4 / 28
第4話 深刻な事態は理解したが・・・
しおりを挟む
「ほう。晴明に会いたいと。つまり、君の生きる時代でも晴明は有名人ということか」
忠行の確認に、泰久はそれはもうと頷く。
「稀代の陰陽師、天才と、その伝説は数多く残っております。さらに歌舞伎という新しい演芸の題材にもなっているほどです」
そして凄いでしょうとそう未来の状況を披露する。すると、保憲はますます笑い、晴明はますます不機嫌になった。
「ええっと」
「解った。凄い有名なんだな」
「はい」
泰久はこくりと頷く。
「それで、そんな憧れのご先祖様に秘術を用いて会いに来た理由とは?」
二人の反応を無視して、忠行は淡々と確認してくれる。これはありがたいと、泰久は目的を語った。
「実は、私の生きる時代では、陰陽道はすでに儀礼と化し、実際に何を行うべきかが解らなくなっているんです。それは陰陽道だけでなく、天文も正確な観測が出来ず、暦の作成に至っては武士に取られてしまう始末でして。だから、ちゃんとした知識がほしいと考えたんです」
「ほう」
「なんだって?」
「武士が暦を?」
頷く忠行とは違い、晴明と保憲はどういうことだと詰め寄ってきた。今まで対極的な反応をしていた二人とは思えない、息ぴったりの反応だ。
「ええっと、暦はそれまでずっと、この時代から続く宣明暦が使われていてですね。当然、八百年経って、ずれが酷く使えないものになっていたんです。そこで新しい暦を作る必要が出てきたわけですが、陰陽寮の者は誰もその作り方が解らず、結局、江戸にある幕府に仕える渋川春海という男が新しい暦、貞享暦を作り上げたんです」
泰久は自分が生まれる十年ほど前にあったことを、そう二人に伝える。すると、二人の顔は深刻なものになった。
「江戸やら幕府やらは解らないが、ともかく、暦の作成に陰陽寮が関われなくなる未来があるということは理解した」
保憲は拙いですねえと、思い切り腕を組んだ。そんな彼は現在、暦博士の地位にある。つまり、自分の地位が未来では有名無実化してしまうわけだ。
「そもそも宣明暦を使い続けるというのが非常識だ。今でも修正が大変で、保憲様が新しい暦を導入すべきではないかと、この頃研究されておられるというのに」
そして晴明も、滅茶苦茶だなと舌打ちしてくれる。
あれ、この時代からずれていたんだ。泰久はそんな事実があったなんてと驚いた。と同時に、武士に取られて悔しそうな顔をしていた賀茂家の面々の顔を思い浮かべ、あいつらもポンコツだなと思った。
「ということは、当然のように陰陽道も天文道も使えないものになっていると。それを何とかしたくて来たというわけだな。これはもう、正しい知識を残しなさいという、天の意思かもしれないねえ」
真剣な顔になった弟子たちに、忠行はしっかり取り組まなければならないぞと檄を飛ばした。しかし、晴明も保憲も嫌そうな顔をする。
「それは晴明の仕事でしょう」
「いやいや。俺はまだまだ未熟者。この間も大納言様を怒らせたくらいですからね。保憲様が面倒を見てくださいよ」
そして互いに押し付け合い始めた。
「半分ずつにするか」
「嫌です」
「面倒です」
忠行の言葉に、保憲と晴明はきっぱり言ってくれる。泰久は断られるなんて思っていなくて、そんなあと悲鳴だ。
「お前たち、今、深刻な未来を聞いてしまったところだというのに」
そんな二人の反応に、忠行はこらこらと窘める。
「だったら、陰陽頭様がやるべきですよ」
「そうですよ。賀茂家が暦道に名を残すというのならば、二つの祖である陰陽頭様がやるべきです」
そんな忠行に、結託した師弟、保憲と晴明がやいやいと反論する。それに忠行は出来るかと溜め息だ。
「俺は忙しい」
「それならば俺も」
「俺だって」
なんだ、この状況は。
「あの、雑用や出来ることでしたらお手伝いしますし、何とか教えてください」
泰久はそう頼んだが、三人の視線はどうしようと彷徨う。が、とんでもない状況が先に待っているというのに、追い返せないのも事実だ。
「暦の計算が出来ない、その他も出来ないだろうと解っているってのが難問だ」
晴明はがしがしと首の後ろを掻く。
「それだ。基礎はどこまで出来ているんだ」
保憲も天井を仰ぐ。
ええっ、こんな反応をされるとは思ってなかったんですけど。泰久はどうしたらとオロオロする。
そりゃあ、何も出来ませんよ。暦が計算するものだって、渋川春海が作るまで忘れられていましたよ。でも、出来ることはあるはずだ。
「ともかく、明日、陰陽寮の試験を解いてもらおう。それからだな」
二人の反応と泰久を見比べた忠行は、そう決定するのだった。
「し、試験って何をするんですか? まさか、物の怪を探して来いとか言いませんよね」
帰り道、泰久は心配になって晴明にそう確認した。すると、会った時と同じく虫けらを見るような目を向けられた。
「ええっと」
「零点を取るな。間違いない」
やれやれと晴明は首を振る。
「ええっと」
「問題は計算、読解の二つだ」
「・・・・・・」
内容を教えられて、泰久は嘘と頬を両手で押えた。
「お前、陰陽師を何だと思っているんだ?」
そして根本的なところを問われる。
「ええっと、天の意思を知り、気の流れを操り、悪しきモノを祓う存在だと」
泰久は必死にやっていることを並べると、晴明の目にますます侮蔑の色が加わった。
ええっ、間違っているの?!
