよ。逃げたけど」
説明した路人が、べっと舌を出す。事情は理解しているが、心情とは別だと言いたいらしい。
「なるほどね。要するに、天才の青田買いみたいな」
「そうそう。いい例えだね。赤松のところで、必死になっている二人もまさにそう」
小さな物を盗むことで、礼詞との距離感を図ろうとしていた二人。彼らもまた、路人たちと同じような悩みにこれから向き合うのかと、暁良は複雑な気分になる。
「で、問題は礼詞だ。俺がいなければ何もできない、か。困った奴だな」
「でも、事実なんだろ?」
路人は大学規模の問題はどうにもできないと礼詞の問題に戻すが、こちらが難題だ。暁良の言う通り事実ではある。
「なぜ、出来ないのかな。そこが不思議だよ。まあ、昔から実直だけが売りで融通の利かない奴だったけど」
「――」
幼馴染みの評価は辛辣だなと、暁良は何も言えない。そうだ、礼詞が路人を凄いと思うのは、小さい頃から総てが一緒だったのにという思いもあるのではないか。しかし、二人には明確な差が生まれてしまった。
「ううん。でもそれって、性格の問題だよな」
「そうだよ。でもね、俺じゃないと嫌とか、わがまま」
「いやいや。責任者だろうが」
結局は路人が優秀で、総てが路人を頼って運営されていたことに要因があるんだろと、ここまで話していて暁良は気づく。だからずばっと指摘しておいた。
「ふん。俺は技術省を作ってくれなんて頼んだ覚えはないし」
「いやいや、まあ、そうなんだろうけど」
そう言えば、逃げたタイミングはその技術省を作る云々の場面だったなと、暁良は思い出す。
これ以上何も行動しなければ、変わるタイミングさえ消えてしまう。それに気づいて、路人は行動を起こしたのだった。
「まあ、議論してもどうしようもないってことですね。赤松先生には今の路人で納得していただき、さらに自信を取り戻してもらう。これしかないんでしょ?」
そこに瑛真が、ナイスなまとめをしてくれた。そう、それしかない。
「まずは、今の俺で納得させることからやろう。どうしたらいいと思う?」
路人は暁良にどうすると訊く。いやだから、どうして解決の段階になるといつも暁良なのか。
「ううん。まあ、まずは互いにプライベートを晒すことじゃねえか」
で、仕方なく提案する暁良だ。
だから頼られるというのは、ちゃんと自覚している。
「なるほど。プライベートねえ」
どうなんだろうと、路人は首を傾げる。たしかに暁良も、路人のプライベートは知らない。
「また、一波乱ありそうだな」
翔摩がぼそっと言った一言に、不安を感じる暁良だった。
「そうだな。予想外の展開ってやつか」
研究室に戻って来た路人と暁良は、ソファに座ると揃って溜め息を吐いた。
まったく、あれこれ問題が持ち込まれたと思っていたら、内容は一点に集約されてしまうとは。
「どうしたんですか?」
そんな二人に、翔摩と瑛真は何事かと首を傾げる。ということで、暁良が先ほど穂波から聞き出した内容を伝えることになった。
「へえ。なるほどねえ。あの時の赤松先生、おかしいとは思っていたけど」
屋上での対決を見ていた翔摩は、そういう裏があったのかと納得した。要するに、逃げられないのは礼詞であり、路人や翔摩ではなかったというわけだ。
「そういうこと。逆恨みだよね」
「まあな。でも翔摩、お前の場合、失語症を再発したってことは、心のどこかで赤松と似たようなことを考えたりするわけ?」
嫌だ嫌だという路人と違い、同情する余地はないのかと暁良は翔摩に訊く。すると、途端に不機嫌な顔になった。
「そうだな。たしかにここから逃げられないって思ったから、声が出なかったんだろうな。結局、赤松先生のあの状態もストレスのせいってことか」
「そう考えられないかなって」
「暁良、あいつを甘やかすことはない。それに翔摩とは違う」
路人がそこに、ずばっと関係ないと主張した。どうあっても、礼詞の肩を持つつもりはないらしい。
「どうしてだよ?」
「いいかい? 翔摩の場合は、周囲からのプレッシャーが大き過ぎたせいだ。山名先生が俺のサポート役として相応しいようにって、躍起になったせいなの。そんなもの、今のままで十分だというのに、そこを理解していない。そのせいだ。翔摩の能力は俺がよく知っている。別にそれ以上を求めるのは、ロボットを求めるようなものだと思うね。一方、赤松の場合、自分を変えるつもりがないから上手くいかないんだよ。どうして俺が対外的には上手く振舞えるかといえば、普段が嘘だからだ。そこに気づいていない。一面しか見ていないから、おかしいってなってるだけ。お解り?」
「は、はあ」
