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第25話 このシスター、怖い
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「仕方ないわよ。私が派遣されるくらいだし」
そんなトムソンのだらしない様子に、ラピスは諦めた方がいいとフォローしなかった。
「派遣された?」
「ええ、そうよ。四年前まではトムソン一人で切り盛りしてたんだけどね。町の長老と大喧嘩の末、枢機院はシスターを置くことで手を打ったのよ。その後ですぐにマクスウェルがここを支配するようになったから、私は帰るタイミングを逸したままってわけだけど」
「へえ」
そういう事情があったのかと、ラグランスは感心する。それにしてもこの、不良神父、町の長老と大喧嘩するとは何事か。
「ううん。そうなると、君も見捨てられたってことか?」
「さあ、それはどうかしら。枢機院の考えはいつも複雑だもの。ここは王朝さえ刺激しないと決めた、いわば独立国家。でも、ちゃんと教会は機能しているっていうだけ」
意味深にラピスは笑ってくれる。
何だか怖いぞ、このシスター。
「な、何か情報を流しているのか?」
「さあ。一先ず、そこの不良神父よりは仕事をしているわ」
「じゃあ、俺たちを騙しているのか?」
「まさか。どうやって私が中央の枢機院と連絡を取るわけ? そんなことをしたら、マクスウェルにバレちゃうじゃない。私、もともとはこの町の出身だから、これ以上悪くなってほしくないとは思うけど」
「ふうむ」
どうにも腑に落ちないな。
そう思ってラグランスはラピスを睨むが、ラピスはふふんっと鼻を鳴らすだけだ。なるほど、何か言い含められてやって来たのは間違いない。
思えばこのラピスは年の割には聡明なシスターだ。それこそ、魔導師試験を受けたらすんなり通るほどと思うほどである。枢機院の手先だとしても何の疑問もない。
となると、予言能力のある魔導師によって、この地に何かあると予言されていたのか。そして、それが吸血鬼という形になるとまで解っていなかったとしても、すでに枢機院が手を打っていたと考えても無理はない。
「マクスウェルをそれとなく監視しているのか」
「さあ。別に私がいたとしても、どうしようもない問題だわ」
ラピスは核心部分に触れさせてくれない。それだけでも、この少女が並のシスターではないのは確かだ。
「それに、マクスウェルは教会を敵視していないわ。だから今まで何事もなく教会が存続しているのよ」
「――彼はまだ、魔導師だから」
「ええ。だからこそ、危うい均衡が保たれているのよ」
「ああ」
そうか。彼はまだ、他の人を救いたいと願っている。どれだけ犠牲の上に立っていようと、人を救うという魔導師の本分を忘れたことはない。だから、この町の人たちの信仰の妨げになるようなことはしていない。そしてそれが、枢機院が決定打を打てない理由にもなっている。
「枢機院としても、前例のない吸血鬼を下手に刺激したくないのよ。最初の討伐隊が失敗したことだしね。マクスウェルは最年少魔導師であり手に負えないほど優秀。こうなったら勝手に破滅するのを待つのがいいってわけ」
「へえ」
だから、ラピスはマクスウェルを刺激することに反対だったわけか。枢機院の意向を汲んでやって来たと知られると、どんな攻撃を受けるか解らない。
「ま、あんたの結果次第で、枢機院は私に撤退命令を出すでしょうね」
「そ、それって負ける前提で話してないか」
「そうよ」
あっさりと頷かれ、ラグランスもトムソンと同様にテーブルに突っ伏すしかないのだった。
夕方まで惰眠を貪り、寝不足で重たい身体を引きずってラグランスとトムソンはごそごそと出掛ける準備をする。その姿に、まるで俺たちが吸血鬼みたいじゃねえかと冗談を言ってしまう。
「今日こそ来るだろうか」
「どうだろうな。持久戦に持ち込まれたらこっちが不利だ。向こうはいつも通りの生活をしているだけだが、こっちは昼夜逆転。どこかで無理が来るぞ」
トムソンの意見に、ラグランスは確かにと頷くことしか出来ない。たった一日、徹夜の末に夕方に起きるという不規則な生活をしただけで、こちらはふらふらだ。これが何日も続くとなると、体力的に限界が来る。そこを魔導師としても優秀なマクスウェルに襲われては、ひとたまりもない。
「仕方ない人たちね。はい」
そんなふらふらな二人に、どんっとテーブルの上にジョッキを置くのはラピスだ。一体何だと覗くと、そこにはなみなみと青汁のようなものが入っている。
「ええっと、これは」
「特性薬草ジュース」
「要するに青汁だな」
ジュースと言い切るラピスに対し、トムソンはどう言い換えようと青汁だよと溜め息を吐く。が、飲むのも早かった。
「~~~」
もの凄い渋面を浮かべながら一気飲みするトムソンに、ラグランスはぽかんと口を開けて見守るしかない。どんっとジョッキを空にしてのみ終わった時、トムソンは盛大なげっぷを吐き出し
「不味い!」
と全力で叫んだ。
一体どんな味がするのか。それだけでラグランスは怖くなる。しかし、どうやらこの特性ジュース、飲まないという選択肢は用意されていないらしい。ラピスは笑顔でどうぞと勧めてくるし(しかも目が笑っていない)、トムソンも飲んだ方がいいぞとにやにや笑っている。
そんなトムソンのだらしない様子に、ラピスは諦めた方がいいとフォローしなかった。
「派遣された?」
「ええ、そうよ。四年前まではトムソン一人で切り盛りしてたんだけどね。町の長老と大喧嘩の末、枢機院はシスターを置くことで手を打ったのよ。その後ですぐにマクスウェルがここを支配するようになったから、私は帰るタイミングを逸したままってわけだけど」
「へえ」
そういう事情があったのかと、ラグランスは感心する。それにしてもこの、不良神父、町の長老と大喧嘩するとは何事か。
「ううん。そうなると、君も見捨てられたってことか?」
「さあ、それはどうかしら。枢機院の考えはいつも複雑だもの。ここは王朝さえ刺激しないと決めた、いわば独立国家。でも、ちゃんと教会は機能しているっていうだけ」
意味深にラピスは笑ってくれる。
何だか怖いぞ、このシスター。
「な、何か情報を流しているのか?」
「さあ。一先ず、そこの不良神父よりは仕事をしているわ」
「じゃあ、俺たちを騙しているのか?」
「まさか。どうやって私が中央の枢機院と連絡を取るわけ? そんなことをしたら、マクスウェルにバレちゃうじゃない。私、もともとはこの町の出身だから、これ以上悪くなってほしくないとは思うけど」
「ふうむ」
どうにも腑に落ちないな。
そう思ってラグランスはラピスを睨むが、ラピスはふふんっと鼻を鳴らすだけだ。なるほど、何か言い含められてやって来たのは間違いない。
思えばこのラピスは年の割には聡明なシスターだ。それこそ、魔導師試験を受けたらすんなり通るほどと思うほどである。枢機院の手先だとしても何の疑問もない。
となると、予言能力のある魔導師によって、この地に何かあると予言されていたのか。そして、それが吸血鬼という形になるとまで解っていなかったとしても、すでに枢機院が手を打っていたと考えても無理はない。
「マクスウェルをそれとなく監視しているのか」
「さあ。別に私がいたとしても、どうしようもない問題だわ」
ラピスは核心部分に触れさせてくれない。それだけでも、この少女が並のシスターではないのは確かだ。
「それに、マクスウェルは教会を敵視していないわ。だから今まで何事もなく教会が存続しているのよ」
「――彼はまだ、魔導師だから」
「ええ。だからこそ、危うい均衡が保たれているのよ」
「ああ」
そうか。彼はまだ、他の人を救いたいと願っている。どれだけ犠牲の上に立っていようと、人を救うという魔導師の本分を忘れたことはない。だから、この町の人たちの信仰の妨げになるようなことはしていない。そしてそれが、枢機院が決定打を打てない理由にもなっている。
「枢機院としても、前例のない吸血鬼を下手に刺激したくないのよ。最初の討伐隊が失敗したことだしね。マクスウェルは最年少魔導師であり手に負えないほど優秀。こうなったら勝手に破滅するのを待つのがいいってわけ」
「へえ」
だから、ラピスはマクスウェルを刺激することに反対だったわけか。枢機院の意向を汲んでやって来たと知られると、どんな攻撃を受けるか解らない。
「ま、あんたの結果次第で、枢機院は私に撤退命令を出すでしょうね」
「そ、それって負ける前提で話してないか」
「そうよ」
あっさりと頷かれ、ラグランスもトムソンと同様にテーブルに突っ伏すしかないのだった。
夕方まで惰眠を貪り、寝不足で重たい身体を引きずってラグランスとトムソンはごそごそと出掛ける準備をする。その姿に、まるで俺たちが吸血鬼みたいじゃねえかと冗談を言ってしまう。
「今日こそ来るだろうか」
「どうだろうな。持久戦に持ち込まれたらこっちが不利だ。向こうはいつも通りの生活をしているだけだが、こっちは昼夜逆転。どこかで無理が来るぞ」
トムソンの意見に、ラグランスは確かにと頷くことしか出来ない。たった一日、徹夜の末に夕方に起きるという不規則な生活をしただけで、こちらはふらふらだ。これが何日も続くとなると、体力的に限界が来る。そこを魔導師としても優秀なマクスウェルに襲われては、ひとたまりもない。
「仕方ない人たちね。はい」
そんなふらふらな二人に、どんっとテーブルの上にジョッキを置くのはラピスだ。一体何だと覗くと、そこにはなみなみと青汁のようなものが入っている。
「ええっと、これは」
「特性薬草ジュース」
「要するに青汁だな」
ジュースと言い切るラピスに対し、トムソンはどう言い換えようと青汁だよと溜め息を吐く。が、飲むのも早かった。
「~~~」
もの凄い渋面を浮かべながら一気飲みするトムソンに、ラグランスはぽかんと口を開けて見守るしかない。どんっとジョッキを空にしてのみ終わった時、トムソンは盛大なげっぷを吐き出し
「不味い!」
と全力で叫んだ。
一体どんな味がするのか。それだけでラグランスは怖くなる。しかし、どうやらこの特性ジュース、飲まないという選択肢は用意されていないらしい。ラピスは笑顔でどうぞと勧めてくるし(しかも目が笑っていない)、トムソンも飲んだ方がいいぞとにやにや笑っている。
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