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第22話 本気
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「それにさ、マクスウェル様も辛そうな顔をしている時がある。それってやっぱ、欲望と葛藤しているってことだよな。俺たちを、食わないように」
「そうだな」
本当ならばもっと早く、マクスウェルの理性は消えていたのかもしれない。それに気づき、ラグランスは胸が熱くなった。
彼は今も尚、憧れていた頃のまま、自分に厳しく生きている。だから三年経った今でも普通に振る舞うことが出来るのだ。それならば、必ず助かる道はあるのではないか。
「他に何か気づいたことはないか?」
トムソンがもっと情報を引き出そうと訊く。
「ううん。他はねえ。解らん。ともかく、怖さが増したなって思ってたってだけだよ。団長ならばもっと知っているかもしれない。あの人が一番、マクスウェル様と会ってるし」
「そうか」
やはりゴルドンを味方に引き入れないことには話が始まらないようだ。トムソンは難しい顔をする。
「やっぱ団長ってマクスウェル寄りなのか」
「そりゃあねえ。率先して守らなきゃって思ってるのは確かだよ。この村が壊滅せず、そしてマクスウェル様と友好な関係を築けているのも、結局はゴルドンが間に入ったからさ」
「へえ」
「まっ、マクスウェル様も最初から誰か仲介者を立ててって思ってたみたいだから、上手くいったんだよな。あの人、ホント、どうして吸血鬼なんだよ。他の魔導師より、ああ、あんたをディスってるわけじゃなくて、その、枢機院に入れ込んでいる魔導師より、よっぽどしっかりしてんじゃん」
「そうだな」
その批判に、他の魔導師は頷かないだろう。でも、ラグランスは躊躇いなく頷ける。
「いい奴だな。バカだけど」
「おいっ」
「褒めてんだよ。バカ出来ない奴ってのはしんどいし、なんかずれているしさ。まあ、マクスウェル様もバカなことをしなかったから、吸血鬼になっちまったのかもな」
「確かに、ずっと何かに悩んでいて、それで魔導師になったわけだし」
バカってのは多分、遊びがあるかだなと気づいたラグランスは、マクスウェルにはなかっただろうと思う。
「でも、凄い人だからなあ。なあ、本当に助けられるのか?」
ゼーマンはどうなんだよと、今度はラグランスを試すように睨む。酔っているからか凄みがあった。
「助けられるとは約束できない。でも、解決策を探ることは出来るはずだ。それが――例えマクスウェルが死ぬってことであっても、今みたいに宙ぶらりんな、ずっと苦しみ続けるってことではない解決だと思う」
そして、ラグランスは嘘偽りなく答える。すると、やっぱり魔導師だなあと笑われた。
「そうかな?」
「そうだよ。嘘は言わない。どれだけ奇跡が使えても、総てだって言わない。絶対だとは言わない。それが本物の魔導師だって、マクスウェル様も言っていた。たやすく出来るって言う奴は、修行が生半可なんだともね」
だからあんたは一人前だよと、ゼーマンは笑わずに言う。その目は真剣で、だから信じるぞと強く訴えかけてきた。
「解っている。マクスウェルの同意なく何かするなんてことはない。彼が望む、最善の策を採る」
「よし。じゃあ、俺も頑張って団長を説得しましょうかね」
「いや、その必要はない」
三人の会話に割って入ってきた声に、まさかと振り向く。そこには、真面目な顔でラグランスを睨むゴルドンの姿があった。
「団長」
出来上がっていたゼーマンは顔を真っ青にしている。さすがに酒の勢いをもってしても、団長は怖いものらしい。
「盗み聞きをして悪かった。だが、マクスウェル様からあんたの動向を見張ってほしいって頼まれていたからな」
そこでゴルドンはラグランスに近づく。
「変わり者の魔導師さんよ。マクスウェル様はあんたのことを覚えているみたいだ。助けたいって、本気で思うんだったら、俺だって手助けする。だが、中途半端な覚悟ならば、さっさと出て行ってくれ。マクスウェル様が死ぬかもしれない。その可能性がある以上、中途半端なことであの人に会い、あの人をより苦しめるのは止めてもらいたいからな」
ゴルドンの目はどこまでも真剣だ。それはマクスウェルを心から慕い、何があっても守り通すと決意しているからこその目だ。
「中途半端な気持ちで会うつもりだったら、ここまで来ていない」
それに対して、ラグランスも真剣な眼差しで返す。
三浪しても魔導師になった。途中で枢機院に捕まって反省文を書かされても、ここに来ることを止めなかった。どれだけ旅が大変でも、ここに魔導師としてやって来た。その覚悟を中途半端と捉えられたくない。
「確かにな。それにあんたは正面のゲートからやって来た」
ゴルドンは初日のことを思い出し、僅かに口元を緩めた。今まで何度か魔導師がマクスウェルを倒そうとこの町に、いや、彼が支配するこの国にやって来た。しかし、どいつもこいつも油断しているところを討とう考え、正面から堂々とやって来た奴はいなかった。
「当たり前だ。俺は、マクスウェルを尊敬している。だから、どうして吸血鬼に堕とされるようになったのか、その理由を知りたいと思っていた。倒す可能性に関しては、彼が狂って苦しんでいるのならば、俺が終わらせてやりたいって思ったからだ。多くの人を吸血鬼としての本能のままに傷つけているならば許せない。そう思った。人が人を食らうのは、やっぱり許せない気持ちがある。でも、ただ倒せば終わるだなんて、そう考えたことは一度も無い」
ラグランスは嘘偽りのない不器用な気持ちをゴルドンにぶつける。
