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第6話 危機を招いたのは亜塔
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「よし。それではずっとこの七不思議ばかりしているのも疲れるので通常に戻ろう。やはり科学をしないとね」
部長としてどうなんだという発言とともに、七不思議会議は終わってしまった。
「よいしょ」
そして誰もそれに突っ込まない。優我に至ってはもう量子力学に関する本を広げていた。
「あっ。ちょっと炎色反応の実験をしたいんだけど」
千晴ももう自分の興味にしか目がいっていない。桜太にそんなことを訊いている。
「いいよ。火の扱いだけ注意してくれ」
桜太ももうブラックホールの本を読んでいた。
「ダメだな。これは」
廊下からこっそり様子を窺っていた亜塔は、いつもどおりのぐだっとした活動が始まったことで危機感を募らせていたのだった。
せっかく面白いものを見つけて部活を盛り上げようとしているのに呑気な後輩の姿を目撃してしまった亜塔は、三年メンバーを集めていた。場所は高校近くのファストフード店だ。
「諸君。我らが愛すべき後輩たちが奮闘しているわけだが、どうにも心配でならない。全員が受験で大変なことは解るが何とか協力してやらないか?」
亜塔はチーズバーガーを握り締めながら重々しく言った。どうにも科学部の部長になる奴はこういう言い回しが好きだった。
「それは構わないけどね。俺は指定校推薦で行けそうだしさ」
そんな呑気な意見を言うのは怪談を目撃した一人である奈良井芳樹だ。彼も例に漏れず眼鏡を掛けている。しかも黒縁で余計に真面目さを強調していた。さらに奇妙なことに、その手は先ほど来る途中で捕獲したアマガエルを入れた瓶を愛おしそうに握り締めている。
「僕もそれほど切羽詰まってないよ。というか、あの部を本当に守ろうと奮闘し始めるとは驚きだな」
芳樹の横でのんびりポテトを食べていた中沢莉音が笑う。その彼もまた眼鏡。科学部男子の眼鏡着用率は百パーセントなのだ。ただ莉音はおしゃれに気を遣うタイプで、眼鏡もどこか洒脱だ。髪形も真面目というより遊んだ形跡がある。
「そうだな。あの部の危機を招いたのは何を隠そう俺の実験音痴のせいだ。ちょっとぼんっといわせてしまったがために科学コンテスト参加が見送りになり、そのまま。いつの間にか今の好きなものをバラバラに研究するスタイルに落ち着いてしまった」
亜塔はチーズバーガーを齧りながらも責任を感じていた。現在の二年生たちは知らないことだが、科学コンテストの参加が無くなった直接の原因は亜塔にある。そして部長になったかと思えば新入生獲得に失敗。しかし言い出すことも出来ずに存続の危機を何とかしろとだけ頼んでいる始末だった。
「まあ、あれはあれでアリかなと思ってたしな。もともと科学っていう括りが大雑把すぎたんだ。集まってみると全員の興味はてんでバラバラ。そう考えると無理に一つのテーマを追求するよりかは個人で研究を進めたほうがいい」
カエルの様子を気にしつつ芳樹は諦めろと暗に言う。こうしてカエルを愛でられる環境があっただけでも良しというところだった。そうでなければ一人で黙々とカエルを追い駆ける高校生活だっただろう。
「そうだよな。科学部のメンバーって行きつくところに行きついてしまった連中の集まりだからな。将来は全員が研究者を志望しているという志は高いものの、分野が違いすぎるんだ。みんなで一緒に何かしましょうって柄でもないだろう」
まったくフォローしない莉音である。莉音も惑星の内部を考えることに集中し過ぎて周りから変人のレッテルを貼られている。どうにも自分と周りは違うとの自覚はあった。
「それが続くなら問題ない。俺だって自らの興味を希求することで精一杯だ。しかし今年の新入生はゼロ。来年も続けば部員がゼロになり廃部。これは避けるべき事態だろう。代々変人と孤立していた人々が集っていた場所だ。この愛すべき変人憩いの場を消していいものか」
全く以て非協力的は二人を前に、チーズバーガーを食べ終えた亜塔は吠えた。自ら変人を全力で肯定してしまったり、あまつさえそれを憩いの場と言ってしまう奇妙さには気づいていない。
「まあまあ。科学部の連中が学校で浮いた存在だというのは解っている。俺も引退して部活に行かなくなるとそれが身に染みて解って辛いところだった。だから協力はするって初めから言っているだろ?」
うるさい亜塔を宥める芳樹の言葉は切なかった。ただでさえ学校に居場所がないのにファストフード店を出入り禁止になっては堪らない。
