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第5話 男子たち
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車は何とか帰省ラッシュの渋滞に巻き込まれることなく、R県へと入っていた。高速を降りると、しばらくは国道を進むことになる。
と、ここまでは快適に進むのだが、しかし、山の中にある堂穴村付近は村道となっており、細く曲がりくねった道が続くので大変だ。実は三時間の行程のうち、一時間はこの山道で潰れることになる。
「帰るだけで大変な場所ですね」
この先の道のりを聞いた小島が、うひゃあとポテトチップスを食べながら声を上げる。小島は後部座席の荷物の隙間に収まっているから、これから悪路となると大変だと感じたのだろう。両側にある物が崩れないか、心配そうに手で位置を修正している。
「お前ばっかり食うなよ。こっちにも寄越せ」
「はいはい。先輩、どーぞ」
「全く。そう言えば、先生は都内の生まれですよね。ってことは、盆と正月以外はその家に行ったことがないってやつですか」
助手席に座る荒井が小島の持つポテチの袋から、何枚か掴みながら運転席に目を向ける。それに桐山はよく食う奴らだなと呆れつつも
「そうだな。両親も積極的に帰りたいって感じじゃなかったから、年に二回、多くて三回行けばいいって感じだったよ。村の中には本当に何もないから、その気持ちは解る。俺も積極的に行きたいって気持ちはなかったかな」
と、子どもの頃を思い出しながら答える。あの頃は遠出できると少しは喜んだものだが、楽しかったのはドライブだけだ。それも、大人になって自分で運転していくとなると、これほど面倒な場所だとは思わなかった。すでに長閑な風景が広がる前方を見つめつつ、溜め息を吐いてしまう。
「田舎の家があるって憧れでしたけどねえ。俺ん家、祖父ちゃんも祖母ちゃんも近所に家があったんで、年中行ける場所だったんですよね。特別な場所って感じではなかったんですよ。夏休みになるとよく預けられていたなあ」
小島は残り少なくなったポテチを前の席の荒井にパスしながら、夏休みに田舎の祖父母の家に行くという行為に憧れていたと零す。特にお盆になるとニュースで帰省する様子が映るので、うちにはあれがないのかと寂しかったものだ。
「そういうものか」
都会っ子ならではの悩みというところか。確かに近年、そういう家庭が多いだろう。桐山のところのように、田舎を引き払う人も多いはずだ。田舎の家に行くという行為自体が珍しい分類になっていくのかもしれない。
「田舎なんてなくていいよ。親戚が集まってみんなでって、結構面倒なものだよ。俺は盆と正月苦痛だったな。借りてきた猫状態で過ごし、ストレスを溜めるだけだったよ」
一方、ポテチの残りを受け取った荒井は、親戚が多いから騒がしい上に、あれこれ口うるさくて嫌だったとの思い出を披露する。大人ばかりの環境に置かれると、子どもは困ってしまうものなのだ。
「そういうもんですか」
「そういうもんだ。ちやほやされるだけとは限らないのは、どんな場所でも同じだろう」
「まあ、そうですけど」
二人の間で、夏休みの田舎について言い合いが始まってしまった。田舎に対して、学生の間でも意見が分かれるものだ、という事実が面白く、桐山は苦笑する。それに、桐山も荒井と同意見だ。
「肩が凝るんだよな」
「解ります。騒がしいの、苦手だと特に苦痛ですよね。すぐに酒盛りが始まって、延々と喋ってますよね。あと、昔ながらの考えの人が多くて疲れます。外で遊びたくないという気持ちを理解してくれなかったり、男らしくとか言われたり、めちゃくちゃ面倒です」
「ああ。あるね、そういうの」
「ちょっと、二人で盛り上がらないでくださいよ」
「いや、盛り下がってるんだよ」
荒井が妙な日本語で反論しつつ苦笑する。
「まあ、今回はそんな親族はいないし、研究室のメンバーだけだからな。片づけなければならないという課題はあるものの、気楽なものだ。田舎を堪能したいのならば、存分に堪能してくれて構わないよ」