むしろ泰久にはその反応が信じられない。
年代間格差。八百年の壁が今、如実に表われた瞬間だ。
「零点を取るな」
晴明はもう一度そう言うしかないのだった。
忠行の確認に、泰久はそれはもうと頷く。
「稀代の陰陽師、天才と、その伝説は数多く残っております。さらに歌舞伎という新しい演芸の題材にもなっているほどです」
そして凄いでしょうとそう未来の状況を披露する。すると、保憲はますます笑い、晴明はますます不機嫌になった。
「ええっと」
「解った。凄い有名なんだな」
「はい」
泰久はこくりと頷く。
「それで、そんな憧れのご先祖様に秘術を用いて会いに来た理由とは?」
二人の反応を無視して、忠行は淡々と確認してくれる。これはありがたいと、泰久は目的を語った。
「実は、私の生きる時代では、陰陽道はすでに儀礼と化し、実際に何を行うべきかが解らなくなっているんです。それは陰陽道だけでなく、天文も正確な観測が出来ず、暦の作成に至っては武士に取られてしまう始末でして。だから、ちゃんとした知識がほしいと考えたんです」
「ほう」
「なんだって?」
「武士が暦を?」
頷く忠行とは違い、晴明と保憲はどういうことだと詰め寄ってきた。今まで対極的な反応をしていた二人とは思えない、息ぴったりの反応だ。
「ええっと、暦はそれまでずっと、この時代から続く宣明暦が使われていてですね。当然、八百年経って、ずれが酷く使えないものになっていたんです。そこで新しい暦を作る必要が出てきたわけですが、陰陽寮の者は誰もその作り方が解らず、結局、江戸にある幕府に仕える渋川春海という男が新しい暦、貞享暦を作り上げたんです」
泰久は自分が生まれる十年ほど前にあったことを、そう二人に伝える。すると、二人の顔は深刻なものになった。
「江戸やら幕府やらは解らないが、ともかく、暦の作成に陰陽寮が関われなくなる未来があるということは理解した」
保憲は拙いですねえと、思い切り腕を組んだ。そんな彼は現在、暦博士の地位にある。つまり、自分の地位が未来では有名無実化してしまうわけだ。
「そもそも宣明暦を使い続けるというのが非常識だ。今でも修正が大変で、保憲様が新しい暦を導入すべきではないかと、この頃研究されておられるというのに」
そして晴明も、滅茶苦茶だなと舌打ちしてくれる。
あれ、この時代からずれていたんだ。泰久はそんな事実があったなんてと驚いた。と同時に、武士に取られて悔しそうな顔をしていた賀茂家の面々の顔を思い浮かべ、あいつらもポンコツだなと思った。
「ということは、当然のように陰陽道も天文道も使えないものになっていると。それを何とかしたくて来たというわけだな。これはもう、正しい知識を残しなさいという、天の意思かもしれないねえ」
真剣な顔になった弟子たちに、忠行はしっかり取り組まなければならないぞと檄を飛ばした。しかし、晴明も保憲も嫌そうな顔をする。
「それは晴明の仕事でしょう」
「いやいや。俺はまだまだ未熟者。この間も大納言様を怒らせたくらいですからね。保憲様が面倒を見てくださいよ」
そして互いに押し付け合い始めた。
「半分ずつにするか」
「嫌です」
「面倒です」
忠行の言葉に、保憲と晴明はきっぱり言ってくれる。泰久は断られるなんて思っていなくて、そんなあと悲鳴だ。
「お前たち、今、深刻な未来を聞いてしまったところだというのに」
そんな二人の反応に、忠行はこらこらと窘める。
「だったら、陰陽頭様がやるべきですよ」
「そうですよ。賀茂家が暦道に名を残すというのならば、二つの祖である陰陽頭様がやるべきです」
そんな忠行に、結託した師弟、保憲と晴明がやいやいと反論する。それに忠行は出来るかと溜め息だ。
「俺は忙しい」
「それならば俺も」
「俺だって」
なんだ、この状況は。
「あの、雑用や出来ることでしたらお手伝いしますし、何とか教えてください」
泰久はそう頼んだが、三人の視線はどうしようと彷徨う。が、とんでもない状況が先に待っているというのに、追い返せないのも事実だ。
「暦の計算が出来ない、その他も出来ないだろうと解っているってのが難問だ」
晴明はがしがしと首の後ろを掻く。
「それだ。基礎はどこまで出来ているんだ」
保憲も天井を仰ぐ。
ええっ、こんな反応をされるとは思ってなかったんですけど。泰久はどうしたらとオロオロする。
そりゃあ、何も出来ませんよ。暦が計算するものだって、渋川春海が作るまで忘れられていましたよ。でも、出来ることはあるはずだ。
「ともかく、明日、陰陽寮の試験を解いてもらおう。それからだな」
二人の反応と泰久を見比べた忠行は、そう決定するのだった。
「し、試験って何をするんですか? まさか、物の怪を探して来いとか言いませんよね」
帰り道、泰久は心配になって晴明にそう確認した。すると、会った時と同じく虫けらを見るような目を向けられた。
「ええっと」
「零点を取るな。間違いない」
やれやれと晴明は首を振る。
「ええっと」
「問題は計算、読解の二つだ」
「・・・・・・」
内容を教えられて、泰久は嘘と頬を両手で押えた。
「お前、陰陽師を何だと思っているんだ?」
そして根本的なところを問われる。
「ええっと、天の意思を知り、気の流れを操り、悪しきモノを祓う存在だと」
泰久は必死にやっていることを並べると、晴明の目にますます侮蔑の色が加わった。
ええっ、間違っているの?!
むしろ泰久にはその反応が信じられない。
年代間格差。八百年の壁が今、如実に表われた瞬間だ。
「零点を取るな」
晴明はもう一度そう言うしかないのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる