僕と変人の交遊録―赤松礼詞は超偏屈科学者―

渋川宙

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第30話 やっぱり裏があったよ

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 あれだけ吉岡尚春が怪しいというから、かの政治家の下に向かうのかと思いきや、路人がやって来たのは、母親の一色穂波のところだった。
「やっと本気になったのか?」
「ほら。やっぱり裏があった」
 穂波の一言を受け、見てみろと路人は暁良に言う。
 そうですね、たしかに裏がありましたねと、呆れた目をしておく。
「で、どこまで見抜いた?」
「八割くらいかな」
「ほう。しかしまだ解らないところがある」
「そっ。特に解らないのが見合いね。子どもたちの寂しい心を突いて問題を起こさせ、赤松と仲直りさせる作戦を立てたのは」
 そう言って穂波を睨む路人だ。
 そこで暁良はええっと仰け反ることになる。あれもまた、罠だったということか。
「そりゃあそうだよ。あまりに俺のところに事件が集まり過ぎだ。まっ、困ったことがあったら暁良に相談するはずと、この博士様は解っているからね。全員に困りそうな案件を吹っ掛けておいたというところだ。だから見合い話が山名先生のところに行き、赤松の研究室で問題が起こったってこと」
「ほう」
「しかしまあ、子どものすることは可愛らしいからね。疑いが何故か宮迫に飛び火したってわけだ。まっ、宮迫も暁良に相談するから、そこは問題がなかった」
「うわあ」
 同情する気はないが、佑弥、とんだとばっちりだったらしい。日頃の行いが悪いせいだなと、暁良は納得する。
「で、暁良を通じて、俺に問題の総てが集まるようになっていたってわけさ。いかにもこのノーベル賞博士様の考えそうなことでしょ」
「ま、まあな」
 さっきから気になるんだが、あえて博士様と呼ぶんだなと暁良は思う。相変わらず、微妙な距離感を継続している親子だ。
「でも、見合いは解らないと」
「そう。彼女、別に結婚なんてしなくていいんじゃないの?」
「そうはいかないんだよ」
「そうなの?」
 そこが解らないけどと、路人は呆れた調子で訊く。
「旧態依然とした場所はまだまだあるんだ。何でもお前の破天荒が通じると思うなよ」
「あんたに言われたくないけどね」
「何か言ったか?」
「いえ」
 ぼそっと呟いた路人の文句を聞き逃さない穂波だ。やはり恐ろしき女傑。
「つまり、見合いそのものは本物だと。でも、路人になったのは」
「おすすめしたのは私だな」
「――」
 おい、まさかの犯人かよと、暁良はツッコミたい衝動を必死に押さえる。
 この人、一体何がしたいんだ。
「どうして俺?」
「色々と丁度いいだろうと思ってな。しかしまあ、お前に結婚は無理だということも解っていた」
「はあ?」
 路人が素っ頓狂な声を上げる。
 お前、ケンカ売ってんのかと、こめかみがぴくぴくと動いていた。
「無理だから、お前はあの手この手を弄するはずだと思っていたんだよ。最終的に赤松になるだろうことも織り込み済みだ。が、あの朴念仁にそのまま縁談を持っていても吉岡が本気にならないし、赤松はあの通りフリーズするだけだしってことで、お前を噛ませておいた」
「――」
 噛ませておいたって、もう何が何だかの世界だ。暁良は思わず天井を見つめる。
 ああ、異次元。
「やはりお前のルックスと外での評判はピカイチだな。吉岡は早速縁談を纏めようと動き出した。でも、本人に言うとばさっと切られることは解っているから、ちゃんと保護者役の山名のところに話を通した。ふふっ、総ては私の読み通りだ」
「ふうん」
 もはや気のない返事しか出ない路人だ。ここまでの苦労をどうしてくれると、こちらもぼんやりとしている。
「で、赤松との縁談は上手くいきそうか」
「ぼちぼちだね。ただ、最終関門はパパでしょ。あちらは政治的な判断で見てくるはずだよ。そうなると、赤松と俺。どっちがいいかってことになる」
「そうなんだ。まさにそれが問題。お前がいない一年間。奮闘していたけどな。なんせあの仏頂面だ。ハシビロコウのように動かないし」
 ハシビロコウとは言い得て妙なと、暁良は妙なところに感心する。たしかに表情の無なところとか、しばらくじっと動かない様子とか、似ている。
「で、どうするんの?」
「それだよ。正直、お前には色々とやってもらわなければならないから、政治家の事情になんて巻き込まれてもらっては困る」
「ほう」
 まだ何かやらせるんかいと、路人の目がじどっとしたものに変わる。
「赤松にも、ちょっとは変わってもらいたいところだな。まったく、お前が逃亡して一年で、路人依存症に掛かっているんだよ、解るかね?」
「解りません」
 そんな変な病気はないと、路人は口を尖らせる。
「つまりだ。あいつは自信を無くしたんだよ。お前がいない間にな」
「え?」
 これまた予想外な言葉に、路人だけでなく暁良も固まってしまうのだった。
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