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第94話 お酒の酔い方それぞれ

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 日本酒飲み比べフェスは大盛況のうちに幕を閉じた。夜遅く、後片付けはホストたちに任せ、ルシファー一行は先に屋敷に戻ってきた。
「日本酒って酔うなあ」
「そうですね。ワインとは違う酩酊感です」
 しかし、屋敷に着いたところでサタンがぐでんとソファに蕩けた。それに毛布を掛けてあげるベルゼビュートはまだ無事のようだが、酔ってはいるらしい。
「慣れていないと潰れるっていいますからね」
 奏汰も一杯だけ飲んで、これはヤバいと思った。しかも獺祭、飲み口が軽やかなものだから、ついついぐびっと飲んでしまうから恐ろしい。
「ふふん。俺様はいい気分だよん」
 一方、ルシファーは酔っ払っているようだが、普段よりふにゃけた笑顔というだけで、大丈夫らしい。足取りもしっかりしている。
 意外や意外、酒の酔い方も個人差がかなりあるようだ。やっぱり悪魔って人間っぽい。
「皆さま、酔い冷ましにこちらをどうぞ」
 そこにベヘモスが気を利かせてハーブティーを運んで来た。爽やかな香りが部屋の中に広がり、三人は知らずほっと息を吐き出していた。
「日本酒の匂いにも酔ってましたね」
 ハーブティーを飲むと、奏汰も高揚感がほどよく解れた。そして、匂いにやられていた部分があるなと気づく。
「確かに日本酒は香り高いものが多かったですね」
 ベルゼビュートもハーブティーで口直しをしてから、ふうっと息を吐き出した。そして、何を思ったかサタンの鼻先にハーブティーを持って行く。
「ふごっ」
「ふむ。この方は完全に酔い潰れてますね」
 鼻を鳴らしたサタンに、起きないかとベルゼビュートは肩を竦める。
「ベルゼビュートさん、実はかなり酔ってますね」
 普段ではあり得ない奇行に、奏汰は苦笑。
「まあ、いいんじゃないか。みんなが気持ちよく酔っ払えるのがサイコーだよ」
 ルシファーは慣れているのか、放っておけという感じでそう言う。
「まあねえ。悪魔ってアルハラはしないんだ」
 そう言えばと、みんなが好きなペースで飲み、そして賑やかに騒いでいたのを思い出し、奏汰は行儀がいいよなあと思う。
「しないよ。他人の快楽を邪魔するなんてサイテーだぞ」
 が、ルシファーに言わせれば、それは当たり前であるらしい。なるほど、お酒に酔うことも快楽なんだ。
「じゃあ、もっと飲みたいって暴れることはあるわけ? 今日はサタンさんの奢りだから、みんな飲み放題だったんだろうけど」
「ああ。それはたまにあるな。でも、金を持ってなければ飲めないさ。そこはルールが徹底されている」
「へえ。そう言えば、最初は金を取ってたもんな」
 意外としっかりしているんだよなあと、奏汰は寝入ったサタンで遊び始めたベルゼビュートを見つつ、本当に平和主義だなと感心していたのだった。
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