何人もの人間がマクスウェルによって、あの少女のように食い荒らされていると思ったから、戦わなければと思った。もし町の人が苦しんでいるのならば助けなければならない。そうも思っていた。
「そうだな」
本当ならばもっと早く、マクスウェルの理性は消えていたのかもしれない。それに気づき、ラグランスは胸が熱くなった。
彼は今も尚、憧れていた頃のまま、自分に厳しく生きている。だから三年経った今でも普通に振る舞うことが出来るのだ。それならば、必ず助かる道はあるのではないか。
「他に何か気づいたことはないか?」
トムソンがもっと情報を引き出そうと訊く。
「ううん。他はねえ。解らん。ともかく、怖さが増したなって思ってたってだけだよ。団長ならばもっと知っているかもしれない。あの人が一番、マクスウェル様と会ってるし」
「そうか」
やはりゴルドンを味方に引き入れないことには話が始まらないようだ。トムソンは難しい顔をする。
「やっぱ団長ってマクスウェル寄りなのか」
「そりゃあねえ。率先して守らなきゃって思ってるのは確かだよ。この村が壊滅せず、そしてマクスウェル様と友好な関係を築けているのも、結局はゴルドンが間に入ったからさ」
「へえ」
「まっ、マクスウェル様も最初から誰か仲介者を立ててって思ってたみたいだから、上手くいったんだよな。あの人、ホント、どうして吸血鬼なんだよ。他の魔導師より、ああ、あんたをディスってるわけじゃなくて、その、枢機院に入れ込んでいる魔導師より、よっぽどしっかりしてんじゃん」
「そうだな」
その批判に、他の魔導師は頷かないだろう。でも、ラグランスは躊躇いなく頷ける。
「いい奴だな。バカだけど」
「おいっ」
「褒めてんだよ。バカ出来ない奴ってのはしんどいし、なんかずれているしさ。まあ、マクスウェル様もバカなことをしなかったから、吸血鬼になっちまったのかもな」
「確かに、ずっと何かに悩んでいて、それで魔導師になったわけだし」
バカってのは多分、遊びがあるかだなと気づいたラグランスは、マクスウェルにはなかっただろうと思う。
「でも、凄い人だからなあ。なあ、本当に助けられるのか?」
ゼーマンはどうなんだよと、今度はラグランスを試すように睨む。酔っているからか凄みがあった。
「助けられるとは約束できない。でも、解決策を探ることは出来るはずだ。それが――例えマクスウェルが死ぬってことであっても、今みたいに宙ぶらりんな、ずっと苦しみ続けるってことではない解決だと思う」
そして、ラグランスは嘘偽りなく答える。すると、やっぱり魔導師だなあと笑われた。
「そうかな?」
「そうだよ。嘘は言わない。どれだけ奇跡が使えても、総てだって言わない。絶対だとは言わない。それが本物の魔導師だって、マクスウェル様も言っていた。たやすく出来るって言う奴は、修行が生半可なんだともね」
だからあんたは一人前だよと、ゼーマンは笑わずに言う。その目は真剣で、だから信じるぞと強く訴えかけてきた。
「解っている。マクスウェルの同意なく何かするなんてことはない。彼が望む、最善の策を採る」
「よし。じゃあ、俺も頑張って団長を説得しましょうかね」
「いや、その必要はない」
三人の会話に割って入ってきた声に、まさかと振り向く。そこには、真面目な顔でラグランスを睨むゴルドンの姿があった。
「団長」
出来上がっていたゼーマンは顔を真っ青にしている。さすがに酒の勢いをもってしても、団長は怖いものらしい。
「盗み聞きをして悪かった。だが、マクスウェル様からあんたの動向を見張ってほしいって頼まれていたからな」
そこでゴルドンはラグランスに近づく。
「変わり者の魔導師さんよ。マクスウェル様はあんたのことを覚えているみたいだ。助けたいって、本気で思うんだったら、俺だって手助けする。だが、中途半端な覚悟ならば、さっさと出て行ってくれ。マクスウェル様が死ぬかもしれない。その可能性がある以上、中途半端なことであの人に会い、あの人をより苦しめるのは止めてもらいたいからな」
ゴルドンの目はどこまでも真剣だ。それはマクスウェルを心から慕い、何があっても守り通すと決意しているからこその目だ。
「中途半端な気持ちで会うつもりだったら、ここまで来ていない」
それに対して、ラグランスも真剣な眼差しで返す。
三浪しても魔導師になった。途中で枢機院に捕まって反省文を書かされても、ここに来ることを止めなかった。どれだけ旅が大変でも、ここに魔導師としてやって来た。その覚悟を中途半端と捉えられたくない。
「確かにな。それにあんたは正面のゲートからやって来た」
ゴルドンは初日のことを思い出し、僅かに口元を緩めた。今まで何度か魔導師がマクスウェルを倒そうとこの町に、いや、彼が支配するこの国にやって来た。しかし、どいつもこいつも油断しているところを討とう考え、正面から堂々とやって来た奴はいなかった。
「当たり前だ。俺は、マクスウェルを尊敬している。だから、どうして吸血鬼に堕とされるようになったのか、その理由を知りたいと思っていた。倒す可能性に関しては、彼が狂って苦しんでいるのならば、俺が終わらせてやりたいって思ったからだ。多くの人を吸血鬼としての本能のままに傷つけているならば許せない。そう思った。人が人を食らうのは、やっぱり許せない気持ちがある。でも、ただ倒せば終わるだなんて、そう考えたことは一度も無い」
ラグランスは嘘偽りのない不器用な気持ちをゴルドンにぶつける。
何人もの人間がマクスウェルによって、あの少女のように食い荒らされていると思ったから、戦わなければと思った。もし町の人が苦しんでいるのならば助けなければならない。そうも思っていた。
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