ヤドカリー一夜限りの恋人ー

渋川宙

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第24話 星野健太郎

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 本当に色んな理由で一夜を求めてくるんだよな。
 そう久々に実感するに至ったノエルは、差し出された着物を受け取って、ちょっと唖然としている。
「いやあ、悪いね」
「いえ、そういう職業ですので」
 目の前の客、にこにこと微笑む五十を過ぎた男性は星野健太郎といい、彼の職業は歴史学の教授だった。そんな先生が何を求めているかといえば
「男色研究をやっていて、ふと思ったんだよね。未経験でいいのかなって」
 というわけで、男との初体験である。それも、当時の雰囲気を味わいたいと着物でというご所望だ。しかも褌まで用意されている。
「男色研究ってのがあるんですね」
 褌ってどうやって着るんですかと、そこを教えてもらいつつ、そんな研究があるのかと驚かされる。
「あるよ。昔はもう、男と寝るなんて当たり前でね。今みたいに同性愛に目くじら立てるようになったのは、西洋の考えが入って来た明治時代だよ。西洋は、特にキリスト教は同性愛を禁じているからね。そういう文化的なところを無視して真似しちゃうところが日本らしいといえば日本らしいけどさ」
「ですね」
 昔は同性愛が当たり前だったと知って、ちょっと拍子抜けしてしまうノエルだ。小さい頃から男の相手をしているとはいえ、何だか複雑な気持ちにさせられる。あれこれ悩んだ時間って、非常に現代的な悩みということか。
「というわけで、江戸時代は君のような商売も公にあったんだ。陰間茶屋っていってね。少年が春を売る場所だった」
「へえ」
「井原西鶴なんて男色大鑑なんて書いていてね。どうして好色一代男なんて書いたんだろうって、そう冒頭に書いちゃうようなくらいでね」
「――えっと。イメージが大きく変わりますね」
「だろ?」
 そんな雑学を聞きつつ、何とか褌を付けることに成功した。そして手早く着物へと袖を通す。普段だったらこの褌を付けている間に何かあるので、何事もなく着替えが進んでいくのも新鮮だ。
「おっ、いいね。非常に愛らしい」
「あ、ありがとうございます」
 子供を褒めるようなノリで褒められ、ノエルは困惑してしまう。あらゆる意味で新手だ。そんな健太郎はノエルに教えながら手早く着替えていた。さすが、慣れている。
「その、どうしましょう」
 で、畳の上に敷いてある布団を前に困ってしまうノエルだ。これほど雰囲気のないパターンは経験したことがない。
「後は君に任せるよ。その、女性相手とは勝手が違うし」
「ですよね」
 初体験だもんなあと、ノエルはどうしようかと悩んだ。もちろん、初体験の客を取ったことなんて山のようにある。あるけれども、こういうパターンはマジでない。セックスに期待しているというより知りたいだけって。最も困るパターンだ。
「その、俺を見て、大丈夫そうですか?」
 だから思わず確認。もちろん、あれこれと興奮させる手段は知っている。知っているけれども、やって大丈夫ですかと思わず確認してしまう。
「もちろん。まだまだ枯れていないよ」
 健太郎はノエルの困惑が解ったのか、自ら動いた。さっとノエルの肩を押し、布団に押し倒す。その動作は手慣れていて、ノエルはドキッとしてしまった。
「どう?」
「俺の方が煽られるとは思いませんでした」
 見下ろしながらにやっと笑う健太郎は魅力的だ。さっきまで楽しそうに男色講義していたとは思えないほど。どうやらノエルの方が、研究目的ということに囚われてしまっていたらしい。
「キス、してください」
 それに気づくとプロとして恥ずかしくて、そうおねだりすることで誤魔化した。すると、優しく唇が重なる。
「んっ」
 そのキスは慣れていて、段々と深くなっていく。舌が絡まり合い、熱い吐息がノエルから漏れるのはすぐだった。
「はっ、んっ」
 夢中でキスをしていると、健太郎がくすっと笑って髪を撫でてくれる。その優しい動きに、ノエルの躊躇いは吹っ飛んでいた。
「おっ」
 キスしたまま健太郎を押し倒し返し、ノエルは上に跨る。そしてそのまま、するすると舌を身体に這わせていった。着物の間から手を入れ、その身体を確かめた。ほどよく筋肉の付くいい身体だ。
「なるほど。君はスイッチが入ると途端にエロくなるのか」
