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第13話 巻物
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疲れには抗えずに一眠りした泰久だったが、昼過ぎに起きるなり、どうしようと頭を抱えていた。
「そうだ。帰り方が解らない」
すっかり忘れていたのは、陰陽道が想像とは全く異なるものだったせいだ。いや、今のところ陰陽道そのものには触れていないが、何にせよ、算術が出来なければどうしようもないと知った衝撃が出かかった。
では、呪術としか思えないあの巻物はどう考えればいいのか。
泰久はううむと唸り、ともかく晴明に確認してみることにした。晴明の部屋に行くと、部屋の主は狩衣を寛げてぼんやりしているところだった。
「あの、今、いいですか」
「いいけど」
何だよと睨まれたが、泰久にとって晴明は頼りになるご先祖様。彼に相談するしか道はない。
「晴明様。この屋敷にあの巻物があるなんてことは」
「ないね」
最後まで言う前に否定された。泰久は頭を抱えてむおおおっと奇声を上げてしまう。
「お前、本当に巻物でこの時代に来たのか?」
晴明は奇妙な声を出して悶える泰久に、他に方法はないのかと訊く。今ではもう、この男が時代を遡ってきたことを疑うつもりはない。しかし、方法は疑いたかった。
「巻物を読んでいたらこの時代にいたんです。でも、俺も偶然に成功したので、どうして移動できたのかは解らないんですけど」
泰久はそもそも、まともに呪術も使えませんよと情けない顔になる。
「まあ、呪術なんてのは必ず裏があるものだ。ところが、お前の身に降りかかったのは異常現象だからな」
そんな泰久に、晴明は追い打ちを掛けるように言ってくれる。
ぐはっ、異常現象。
心にぐっさりと刺さる言葉だなと泰久は胸を撫でる。
「まあ、そういう巻物があったということは、どこかから伝わってきたということだろう。遣唐使がまだ行き来していた頃は、大陸から不思議なものが伝わってきていたからな。そういう類いのものかもしれない」
晴明は気の毒になったので、どっかにあるかもねと言っておく。
「ううむ。でも、今はもう遣唐使は行き来していないんですよね」
そのおかげで新しい知識が入ってこないと、先日晴明が言っていた。そしてそれが、後に陰陽道が呪術に特化した理由だろうとも言っていたほどだ。
「遣唐使は行き来していないが、抜け道がないわけではない」
「えっ」
「なんせ、賀茂家はそういう伝を使って書を集め、陰陽寮を乗っ取る・・・・・・陰陽寮に入って上に行くだけの頭脳を手に入れたからな」
「はあ」
今、はっきり乗っ取るって言いましたよね。まあ、晴明の母親の話を聞いた時に知っていましたけど。だから別に言い直さなくても良かったんですけど、複雑な気分です。泰久は遠い目をしてしまう。
「ともかくだ。異国の書を手に入れる手段は存在する。一応、忠行様に話を通しておこう。そして、怪しい巻物を見つけたら回して貰えるように手配しておけば、見つかるかもしれん」
「な、なるほど」
って、あれが異国の巻物だったのかも解らないのだが。読めなかった泰久は、どうなんだろうと悩んでしまう。
が、ともかく全く見つかる望みがないという状況からは脱出したことになる。
「陰陽寮に入るのも大変なんですね」
泰久は他に言うことが見つからず、そんな感想を漏らす。
「一応試験はあるからな。とはいえ、大学寮ほど難しいわけでもないし、普通に算術が出来れば、というところだ。まあ、お前を見ていて思うが、その算術が色々と難しい原因だけどな。年々、試験は簡略化される方向にあるし、俺たちがしっかり勉強したのも、他の奴らより頭一つ抜け出すためだからな」
「ですよねえ」
晴明と保憲がずば抜けて出来るだけだ。いくら家にそういう書物があったからといって、解けるとは限らないだろう。しかし、それが正しい陰陽道や天文道、暦道の伝達を阻んでいるのも事実である。
「はあ、頭が良くなりたい」
だから、泰久は最終的にそう呟いてしまう。
「反復練習あるのみだな」
それに対し晴明は、やる気はあるんだなと苦笑いを浮かべていた。
夕方になって出仕すると、陰陽寮の中が慌ただしかった。
「どうかしたんですか?」
晴明が保憲を捕まえて訊ねると
「鬼が出たと騒ぎがあったらしいよ」
と保憲が肩を竦めて教えてくれる。
「ええっと、どこで?」
まさか宴の松原でかと思ったが
「それが内裏でだよ。おかげで陰陽頭が呼び出されて行っている」
と、保憲が先回りして教えてくれた。先日の騒動は関係ないらしい。
「ええっと、じゃあ、本当に出たんですか?」
泰久は期待を込めて訊くが、二人に呆れた目で見られてしまった。やっぱり本物は出ないらしい。
「恨んでいる人間は何をするか解らないからねえ」
がっかりしていると、保憲が意味深なことを言ってくれる。一体何だろうと思って首を傾げるが、それ以上は教えてくれないらしい。忙しい保憲はそこで呼ばれて行ってしまった。そして、晴明はこっちに来いと泰久を邪魔にならない部屋の端に引っ張っていく。
「お前の時代にも身分はあるだろう」
そして、そんなことを訊ねてきた。
「そりゃあ、ありますよ。とはいえ、この時代とは違いますけど」