桐山はそんな二人に、空いた時間はゆっくり田舎を楽しめばいいさと言っておく。三日ほど研究を休んだとしても罰は当たらないだろう。そう思うものの、桐山自身はしっかりノートパソコンを持参していた。
「先生も仕事ばかりしないで堪能してみたらどうですか」
そしてその考えが顔に出てしまったのだろう。しっかり荒井からそんな指摘をされてしまうのだった。
と、ここまでは快適に進むのだが、しかし、山の中にある堂穴村付近は村道となっており、細く曲がりくねった道が続くので大変だ。実は三時間の行程のうち、一時間はこの山道で潰れることになる。
「帰るだけで大変な場所ですね」
この先の道のりを聞いた小島が、うひゃあとポテトチップスを食べながら声を上げる。小島は後部座席の荷物の隙間に収まっているから、これから悪路となると大変だと感じたのだろう。両側にある物が崩れないか、心配そうに手で位置を修正している。
「お前ばっかり食うなよ。こっちにも寄越せ」
「はいはい。先輩、どーぞ」
「全く。そう言えば、先生は都内の生まれですよね。ってことは、盆と正月以外はその家に行ったことがないってやつですか」
助手席に座る荒井が小島の持つポテチの袋から、何枚か掴みながら運転席に目を向ける。それに桐山はよく食う奴らだなと呆れつつも
「そうだな。両親も積極的に帰りたいって感じじゃなかったから、年に二回、多くて三回行けばいいって感じだったよ。村の中には本当に何もないから、その気持ちは解る。俺も積極的に行きたいって気持ちはなかったかな」
と、子どもの頃を思い出しながら答える。あの頃は遠出できると少しは喜んだものだが、楽しかったのはドライブだけだ。それも、大人になって自分で運転していくとなると、これほど面倒な場所だとは思わなかった。すでに長閑な風景が広がる前方を見つめつつ、溜め息を吐いてしまう。
「田舎の家があるって憧れでしたけどねえ。俺ん家、祖父ちゃんも祖母ちゃんも近所に家があったんで、年中行ける場所だったんですよね。特別な場所って感じではなかったんですよ。夏休みになるとよく預けられていたなあ」
小島は残り少なくなったポテチを前の席の荒井にパスしながら、夏休みに田舎の祖父母の家に行くという行為に憧れていたと零す。特にお盆になるとニュースで帰省する様子が映るので、うちにはあれがないのかと寂しかったものだ。
「そういうものか」
都会っ子ならではの悩みというところか。確かに近年、そういう家庭が多いだろう。桐山のところのように、田舎を引き払う人も多いはずだ。田舎の家に行くという行為自体が珍しい分類になっていくのかもしれない。
「田舎なんてなくていいよ。親戚が集まってみんなでって、結構面倒なものだよ。俺は盆と正月苦痛だったな。借りてきた猫状態で過ごし、ストレスを溜めるだけだったよ」
一方、ポテチの残りを受け取った荒井は、親戚が多いから騒がしい上に、あれこれ口うるさくて嫌だったとの思い出を披露する。大人ばかりの環境に置かれると、子どもは困ってしまうものなのだ。
「そういうもんですか」
「そういうもんだ。ちやほやされるだけとは限らないのは、どんな場所でも同じだろう」
「まあ、そうですけど」
二人の間で、夏休みの田舎について言い合いが始まってしまった。田舎に対して、学生の間でも意見が分かれるものだ、という事実が面白く、桐山は苦笑する。それに、桐山も荒井と同意見だ。
「肩が凝るんだよな」
「解ります。騒がしいの、苦手だと特に苦痛ですよね。すぐに酒盛りが始まって、延々と喋ってますよね。あと、昔ながらの考えの人が多くて疲れます。外で遊びたくないという気持ちを理解してくれなかったり、男らしくとか言われたり、めちゃくちゃ面倒です」
「ああ。あるね、そういうの」
「ちょっと、二人で盛り上がらないでくださいよ」
「いや、盛り下がってるんだよ」
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「まあ、今回はそんな親族はいないし、研究室のメンバーだけだからな。片づけなければならないという課題はあるものの、気楽なものだ。田舎を堪能したいのならば、存分に堪能してくれて構わないよ」
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