「もう」
 舌がへその辺りに来た時にそんなことを言われ、ノエルは思わず頬を膨らませていた。すると、健太郎がよしよしと頭を撫でてくれる。
「ちょっと勃ってますね」
 健太郎の反応に満足して手をするっと着物の合わせから差し入れた。褌に包まれたそこは、僅かだが膨らんでいる。
「君の顔を見ていたらね」
「本当ですか?」
 にやにやと笑いつつ、ノエルは褌を取り払ってしまう。そしてすぐに健太郎のモノを口に含んだ。
「ふっ」
 健太郎がその刺激に息を詰める。キスは慣れていたが、こういう行為には慣れていないようだ。それがますますノエルを大胆にさせる。本当に男とは初体験。そして自分以外とは体験しないはずの人。何だか普段にはない興奮がある。
「はぁ、ノエルっ」
 熱く名前を呼ばれ、ノエルは夢中で健太郎のモノをしゃぶった。くちゅくちゅと先端を丁寧に舐め、竿全体を舌と頬で愛撫する。するとそこが我慢できないとぶるぶる震え始めた。
「飲ませて」
 ノエルが上目遣いに訴えると、興奮で真っ赤な顔の健太郎が頷いた。オッケーを貰い、一気に口の中のモノを追い立てるように愛撫する。じゅっと先端を吸ってやると
「んっ」
 恥ずかしそうな吐息とともに、大量の白濁がノエルの口の中を満たした。その青臭い愛液を、ノエルは夢中で飲み干す。さらに足りないとばかりに舌で愛撫を続け、勃ち上がらせてしまう。
「次は中で」
「ああ」
 ノエルは健太郎の股間から顔を上げ、見せつけるように着物を脱いだ。下に付けている褌は、興奮のためにすでに濡れ、卑猥な状態になっている。
「凄いね」
「あっ」
 ソフトに触れられ、ノエルは顔を赤くする。そして取ってと、健太郎の肩に手を置いた。
「いいよ」
 健太郎も慣れてきたのか、にっこりと笑う余裕がある。そして、ゆっくりと褌を取り払った。するとすでに先走りでぐしょぐしょのノエルのモノが目の前に現れる。
「凄いね。口で舐めているだけで興奮したのか」
「ああんっ」
 するんと前のモノを撫でられ、ノエルから甘い声が漏れる。しかし、今日は自分で後ろを解さなければ。そう思って健太郎の肩に手を置いたまま、自分の指をいやらしく舐めて後孔に宛がった。健太郎は見たいだろう。そう思って必死に彼に見やすいように指を動かす。
「んっ」
「俺にも手伝わせてくれるか」
 すると、健太郎が自分の指を舐めて、いいかと訊いてきた。
「は、はい」
 もちろん断る理由もなく、ノエルは自分の指を退ける。すると、すぐに太くて逞しい健太郎の指が入って来た。
「あんっ」
 丁寧に中を点検するかのように愛撫され、ノエルは腰を振ってしまう。本当に、あれこれいつもと勝手が違って興奮する。
「なるほどねえ。気持ちいい?」
「は、はい。でも、は、早く」
 健太郎の大きいモノが欲しい。顔を真っ赤にして強請ると、さすがの健太郎も学者モードではなくなった。
「いくよ」
「はい」
 布団に押し倒され、大きく足を開かされる。そして、一気に健太郎が中に入って来た。ゆっくり丁寧に愛撫されていたせいか、いつもよりも楽に受け入れられた気がする。
「ああ、熱い」
「健太郎さん」
 ここでも検分している場合じゃないですと、ノエルはきゅうきゅうと健太郎のモノを締め付けた。
「うっ、すまない」
 すると健太郎の興奮も戻って来て、一気に攻め立てられる。ぐちゅぐちゅと繋ぎ目から音がするのも構わずに攻め立てられ、ノエルは必死に健太郎にしがみ付いた。
「い、イくっ」
「俺もだ」
 そうして二人は同時に果てていたのだった。




「いやあ、想像以上にいいね」
「そ、そうですか」
 その後、風呂に入って布団に戻って来たノエルに、予想以上の快感だっと素直な感想を述べる健太郎だ。それに、ノエルはやっぱり勝手が違うなと苦笑してしまう。
「武士がハマる理由も解るね」
「そう分析されると。だったら、もう一度しましょうよ」
「そうだな。それと、また、頼むかも」
 そう言った健太郎は少し恥ずかしそうだった。それが年上らしくなくて可愛いなと思ってしまう。
「もちろんです。健太郎さんなら、津久見も即オッケーを出しますよ」
「ははっ。そういう言い方が、陰間茶屋っぽくていいね」
「もう」
 最後の最後まで研究者としての一面が覗く健太郎に、ノエルはもう容赦しないぞと押し倒していたのだった。
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