泰久は数日で実感したことを踏まえて言う。平安時代の方が身分制度が厳しい。そう感じていた。
「そうだ。帰り方が解らない」
すっかり忘れていたのは、陰陽道が想像とは全く異なるものだったせいだ。いや、今のところ陰陽道そのものには触れていないが、何にせよ、算術が出来なければどうしようもないと知った衝撃が出かかった。
では、呪術としか思えないあの巻物はどう考えればいいのか。
泰久はううむと唸り、ともかく晴明に確認してみることにした。晴明の部屋に行くと、部屋の主は狩衣を寛げてぼんやりしているところだった。
「あの、今、いいですか」
「いいけど」
何だよと睨まれたが、泰久にとって晴明は頼りになるご先祖様。彼に相談するしか道はない。
「晴明様。この屋敷にあの巻物があるなんてことは」
「ないね」
最後まで言う前に否定された。泰久は頭を抱えてむおおおっと奇声を上げてしまう。
「お前、本当に巻物でこの時代に来たのか?」
晴明は奇妙な声を出して悶える泰久に、他に方法はないのかと訊く。今ではもう、この男が時代を遡ってきたことを疑うつもりはない。しかし、方法は疑いたかった。
「巻物を読んでいたらこの時代にいたんです。でも、俺も偶然に成功したので、どうして移動できたのかは解らないんですけど」
泰久はそもそも、まともに呪術も使えませんよと情けない顔になる。
「まあ、呪術なんてのは必ず裏があるものだ。ところが、お前の身に降りかかったのは異常現象だからな」
そんな泰久に、晴明は追い打ちを掛けるように言ってくれる。
ぐはっ、異常現象。
心にぐっさりと刺さる言葉だなと泰久は胸を撫でる。
「まあ、そういう巻物があったということは、どこかから伝わってきたということだろう。遣唐使がまだ行き来していた頃は、大陸から不思議なものが伝わってきていたからな。そういう類いのものかもしれない」
晴明は気の毒になったので、どっかにあるかもねと言っておく。
「ううむ。でも、今はもう遣唐使は行き来していないんですよね」
そのおかげで新しい知識が入ってこないと、先日晴明が言っていた。そしてそれが、後に陰陽道が呪術に特化した理由だろうとも言っていたほどだ。
「遣唐使は行き来していないが、抜け道がないわけではない」
「えっ」
「なんせ、賀茂家はそういう伝を使って書を集め、陰陽寮を乗っ取る・・・・・・陰陽寮に入って上に行くだけの頭脳を手に入れたからな」
「はあ」
今、はっきり乗っ取るって言いましたよね。まあ、晴明の母親の話を聞いた時に知っていましたけど。だから別に言い直さなくても良かったんですけど、複雑な気分です。泰久は遠い目をしてしまう。
「ともかくだ。異国の書を手に入れる手段は存在する。一応、忠行様に話を通しておこう。そして、怪しい巻物を見つけたら回して貰えるように手配しておけば、見つかるかもしれん」
「な、なるほど」
って、あれが異国の巻物だったのかも解らないのだが。読めなかった泰久は、どうなんだろうと悩んでしまう。
が、ともかく全く見つかる望みがないという状況からは脱出したことになる。
「陰陽寮に入るのも大変なんですね」
泰久は他に言うことが見つからず、そんな感想を漏らす。
「一応試験はあるからな。とはいえ、大学寮ほど難しいわけでもないし、普通に算術が出来れば、というところだ。まあ、お前を見ていて思うが、その算術が色々と難しい原因だけどな。年々、試験は簡略化される方向にあるし、俺たちがしっかり勉強したのも、他の奴らより頭一つ抜け出すためだからな」
「ですよねえ」
晴明と保憲がずば抜けて出来るだけだ。いくら家にそういう書物があったからといって、解けるとは限らないだろう。しかし、それが正しい陰陽道や天文道、暦道の伝達を阻んでいるのも事実である。
「はあ、頭が良くなりたい」
だから、泰久は最終的にそう呟いてしまう。
「反復練習あるのみだな」
それに対し晴明は、やる気はあるんだなと苦笑いを浮かべていた。
夕方になって出仕すると、陰陽寮の中が慌ただしかった。
「どうかしたんですか?」
晴明が保憲を捕まえて訊ねると
「鬼が出たと騒ぎがあったらしいよ」
と保憲が肩を竦めて教えてくれる。
「ええっと、どこで?」
まさか宴の松原でかと思ったが
「それが内裏でだよ。おかげで陰陽頭が呼び出されて行っている」
と、保憲が先回りして教えてくれた。先日の騒動は関係ないらしい。
「ええっと、じゃあ、本当に出たんですか?」
泰久は期待を込めて訊くが、二人に呆れた目で見られてしまった。やっぱり本物は出ないらしい。
「恨んでいる人間は何をするか解らないからねえ」
がっかりしていると、保憲が意味深なことを言ってくれる。一体何だろうと思って首を傾げるが、それ以上は教えてくれないらしい。忙しい保憲はそこで呼ばれて行ってしまった。そして、晴明はこっちに来いと泰久を邪魔にならない部屋の端に引っ張っていく。
「お前の時代にも身分はあるだろう」
そして、そんなことを訊ねてきた。
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泰久は数日で実感したことを踏まえて言う。平安時代の方が身分制度が厳しい。そう感じていた。
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