39 / 47
第39話 猛特訓
しおりを挟む
「はあ。俺たちっていつからこんな肉体派に」
「なあ」
午前中の過酷メニューが終わり、ようやく昼食。しかし、ここでも高タンパクなメニューと格闘しなければならない。日頃が質素で成り立つ教会ではあり得ない肉の数に、二人は胃もたれを起こしていた。とはいえ、身体が疲れているからか食べられないことはないのが怖いところ。
「あ、これ付けて食うと美味いよ」
「本当だ」
が、やっぱり身体は正直で途中から食べたくないと駄々をこねる。というわけで、二人はあれこれ工夫しながら出されたメニューを消化中だ。なんだかんだでコンビネーションが強化されている。
「よしよし」
そんな二人を見守るマーガレットとラピスの姉妹はにんまり。この二人のドSっぷりは、実は枢機院内では有名であることを、扱かれている二人は知らない。
「トムソンの集中力はどう?」
「そうですね。あと一時間は保つようにしたいところですわ」
「そうね。ラグランスがどこであの魔法を発動できるか。まだまだ不透明だもの」
「となると、あのメニューを追加しましょうか」
「そうね」
そして、さらなる鬼メニューが始まろうとしていることも知らない。ともかくあと四日しかない。その中で出来るだけのことを行い、一発で解決できなければ総ては無駄となる。
「マクスウェルがさらなる苦悩を背負い込み、そして多くの人間を食らうようになるわ」
「そうですね」
今まで、あれだけの町の罪人や奴隷をマクスウェル一人で食べていたと思っていたが、実は二人で食べていたという。それだけでも怖さがあるというのに、もしマクスウェルが見境なく食べ始めたらどうなるだろう。理性が消えて、ただ人を食べる化け物になってしまった場合、この町の人たちなんて一気に平らげてしまうのではないか。
その懸念が生まれる理由が、倒せるのがラグランスしかいないという事実だ。この事実は翻せば、ラグランスがいることがある程度のストッパーになっているのでは、という推測を生む。ということは、今までマクスウェルが理知的に動けていたのは、ラグランスがいるからではないか。
それが、次の戦いでラグランスが負け、ラグランスがマクスウェルに食べられてしまったら。
おそらく、マクスウェルを止める枷が消えてしまう。彼はもう二度と、理知的に振る舞うことはないだろう。
「マクスウェルも、その可能性に気づいているわ。だからこそ、ラグランスに戦いを挑んでいる」
「はい」
マーガレットの言葉に、ラピスは頷く。ここを守るためには、二人にとって故郷でもあるこの町を守るためには、ラグランスたちを鍛えるしかないのだ。
「神は残酷ね」
でも、魔導師になる理想としていた相手を吸血鬼として討伐させる。恋した相手を、魔導師になった男に殺させる。そんな課題をラグランスに課した神を、少し恨んでしまうのだった。
吸血鬼に対抗するための秘法の中心になるのは光だ。しかし、単純な光魔法では何の効力もないことは、この間戦ったラグランスも知っている。
「いいですか。精霊を呼び出す。これが要です」
「はい」
午後、教会の礼拝堂を使って魔法の練習をするラグランスに、マーガレットの鋭い声が飛ぶ。いわゆる聖なる光というものを使いこなせなければいけないのだが、その手前で精霊を呼び出し、光の道筋を作らなければならなかった。これが難しい。
「がっ」
集中していた右手がちりっと痛む。と同時に大爆発。本日二度目だ。めちゃくちゃ痛い。今度は前髪が少し縮れた。
「うわっ。火力だけ上がっている感じ」
「集中力がまだまだですね」
そんなラグランスに手早く治癒魔法を使いながら、マーガレットは大丈夫かしらと不安になる。基礎的な面は随分と上がっていることは、枢機卿にもなると触れているだけで解る。しかし、この大掛かりな秘法を使いこなすのには達していない。そこが問題だ。
「最後はあなたの気持ち次第ですよ」
だからこそ、マーガレットは強い口調でそう注意してしまうのだった。
この日、ラグランスは不思議な夢を見た。身体がふわふわと軽くなって、空高く飛んでいくのだ。そして、そのままマクスウェルの城へと吸い込まれる。
「俺、会いたいって思いすぎなのかな」
そんなことを思いつつ、五日ぶりに城の中へと降り立った。とはいえ、そこはこの間通った大広間でもライブラリーでもない。暗い地下だった。何とも言えない臭いが立ち込めており、さらにはじめじめと湿気ている。上の居住空間とは大違いの場所だった。
「明日には食われちまうな」
「ん?」
囁くような話し声が聞こえ、ラグランスはそちらへと足を向ける。食われるという物騒な単語に、胸騒ぎがした。
「ここ最近、連れて行かれる人数が増えているし、毎日だし」
「ああ。でも、長く閉じ込められているよりはマシかもな」
「そうそう。あの狂っちまった女、大変だったもんな」
声に導かれるように地下の奥深くにある部屋へと向かう。声はとても小さく囁き声だが、ラグランスの耳にははっきりと聞き取れた。夢の中だからか、ドアに触れただけで通り抜けることが出来る。
「なあ」
午前中の過酷メニューが終わり、ようやく昼食。しかし、ここでも高タンパクなメニューと格闘しなければならない。日頃が質素で成り立つ教会ではあり得ない肉の数に、二人は胃もたれを起こしていた。とはいえ、身体が疲れているからか食べられないことはないのが怖いところ。
「あ、これ付けて食うと美味いよ」
「本当だ」
が、やっぱり身体は正直で途中から食べたくないと駄々をこねる。というわけで、二人はあれこれ工夫しながら出されたメニューを消化中だ。なんだかんだでコンビネーションが強化されている。
「よしよし」
そんな二人を見守るマーガレットとラピスの姉妹はにんまり。この二人のドSっぷりは、実は枢機院内では有名であることを、扱かれている二人は知らない。
「トムソンの集中力はどう?」
「そうですね。あと一時間は保つようにしたいところですわ」
「そうね。ラグランスがどこであの魔法を発動できるか。まだまだ不透明だもの」
「となると、あのメニューを追加しましょうか」
「そうね」
そして、さらなる鬼メニューが始まろうとしていることも知らない。ともかくあと四日しかない。その中で出来るだけのことを行い、一発で解決できなければ総ては無駄となる。
「マクスウェルがさらなる苦悩を背負い込み、そして多くの人間を食らうようになるわ」
