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第26話 申し出
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「えっと」
「味は最悪でまるで地獄の飲み物みたいだがな、体力が回復するのは間違いない」
トムソンの感想にラピスがすかさず蹴りを入れる。
その制裁の早さにビビってしまう。しかし、覚悟を決めるしかなかった。実際、トムソンの顔色は先ほどよりもいい。
ええい、ままよ。
そんな勢いでラグランスはジョッキを掴み、そして一気に飲もうとした。が、口の中に広がるとんでもない、表現できない不味い味に吐きそうになる。
「息を吸うなよ。飲み終わって胃に収めるまで呼吸をするな」
トムソンがほぼ不可能なアドバイスをくれる。しかし、息を止めていないと確かに飲み込めない。
「~~~」
結果、ラグランスもトムソンと変わらない渋面を浮かべて飲み干し、そのまま床へと倒れ込んだ。
「まずっ! 何をどうブレンドすればこんな不味さに!?」
いつの間にかトムソンが入れてくれた水を飲み干し、ラグランスは訳が分からんと叫んでしまう。薬草を調合してジュースを作るというのは神学校で習うが、どうブレンドしてもここまで不味くなることはない。あり得ない味だ。
「おかしいわね。ちゃんと秘伝のレシピ通りなのに」
「だ、誰の?」
「枢機院で枢機卿を務めるマーガレット様が作ったレシピよ」
「――」
すげえ文句の言い難い人の名前が出てきたぞと、ラグランスは黙るしかなかった。何を隠そう、ラグランスはそのマーガレット様直々に呼び出され、二時間の説教を食らった過去がある。
そう、違反して枢機院への出頭を要請した女性、ラピスにそっくりな女性こそ、枢機卿のマーガレットだったのだ。しかもまるで下働きのシスターのような素振りで呼びに来て、枢機院に入ったところで正体明かすという、恐怖の演出までしてくれた御方だ。よって、彼女に歯向かってはならないと、すでにインプットされている。しかし、そこで恐ろしい事実に気づいた。
「あのぅ、ひょっとしてマーガレット様って君のお姉さん?」
その問いに、ラピスはとびきりの笑顔をもって返してくれたのだった。
「最悪だよ。枢機院に筒抜けだよ」
「まあ、ここまでマントを羽織ってきているんだから筒抜けだよな。案外、お前を呼び出して反省文を書かせたのも、ちゃんとマントを着させて、行方を追うためだったのかもしれないぜ」
「ああ、あり得るね」
最悪の事態に気づいたラグランスは、どうしようと頭を抱える。が、ここまでやっておいて何もせずに引き下がれるはずがない。ひょっとしたら、ラグランスのせいで本格的な討伐隊が編成されるかもしれないのだ。
「何とか話し合えないと、最悪の結果を招く」
「そうだな」
完全に退路が絶たれたと考えるしかない。そして、どんな結末であろうと自分で責任を取るしかないのだ。ラグランスがぐっと腹に力を入れた時、集会所のランプに明かりが灯った。
ついにマクスウェルが現れた。ラグランスとトムソンはごくりと唾を飲み込む。そんな二人に、入口へと近づいたゴルドンが大人しくしていろよと視線を送ってくる。確かにここでバレて、マクスウェルに城へと逃げられては意味がない。
「頼むぞ」
しかも問題はここからだ。マクスウェルが穏便な会談に応じてくれるか否か。いきなりバトルに発展する可能性もあるし、ゴルドンが危険に晒される可能性もある。総てはこの瞬間で決すると言っても過言ではない。
二人はゴルドンの姿が集会所の中に消えていくのを、祈る気持ちで見つめていたのだった。
「やあ、ゴルドン。今日は随分と緊張しているね」
「ええ」
集会所に入るなり、マクスウェルから先制攻撃を受けることになったゴルドンだが、そこはこの町の荒くれ者たちを束ねて自警団にしている男。冷静に頷き返すのみで留まった。
「緊張の理由は解っているよ。あの魔導師だね」
そんなゴルドンの反応を楽しむように、マクスウェルはいつもの微笑みを浮かべて訊いた。敵意は微塵も見せず、優雅に窓辺にあるソファに腰掛ける。
「隠し立てするつもりはありません。マクスウェル様、魔導師のラグランスが会談を申し込んでおります。ぜひ、あなた様と話し合いたいとのことです」
「ふむ」
「もちろん、奴も魔導師の端くれ。どうしても会談が上手くいかず、あなたが吸血鬼として振る舞うのならば、討伐に打って出るとも言っています。しかし、まずは話し合いをと言っています」
ゴルドンは総てを吐き出し、マクスウェルをじっと見つめる。相手は優雅に微笑んでいるが、それが逆に怖く、緊張は極致に達していた。ここでマクスウェルがゴルドンを邪魔だと判断すれば食い殺されることになるだろう。ラグランスが助けに入ると言っていたが、そんな暇はないはずだ。
しばらく沈黙が続いた。ゴルドンの心臓はもう破裂しそうなほどにバクバクと鳴っている。そして、マクスウェルはそんな緊張をするゴルドンを楽しんでいるかのように微笑んだままだ。
「いいよ」
「えっ?」
しかし、答えは短くあっさりしたものだった。おかげでゴルドンは普通に訊き返してしまった。
「いいと言っている。しかし、会談の場所は俺の住む城で。一人で来ること。これを了承してもらおう」
