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第11話 神と悪魔と物理学と
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「と、ともかく、その清野さんについて教えてもらえますか?」
幽霊云々は取り敢えず横に置いておいて、清野という女性は何者なのか。本当に呪ったのか。これを検証するのが先だ。そのためには、情報が必要だ。
「ああ、そうだったな。清野は占部と同じ学年だから、お前は知らないんだった」
でもって葉月、忘れてたと笑う。たまに、この人の適当さが不安になるが、相手は教授だ。ぐっと堪えるしかない。
「それで、清野さんですけど。物理学科の学生だったんですか?」
「ああ。物理学科に入ってくる女子というのはなかなか増えないからな。印象に残ってるよ。清野布悠って名前でね。清楚系っていうのかな。名前もそうだけどさ、長い黒髪が特徴的で、いかにも数学が出来ますって感じの子だった」
「はあ」
主観がいくつか入っている気がするが、どうやら美織とは真逆のタイプっぽい印象だ。がつがつしているわけじゃなく、一歩引いて周囲を見ているタイプということか。
「ああ、そうだね。だから、無駄口を叩かない占部は魅力的だったんだろう」
「そ、そんな理由ですか?」
「そうじゃないのか。ま、恋に積極的だったイメージはないな」
「あれ?ということは」
「うちの研究室の学生だったんだ」
「やっぱりか」
思えば裕和から情報が出てきたのも、葉月が亡くなったことを知っているのも、ここの研究室に所属していたからなのだ。
「そう。ここで、バリバリと研究してたんだよ。だからてっきり大学院に進むのだと思っていたら、就職するって言ってね。いやあ、びっくりした」
「そうなんですね」
「ああ。理由を聞いたけど、物理学者になるつもりはないって、理由はすぱっとしたもので」
「へえ。ますます、呪いとは関係なさそうな感じですね」
美織は接点がなさそうと首を傾げるが、葉月は微妙な顔だ。
「ど、どうかしましたか?」
「いや。進学しなかった理由が占部だったらどうなんだろうって思ってな」
「え?」
まさか失恋でと思った美織だが、葉月はそっちじゃないと即否定した。
「ええっと」
「そっちじゃなくて、才能の方だよ。言っただろ?清野は数学が得意だったんだ。そんな奴が占部に出会ったら、どう考えると思う?」
「あっ」
言われて閃いた。そうか、いかにも数学出来ますは見た目の印象だけではないのだ。そしてそんな数学に自信のある人が、数学をいとも簡単にこなす史晴に出会ってしまったら。自信を無くしてしまうのは間違いない。
「そう。今考えると、あの理由も自分がなっても勝てないってことだったのかもしれないなって。占部はあれで、数学のセンスがずば抜けている。ただ数学が出来るっていうのとは違って、閃きとか感覚とか、そういうレベルの話になるからな。ま、ただできるだけの秀才では太刀打ちできない」
「うっ、それ、私の心にも響きます」
史晴が凄い人だというのは知っている。いや、だからこその憧れの先輩なのだ。決してイケメンだからとか、背が高いからとか、そんな浮ついた理由だけで好きになったわけではない。
「お前とはタイプが違うだろうが。研究者ってのはタイプが重ならないのも重要だからな。お前は私と一緒で逐次解析タイプだろ?」
「そうですねえ。数学の閃きだけでは無理です」
「が、柔軟な発想力はあるからな。その点、数学一本勝負だった清野は、限界を見たのかもしれない。それで進学しなかった。うん、その理由が一番すっきりするだろう」
「なるほど」
研究者の世界は厳しい。それが垣間見える話というわけか。しかし、それと呪いは繋がるのだろうか。これが不明だ。
「そうだな。清野が研究者をやっぱり諦めきれなくてってのは理由として成り立ちそうだ。しかし、呪いかあ」
「そうなんですよね。どうしてこう超常現象が絡んでいるんでしょう」
「そりゃあ、魔法使いが絡んでいるからだろう」
「ううん」
清野が恨んでいることに妥当性があったとしても、やはり総てがすっきりと説明できるわけではないのだ。これをどうすべきか。それにしても、魔法使いの正体が謎だ。魔法使いは、人間なのだろうか。
「ああ、そうか。そいつが悪魔かもしれないってか」
「ええ。魔法使いや魔女って、要するに西洋で神に従わなかった人ってことらしいですから」
「神、か」
カワウソからそんなことまで考えるのかと、葉月は皮肉げに笑った。しかし、物理学者としては見過ごせない単語だ。
「神って聞くと、アインシュタインやホーキングを思い出させるな」
「ええ。物理学と神って、対立構造にあるというか、親和性が強いというべきか」
「そう。だって、私たちは宇宙の成り立ちを調べているわけだからね。天地創造への挑戦だ。神を用いず、数式でこの世界を表せることが出来るか。それが物理学者の挑戦だ」
「ええ」
ということは、この事件に神を想定しても問題ないのだろうか。そして、カワウソの呪いは数式に書き下すことが出来るのだろうか。いや、それは無理な気がする。
「ま、神とその対立項である悪魔。これは考えてみる必要があるかもしれないな。つまり、占部は知らない間に神の怒りを買う何かに触れたのかもしれない。そして」
