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第21話 禁忌事項
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「恋の力は最強だな。でも、そうなるとやっぱり、恋したくらいじゃ吸血鬼にならねえんだよ。お前が禁断の恋をしていてもなっていないんだから」
「そ、そうか」
完全に失念していたと、ラグランスは天を仰ぐ。が、この場合、自分はマクスウェルと結ばれた途端、吸血鬼になったりしないか。
「まあ、ステキね。吸血鬼同士でしたら、何の障害もなくなりますわね」
「おおい」
勝手に俺まで吸血鬼入りさせるんじゃない。っていうか、そうなったら本末転倒もいいところだ。
しかし、それにしても死者の復活。そんなことをマクスウェルは企んでいたのか。そして、秘法をもって実行しようとしたのか。
実際に死者の復活に関する文書を魔導師は見る事が出来る。たやすく実行できるものではないが、文書は存在する。歴代最高の魔導師をもってしても不可能な魔法であるが、そういう危険な秘法は確かに存在するのだ。
だが、それは同時に、どれだけ力を持っていようと実行してはならない秘法でもある。というのも、それは神に、自然の摂理に背くことだから。禁忌事項、神の意思に背くことの一つだからだ。
「――」
ああ、そうだ。
禁忌事項。
まさしく吸血鬼になる条件はここに記載されていることだけのはずだ。そしてその禁忌は、魔導師にしか当てはまらない。他の身分の神父やシスターではその魔法を使うことが無理だからだ。
「全部、繋がった」
「お前さ。魔導師になったことが全く役立ってなかったんだな」
「うっ」
ここに来なくても出る結論だったんじゃねえかと、トムソンは苦笑いを浮かべる。それに、ラグランスは反論する事が出来ない。たしかにそのとおり。
「でも、ここに来なきゃ解らないこともあった。マクスウェルはまだ、完全に狂ってないし魔物じゃない。今ならまだ、話し合う事が出来る。罪を償う方法を、一緒に考えることが出来る」
「まあな」
前向きかつ建設的な意見に、トムソンは大きく頷いた。もちろん、そのやり取りを見守っていたラピスも、その意気ですと応援してくれる。
「じゃ。やることは一つだな」
「ああ。手遅れになる前にマクスウェルと直接話す。君が何をしたか知っている。それを伝えることで、話し合いの場に持ち込めるはずだ。そして、解決策がないか、彼と一緒に考えるんだ」
こうして、打つ手なしの状況からちょっとは脱出したのだった。
「はあ!? そんなこと出来る訳ねえだろ。俺に死ねって言ってんのか?」
「そこを頼む。お願い。葡萄酒をいくらでも奢るから、な」
「う、うん。魔導師の給料はいいし」
そんな会話を繰り広げる場所は町の酒場。そして説得されているのは自衛団のゼーマンだ。二人は居酒屋でゼーマンを捕まえると、なんとか会うのを手伝ってくれと泣きついていた。
「樽で五個分。どうだ?」
「おいっ、俺の財布で気前よく奢ろうとするなよ」
「煩いな。魔導師様の要求を通すためだろ」
ぎゃあぎゃあと言い合いしつつも、本気で酒を奢ってくれるらしいと解るゼーマンは何とも言えない気分だ。二人のことは嫌いじゃないし、酒を奢って貰わなくても協力したいとは思う。だが、背信行為を容認できるかというと難しい。
二人が何とか頼むよと自衛団に泣きつく理由はもちろん、マクスウェルに会う手段を持っているのが彼らだけだからだ。
直接城に乗り込んでもいいのだが、それだと警戒されて話し合いに持ち込めない。吸血鬼と魔導師の大バトルに発展するだけだ。それを避けたいからこそ頼んでいるのだが、意外にも自警団の忠誠心が強くて折れてくれない。
「俺だけじゃあ決められねえよ。ゴルドン団長に言わねえと」
すでに多量の葡萄酒を奢られているゼーマンは、俺の一存ではねえと渋っていた。やはりマクスウエルを裏切るのは怖い。
「団長を説得しなきゃいけないことは解っているんだよ」
トムソンはその前にお前に相談しているんだと詰め寄る。作戦上、ゴルドンは後だ。一番厄介だから、周辺から取り込みたい。
というわけで、取り巻きの二人から落とそうと奮闘中だ。トムソンが調子を合わせて酒を飲ませ、代金はラグランス払い。そんな作戦である。
「マクスウェル様に会うだけなんだな? 倒そうとか考えてないんだな」
「それはもちろん」
ゼーマンの確認に、当然だよとラグランスは頷いた。実際には何度か倒さなければならないのではと考えていたが、それはもう理性が残っていないとの前提に立っていたからだ。マクスウェルに正常な思考が残っていると知った今となっては、倒すなんて全く考えられない。
「お前だってマクスウェル様を救いたいだろ? このままだったら魔物になっちまうんだぜ」
「ううん。それは薄々感じてたんだよね。徐々に町に来る回数も減ってるし、叶えてくれる願いも減ってる。それだけあの方は、吸血鬼になってるってことなんだろうなとは思っていた」
「――」
意外な情報に、思わずトムソンとラグランスは顔を見合わせてしまう。
そうなのか。ますます時間がない。
「食ってるところとか、見たことねえけどさ。あの方の色気っていうのかな。妙な蠱惑的な雰囲気ってのかな。それが強くなってる気がするし。あれに惑わされたら俺、食われちまうんだろうなって思うことも多くなってる」