「それは」
明らかにマクスウェルに有利な条件だ。その場で食い殺されかねない。ゴルドンは思わず返事を躊躇ってしまった。
「味は最悪でまるで地獄の飲み物みたいだがな、体力が回復するのは間違いない」
トムソンの感想にラピスがすかさず蹴りを入れる。
その制裁の早さにビビってしまう。しかし、覚悟を決めるしかなかった。実際、トムソンの顔色は先ほどよりもいい。
ええい、ままよ。
そんな勢いでラグランスはジョッキを掴み、そして一気に飲もうとした。が、口の中に広がるとんでもない、表現できない不味い味に吐きそうになる。
「息を吸うなよ。飲み終わって胃に収めるまで呼吸をするな」
トムソンがほぼ不可能なアドバイスをくれる。しかし、息を止めていないと確かに飲み込めない。
「~~~」
結果、ラグランスもトムソンと変わらない渋面を浮かべて飲み干し、そのまま床へと倒れ込んだ。
「まずっ! 何をどうブレンドすればこんな不味さに!?」
いつの間にかトムソンが入れてくれた水を飲み干し、ラグランスは訳が分からんと叫んでしまう。薬草を調合してジュースを作るというのは神学校で習うが、どうブレンドしてもここまで不味くなることはない。あり得ない味だ。
「おかしいわね。ちゃんと秘伝のレシピ通りなのに」
「だ、誰の?」
「枢機院で枢機卿を務めるマーガレット様が作ったレシピよ」
「――」
すげえ文句の言い難い人の名前が出てきたぞと、ラグランスは黙るしかなかった。何を隠そう、ラグランスはそのマーガレット様直々に呼び出され、二時間の説教を食らった過去がある。
そう、違反して枢機院への出頭を要請した女性、ラピスにそっくりな女性こそ、枢機卿のマーガレットだったのだ。しかもまるで下働きのシスターのような素振りで呼びに来て、枢機院に入ったところで正体明かすという、恐怖の演出までしてくれた御方だ。よって、彼女に歯向かってはならないと、すでにインプットされている。しかし、そこで恐ろしい事実に気づいた。
「あのぅ、ひょっとしてマーガレット様って君のお姉さん?」
その問いに、ラピスはとびきりの笑顔をもって返してくれたのだった。
「最悪だよ。枢機院に筒抜けだよ」
「まあ、ここまでマントを羽織ってきているんだから筒抜けだよな。案外、お前を呼び出して反省文を書かせたのも、ちゃんとマントを着させて、行方を追うためだったのかもしれないぜ」
「ああ、あり得るね」
最悪の事態に気づいたラグランスは、どうしようと頭を抱える。が、ここまでやっておいて何もせずに引き下がれるはずがない。ひょっとしたら、ラグランスのせいで本格的な討伐隊が編成されるかもしれないのだ。
「何とか話し合えないと、最悪の結果を招く」
「そうだな」
完全に退路が絶たれたと考えるしかない。そして、どんな結末であろうと自分で責任を取るしかないのだ。ラグランスがぐっと腹に力を入れた時、集会所のランプに明かりが灯った。
ついにマクスウェルが現れた。ラグランスとトムソンはごくりと唾を飲み込む。そんな二人に、入口へと近づいたゴルドンが大人しくしていろよと視線を送ってくる。確かにここでバレて、マクスウェルに城へと逃げられては意味がない。
「頼むぞ」
しかも問題はここからだ。マクスウェルが穏便な会談に応じてくれるか否か。いきなりバトルに発展する可能性もあるし、ゴルドンが危険に晒される可能性もある。総てはこの瞬間で決すると言っても過言ではない。
二人はゴルドンの姿が集会所の中に消えていくのを、祈る気持ちで見つめていたのだった。
「やあ、ゴルドン。今日は随分と緊張しているね」
「ええ」
集会所に入るなり、マクスウェルから先制攻撃を受けることになったゴルドンだが、そこはこの町の荒くれ者たちを束ねて自警団にしている男。冷静に頷き返すのみで留まった。
「緊張の理由は解っているよ。あの魔導師だね」
そんなゴルドンの反応を楽しむように、マクスウェルはいつもの微笑みを浮かべて訊いた。敵意は微塵も見せず、優雅に窓辺にあるソファに腰掛ける。
「隠し立てするつもりはありません。マクスウェル様、魔導師のラグランスが会談を申し込んでおります。ぜひ、あなた様と話し合いたいとのことです」
「ふむ」
「もちろん、奴も魔導師の端くれ。どうしても会談が上手くいかず、あなたが吸血鬼として振る舞うのならば、討伐に打って出るとも言っています。しかし、まずは話し合いをと言っています」
ゴルドンは総てを吐き出し、マクスウェルをじっと見つめる。相手は優雅に微笑んでいるが、それが逆に怖く、緊張は極致に達していた。ここでマクスウェルがゴルドンを邪魔だと判断すれば食い殺されることになるだろう。ラグランスが助けに入ると言っていたが、そんな暇はないはずだ。
しばらく沈黙が続いた。ゴルドンの心臓はもう破裂しそうなほどにバクバクと鳴っている。そして、マクスウェルはそんな緊張をするゴルドンを楽しんでいるかのように微笑んだままだ。
「いいよ」
「えっ?」
しかし、答えは短くあっさりしたものだった。おかげでゴルドンは普通に訊き返してしまった。
「いいと言っている。しかし、会談の場所は俺の住む城で。一人で来ること。これを了承してもらおう」
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