「そうですね」
今まで、あれだけの町の罪人や奴隷をマクスウェル一人で食べていたと思っていたが、実は二人で食べていたという。それだけでも怖さがあるというのに、もしマクスウェルが見境なく食べ始めたらどうなるだろう。理性が消えて、ただ人を食べる化け物になってしまった場合、この町の人たちなんて一気に平らげてしまうのではないか。
その懸念が生まれる理由が、倒せるのがラグランスしかいないという事実だ。この事実は翻せば、ラグランスがいることがある程度のストッパーになっているのでは、という推測を生む。ということは、今までマクスウェルが理知的に動けていたのは、ラグランスがいるからではないか。
それが、次の戦いでラグランスが負け、ラグランスがマクスウェルに食べられてしまったら。
おそらく、マクスウェルを止める枷が消えてしまう。彼はもう二度と、理知的に振る舞うことはないだろう。
「マクスウェルも、その可能性に気づいているわ。だからこそ、ラグランスに戦いを挑んでいる」
「はい」
マーガレットの言葉に、ラピスは頷く。ここを守るためには、二人にとって故郷でもあるこの町を守るためには、ラグランスたちを鍛えるしかないのだ。
「神は残酷ね」
でも、魔導師になる理想としていた相手を吸血鬼として討伐させる。恋した相手を、魔導師になった男に殺させる。そんな課題をラグランスに課した神を、少し恨んでしまうのだった。
吸血鬼に対抗するための秘法の中心になるのは光だ。しかし、単純な光魔法では何の効力もないことは、この間戦ったラグランスも知っている。
「いいですか。精霊を呼び出す。これが要です」
「はい」
午後、教会の礼拝堂を使って魔法の練習をするラグランスに、マーガレットの鋭い声が飛ぶ。いわゆる聖なる光というものを使いこなせなければいけないのだが、その手前で精霊を呼び出し、光の道筋を作らなければならなかった。これが難しい。
「がっ」
集中していた右手がちりっと痛む。と同時に大爆発。本日二度目だ。めちゃくちゃ痛い。今度は前髪が少し縮れた。
「うわっ。火力だけ上がっている感じ」
「集中力がまだまだですね」
そんなラグランスに手早く治癒魔法を使いながら、マーガレットは大丈夫かしらと不安になる。基礎的な面は随分と上がっていることは、枢機卿にもなると触れているだけで解る。しかし、この大掛かりな秘法を使いこなすのには達していない。そこが問題だ。
「最後はあなたの気持ち次第ですよ」
だからこそ、マーガレットは強い口調でそう注意してしまうのだった。
この日、ラグランスは不思議な夢を見た。身体がふわふわと軽くなって、空高く飛んでいくのだ。そして、そのままマクスウェルの城へと吸い込まれる。
「俺、会いたいって思いすぎなのかな」
そんなことを思いつつ、五日ぶりに城の中へと降り立った。とはいえ、そこはこの間通った大広間でもライブラリーでもない。暗い地下だった。何とも言えない臭いが立ち込めており、さらにはじめじめと湿気ている。上の居住空間とは大違いの場所だった。
「明日には食われちまうな」
「ん?」
囁くような話し声が聞こえ、ラグランスはそちらへと足を向ける。食われるという物騒な単語に、胸騒ぎがした。
「ここ最近、連れて行かれる人数が増えているし、毎日だし」
「ああ。でも、長く閉じ込められているよりはマシかもな」
「そうそう。あの狂っちまった女、大変だったもんな」
声に導かれるように地下の奥深くにある部屋へと向かう。声はとても小さく囁き声だが、ラグランスの耳にははっきりと聞き取れた。夢の中だからか、ドアに触れただけで通り抜けることが出来る。
0
あなたにおすすめの小説
【連載版】魔王さまのヒミツ♡ ~バレたら即・下剋上?!クール魔王の素顔は泣き虫チキンな箱入り息子~
黒木 鳴
BL
歴代最年少で魔王の地位に就いたレイには隠し通さなければならない秘密がある。それは……「魔王もうやだぁぁぁ~~!!下剋上こわいよぉぉぉーーー!!!」その実態が泣き虫ポンコツ魔王だということ。バレれば即・下剋上を挑まれることは必至!なので先々代の魔王を父に持ち、悪魔公爵ジェラルドが膝を折ったという2枚看板を武器にクールな魔王を演じている。だけどその実力を疑う者たちも出てきて……?!果たしてレイの運命は……?!溺愛腹黒系悪魔×初心な小悪魔系吸血鬼。お茶目なパパんも大活躍!!短編「魔王さまのヒミツ♡」文字数の関係で削ったシーン・設定などを大幅加筆の連載版となります。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった
ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。
生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。
本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。
だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか…
どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。
大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…
聖者の愛はお前だけのもの
いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。
<あらすじ>
ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。
ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。
意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。
全年齢対象。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
王子様から逃げられない!
一寸光陰
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる