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第9話 事件の背景は?
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「弟君は顛末を教えてもらったんだろ?あいつ、何を聞いても教えてくれないんだよ。というか、すでに興味ないんだよね」
数日後。たまたま学生食堂で昼食を食べていると、あの熱力学を担当する理志に捕まった。こういう時に限って由基も一臣もいないのだから困る。しかし誰かに話したいというのもあるので、まあいいですよと話すことになった。この理志のゴールデンレトリバーのような顔もまた、話しても大丈夫かなと思わせられる要因だ。
その理志はちゃっかりコーヒーを買って持って来ていた。断られないこと前提だ。昴はこういう図々しさが羨ましくなる。
「でさ、あの工学部の子。何で手の込んだ殺人なんてしたんだ」
正確には工学部ではなく大学院の工学系研究科なのだがと、そんな訂正はいいか。昴も確かに手の込んだ方法に驚いた。それだけでなく、相当な恨みを持っての犯行というのにもびっくりだった。航平は、昴にとっては人のいい先輩でしかなかった。そんな一面を持っているなんて、想像したこともない。
「まあ、人間なんて多面的だからな。見えている部分が総てとは限らないよ。俺も、日々、君の兄貴である月岡准教授様に驚かされている」
あの兄貴、何をやらかしたんだ。昴は天然ボケを多分に含む翼の行動の数々を思い出して固まってしまった。
「えっと、取り敢えず、すみません」
「いやいや。面白いからいいよ。で、殺人の動機は」
それって嬉々として訊くことか。昴はこの人もかなりずれているなと思いつつも答える。
「何でも、あの奈良先輩に相当な借金をしていたらしいですよ。あんまり部員と喋らないし、それでも居座り続けるし、しかも部長までやっているって、確かに変だなって感じでしたけど、昔大量にいた同好会のメンバーに金を貸して、その利息で儲けていたらしいです。それもまあ、闇金と呼ばれる類と同じくらいに高金利だったとか」
そんなことを昼食のトンカツを食べながら語る昴も、まあどこかずれている。しかし問題はそこではない。学内で高利貸し紛いのことが行われていた。それで事件はより大きくなってしまったのだ。新聞にまで載ってしまう事件となり、大学の正門前はしばらく大騒ぎの状態となった。
「その辺は知っているよ。で、彼はどうして手を出したんだ」
「それはある年の新入生歓迎パーティーで借りたのがきっかけだそうですよ。というのも、新歓をずっと仕切っていたのが奈良先輩だったみたいです。入学してからずっと。つまり、一年生の時にすでに乗っ取っていたわけです。でも、あくまでそれは裏側。俺や瀬田さんは奈良先輩がそんなことをしているなんて知らなかったわけですからね。酔っ払ったところに上手い話を持ち掛ける。そういう手法だったそうです。で、普段はあまり飲まない服部先輩ですけど、ある時ちょっと飲み過ぎて、そこを狙われたようですね。先生も経験していると思いますけど、理系学生は基本的に金を持ってないですからね。付け入る隙はいっぱいだったわけです」
そう言うと、確かに俺も学生の頃は苦労したなと理志は頷いた。授業数が多くてバイトできないのが当たり前なのだ。必然的にいかに安くあげるか。そればかりを考えることになる。そして、そこに心血注いだ日々を懐かしむまでもなく、今も心血を注いでいると何故か自慢までした。
「まあ、そういうことです。金がないのに高利貸しから金を借りちゃったんです。どうなるか、まあ、結果は見えていますよね。そこでまず奈良先輩が目を付けたのが、部長の座だったんです。そこに納まってしまえば、新入生歓迎の名目で、まだ何も知らない新入生をカモに出来ると考えたらしいです。昔は何かとメンバーの多い部でしたからね。上手くやればより儲かるとでも思っていたらしいですよ」
でも実際は廃部寸前。儲かるどころか部員はたったの五名となってしまった。他の人は言うまでもなく圭介から金を借りていた人で、これ以上あいつと関わりたくないと、さっさと辞めてしまったのだ。別に航平の前の部長の成果ではなく、誰もが圭介の上手い話に興味を持っただけだったらしい。
数日後。たまたま学生食堂で昼食を食べていると、あの熱力学を担当する理志に捕まった。こういう時に限って由基も一臣もいないのだから困る。しかし誰かに話したいというのもあるので、まあいいですよと話すことになった。この理志のゴールデンレトリバーのような顔もまた、話しても大丈夫かなと思わせられる要因だ。
その理志はちゃっかりコーヒーを買って持って来ていた。断られないこと前提だ。昴はこういう図々しさが羨ましくなる。
「でさ、あの工学部の子。何で手の込んだ殺人なんてしたんだ」
正確には工学部ではなく大学院の工学系研究科なのだがと、そんな訂正はいいか。昴も確かに手の込んだ方法に驚いた。それだけでなく、相当な恨みを持っての犯行というのにもびっくりだった。航平は、昴にとっては人のいい先輩でしかなかった。そんな一面を持っているなんて、想像したこともない。
「まあ、人間なんて多面的だからな。見えている部分が総てとは限らないよ。俺も、日々、君の兄貴である月岡准教授様に驚かされている」
あの兄貴、何をやらかしたんだ。昴は天然ボケを多分に含む翼の行動の数々を思い出して固まってしまった。
「えっと、取り敢えず、すみません」
「いやいや。面白いからいいよ。で、殺人の動機は」
それって嬉々として訊くことか。昴はこの人もかなりずれているなと思いつつも答える。
「何でも、あの奈良先輩に相当な借金をしていたらしいですよ。あんまり部員と喋らないし、それでも居座り続けるし、しかも部長までやっているって、確かに変だなって感じでしたけど、昔大量にいた同好会のメンバーに金を貸して、その利息で儲けていたらしいです。それもまあ、闇金と呼ばれる類と同じくらいに高金利だったとか」
そんなことを昼食のトンカツを食べながら語る昴も、まあどこかずれている。しかし問題はそこではない。学内で高利貸し紛いのことが行われていた。それで事件はより大きくなってしまったのだ。新聞にまで載ってしまう事件となり、大学の正門前はしばらく大騒ぎの状態となった。
「その辺は知っているよ。で、彼はどうして手を出したんだ」
「それはある年の新入生歓迎パーティーで借りたのがきっかけだそうですよ。というのも、新歓をずっと仕切っていたのが奈良先輩だったみたいです。入学してからずっと。つまり、一年生の時にすでに乗っ取っていたわけです。でも、あくまでそれは裏側。俺や瀬田さんは奈良先輩がそんなことをしているなんて知らなかったわけですからね。酔っ払ったところに上手い話を持ち掛ける。そういう手法だったそうです。で、普段はあまり飲まない服部先輩ですけど、ある時ちょっと飲み過ぎて、そこを狙われたようですね。先生も経験していると思いますけど、理系学生は基本的に金を持ってないですからね。付け入る隙はいっぱいだったわけです」
そう言うと、確かに俺も学生の頃は苦労したなと理志は頷いた。授業数が多くてバイトできないのが当たり前なのだ。必然的にいかに安くあげるか。そればかりを考えることになる。そして、そこに心血注いだ日々を懐かしむまでもなく、今も心血を注いでいると何故か自慢までした。
「まあ、そういうことです。金がないのに高利貸しから金を借りちゃったんです。どうなるか、まあ、結果は見えていますよね。そこでまず奈良先輩が目を付けたのが、部長の座だったんです。そこに納まってしまえば、新入生歓迎の名目で、まだ何も知らない新入生をカモに出来ると考えたらしいです。昔は何かとメンバーの多い部でしたからね。上手くやればより儲かるとでも思っていたらしいですよ」
でも実際は廃部寸前。儲かるどころか部員はたったの五名となってしまった。他の人は言うまでもなく圭介から金を借りていた人で、これ以上あいつと関わりたくないと、さっさと辞めてしまったのだ。別に航平の前の部長の成果ではなく、誰もが圭介の上手い話に興味を持っただけだったらしい。
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