「すまない。つい興奮して」
亜塔も周りの冷たい視線に気づいて謝った。
部長としてどうなんだという発言とともに、七不思議会議は終わってしまった。
「よいしょ」
そして誰もそれに突っ込まない。優我に至ってはもう量子力学に関する本を広げていた。
「あっ。ちょっと炎色反応の実験をしたいんだけど」
千晴ももう自分の興味にしか目がいっていない。桜太にそんなことを訊いている。
「いいよ。火の扱いだけ注意してくれ」
桜太ももうブラックホールの本を読んでいた。
「ダメだな。これは」
廊下からこっそり様子を窺っていた亜塔は、いつもどおりのぐだっとした活動が始まったことで危機感を募らせていたのだった。
せっかく面白いものを見つけて部活を盛り上げようとしているのに呑気な後輩の姿を目撃してしまった亜塔は、三年メンバーを集めていた。場所は高校近くのファストフード店だ。
「諸君。我らが愛すべき後輩たちが奮闘しているわけだが、どうにも心配でならない。全員が受験で大変なことは解るが何とか協力してやらないか?」
亜塔はチーズバーガーを握り締めながら重々しく言った。どうにも科学部の部長になる奴はこういう言い回しが好きだった。
「それは構わないけどね。俺は指定校推薦で行けそうだしさ」
そんな呑気な意見を言うのは怪談を目撃した一人である奈良井芳樹だ。彼も例に漏れず眼鏡を掛けている。しかも黒縁で余計に真面目さを強調していた。さらに奇妙なことに、その手は先ほど来る途中で捕獲したアマガエルを入れた瓶を愛おしそうに握り締めている。
「僕もそれほど切羽詰まってないよ。というか、あの部を本当に守ろうと奮闘し始めるとは驚きだな」
芳樹の横でのんびりポテトを食べていた中沢莉音が笑う。その彼もまた眼鏡。科学部男子の眼鏡着用率は百パーセントなのだ。ただ莉音はおしゃれに気を遣うタイプで、眼鏡もどこか洒脱だ。髪形も真面目というより遊んだ形跡がある。
「そうだな。あの部の危機を招いたのは何を隠そう俺の実験音痴のせいだ。ちょっとぼんっといわせてしまったがために科学コンテスト参加が見送りになり、そのまま。いつの間にか今の好きなものをバラバラに研究するスタイルに落ち着いてしまった」
亜塔はチーズバーガーを齧りながらも責任を感じていた。現在の二年生たちは知らないことだが、科学コンテストの参加が無くなった直接の原因は亜塔にある。そして部長になったかと思えば新入生獲得に失敗。しかし言い出すことも出来ずに存続の危機を何とかしろとだけ頼んでいる始末だった。
「まあ、あれはあれでアリかなと思ってたしな。もともと科学っていう括りが大雑把すぎたんだ。集まってみると全員の興味はてんでバラバラ。そう考えると無理に一つのテーマを追求するよりかは個人で研究を進めたほうがいい」
カエルの様子を気にしつつ芳樹は諦めろと暗に言う。こうしてカエルを愛でられる環境があっただけでも良しというところだった。そうでなければ一人で黙々とカエルを追い駆ける高校生活だっただろう。
「そうだよな。科学部のメンバーって行きつくところに行きついてしまった連中の集まりだからな。将来は全員が研究者を志望しているという志は高いものの、分野が違いすぎるんだ。みんなで一緒に何かしましょうって柄でもないだろう」
まったくフォローしない莉音である。莉音も惑星の内部を考えることに集中し過ぎて周りから変人のレッテルを貼られている。どうにも自分と周りは違うとの自覚はあった。
「それが続くなら問題ない。俺だって自らの興味を希求することで精一杯だ。しかし今年の新入生はゼロ。来年も続けば部員がゼロになり廃部。これは避けるべき事態だろう。代々変人と孤立していた人々が集っていた場所だ。この愛すべき変人憩いの場を消していいものか」
全く以て非協力的は二人を前に、チーズバーガーを食べ終えた亜塔は吠えた。自ら変人を全力で肯定してしまったり、あまつさえそれを憩いの場と言ってしまう奇妙さには気づいていない。
「まあまあ。科学部の連中が学校で浮いた存在だというのは解っている。俺も引退して部活に行かなくなるとそれが身に染みて解って辛いところだった。だから協力はするって初めから言っているだろ?」
うるさい亜塔を宥める芳樹の言葉は切なかった。ただでさえ学校に居場所がないのにファストフード店を出入り禁止になっては堪らない。
「すまない。つい興奮して」
亜塔も周りの冷たい視線に気づいて謝った。
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