僕と変人の交遊録―赤松礼詞は超偏屈科学者―

渋川宙

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第31話 路人依存症になっている!?

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「はあ?俺依存症?」
 衝撃から立ち直った路人は、再度訊き返すことになった。なんだ、その病気と喚く。しかも自信を無くしたって何だと、路人は盛大にのたうち回った。
 オーバーだ。
「何だそれも何もなく、そのままの意味だよ。一年間、お前がいない間、赤松はお前の仕事もこなそうと奮闘した。非常に努力した。で、敗れた」
「いや、肝心な部分を抜かさないでくださいよ」
 さらっと敗れたという穂波に、暁良はおいおいとツッコむ。そこが依存症の原因だろうと、具体的に示してもらいたいところだ。
「そうだな。君もいわば被害者だ。何といっても、誘拐して無理やり路人の説得に加担させようとしたんだから」
「え、ええ。そうですね」
 そうだったなと、あの時の礼詞はマジで怖かったと遠い目をする暁良だ。そして、どれだけ路人が素晴らしく天才的な科学者なのかを、懇々と説明されるはめになった。良く考えなくても、あの行動は異常だ。
 あの時は路人を連れ戻したいだけだと考えていたが、どうやら根底にはその失敗があるらしい。
「つまり、あいつが対外的なことをやったと?」
 のたうち回っていた路人が、床に座ったまま訊く。その目は真剣になっていた。
「そのとおりだ。あの仏頂面のハシビロコウが、頑張って政治家の相手もしていたわけだ。ところが、路人がさらっと出来ることがあいつに出来ない。簡単に説明することも、社会でどうやって応用していくのかも、聞かれても答えることが出来ない。で、あの状態」
「――」
 あの状態と言われ、暁良はパフェで買収されそうになったことを思い出す。
 大学に戻って来たんだからいいじゃないかと思いきや、礼詞は満足できないらしい。元の状態に戻してくれと泣きつかれたのだった。
「無茶苦茶だな。というか、こっちが素なんだけど」
 礼詞が泣きついたという事実を知らされた路人は、ふんっと鼻を鳴らす。まあ、そうだろうなと、路人の奇行に散々付き合っている暁良は納得している。が、礼詞は無理なのだ。
「外の空気を吸わせてみればいいという、楽観的発想では駄目だってことか」
 路人は難しい奴だなと顔を険しくする。まったく、性格が生真面目というのは、拗れると厄介なものだ。
「そういうことだ。奴は意外にも変化というものに弱い。だから、結婚話を奴に真っ先に振れない理由でもあったんだよ。結婚とは人生において大きな変化をもたらすイベントだからな」
「まあ、そうでしょうね」
 穂波が言うと説得力ゼロだけだとと暁良は思うが、事実は事実だ。生活は大きく変化するだろう。相手に合わせるということも必要になる。
「この際、お嬢様との結婚はどうでもいいんだよ。赤松について」
 問題がずれると、路人は立ち上がると穂波を睨んだ。
 このまま依存症状態では困る。というかウザイ。
「そうだな。ま、悉くお前に負けたと思った。ここまではいいか?」
「ああ。あの時から妙に会話が噛み合わないと思ったら、そういう前後関係があったんだと理解した」
 路人はどうしてあんなに礼詞が劣等感を抱いているのか。まったく納得できていなかった。その要因がここにある、というのは理解できる。
「まあ、あいつは昔からお前に劣等感を抱いていたよ。何でも出来てしまう、それでいて飄々としている。あいつにはないものだからな」
「――ああ、そう」
 そんなことはないだろうと、路人は不満だがここは頷くに留める。また論点がずれるからだ。
「そんな奴が、あっさりと大学を捨てていなくなってしまった。この衝撃が理解できるか。勝ち逃げされたようなもんだ。しかも自由気ままに生きたいなんていう、赤松にとって理解不能の理由でだぞ」
「へえ、そう」
 路人の返事がどんどん雑になっていく。おそらく、呆れを通り越しているのだ。大丈夫かと、暁良は心配だ。
「しかもまあまあ楽しそう。すぐに諦めて戻って来るかと思いきや、何でも屋さんまで始めてしまう始末」
「相談ね。何でも屋じゃないよ。解決しない事案の方が多いんだから」
 そこは正確にと、路人はどうでもいいことを訂正する。
「まあいい。ともかく、赤松には衝撃の連続だったわけだ。しかも、お前がいない穴を埋める人材がいない。取り敢えず、誰もが共同研究者のお前に話を持って来る。パニックだ。で、路人がいなければ何もできないと自信を喪失」
「――」
 解りやすいが、見事なまでの敗北だなと、暁良は礼詞に初めて同情した。
 偏執的で偏屈な男だという認識を、僅かながら修正する。
「で、今に至るんだよ。何一つお前の仕事が変化しなかったのも、吉岡がお前に目を付けるのも、結局は赤松では無理だったからだ」
 さあどうすると、穂波は挑戦的に笑う。
「どうする、ねえ」
 しかし路人は、解決するのは面倒だなと、困惑するしかなかった。
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