「マジか」
人を惑わせる雰囲気。それは悪魔の鉄則だ。
これは本気でヤバいやつだなと、ラグランスの顔が自然と引き締まった。
「そ、そうか」
完全に失念していたと、ラグランスは天を仰ぐ。が、この場合、自分はマクスウェルと結ばれた途端、吸血鬼になったりしないか。
「まあ、ステキね。吸血鬼同士でしたら、何の障害もなくなりますわね」
「おおい」
勝手に俺まで吸血鬼入りさせるんじゃない。っていうか、そうなったら本末転倒もいいところだ。
しかし、それにしても死者の復活。そんなことをマクスウェルは企んでいたのか。そして、秘法をもって実行しようとしたのか。
実際に死者の復活に関する文書を魔導師は見る事が出来る。たやすく実行できるものではないが、文書は存在する。歴代最高の魔導師をもってしても不可能な魔法であるが、そういう危険な秘法は確かに存在するのだ。
だが、それは同時に、どれだけ力を持っていようと実行してはならない秘法でもある。というのも、それは神に、自然の摂理に背くことだから。禁忌事項、神の意思に背くことの一つだからだ。
「――」
ああ、そうだ。
禁忌事項。
まさしく吸血鬼になる条件はここに記載されていることだけのはずだ。そしてその禁忌は、魔導師にしか当てはまらない。他の身分の神父やシスターではその魔法を使うことが無理だからだ。
「全部、繋がった」
「お前さ。魔導師になったことが全く役立ってなかったんだな」
「うっ」
ここに来なくても出る結論だったんじゃねえかと、トムソンは苦笑いを浮かべる。それに、ラグランスは反論する事が出来ない。たしかにそのとおり。
「でも、ここに来なきゃ解らないこともあった。マクスウェルはまだ、完全に狂ってないし魔物じゃない。今ならまだ、話し合う事が出来る。罪を償う方法を、一緒に考えることが出来る」
「まあな」
前向きかつ建設的な意見に、トムソンは大きく頷いた。もちろん、そのやり取りを見守っていたラピスも、その意気ですと応援してくれる。
「じゃ。やることは一つだな」
「ああ。手遅れになる前にマクスウェルと直接話す。君が何をしたか知っている。それを伝えることで、話し合いの場に持ち込めるはずだ。そして、解決策がないか、彼と一緒に考えるんだ」
こうして、打つ手なしの状況からちょっとは脱出したのだった。
「はあ!? そんなこと出来る訳ねえだろ。俺に死ねって言ってんのか?」
「そこを頼む。お願い。葡萄酒をいくらでも奢るから、な」
「う、うん。魔導師の給料はいいし」
そんな会話を繰り広げる場所は町の酒場。そして説得されているのは自衛団のゼーマンだ。二人は居酒屋でゼーマンを捕まえると、なんとか会うのを手伝ってくれと泣きついていた。
「樽で五個分。どうだ?」
「おいっ、俺の財布で気前よく奢ろうとするなよ」
「煩いな。魔導師様の要求を通すためだろ」
ぎゃあぎゃあと言い合いしつつも、本気で酒を奢ってくれるらしいと解るゼーマンは何とも言えない気分だ。二人のことは嫌いじゃないし、酒を奢って貰わなくても協力したいとは思う。だが、背信行為を容認できるかというと難しい。
二人が何とか頼むよと自衛団に泣きつく理由はもちろん、マクスウェルに会う手段を持っているのが彼らだけだからだ。
直接城に乗り込んでもいいのだが、それだと警戒されて話し合いに持ち込めない。吸血鬼と魔導師の大バトルに発展するだけだ。それを避けたいからこそ頼んでいるのだが、意外にも自警団の忠誠心が強くて折れてくれない。
「俺だけじゃあ決められねえよ。ゴルドン団長に言わねえと」
すでに多量の葡萄酒を奢られているゼーマンは、俺の一存ではねえと渋っていた。やはりマクスウエルを裏切るのは怖い。
「団長を説得しなきゃいけないことは解っているんだよ」
トムソンはその前にお前に相談しているんだと詰め寄る。作戦上、ゴルドンは後だ。一番厄介だから、周辺から取り込みたい。
というわけで、取り巻きの二人から落とそうと奮闘中だ。トムソンが調子を合わせて酒を飲ませ、代金はラグランス払い。そんな作戦である。
「マクスウェル様に会うだけなんだな? 倒そうとか考えてないんだな」
「それはもちろん」
ゼーマンの確認に、当然だよとラグランスは頷いた。実際には何度か倒さなければならないのではと考えていたが、それはもう理性が残っていないとの前提に立っていたからだ。マクスウェルに正常な思考が残っていると知った今となっては、倒すなんて全く考えられない。
「お前だってマクスウェル様を救いたいだろ? このままだったら魔物になっちまうんだぜ」
「ううん。それは薄々感じてたんだよね。徐々に町に来る回数も減ってるし、叶えてくれる願いも減ってる。それだけあの方は、吸血鬼になってるってことなんだろうなとは思っていた」
「――」
意外な情報に、思わずトムソンとラグランスは顔を見合わせてしまう。
そうなのか。ますます時間がない。
「食ってるところとか、見たことねえけどさ。あの方の色気っていうのかな。妙な蠱惑的な雰囲気ってのかな。それが強くなってる気がするし。あれに惑わされたら俺、食われちまうんだろうなって思うことも多くなってる」
「マジか」
人を惑わせる雰囲気。それは悪魔の鉄則だ。
これは本気でヤバいやつだなと、ラグランスの顔が自然と引き締まった。
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