「呪われた」
なんか、壮大な話になってきた。美織は出てきた内容に目眩がするのだった。
幽霊云々は取り敢えず横に置いておいて、清野という女性は何者なのか。本当に呪ったのか。これを検証するのが先だ。そのためには、情報が必要だ。
「ああ、そうだったな。清野は占部と同じ学年だから、お前は知らないんだった」
でもって葉月、忘れてたと笑う。たまに、この人の適当さが不安になるが、相手は教授だ。ぐっと堪えるしかない。
「それで、清野さんですけど。物理学科の学生だったんですか?」
「ああ。物理学科に入ってくる女子というのはなかなか増えないからな。印象に残ってるよ。清野布悠って名前でね。清楚系っていうのかな。名前もそうだけどさ、長い黒髪が特徴的で、いかにも数学が出来ますって感じの子だった」
「はあ」
主観がいくつか入っている気がするが、どうやら美織とは真逆のタイプっぽい印象だ。がつがつしているわけじゃなく、一歩引いて周囲を見ているタイプということか。
「ああ、そうだね。だから、無駄口を叩かない占部は魅力的だったんだろう」
「そ、そんな理由ですか?」
「そうじゃないのか。ま、恋に積極的だったイメージはないな」
「あれ?ということは」
「うちの研究室の学生だったんだ」
「やっぱりか」
思えば裕和から情報が出てきたのも、葉月が亡くなったことを知っているのも、ここの研究室に所属していたからなのだ。
「そう。ここで、バリバリと研究してたんだよ。だからてっきり大学院に進むのだと思っていたら、就職するって言ってね。いやあ、びっくりした」
「そうなんですね」
「ああ。理由を聞いたけど、物理学者になるつもりはないって、理由はすぱっとしたもので」
「へえ。ますます、呪いとは関係なさそうな感じですね」
美織は接点がなさそうと首を傾げるが、葉月は微妙な顔だ。
「ど、どうかしましたか?」
「いや。進学しなかった理由が占部だったらどうなんだろうって思ってな」
「え?」
まさか失恋でと思った美織だが、葉月はそっちじゃないと即否定した。
「ええっと」
「そっちじゃなくて、才能の方だよ。言っただろ?清野は数学が得意だったんだ。そんな奴が占部に出会ったら、どう考えると思う?」
「あっ」
言われて閃いた。そうか、いかにも数学出来ますは見た目の印象だけではないのだ。そしてそんな数学に自信のある人が、数学をいとも簡単にこなす史晴に出会ってしまったら。自信を無くしてしまうのは間違いない。
「そう。今考えると、あの理由も自分がなっても勝てないってことだったのかもしれないなって。占部はあれで、数学のセンスがずば抜けている。ただ数学が出来るっていうのとは違って、閃きとか感覚とか、そういうレベルの話になるからな。ま、ただできるだけの秀才では太刀打ちできない」
「うっ、それ、私の心にも響きます」
史晴が凄い人だというのは知っている。いや、だからこその憧れの先輩なのだ。決してイケメンだからとか、背が高いからとか、そんな浮ついた理由だけで好きになったわけではない。
「お前とはタイプが違うだろうが。研究者ってのはタイプが重ならないのも重要だからな。お前は私と一緒で逐次解析タイプだろ?」
「そうですねえ。数学の閃きだけでは無理です」
「が、柔軟な発想力はあるからな。その点、数学一本勝負だった清野は、限界を見たのかもしれない。それで進学しなかった。うん、その理由が一番すっきりするだろう」
「なるほど」
研究者の世界は厳しい。それが垣間見える話というわけか。しかし、それと呪いは繋がるのだろうか。これが不明だ。
「そうだな。清野が研究者をやっぱり諦めきれなくてってのは理由として成り立ちそうだ。しかし、呪いかあ」
「そうなんですよね。どうしてこう超常現象が絡んでいるんでしょう」
「そりゃあ、魔法使いが絡んでいるからだろう」
「ううん」
清野が恨んでいることに妥当性があったとしても、やはり総てがすっきりと説明できるわけではないのだ。これをどうすべきか。それにしても、魔法使いの正体が謎だ。魔法使いは、人間なのだろうか。
「ああ、そうか。そいつが悪魔かもしれないってか」
「ええ。魔法使いや魔女って、要するに西洋で神に従わなかった人ってことらしいですから」
「神、か」
カワウソからそんなことまで考えるのかと、葉月は皮肉げに笑った。しかし、物理学者としては見過ごせない単語だ。
「神って聞くと、アインシュタインやホーキングを思い出させるな」
「ええ。物理学と神って、対立構造にあるというか、親和性が強いというべきか」
「そう。だって、私たちは宇宙の成り立ちを調べているわけだからね。天地創造への挑戦だ。神を用いず、数式でこの世界を表せることが出来るか。それが物理学者の挑戦だ」
「ええ」
ということは、この事件に神を想定しても問題ないのだろうか。そして、カワウソの呪いは数式に書き下すことが出来るのだろうか。いや、それは無理な気がする。
「ま、神とその対立項である悪魔。これは考えてみる必要があるかもしれないな。つまり、占部は知らない間に神の怒りを買う何かに触れたのかもしれない。そして」
「呪われた」
なんか、壮大な話になってきた。美織は出てきた内容に目眩がするのだった。
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