凄い勢いで捲くし立てられ、暁良はそうですかという言葉しか出て来なかった。
それにしても、礼詞に対して手厳しい。やはり同期だからということか。ライバルだから、手加減なしということだろうか。
「まあ、路人の主張の総てが間違っているわけではないと思うわ。翔摩の場合、横で見てても可哀想になるくらいだったもの。赤松先生の場合、自力で何とか出来ないから路人にっていうのは、甘えだと思う」
そこに瑛真からも手厳しい一言。引き合いに出されている翔摩は、真っ赤な顔をして小さくなっていた。
「この大学、大変過ぎないか?」
そこまで聞いて、自分はどうしてこの大学の学生になってしまったんだと、激しく後悔したくなる暁良だ。もちろん路人のために頑張ったわけだが、それにしたって何かと杜撰な気がする。
「大変に決まっているだろ? ここはまさしく、政府と直結している大学だと言ってもいいんだからな。一度は低下した科学技術力を復活させるために作られた大学であり、日本で真っ先に飛び級が導入された大学だ。俺や赤松が五歳で入学できたのは、そういう事情を含んでいるんだ。だからまあ、辞められたり逃げられたら困るというのは、事情としては解るよ。逃げたけど」
説明した路人が、べっと舌を出す。事情は理解しているが、心情とは別だと言いたいらしい。
「なるほどね。要するに、天才の青田買いみたいな」
「そうそう。いい例えだね。赤松のところで、必死になっている二人もまさにそう」
小さな物を盗むことで、礼詞との距離感を図ろうとしていた二人。彼らもまた、路人たちと同じような悩みにこれから向き合うのかと、暁良は複雑な気分になる。
「で、問題は礼詞だ。俺がいなければ何もできない、か。困った奴だな」
「でも、事実なんだろ?」
路人は大学規模の問題はどうにもできないと礼詞の問題に戻すが、こちらが難題だ。暁良の言う通り事実ではある。
「なぜ、出来ないのかな。そこが不思議だよ。まあ、昔から実直だけが売りで融通の利かない奴だったけど」
「――」
幼馴染みの評価は辛辣だなと、暁良は何も言えない。そうだ、礼詞が路人を凄いと思うのは、小さい頃から総てが一緒だったのにという思いもあるのではないか。しかし、二人には明確な差が生まれてしまった。
「ううん。でもそれって、性格の問題だよな」
「そうだよ。でもね、俺じゃないと嫌とか、わがまま」
「いやいや。責任者だろうが」
結局は路人が優秀で、総てが路人を頼って運営されていたことに要因があるんだろと、ここまで話していて暁良は気づく。だからずばっと指摘しておいた。
「ふん。俺は技術省を作ってくれなんて頼んだ覚えはないし」
「いやいや、まあ、そうなんだろうけど」
そう言えば、逃げたタイミングはその技術省を作る云々の場面だったなと、暁良は思い出す。
これ以上何も行動しなければ、変わるタイミングさえ消えてしまう。それに気づいて、路人は行動を起こしたのだった。
「まあ、議論してもどうしようもないってことですね。赤松先生には今の路人で納得していただき、さらに自信を取り戻してもらう。これしかないんでしょ?」
そこに瑛真が、ナイスなまとめをしてくれた。そう、それしかない。
「まずは、今の俺で納得させることからやろう。どうしたらいいと思う?」
路人は暁良にどうすると訊く。いやだから、どうして解決の段階になるといつも暁良なのか。
「ううん。まあ、まずは互いにプライベートを晒すことじゃねえか」
で、仕方なく提案する暁良だ。
だから頼られるというのは、ちゃんと自覚している。
「なるほど。プライベートねえ」
どうなんだろうと、路人は首を傾げる。たしかに暁良も、路人のプライベートは知らない。
「また、一波乱ありそうだな」
翔摩がぼそっと言った一言に、不安を感じる暁良だった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
祖母が遺した古民家は、あやかし専門の甘味処でした ~訳あり美形な妖狐・白夜様と、不思議な常連さんたちに囲まれてます~
藤森瑠璃香
ライト文芸
時庭 美桜(ときわ みお)、25歳。都会のデザイン会社で働く、普通のOL。唯一の肉親だった祖母を亡くし、天涯孤独の身となる。祖母とは疎遠だったが、遺産として古い日本家屋を相続することに。訪れた古民家は、どこか懐かしくも不思議な空気が漂っていた。家の中には、祖母が営んでいたらしい「甘味処 時庭(ときわ)」と看板のかかった、今は使われていない店舗スペースがあった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる