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第21話 毒を食らわば皿まで
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「それはすでに裏を取ってあるよ。問題の中将は左近衛中将を務める人だね。浮名を流していることで有名なお方だ」
「やはり、ですか」
有名というだけあって、晴明は知っているようだ。美味しいお酒を飲んでいるというのに、苦り切った顔をしている。ついでにその顔から、以前にも依頼があったことが読み取れた。
「で、相手の姫君は今日お伺いした姫よりも身分の落ちる、橘の姫君だね」
保憲はそりゃあ、自分より身分が下の姫に気が移れば、呪いたくもなるよねと笑っている。
橘氏は今より百年ほど前、承和の変にて失脚した一族だ。今はそれなりに立場を回復しているが、権力からは遠ざかっていると言っていい。名門ではあるが零落している一族なのだ。
「ええっと、今日の姫様って」
しかし、泰久はこの時代の人たちについて詳しいわけではないので、何が何やらだ。もう少し詳しく教えてもらいたい。依頼人は高貴な姫君だったのか。
「今日の姫君は藤の姫だよ。とはいえ、後宮に入っていないことから、それなりとだけ言っておこう」
だが、保憲はその辺を詳しく知っちゃうと今後の仕事に差し障るからと、そこまでしか教えてくれない。
とはいえ、今の言葉で泰久もおぼろげならが解った。藤の姫ということは藤原氏。しかし後宮に入っていないということは、最も権力を誇っている家ではないということだ。それでも、藤原の一族としてそれなりに遇されいるということだろう。
「なるほど。あの対応も当然ってくらいの身分ってことですか」
泰久はもぐもぐと美味しいご飯を頂きつつ納得。
「高貴な姫ほど人前に姿を晒してはいけないからね。そしてそういう人は、下の者を人は思っていない。許せないと思っても当然だよ。翻せば、自分が呪うなどあってはならない話なんだ。そこで陰陽師の登場というわけだ」
保憲もぱくぱくとご飯を食べ、お酒を飲んでと忙しい。日々の業務が忙しい上に、頭脳労働に体力仕事だからお腹が空いているのだろう。
「面倒事は全部こっちに回ってくるというだけですよね」
で、晴明もここぞとばかりにばくばくと食べながら言う。こちらは師匠への嫌がらせ込みか。高そうな料理ばかりを狙って食べている。
そんな子どもっぽい行動に、泰久は思わずビックリしてしまうが、今の晴明は泰久より二つ上なだけだ。そういう嫌がらせもしたくなるだろう。
「まあ、そのおかげで俺たちは好き勝手にできるんだからいいじゃないか。というわけで晴明。中将には今度こそきつめのやつを頼むよ」
保憲は楽しいことだってあるだろうとそう唆す。
「解りました。前回を上回るやつでいきます」
でもって晴明まで乗り気なのだから、この時代の陰陽師って何なんだろうと泰久はやっぱり呆れてしまう。
けれども、とっても楽しそうだ。少なくとも、儀礼にぎちぎち、儀式ばかりの泰久の時代の陰陽師よりも生き生きしている。
「毒を食らわば皿まで、ですね」
泰久はそう自分に言い聞かせ、どうやって嫌いなものに囲まれて笑っていられるかを真剣に考えるのだった。
三日後。まず保憲が動いた。橘の姫に少々嫌がらせ、もとへ脅かしを掛けてきたのだ。泰久も何をやるのか気になったので同行させてもらったが、火薬を使って異音を作り出すというもので、仕掛けが解っていれば何ともないものだった。しかし、仕掛けで起こっているなんて知らない姫たちは、面白いぐらいに怯えていた。
「怪異でございます、姫様」
「は、早う陰陽師か僧を呼ぶのじゃ」
「せっかくの中将様のお渡りが、妙な音で途切れては困りますぞ」
そんな声が、屋敷の中から聞こえてくる。ついでどたばた走り回る音もしていた。
「なんか申し訳なくなりますね」
「実害はないからいいんじゃない」
少し離れたところで牛車に乗って状況を確認していた泰久は情けない顔になり、保憲はくくっと笑いを堪えていた。しかし、ここで終わりにしないのが保憲の凄いところだ。
「じゃあ、行くよ」
「えっ、行くって」
「そりゃあ、自作自演をしに」
「・・・・・・なるほど」
ちゃっかり自分を売り込むつもりだ。保憲は異音で大騒ぎになっている屋敷に乗り込んでいく。泰久も慌てて追い掛けた。
「大丈夫ですか。私は暦博士をしている賀茂という者ですが」
「おおっ、なんと」
「陰陽寮の方か」
保憲のわざとらしいくらいの大声の名乗りに、屋敷の雑色たちが出てきた。その顔はまさに神仏に出会ったかのようである。
「お願いします。何かが屋敷に悪さを」
「解っております。塩と酒を用意していただけますか」
「す、すぐに」
こうしていわゆるお祓いを保憲が執り行ったわけだが、いやはや、そりゃあ後の世で見事に勘違いした部分しか残らないでしょうという、素晴らしい演出込みのお祓いだった。部下たちを使って奇跡を演出できるというのは、非常に強みである。
「ああ。俺の時代ではあのお祓い部分だけをやっているってことか」
というわけで、無事に終えて牛車に戻った泰久が、そう呟いて倒れてしまったとしても無理なからぬことだった。
「やはり、ですか」
有名というだけあって、晴明は知っているようだ。美味しいお酒を飲んでいるというのに、苦り切った顔をしている。ついでにその顔から、以前にも依頼があったことが読み取れた。
「で、相手の姫君は今日お伺いした姫よりも身分の落ちる、橘の姫君だね」
保憲はそりゃあ、自分より身分が下の姫に気が移れば、呪いたくもなるよねと笑っている。
橘氏は今より百年ほど前、承和の変にて失脚した一族だ。今はそれなりに立場を回復しているが、権力からは遠ざかっていると言っていい。名門ではあるが零落している一族なのだ。
「ええっと、今日の姫様って」
しかし、泰久はこの時代の人たちについて詳しいわけではないので、何が何やらだ。もう少し詳しく教えてもらいたい。依頼人は高貴な姫君だったのか。
「今日の姫君は藤の姫だよ。とはいえ、後宮に入っていないことから、それなりとだけ言っておこう」
だが、保憲はその辺を詳しく知っちゃうと今後の仕事に差し障るからと、そこまでしか教えてくれない。
とはいえ、今の言葉で泰久もおぼろげならが解った。藤の姫ということは藤原氏。しかし後宮に入っていないということは、最も権力を誇っている家ではないということだ。それでも、藤原の一族としてそれなりに遇されいるということだろう。
「なるほど。あの対応も当然ってくらいの身分ってことですか」
泰久はもぐもぐと美味しいご飯を頂きつつ納得。
「高貴な姫ほど人前に姿を晒してはいけないからね。そしてそういう人は、下の者を人は思っていない。許せないと思っても当然だよ。翻せば、自分が呪うなどあってはならない話なんだ。そこで陰陽師の登場というわけだ」
保憲もぱくぱくとご飯を食べ、お酒を飲んでと忙しい。日々の業務が忙しい上に、頭脳労働に体力仕事だからお腹が空いているのだろう。
「面倒事は全部こっちに回ってくるというだけですよね」
で、晴明もここぞとばかりにばくばくと食べながら言う。こちらは師匠への嫌がらせ込みか。高そうな料理ばかりを狙って食べている。
そんな子どもっぽい行動に、泰久は思わずビックリしてしまうが、今の晴明は泰久より二つ上なだけだ。そういう嫌がらせもしたくなるだろう。
「まあ、そのおかげで俺たちは好き勝手にできるんだからいいじゃないか。というわけで晴明。中将には今度こそきつめのやつを頼むよ」
保憲は楽しいことだってあるだろうとそう唆す。
「解りました。前回を上回るやつでいきます」
でもって晴明まで乗り気なのだから、この時代の陰陽師って何なんだろうと泰久はやっぱり呆れてしまう。
けれども、とっても楽しそうだ。少なくとも、儀礼にぎちぎち、儀式ばかりの泰久の時代の陰陽師よりも生き生きしている。
「毒を食らわば皿まで、ですね」
泰久はそう自分に言い聞かせ、どうやって嫌いなものに囲まれて笑っていられるかを真剣に考えるのだった。
三日後。まず保憲が動いた。橘の姫に少々嫌がらせ、もとへ脅かしを掛けてきたのだ。泰久も何をやるのか気になったので同行させてもらったが、火薬を使って異音を作り出すというもので、仕掛けが解っていれば何ともないものだった。しかし、仕掛けで起こっているなんて知らない姫たちは、面白いぐらいに怯えていた。
「怪異でございます、姫様」
「は、早う陰陽師か僧を呼ぶのじゃ」
「せっかくの中将様のお渡りが、妙な音で途切れては困りますぞ」
そんな声が、屋敷の中から聞こえてくる。ついでどたばた走り回る音もしていた。
「なんか申し訳なくなりますね」
「実害はないからいいんじゃない」
少し離れたところで牛車に乗って状況を確認していた泰久は情けない顔になり、保憲はくくっと笑いを堪えていた。しかし、ここで終わりにしないのが保憲の凄いところだ。
「じゃあ、行くよ」
「えっ、行くって」
「そりゃあ、自作自演をしに」
「・・・・・・なるほど」
ちゃっかり自分を売り込むつもりだ。保憲は異音で大騒ぎになっている屋敷に乗り込んでいく。泰久も慌てて追い掛けた。
「大丈夫ですか。私は暦博士をしている賀茂という者ですが」
「おおっ、なんと」
「陰陽寮の方か」
保憲のわざとらしいくらいの大声の名乗りに、屋敷の雑色たちが出てきた。その顔はまさに神仏に出会ったかのようである。
「お願いします。何かが屋敷に悪さを」
「解っております。塩と酒を用意していただけますか」
「す、すぐに」
こうしていわゆるお祓いを保憲が執り行ったわけだが、いやはや、そりゃあ後の世で見事に勘違いした部分しか残らないでしょうという、素晴らしい演出込みのお祓いだった。部下たちを使って奇跡を演出できるというのは、非常に強みである。
「ああ。俺の時代ではあのお祓い部分だけをやっているってことか」
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