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第95話 慣れって怖いね。まあ、いいけど

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 翌朝。
「頭いてぇ」
 ソファで寝入っていたサタンはそう呟いて起き上がった。リビングで本を読んでいた奏汰は、悪魔も二日酔いだと同じことを呟くんだなと、そこに感心。
「まったく、結局ルシファーの屋敷に泊まることになりましたよ」
 そこにすかさずベルゼビュートから苦情が入った。とはいえ、この人だって酔っ払ってて帰れなかっただけだ。と、奏汰は心の中だけで思う。
 そのベルゼビュートは二日酔いになることはなく、しゃきっと起き上がって朝ご飯を食べ、書類仕事をしていた。奏汰がここで本を読んでいたのも、ベルゼビュートがいたからだ。
「ああ、そうかあ。今、何時?」
「十時半です」
「めっちゃ寝たな、うん」
 サタンは大きく伸びをすると、頭をぼりぼりと掻き始める。ふむ、やはり人間の酔っ払いの目覚めと同じだ。
「ベヘモスさんに何か飲み物を頼みましょうか?」
 ということで、喉が渇いているのではと奏汰が訊く。
「ああ、頼む。まあ、寝起きに奏汰がいてくれるだけで、俺の二日酔いも癒えるがな」
「はいはい」
 ルシファーと似たようなことを言わないでくれとあしらい、奏汰はリビングにある呼び鈴を鳴らした。するとすぐにベヘモスがやって来る。
「どうかなさいましたか?」
「あっ、サタンさんが二日酔いなんだって。何か飲み物をあげて」
「かしこまりました」
 ベヘモスは奏汰のリクエストににこっと笑って応えて去って行った。と、入れ替わりにルシファーが入ってきた。
「ああ、起きたんですね。って、奏汰。最近はこの二人にべったりとは何事だ。ゆっくり本を読むのならば、俺様の横でもよかったのに」
 で、しっかり文句を言ってくれる。が、先に用事があると出て行ったのはルシファーのはずだが。
「はいはい。で、何か用?」
 もうそのくらいでは腹も立たなくなってきた奏汰は、これもあっさり受け流す。
 ふと、慣れって怖いなと思うものの、もうここで一生過ごしていいやと思ってしまっているから、いいやと流してしまえる。
「ああ、そうそう。昨日のフェスで悪魔のみんなもお前がどういう存在か解ったはずだ。だが、まだまだ理解が足りないはず。というわけで、見せびらかしに行くぞ」
「いや、見せびらかすって」
 俺はあんたの何だよと、奏汰は呆れる。
「素直に、ようやく奏汰と買い物や買い食いが出来るはずと仰ればいいのに」
 しかし、ベルゼビュートからすぐに素直じゃないだけだと指摘され、ルシファーが顔を真っ赤にする。
 おや、照れ隠しだったのか。
 これは面白い反応だと、奏汰はにやにやしてしまう。
「ど、どっちでもいいんだ。ともかく、俺様は早く奏汰に街にも普通に出掛けられるようになって欲しいの!」
 でもって、ずっと出掛けられないのは不自由だろと、ルシファーは思わずそう本音を言っちゃうのだった。
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